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本編
2-10
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その晩、結城は帰って来なかった。
と思ったら、朝起きた時にはいつも通り同じベッドで寝ていた。
……いつの間に?
結城が布団に入って来ても気付かずに寝ていられるくらい、俺は結城の存在に慣れきってるってことか?
いやいや普通気付くだろ。おかしいおかしい。だって俺、思いっきり抱き締められてるのに!
「……結城」
起きて欲しいような、このまま寝顔を眺めてたいような。離して欲しいような、ずっと抱き締められてたいような。
「ん……」
眉間の皺とか、かすれた声がエロいと思ってしまった俺は変態ですか?
「……花月」
その笑顔は反則じゃないですかね! なにそれ! 何なのこれ! そんな甘ったるい顔なんかしたらダメなんじゃないですかね! っていうかやめて下さいお願いします! ……くそ、眩しい! イケメンの寝起き笑顔が眩し過ぎる!
「何で今目ぇ逸らした? 昨日のこと怒ってんのか?」
「え、違う違う! 朝っぱらから格好いい顔だなって思っただけ!」
「は? 何言ってんだ」
俺もそう思う。何言ってんだバカか俺は! 感情ダダ漏れか!
自分のダダ漏れ発言にげんなりしている内に、結城は上半身だけ起こした。手のひらで目を押さえるようにして揉むのが眠い時の結城の癖らしいと最近分かってきた。ふと、その手を止めて結城が俺の方を向く。
「お前、俺の顔が好きなのか?」
「……ぅええ!?」
「たまに格好いいとか言ってくんだろ。なんだ、違うのか」
ちょっと残念そうに見えるのは気のせいか?
「何でそんなこと聞くんだよ」
「あ? あー、まあなんだ。……お前に好かれる努力でもしてやるかって気になってな。顔が好きだって言うんなら、俺としては御の字だったんだがな。そう上手くはいかねぇか」
「え、なに。俺に、好かれたい……ってこと?」
「本当は言いたくなかったんだが、正直に言う。お前の母親を見つけた。お前の母親は金持ちのお嬢様生まれで、今は金持ちの奥様だ。身分違いのお前の父親と若い頃に駆け落ちしたけど失敗に終わった。母親はお前のことは死産だったと聞かされて、父親は手切れ金とお前を渡されて身を引いた。恐ろしいくらい昭和臭がするエピソードだが、実話だ」
「……え、ちょっと待って。は?」
「今もお前が生きてることは知らねぇまま。不妊治療の成果も実らず、養子を検討中なんだと。お前が母親に会いに行ったら、お前は大金持ちのお坊っちゃま。ヤクザの世話になんざ、ならなくて済む訳だ」
「は? そんなこと言って……結城は、俺に、どうさせたいんだよ?」
母親に会いに行って、金もらって来いってこと? いや、違う。違うはず。結城はそんな奴じゃない。ちょっと待てって……訳分かんねぇ。母親が生きてて? 金持ち? 俺は手切れ金をもらった親父と一緒に貧乏暮らしをしてた? 俺って何。いらない子だった? 違うって。親父はそんなんじゃなくてちゃんと……
「だから、俺はお前に好かれようとしてんだろうが。話の流れで分かれ」
「え、や、待って。まじ、待って。いや、違う。全部言って。結城が考えてること、全部。言って」
「お前はいい大学にも行ってるし、顔も写真で見たお前の母親にそっくりだ。お前がその他大勢の養子候補に劣ることは無い。だから、お前には選択する自由がある。金持ちのお坊っちゃまになれる。それを選ぶなら、不利益にしかならねぇ俺との繋がりは金で綺麗に断ち切ってやる。でも、迷うんやったら、遠慮はしねぇ。まあちょっとは不自由な思いをさせることもあるだろうけど、大事にする。だから、俺を選べ」
自分を選べという野獣の眼に俺は射抜かれて、思考は完全に停止状態。でもこれだけは分かる。結城は、俺を求めてくれている。
だから、俺は結城を選ぶ。
と思ったら、朝起きた時にはいつも通り同じベッドで寝ていた。
……いつの間に?
結城が布団に入って来ても気付かずに寝ていられるくらい、俺は結城の存在に慣れきってるってことか?
いやいや普通気付くだろ。おかしいおかしい。だって俺、思いっきり抱き締められてるのに!
「……結城」
起きて欲しいような、このまま寝顔を眺めてたいような。離して欲しいような、ずっと抱き締められてたいような。
「ん……」
眉間の皺とか、かすれた声がエロいと思ってしまった俺は変態ですか?
「……花月」
その笑顔は反則じゃないですかね! なにそれ! 何なのこれ! そんな甘ったるい顔なんかしたらダメなんじゃないですかね! っていうかやめて下さいお願いします! ……くそ、眩しい! イケメンの寝起き笑顔が眩し過ぎる!
「何で今目ぇ逸らした? 昨日のこと怒ってんのか?」
「え、違う違う! 朝っぱらから格好いい顔だなって思っただけ!」
「は? 何言ってんだ」
俺もそう思う。何言ってんだバカか俺は! 感情ダダ漏れか!
自分のダダ漏れ発言にげんなりしている内に、結城は上半身だけ起こした。手のひらで目を押さえるようにして揉むのが眠い時の結城の癖らしいと最近分かってきた。ふと、その手を止めて結城が俺の方を向く。
「お前、俺の顔が好きなのか?」
「……ぅええ!?」
「たまに格好いいとか言ってくんだろ。なんだ、違うのか」
ちょっと残念そうに見えるのは気のせいか?
「何でそんなこと聞くんだよ」
「あ? あー、まあなんだ。……お前に好かれる努力でもしてやるかって気になってな。顔が好きだって言うんなら、俺としては御の字だったんだがな。そう上手くはいかねぇか」
「え、なに。俺に、好かれたい……ってこと?」
「本当は言いたくなかったんだが、正直に言う。お前の母親を見つけた。お前の母親は金持ちのお嬢様生まれで、今は金持ちの奥様だ。身分違いのお前の父親と若い頃に駆け落ちしたけど失敗に終わった。母親はお前のことは死産だったと聞かされて、父親は手切れ金とお前を渡されて身を引いた。恐ろしいくらい昭和臭がするエピソードだが、実話だ」
「……え、ちょっと待って。は?」
「今もお前が生きてることは知らねぇまま。不妊治療の成果も実らず、養子を検討中なんだと。お前が母親に会いに行ったら、お前は大金持ちのお坊っちゃま。ヤクザの世話になんざ、ならなくて済む訳だ」
「は? そんなこと言って……結城は、俺に、どうさせたいんだよ?」
母親に会いに行って、金もらって来いってこと? いや、違う。違うはず。結城はそんな奴じゃない。ちょっと待てって……訳分かんねぇ。母親が生きてて? 金持ち? 俺は手切れ金をもらった親父と一緒に貧乏暮らしをしてた? 俺って何。いらない子だった? 違うって。親父はそんなんじゃなくてちゃんと……
「だから、俺はお前に好かれようとしてんだろうが。話の流れで分かれ」
「え、や、待って。まじ、待って。いや、違う。全部言って。結城が考えてること、全部。言って」
「お前はいい大学にも行ってるし、顔も写真で見たお前の母親にそっくりだ。お前がその他大勢の養子候補に劣ることは無い。だから、お前には選択する自由がある。金持ちのお坊っちゃまになれる。それを選ぶなら、不利益にしかならねぇ俺との繋がりは金で綺麗に断ち切ってやる。でも、迷うんやったら、遠慮はしねぇ。まあちょっとは不自由な思いをさせることもあるだろうけど、大事にする。だから、俺を選べ」
自分を選べという野獣の眼に俺は射抜かれて、思考は完全に停止状態。でもこれだけは分かる。結城は、俺を求めてくれている。
だから、俺は結城を選ぶ。
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