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本編
3-5
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「山下さん。お待たせしました」
「いえいえ。美波さんは、今日はご一緒やないんですか?」
「真守は今日提出期限の課題がまだだったみたいで、残ってやるみたいです。じゃ、帰りましょうか」
「はい」
山下さんが大学にいることも、毎日の送り迎えも当たり前になってきた。最近は友達の美波真守も一緒に帰ることが多い。
大学敷地内の駐車場に向かって歩きながら、今日の晩飯は何がいいかって相談を山下さんとするのが日課になった。
「何がいいかなー。山下さんは何作ってもプロ級に美味いから、何でも満足なんですけどね」
「あれはどないです? 前においしい言うて下さったあんかけチャーハン」
「あ! 食いたい! あれなら毎日でもいいくらいですよ」
「いやいや、さすがに栄養偏りますって。……でもほんま、花月さんは少食やから、ちょっとの量でもバランス良く栄養摂れるようにせんと」
「感謝してます! ていうか最近、俺ちょっと太ったと思いません? なんか顔とか腰回りとかがぽちゃっとしてきた思うんですけど」
「全然全くこれっぽっちも思いません。花月さんをぶくぶくに太らすんが俺の使命ですか、ら……」
いきなり山下さんが立ち止まって、俺の前に右腕を伸ばして俺を立ち止まらせた。さっきまでニコニコしてたのに、その顔はかなり険しい。
「……花月さん、車の運転はできますか?」
「え? できません、けど」
「じゃあ、携帯は今持ってはりますか?」
「はい。ポケットに入れてます」
全く状況が読めない。何なんだろう思いながら、ただ素直に答える。
「すぐそこに、危険な男がおります。狙いはおそらく花月さんです。俺が何とかここで抑えますから、花月さんは全力で走って学生がいっぱいおるとこまで逃げて下さい。あと、かしらに携帯で連絡お願いします」
「え、あの、危険って……」
「早う行って下さい。こっちが気付いとることも、あっちに気付かれてます」
俺は何から逃げたらいいのかも分からないまま、とにかく言われた通りにしようと来た道を走り出した。
ほんの数秒。距離で言ったら20メートルくらい走った時、後ろで山下さんの呻くような声がした。
「山下さん!?」
振り返ると、山下さんの周りには三人の男がいて、山下さんの右手にはナイフのようなものが刺さっていた。
「山下さん!!」
俺の足は自然と、山下さんの方へ向いた。完全に頭は真っ白で、さっき指示されたことすらも頭になくて、とにかく一人でここから逃げるのが嫌で、山下さんの方に走った。
「アホォ! こっち来んな!!」
大きい声に驚いて、足が止まった。
「俺が何のためにおる思とんや! 早よ逃げぇ!!」
訳が分からない。何が起こっているのか全く分からない。山下さんの手からありえないくらいにボタボタ落ちる血とか、無表情でナイフを持ってる男が目に入って、俺の身体は全く動かなくなった。
でも次の瞬間、ナイフを持った男以外の男二人が俺の方に向かって走って来るのに気付いて、俺はもう山下さんを心配することとかそんなことは全部忘れて、ただ恐くて逃げ出した。
恐い。何で俺が追われてるんだ? 何でこんなとこで山下さんは刺された? なんでなんでなんでなんでなんでなんで?
パニックになった頭に唯一思い浮かんだんは、結城の顔だった。
「いえいえ。美波さんは、今日はご一緒やないんですか?」
「真守は今日提出期限の課題がまだだったみたいで、残ってやるみたいです。じゃ、帰りましょうか」
「はい」
山下さんが大学にいることも、毎日の送り迎えも当たり前になってきた。最近は友達の美波真守も一緒に帰ることが多い。
大学敷地内の駐車場に向かって歩きながら、今日の晩飯は何がいいかって相談を山下さんとするのが日課になった。
「何がいいかなー。山下さんは何作ってもプロ級に美味いから、何でも満足なんですけどね」
「あれはどないです? 前においしい言うて下さったあんかけチャーハン」
「あ! 食いたい! あれなら毎日でもいいくらいですよ」
「いやいや、さすがに栄養偏りますって。……でもほんま、花月さんは少食やから、ちょっとの量でもバランス良く栄養摂れるようにせんと」
「感謝してます! ていうか最近、俺ちょっと太ったと思いません? なんか顔とか腰回りとかがぽちゃっとしてきた思うんですけど」
「全然全くこれっぽっちも思いません。花月さんをぶくぶくに太らすんが俺の使命ですか、ら……」
いきなり山下さんが立ち止まって、俺の前に右腕を伸ばして俺を立ち止まらせた。さっきまでニコニコしてたのに、その顔はかなり険しい。
「……花月さん、車の運転はできますか?」
「え? できません、けど」
「じゃあ、携帯は今持ってはりますか?」
「はい。ポケットに入れてます」
全く状況が読めない。何なんだろう思いながら、ただ素直に答える。
「すぐそこに、危険な男がおります。狙いはおそらく花月さんです。俺が何とかここで抑えますから、花月さんは全力で走って学生がいっぱいおるとこまで逃げて下さい。あと、かしらに携帯で連絡お願いします」
「え、あの、危険って……」
「早う行って下さい。こっちが気付いとることも、あっちに気付かれてます」
俺は何から逃げたらいいのかも分からないまま、とにかく言われた通りにしようと来た道を走り出した。
ほんの数秒。距離で言ったら20メートルくらい走った時、後ろで山下さんの呻くような声がした。
「山下さん!?」
振り返ると、山下さんの周りには三人の男がいて、山下さんの右手にはナイフのようなものが刺さっていた。
「山下さん!!」
俺の足は自然と、山下さんの方へ向いた。完全に頭は真っ白で、さっき指示されたことすらも頭になくて、とにかく一人でここから逃げるのが嫌で、山下さんの方に走った。
「アホォ! こっち来んな!!」
大きい声に驚いて、足が止まった。
「俺が何のためにおる思とんや! 早よ逃げぇ!!」
訳が分からない。何が起こっているのか全く分からない。山下さんの手からありえないくらいにボタボタ落ちる血とか、無表情でナイフを持ってる男が目に入って、俺の身体は全く動かなくなった。
でも次の瞬間、ナイフを持った男以外の男二人が俺の方に向かって走って来るのに気付いて、俺はもう山下さんを心配することとかそんなことは全部忘れて、ただ恐くて逃げ出した。
恐い。何で俺が追われてるんだ? 何でこんなとこで山下さんは刺された? なんでなんでなんでなんでなんでなんで?
パニックになった頭に唯一思い浮かんだんは、結城の顔だった。
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