花を愛でる獅子【本編完結】

千環

文字の大きさ
上 下
27 / 108
本編

2-4

しおりを挟む
 ……やばい……のぼせた。

「う、わ……」

 いくら顔合わせ辛いからってこれは、浸かりすぎた。立ってられない。やば……頭がぐわんぐわんする。
 目の前が真っ暗になって、何とか壁を背に座り込んだ。真っ裸のまま回復を待つ。
 結城は、今何をしてるんだろう。俺のことを考えてたり……はないか。ないな。俺こそ何考えてんだ。
 けど、一応これって初恋だし。やっぱ、俺のことも好きになってもらいたい。……いや、ないか。ないない。そもそも男同士だもんな。キスは、するけど……ってまた! またそこに戻ってるし!

 ……いい加減、堂々巡りだな。

「なんで俺にキスするんだ?」

 ……て聞く? 聞いちゃう? もう思い切っちゃう? で、それでキスしてもらえなくなったりとかするかな。
 うわー、それ嫌だな。俺が惚れたって知られたらキモがられたりとか。ぎゃー! ありえる! あっちはほんの戯れのつもりでしたーとか。

「……自分で言っててヘコんできた」

 立ち上がって身体を拭く。パジャマ……山下さんが買って来てくれた牛の着ぐるみみたいなやつ……を着る。なぜ牛。なぜ19にもなって牛。
 ドライヤーで髪を乾かす。と言っても短いし、毛量少ないし、ものの5分で完璧。あぁもう戻らないといけないのか。あぁ~どんな顔して戻ればいいんだ。

 鏡の中の俺を見て気合いを入れる。結城のことを好きになったのは、秘密。きっと俺は、結城の優しさに甘えて依存して、理想みたいなものを押し付けて、勝手に傷付いたりすると思う。そんなのバカみたいだ。
 結城にお世話になるのは大学を卒業するまで。借りた金は返せるようにバイト探そう。けど、勉強も今まで以上に頑張ろう。結城に学費を出してもらってるんだから。結城が、俺を助けたことを後悔するようなことがないように。

 結城のそばにいられるのは、大学生の間だけ。

「……泣くのはこれが最後。頑張るぞ! 失恋確定! 怖いもんなんてない!」

 ただ想おう。期待はせずに、今そばにいられることを喜ぼう。

「よしっ!」

 冷水で顔を洗って、結城がいる部屋に戻った。

「あれ? 山下さん」

「また、お邪魔してます」

 いつも結城が帰ってくる直前に俺のお世話という仕事を終わらせる山下さんが、結城に会わないように必死になっているあの山下さんが、結城のために料理をしているなんてこれまた。
 記念にツーショットになるように写真でも撮っておこうか。スマホカメラの有効活用。

「花月」

「ん?」

「お前も食うなら上着て来い。そうじゃねぇならさっさと寝ろ。風邪ひくぞ。夏風邪は……」

「うるせぇ。どうせバカですよ俺は」

「フッ……」

 笑った。鼻で。
 けど、ちょっと笑顔。かっこいいじゃねぇか。クソ。

 上着を取りに行かずに結城の隣に座った。真夏に上着なんかいらないと思ったから。

「このバカ」

「な……っ」

 ふわっと結城の匂いに包まれる。結城が背広を俺の肩にかけてくれた。

「山下。冷房の温度上げろ」

「はい」

「あ、ありがと……」

「……なんだ、珍しい。いつもそれくらい素直だったらいいんだけどな」

「う、うるさいな」

「やっぱり、可愛げがない」

「どうせ俺は可愛げないですー! 可愛くないですよーっだ!!」

 また結城が笑う。それが嬉しくて、俺の顔も勝手に緩んだ。
 それだけでやっぱ幸せだって、思った。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

初心者オメガは執着アルファの腕のなか

深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。 オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。 オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。 穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。

『これで最後だから』と、抱きしめた腕の中で泣いていた

和泉奏
BL
「…俺も、愛しています」と返した従者の表情は、泣きそうなのに綺麗で。 皇太子×従者

【完結】おじさんはΩである

藤吉とわ
BL
隠れ執着嫉妬激強年下α×αと誤診を受けていたおじさんΩ 門村雄大(かどむらゆうだい)34歳。とある朝母親から「小学生の頃バース検査をした病院があんたと連絡を取りたがっている」という電話を貰う。 何の用件か分からぬまま、折り返しの連絡をしてみると「至急お知らせしたいことがある。自宅に伺いたい」と言われ、招いたところ三人の男がやってきて部屋の中で突然土下座をされた。よくよく話を聞けば23年前のバース検査で告知ミスをしていたと告げられる。 今更Ωと言われても――と戸惑うものの、αだと思い込んでいた期間も自分のバース性にしっくり来ていなかった雄大は悩みながらも正しいバース性を受け入れていく。 治療のため、まずはΩ性の発情期であるヒートを起こさなければならず、謝罪に来た三人の男の内の一人・研修医でαの戸賀井 圭(とがいけい)と同居を開始することにーー。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

君のことなんてもう知らない

ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。 告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。 だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶を失ってしまう。 今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、他の人と恋を始めようとするが… 「お前なんて知らないから」

【完結】幼馴染から離れたい。

June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。 βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。 番外編 伊賀崎朔視点もあります。 (12月:改正版) 読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭

ただ愛されたいと願う

藤雪たすく
BL
自分の居場所を求めながら、劣等感に苛まれているオメガの清末 海里。 やっと側にいたいと思える人を見つけたけれど、その人は……

転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!

音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに! え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!! 調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。

処理中です...