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本編
3-6
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結城に電話で助けを求めよう。それしか頭になくなった。とにかく結城に電話。それだけ。
「花月、どうした?」
電話を掛けること自体が珍しい俺からの着信に驚いたような声の結城。俺は何から伝えていいのかも分からないまま、思い付いたことから全部言う。
「結城! 山下さんが、手刺されて、血が、いっぱい! それで今逃げとって、俺だけ! 山下さんが一人で! どうしよう! 山下さんが!」
「落ち着け。今はどこだ」
「今、大学! 大学の駐車場で山下さんが刺された!」
「お前は今一人で逃げてる最中なんだな?」
「どうしよう! 俺、山下さん残して一人だけ!」
「それでいい。山下はお前を守るためにそばにいたんだ。それに、すぐ大学に人をやるから、山下は大丈夫だ。心配しなくていい。とにかくお前は人の多い方に逃げろ。可能なら見つからないように隠れておけ。逃げれ切れなかった時は抵抗せずに大人しく捕まれ。分かったな?」
「捕まる?」
「そうだ。絶対に抵抗すんな。捕まっても黙ってろ。相手を煽んな。大人しくしておけ。すぐに迎えに行く。どこにいても絶対に俺が助けに行くから安心しろ」
「……分かった。ぜっ、あっ!」
『絶対だぞ』と結城に伝えられないまま、俺は捕まった。
すぐにスマホを奪われて、その場で叩きつけられた。結城に買ってもらったスマホ。大事にするって言って、本当に傷一つ付けずに扱ってきた。さっきまで結城と繋がっていたそれがひび割れて地面に転がる様を見て、俺の心まで割れたような気になる。
両腕を二人の男にそれぞれ掴まれて、どこかに連れて行かれながら、ずっとスマホを目で追った。
結城に連れて行かれた時は、大切なものでも扱うように、優しく抱かれてたなぁとかそんなことを思い出した。
※side風見
花月さんと、山下が襲われた。
俺の頭の中はもう、山下のことでいっぱいで冷静になれそうにない。
最初から、分かっていたはずだった。山下を拾ったあの時から、いつか戻れなくなる前に、親御さんの元へ帰さなくてはと思っていた。
花月さんの護衛に付いた時から、一番危ないのは山下だと本人ですら自覚していたのに。
「風見、聞いてただろ。ここから最短で帰る移動手段を押さえろ。俺は鳴海に伝えて山下の迎えを寄越す」
……甘かった。俺はとことん甘い。
山下を真っ当な生活に戻してやりたいと思いながら、自分を慕ってくれることに喜びを覚えて手放せないまま、ズルズルズルズル、こんなことになってしまうまで……何やってんだ。俺は。
山下がもし、このまま、どうにかなってしまったら。俺は、どうしたらいい? 親御さんに何て詫びたら? こんな道へ引きずり込んで、いつまでも手放さずにそばにおいて、危険に晒して、どうやって、何をして償えばいい?
「風見! 聞いてんのか返事しろ!」
「す、すいません。聞いてませんでした」
「今グダグダ後悔しても意味ねぇだろ。ああしてたらこうしてたらなんざ言い出したら俺だってキリが無ぇ。でも今はそんな場合か。さっさとあいつら助けに行かねぇと状況は悪くなるだけだろ。よく考えろ。今何をすべきだ?」
「……組長、飛行機でも構いませんか?」
「何でもいい。どんな席でも構わねぇ」
「すぐに手配します」
そして空港に向かう車内で、組長は誰かに電話をかけた。内容は花月さんの居場所について。花月さんの持ち物のいくつかにはGPSが取り付け済みだから、調べれば居場所は簡単に分かる。
問題は、花月さんがどんな扱いを受けているか。相手が何人いて、どんな武器を所持しているか。それから、花月さんが本当に大人しくしてくれているかどうか。
「俺が金で買ったっつって拉致した時もギャーギャーうるさかったし、鳴海の話では借金の取り立てにも言いたい放題だったらしい。まあ、今回も喚き散らしてるだろうな。山下のこともあるし、平常心ではないだろ」
と、組長が言ったのに対して、電話の相手が何て言ったのかは分からない。けれど、どうやら同意はされなかったらしい。
「もし本当にあいつがそんな状態だったら、俺はどうしてやったらいいだろうな」
その声は組長らしくないほどに弱々しくて、聞いているこっちが辛かった。
きっと組長は、花月さんを手放す。
そう感じた。
「花月、どうした?」
電話を掛けること自体が珍しい俺からの着信に驚いたような声の結城。俺は何から伝えていいのかも分からないまま、思い付いたことから全部言う。
「結城! 山下さんが、手刺されて、血が、いっぱい! それで今逃げとって、俺だけ! 山下さんが一人で! どうしよう! 山下さんが!」
「落ち着け。今はどこだ」
「今、大学! 大学の駐車場で山下さんが刺された!」
「お前は今一人で逃げてる最中なんだな?」
「どうしよう! 俺、山下さん残して一人だけ!」
「それでいい。山下はお前を守るためにそばにいたんだ。それに、すぐ大学に人をやるから、山下は大丈夫だ。心配しなくていい。とにかくお前は人の多い方に逃げろ。可能なら見つからないように隠れておけ。逃げれ切れなかった時は抵抗せずに大人しく捕まれ。分かったな?」
「捕まる?」
「そうだ。絶対に抵抗すんな。捕まっても黙ってろ。相手を煽んな。大人しくしておけ。すぐに迎えに行く。どこにいても絶対に俺が助けに行くから安心しろ」
「……分かった。ぜっ、あっ!」
『絶対だぞ』と結城に伝えられないまま、俺は捕まった。
すぐにスマホを奪われて、その場で叩きつけられた。結城に買ってもらったスマホ。大事にするって言って、本当に傷一つ付けずに扱ってきた。さっきまで結城と繋がっていたそれがひび割れて地面に転がる様を見て、俺の心まで割れたような気になる。
両腕を二人の男にそれぞれ掴まれて、どこかに連れて行かれながら、ずっとスマホを目で追った。
結城に連れて行かれた時は、大切なものでも扱うように、優しく抱かれてたなぁとかそんなことを思い出した。
※side風見
花月さんと、山下が襲われた。
俺の頭の中はもう、山下のことでいっぱいで冷静になれそうにない。
最初から、分かっていたはずだった。山下を拾ったあの時から、いつか戻れなくなる前に、親御さんの元へ帰さなくてはと思っていた。
花月さんの護衛に付いた時から、一番危ないのは山下だと本人ですら自覚していたのに。
「風見、聞いてただろ。ここから最短で帰る移動手段を押さえろ。俺は鳴海に伝えて山下の迎えを寄越す」
……甘かった。俺はとことん甘い。
山下を真っ当な生活に戻してやりたいと思いながら、自分を慕ってくれることに喜びを覚えて手放せないまま、ズルズルズルズル、こんなことになってしまうまで……何やってんだ。俺は。
山下がもし、このまま、どうにかなってしまったら。俺は、どうしたらいい? 親御さんに何て詫びたら? こんな道へ引きずり込んで、いつまでも手放さずにそばにおいて、危険に晒して、どうやって、何をして償えばいい?
「風見! 聞いてんのか返事しろ!」
「す、すいません。聞いてませんでした」
「今グダグダ後悔しても意味ねぇだろ。ああしてたらこうしてたらなんざ言い出したら俺だってキリが無ぇ。でも今はそんな場合か。さっさとあいつら助けに行かねぇと状況は悪くなるだけだろ。よく考えろ。今何をすべきだ?」
「……組長、飛行機でも構いませんか?」
「何でもいい。どんな席でも構わねぇ」
「すぐに手配します」
そして空港に向かう車内で、組長は誰かに電話をかけた。内容は花月さんの居場所について。花月さんの持ち物のいくつかにはGPSが取り付け済みだから、調べれば居場所は簡単に分かる。
問題は、花月さんがどんな扱いを受けているか。相手が何人いて、どんな武器を所持しているか。それから、花月さんが本当に大人しくしてくれているかどうか。
「俺が金で買ったっつって拉致した時もギャーギャーうるさかったし、鳴海の話では借金の取り立てにも言いたい放題だったらしい。まあ、今回も喚き散らしてるだろうな。山下のこともあるし、平常心ではないだろ」
と、組長が言ったのに対して、電話の相手が何て言ったのかは分からない。けれど、どうやら同意はされなかったらしい。
「もし本当にあいつがそんな状態だったら、俺はどうしてやったらいいだろうな」
その声は組長らしくないほどに弱々しくて、聞いているこっちが辛かった。
きっと組長は、花月さんを手放す。
そう感じた。
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