花を愛でる獅子【本編完結】

千環

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本編

2-6

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「大体分かったわ。優しくしてくれるから、助けてくれたから、今は結城さんしか頼れる人がおらんから、ヤナはそれに甘えとる。それはええよ。結城さんかって、そのつもりでヤナに接しとるんやからな。けど、僕が気に入らんのは、ヤナが結城さんを信用してへんことや。ええとこ取りしようとすんな。結城さんの気持ちはどうなんの。極道者に深入りしたくないのは分かる。恐いのも分かる。けどな、せやからって一線引いていつでも逃げれる準備すんな。自分が傷付かへんように言い訳並べんのやめろ。結城さんは自分の見せたくないところも曝け出して、お前を守ったんや。ほんまに結城さんが好きなんやったら、それに応えるべきやろ」

「…………」

「ごめんな。僕は結城さん贔屓やから、ヤナにはひどいって思われるようなこと言うとる自覚はある。でも、自分の心を守るばっかりで、結城さんに対して壁作るんは許せへん。好きって言えって言うとるんやないよ。結城さんに心を開いて、本音でぶつかってほしい。傷付いたら、ここに来たらええやん。僕はヤナの味方でもあるよ」

「……はい!」

 店長の言葉が、俺の中にストンっと落ち着いた。結城の気持ちを考えたことは、確かになかった。いつも自分のことばっかりで、いつか傷付くんじゃないかって恐がって、結城の表情をちゃんと見ながら、会話をしたことすらないように思う。

 ただ今は、早く結城に会いたい。顔が見たい。それから結城に触れたい。
 そう思うだけで心があったまるような感覚が、心地いい。

「……店長。ありがとうございます。目が覚めたっす」

「うん。僕も」

「へ?」

「何でもないよ」





「おかえり」

 部屋に帰って来た結城が面食らったような顔をする。昨日言われた通りに笑顔で『おかえり』って言っただけなんだけどな。結城の中で俺という人間は相当ひねくれた奴らしい。

「……ただいま」

 そんな風に照れながら言われたら、なんか……俺まで照れる。

「なあ、ちょっと相談があるんだけど」

「なんだ。また真面目な話ってやつか」

 そう言いながら、結城が俺の向かいに腰を下ろした。

「うん。まあ、そうなんだけど」

 俺は立ち上がって結城の隣に座り直す。そしたら今度は手で顔を覆って『ハァ』と溜め息を吐いた。

「お前昨日から変だぞ」

 そう言った結城は能面のような感情が読みにくい顔に戻っていた。それからいつものように自然な動作で俺を抱き上げて膝の上に下ろした。
 ていうか『昨日から変』ってことはやっぱ、俺が結城を好きだと自覚した瞬間からってことなんだろうか。店長にもバレバレだったし、俺ってそんなに態度に出るタイプだったとは……気を付けなくちゃ!

「で?」

「もう一回Bluemoonで俺を雇ってほしい! です!」

 『Bluemoon』っていうのは俺がずっとお世話になってた結城がオーナーをしている喫茶店のこと。

「……なんで?」

「バイトしたい、から」

「なんで?」

「お金が欲しいから……」

「金はお前が欲しいだけ渡すって言ってんだろ」

 本気の呆れ顔。というか、これは……怒ってる……?
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