花を愛でる獅子【本編完結】

千環

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本編

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「……あの、俺。……ゲイじゃないです」

「あー、うん。だよなー。悪い。俺の周りって特殊な男子校出身ばっかでさ。なんかそういうの当たり前っつーか……とにかく、勝手な勘違いして悪かった」

「……いえ」

 しばらく沈黙が続いた。
 俺はゲイじゃない。……まあ、女の子を好きになったり、付き合ったり、そういうのもしたことはないけど。それはただ機会がなかっただけで。男を好きになったことだってない。

 だけど、結城の前で言ってしまった。じゃあ結城とキスする俺は何なんだよ。金で買われたから言いなりになってるんだって結城に思われる?
 実際、そうだけど……そう思われたくない。借金のせいだって結城に思われたくない。

「……ぅえ!?」

 結城の顔を見ようとして目線を上げたら、結城より先に狼さんの尋常じゃない状態が目に入ってきた。

「ちょ……泣いてる?」

「こいつ……、またかよ」

「またって……え?」

 目の前で泣いている狼さんを見る結城は、完全に呆れた顔をしていた。助けを求めようとして鈴音さんの方を見る。

「何でお前が泣いてんだよ。タロ」

「……だってっ、す、鈴音、怒ってるから」

「ああ?」

「俺、約束守らなかったから。……俺のこと、嫌いになった?」

 ……たすけて!!
 誰か状況を説明して!
 それか俺もう帰りたい!

 結城の方を見ても、いつものことと言わんばかりにメニュー開けてるし。めちゃくちゃ怖い顔の赤髪オールバックの人がメソメソ泣くのをスルーできるとかお前強靭な精神すぎるだろ! っていうか、怖いと思ってあんまり見れてなかったけど、この人めちゃくちゃ男前だなおい! 何だよ! 美形の世界ではこれが日常なのかよ。……って、んな訳あるか!!
 もう帰りたい!!!

「やだ。嫌いになんないで。俺、鈴音がいないと生きてけない。嫌われたら死んじゃうよ」

「あーもーお前は。何でそうなんだよ。俺がお前を嫌いになるわけねぇだろ」

「そんなのわかんない。だって俺ばかだもん」

「お前がバカ犬だってことくらい何年も前から分かってるよ」

「俺のこと捨てない?」

「捨てねぇよ」

「じゃあ俺のことまだ好きでいてくれる?」

「当たり前だろ」

「ちゃんと言って? じゃないとわかんない」

「お前のことはずっと好きだし、一生可愛がってやる。これでいいか?」

「うん。鈴音、大好きだよ」

「知ってる」

「ずっと俺だけが鈴音の犬だかんね」

「お前だけで手一杯だっつの」

「うん。知ってる」

 なんじゃこりゃあああ!
 超こええ!!
 めちゃくちゃ帰りたいいいいい!!

「花月。お前、馬食ったことあるか?」

「は!?」

「馬刺し。ここの美味いぞ」

「……結城。俺は今、初めてお前を尊敬した」

「慣れってのは怖いな。この光景を見てももう何とも思わねぇ。……で? 馬刺し食うか?」

「食う」

「よし」

 この時、思った。
 ああ、俺。……結城の気持ちがさっぱり分かんねぇな、って。
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