花を愛でる獅子【本編完結】

千環

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本編

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 昨日食った寿司はビビるくらい美味かった。思わず『うまっ!』と言ってしまうほどだった。そんな俺を見て、結城は『ゆっくり食えよ』と言って笑った。
 また車に乗ってしばらくした頃には、昼寝までしたのに俺の瞼は重くなっていた。ウトウトする俺の身体を、結城は眠りやすいようにしてくれた。そして俺が寝るまで頭を撫でてくれた。
 ホテルに着いてからは寝ぼけた俺に先に風呂を使わせてくれたし、結城が風呂に入ってる間にソファで寝てしまった俺をベッドまで抱いて運んでくれた。一緒のベッドで寝るのに抵抗が全くなかった訳じゃないけど、やっぱり結城の体温に安心した。

 何でこんなに優しく甘やかしてくれるのだろう。

 今朝早くに結城がいなくなったベッドでゴロゴロしながら、結城のことばかりを考えてしまう。朝起きた時……寝ぼけてたし、あんまり思い出したくないけど……まずはキスされた。

「……おはよ」

「おう。起こす気はなかったんだが、悪い」

「いいよ。昨日はほんとにいっぱい寝たし」

「まだまだ寝かせてやりたい。この隈が消えるまで」

 俺の前髪を掻き上げて目元にキスされた。キスされる直前に見た、開けたバスローブから覗く腹筋がなぜか色っぽくて、俺は思わず触れてしまった。

「……腹筋が珍しいか?」

「こんなの見たことない。すごい。男って感じだな」

 撫でるとその凹凸をより実感した。ただ肉がないだけの俺とは全く違う身体。

「すごい、堅い」

 そう言った途端、結城の腹に触れていた手を掴まれて、あっという間にのしかかられたと思ったら、首筋にチクッとした痛みが走った。

「なに……?」

 俺の首筋を一舐めしてから顔を上げた結城の目が、まるで獰猛な野獣みたいな光りを孕んで、俺は一瞬慄いた。

「……あんまりなこと言うな。止まらなくなる」

「なにが?」

 結城は何も言わずにさっとベッドから下りた。

「何でもない。もう一回寝ろ」

 俺の質問には答えずに、それだけ言ってベッドルームから出て行った。




「……何だったんだ。あいつ」

 今朝の出来事を一通り思い出し終えて、俺は痛みを感じた首筋に触れた。冷静になってみれば、あの時何をされたのかは分かる。たぶん、今ここは赤紫色になっているのだろう。
 あいつは、やっぱり……俺をそういう目で見ているのだろうか。俺だけに当てはまる結城の俺ルールはまるっきり、仲の良い恋人同士みたいだ。

「恋人って言ってもなぁ……男同士だし……」

 でもキスは普通にするし? それが嫌じゃねぇんだもんなぁ……。大問題だこれは。俺のオスはそれでいいのか。

「あんまり深く考えない方がいいのかもなー……」

 俺のオスが許さん! とか、例えばそんな結論になったって、俺の借金を結城が肩代わりしたことも、俺にその借金を返す能力が無いことも変わらないのだから。
 とりあえず今は、結城も、触れられるのも、キスをするのも嫌じゃない。
 それだけで、いいだろ。

 何にも前進してない終着点に落ち着いて、俺は身体を起こした。というか、単純に考えるのが嫌になっただけ。これから俺はどうしたらいい? とか、俺の人生どうなる? とか、悩み始めたらキリがない上に答えなんて見つからないんだし。

 俺は金でヤクザに買われた。

 その時点で終わっている。それでも大事にされてるし。むしろ元より良い生活だし。って、思うしかないだろう?
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