花を愛でる獅子【本編完結】

千環

文字の大きさ
上 下
21 / 108
本編

1-20

しおりを挟む
「……あの、俺。……ゲイじゃないです」

「あー、うん。だよなー。悪い。俺の周りって特殊な男子校出身ばっかでさ。なんかそういうの当たり前っつーか……とにかく、勝手な勘違いして悪かった」

「……いえ」

 しばらく沈黙が続いた。
 俺はゲイじゃない。……まあ、女の子を好きになったり、付き合ったり、そういうのもしたことはないけど。それはただ機会がなかっただけで。男を好きになったことだってない。

 だけど、結城の前で言ってしまった。じゃあ結城とキスする俺は何なんだよ。金で買われたから言いなりになってるんだって結城に思われる?
 実際、そうだけど……そう思われたくない。借金のせいだって結城に思われたくない。

「……ぅえ!?」

 結城の顔を見ようとして目線を上げたら、結城より先に狼さんの尋常じゃない状態が目に入ってきた。

「ちょ……泣いてる?」

「こいつ……、またかよ」

「またって……え?」

 目の前で泣いている狼さんを見る結城は、完全に呆れた顔をしていた。助けを求めようとして鈴音さんの方を見る。

「何でお前が泣いてんだよ。タロ」

「……だってっ、す、鈴音、怒ってるから」

「ああ?」

「俺、約束守らなかったから。……俺のこと、嫌いになった?」

 ……たすけて!!
 誰か状況を説明して!
 それか俺もう帰りたい!

 結城の方を見ても、いつものことと言わんばかりにメニュー開けてるし。めちゃくちゃ怖い顔の赤髪オールバックの人がメソメソ泣くのをスルーできるとかお前強靭な精神すぎるだろ! っていうか、怖いと思ってあんまり見れてなかったけど、この人めちゃくちゃ男前だなおい! 何だよ! 美形の世界ではこれが日常なのかよ。……って、んな訳あるか!!
 もう帰りたい!!!

「やだ。嫌いになんないで。俺、鈴音がいないと生きてけない。嫌われたら死んじゃうよ」

「あーもーお前は。何でそうなんだよ。俺がお前を嫌いになるわけねぇだろ」

「そんなのわかんない。だって俺ばかだもん」

「お前がバカ犬だってことくらい何年も前から分かってるよ」

「俺のこと捨てない?」

「捨てねぇよ」

「じゃあ俺のことまだ好きでいてくれる?」

「当たり前だろ」

「ちゃんと言って? じゃないとわかんない」

「お前のことはずっと好きだし、一生可愛がってやる。これでいいか?」

「うん。鈴音、大好きだよ」

「知ってる」

「ずっと俺だけが鈴音の犬だかんね」

「お前だけで手一杯だっつの」

「うん。知ってる」

 なんじゃこりゃあああ!
 超こええ!!
 めちゃくちゃ帰りたいいいいい!!

「花月。お前、馬食ったことあるか?」

「は!?」

「馬刺し。ここの美味いぞ」

「……結城。俺は今、初めてお前を尊敬した」

「慣れってのは怖いな。この光景を見てももう何とも思わねぇ。……で? 馬刺し食うか?」

「食う」

「よし」

 この時、思った。
 ああ、俺。……結城の気持ちがさっぱり分かんねぇな、って。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

悩める文官のひとりごと

きりか
BL
幼い頃から憧れていた騎士団に入りたくても、小柄でひ弱なリュカ・アルマンは、学校を卒業と同時に、文官として騎士団に入団する。方向音痴なリュカは、マルーン副団長の部屋と間違え、イザーク団長の部屋に入り込む。 そこでは、惚れ薬を口にした団長がいて…。 エチシーンが書けなくて、朝チュンとなりました。 ムーンライト様にも掲載しております。 

婚約破棄?しませんよ、そんなもの

おしゃべりマドレーヌ
BL
王太子の卒業パーティーで、王太子・フェリクスと婚約をしていた、侯爵家のアンリは突然「婚約を破棄する」と言い渡される。どうやら真実の愛を見つけたらしいが、それにアンリは「しませんよ、そんなもの」と返す。 アンリと婚約破棄をしないほうが良い理由は山ほどある。 けれどアンリは段々と、そんなメリット・デメリットを考えるよりも、フェリクスが幸せになるほうが良いと考えるようになり…… 「………………それなら、こうしましょう。私が、第一王妃になって仕事をこなします。彼女には、第二王妃になって頂いて、貴方は彼女と暮らすのです」 それでフェリクスが幸せになるなら、それが良い。 <嚙み痕で愛を語るシリーズというシリーズで書いていきます/これはスピンオフのような話です>

【完結】悪役令息の役目は終わりました

谷絵 ちぐり
BL
悪役令息の役目は終わりました。 断罪された令息のその後のお話。 ※全四話+後日談

君に望むは僕の弔辞

爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。 全9話 匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意 表紙はあいえだ様!! 小説家になろうにも投稿

【完結・ルート分岐あり】オメガ皇后の死に戻り〜二度と思い通りにはなりません〜

ivy
BL
魔術師の家門に生まれながら能力の発現が遅く家族から虐げられて暮らしていたオメガのアリス。 そんな彼を国王陛下であるルドルフが妻にと望み生活は一変する。 幸せになれると思っていたのに生まれた子供共々ルドルフに殺されたアリスは目が覚めると子供の頃に戻っていた。 もう二度と同じ轍は踏まない。 そう決心したアリスの戦いが始まる。

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

【完結】僕の大事な魔王様

綾雅(要らない悪役令嬢1巻重版)
BL
母竜と眠っていた幼いドラゴンは、なぜか人間が住む都市へ召喚された。意味が分からず本能のままに隠れたが発見され、引きずり出されて兵士に殺されそうになる。 「お母さん、お父さん、助けて! 魔王様!!」 魔族の守護者であった魔王様がいない世界で、神様に縋る人間のように叫ぶ。必死の嘆願は幼ドラゴンの魔力を得て、遠くまで響いた。そう、隣接する別の世界から魔王を召喚するほどに……。 俺様魔王×いたいけな幼ドラゴン――成長するまで見守ると決めた魔王は、徐々に真剣な想いを抱くようになる。彼の想いは幼過ぎる竜に届くのか。ハッピーエンド確定 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/11……完結 2023/09/28……カクヨム、週間恋愛 57位 2023/09/23……エブリスタ、トレンドBL 5位 2023/09/23……小説家になろう、日間ファンタジー 39位 2023/09/21……連載開始

【完結】幼馴染から離れたい。

June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。 βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。 番外編 伊賀崎朔視点もあります。 (12月:改正版) 読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭 1/27 1000❤️ありがとうございます😭

処理中です...