花を愛でる獅子【本編完結】

千環

文字の大きさ
上 下
43 / 108
本編

3-10

しおりを挟む
「俺が、結城を嫌ってねぇのが……おかしいか?」

「おかしいね。断言するよ。君は、結城巽に関わるべきではない。後で困ったことになるのは君の方だよ。今だってそうだろう? 結城巽のそばにいたせいで君は誘拐をされた。俺のように酔狂な人間じゃなければ、君は暴行や性的な屈辱を受けていただろうね。もしくは殺されていたかも。現に、他の二人は君に性的なことをしてやろうかと楽しそうに話していたよ」

「な……っ!?」

「事実だ。それを実行させないために俺はここにいる。……今、恐怖したろう? 結城巽のそばにいる限り、君はそういう危険と常に隣り合わせなんだよ」

 恐怖したろう? ……ハァーン!? しーまーしーたー! するに決まってんだろ。自称ウサギちゃんだぞ俺は。結城といたらそういう目に遭う? 結城はヤクザで悪人だ?
 それがどうした。知ってるよ! それでも、俺にとっては恩人で、好きな人で、ずっとそばにいたいと思える人なんだ。俺がそう思ってるだけなんだから、お前になんだかんだと言われる筋合いなんかねぇんだよ。

 ……でも、こいつの言っていることが正しい。分かってる。その通り。だからもう何も言わねぇ。何言ったって言い負かされるし!

「……さて。暇つぶしのおしゃべりはこれくらいにしようか。来たみたいだよ。結城巽が」

「へ? 何で分かんだ?」

「耳が良いんだ。それに、結城巽には隠す気がないようだし」

 おしゃべり野郎が立ち上がった。メシだって持って来ていたコンビニのビニール袋から、ガムテープを出している。
 待て。いや、待ってくれ。それは……ちょーっとまじで心から勘弁してくれ!

「口はいいだろ、俺黙ってるし……?」

「それは無理だね。君は必ず喋ろうとするよ。ガムテープは貼っておいた方が君の身の安全度は上がるからね、俺を信じて」

「は!? 信じられっかよ!」

「うん、うるさい。痛いことをされたくないなら口を閉じて大人しくしてね。押さえ付けて口も髪も引っくるめてぐるぐる巻きにするよ?」

「…………」

 髪の毛をガムテープで一緒くたにするとか、鬼か。ハゲるだろ。俺のなけなしの髪の毛が減る。将来のために大事にしてるのに。
 ……とかって考えられる余裕があることに気付いた。結城が来てくれたって聞いて、ちょっと安心したのかな。

 俺が連れて来られたのは廃工場みたいなところで、俺がさっきまで繋がれてたところは事務所みたいなところだった。そこからおしゃべり野郎に連れられて、休憩室みたいなところに行った。そこでは他の二人、つまり俺を捕まえた奴らが寝転んでスマホを弄っていた。

「結城巽、来たよ。行こう」

 おしゃべり野郎がそう言うと、他の二人は嬉しそうというか、興奮したというか、何かそういう下品な感じで笑いながら立ち上がった。

「まじで来たのかよ。すげーな。こいつってやっぱ結城の恋人かなんかかよ?」

「こんだけ可愛らしいツラしてんだから、おかしくはねーよな。本気ってことはねーだろうけど、性欲発散のおもちゃみてえなもんじゃね? 超お気に入りのさ」

「じゃあやっぱヤッときゃよかったな。結城が気に入ったケツに突っ込んで汚してやるってのも面白えじゃん」

 ……キモ。率直にそう思った。恐怖よりまず嫌悪感が先だったのは、結城が来てくれたってことと、今そばにはおしゃべり野郎がいるっていう安心感があるからなんだろうな。
 おしゃべり野郎は山下さんを傷付けたクソ野郎だけど、こいつらみたいな下衆ではない感じがする。

「そう言っちゃえば? どんな反応するだろうね」

 俺の心の中のフォローが粉々に崩れ去った。このクソ下衆野郎。いらねぇこと言うんじゃねぇよ。結城にまじで俺が犯されたって誤解されたらどうしてくれる!
 ……え、こいつもしかしてこういうやり取りを見越して俺の口にガムテープ貼ったんじゃねぇだろうな……? 俺が否定できないようにするために。

「いいねー。そうしようぜ」

「すっげー嫉妬したりしてな? だったらまじウケるわ」

 こいつらの妄想の中の結城がどんなリアクションをしてんのか知らねぇけど、大したことにはならねぇぞ。それはけしかけたおしゃべり野郎の表情からも明らかだぞ。
 おーい。見てみろって。めっちゃお前らのこと馬鹿にしてんぞこいつ。腹ん中で絶対笑ってるって。まじで。
 だから言わないで下さい。お願いします。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

悩める文官のひとりごと

きりか
BL
幼い頃から憧れていた騎士団に入りたくても、小柄でひ弱なリュカ・アルマンは、学校を卒業と同時に、文官として騎士団に入団する。方向音痴なリュカは、マルーン副団長の部屋と間違え、イザーク団長の部屋に入り込む。 そこでは、惚れ薬を口にした団長がいて…。 エチシーンが書けなくて、朝チュンとなりました。 ムーンライト様にも掲載しております。 

婚約破棄?しませんよ、そんなもの

おしゃべりマドレーヌ
BL
王太子の卒業パーティーで、王太子・フェリクスと婚約をしていた、侯爵家のアンリは突然「婚約を破棄する」と言い渡される。どうやら真実の愛を見つけたらしいが、それにアンリは「しませんよ、そんなもの」と返す。 アンリと婚約破棄をしないほうが良い理由は山ほどある。 けれどアンリは段々と、そんなメリット・デメリットを考えるよりも、フェリクスが幸せになるほうが良いと考えるようになり…… 「………………それなら、こうしましょう。私が、第一王妃になって仕事をこなします。彼女には、第二王妃になって頂いて、貴方は彼女と暮らすのです」 それでフェリクスが幸せになるなら、それが良い。 <嚙み痕で愛を語るシリーズというシリーズで書いていきます/これはスピンオフのような話です>

君に望むは僕の弔辞

爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。 全9話 匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意 表紙はあいえだ様!! 小説家になろうにも投稿

転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!

音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに! え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!! 調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。

【完結・ルート分岐あり】オメガ皇后の死に戻り〜二度と思い通りにはなりません〜

ivy
BL
魔術師の家門に生まれながら能力の発現が遅く家族から虐げられて暮らしていたオメガのアリス。 そんな彼を国王陛下であるルドルフが妻にと望み生活は一変する。 幸せになれると思っていたのに生まれた子供共々ルドルフに殺されたアリスは目が覚めると子供の頃に戻っていた。 もう二度と同じ轍は踏まない。 そう決心したアリスの戦いが始まる。

愛などもう求めない

白兪
BL
とある国の皇子、ヴェリテは長い長い夢を見た。夢ではヴェリテは偽物の皇子だと罪にかけられてしまう。情を交わした婚約者は真の皇子であるファクティスの側につき、兄は睨みつけてくる。そして、とうとう父親である皇帝は処刑を命じた。 「僕のことを1度でも愛してくれたことはありましたか?」 「お前のことを一度も息子だと思ったことはない。」 目が覚め、現実に戻ったヴェリテは安心するが、本当にただの夢だったのだろうか?もし予知夢だとしたら、今すぐここから逃げなくては。 本当に自分を愛してくれる人と生きたい。 ヴェリテの切実な願いが周りを変えていく。  ハッピーエンド大好きなので、絶対に主人公は幸せに終わらせたいです。 最後まで読んでいただけると嬉しいです。

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

【完結】僕の大事な魔王様

綾雅(要らない悪役令嬢1巻重版)
BL
母竜と眠っていた幼いドラゴンは、なぜか人間が住む都市へ召喚された。意味が分からず本能のままに隠れたが発見され、引きずり出されて兵士に殺されそうになる。 「お母さん、お父さん、助けて! 魔王様!!」 魔族の守護者であった魔王様がいない世界で、神様に縋る人間のように叫ぶ。必死の嘆願は幼ドラゴンの魔力を得て、遠くまで響いた。そう、隣接する別の世界から魔王を召喚するほどに……。 俺様魔王×いたいけな幼ドラゴン――成長するまで見守ると決めた魔王は、徐々に真剣な想いを抱くようになる。彼の想いは幼過ぎる竜に届くのか。ハッピーエンド確定 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/11……完結 2023/09/28……カクヨム、週間恋愛 57位 2023/09/23……エブリスタ、トレンドBL 5位 2023/09/23……小説家になろう、日間ファンタジー 39位 2023/09/21……連載開始

処理中です...