花を愛でる獅子【本編完結】

千環

文字の大きさ
上 下
17 / 108
本編

1-16

しおりを挟む
 お店の正規の駐車場ではなさそうな奥まったところに車を停めた。車に残る人と、結城の身を守るように周りに付いてくる鳴海さんや山下さん、風見さんとか数人に別れて、お店の裏口っぽいドアから入った。俺は当然、結城の隣。見たことのないヤクザに囲まれて、ビビリまくりのガキンチョ。かなり居心地が悪い。

 店に入ると和服の美人なおばさんが出迎えてくれた。場違いすぎる俺と目が合っても、ニコッと微笑んでくれるいい人。しかも俺が結城に腰抱かれいるのもスルーしてくれる。

「いらっしゃいませ。巽さん。お久しぶりじゃないですか。ひどいですねぇ」

「俺らみたいな柄悪いのがこんな良い店に来んのは気が引けんだよ」

「ふふ、何を仰いますやら。では、お座敷にどうぞ」

「おう」

 襖で間仕切りされた座敷が三つ。結城は迷わず真ん中の座敷に俺を連れて上がり、他の人達はぞろぞろと両側の座敷に上がっていった。
 結城と二人ってことにとりあえず安心して、俺は襖を閉じた。

「寿司は好きか?」

「うん。けど俺、回ってない寿司屋は初めて」

「そうか。何でも好きなだけ食えよ」

「ん……結城の頼んだのと一緒でいいよ」

「考えるのが面倒か?」

「こんな良い店でどんなの頼んでいいか分かんねぇ」

「そうか」

 結城はそのままメニューを開くでもなく、スーツの内ポケットから煙草を取り出した。

「吸っていいか?」

「いいよ」

「悪いな」

「なんか、そんなの聞くの意外」

「あ?」

「意外と律儀なんだな」

「ああ。お前だから聞いただけだ」

 つまり他の人だったら聞かねぇってことか。うん。そんな感じ。なんか……ほんとに俺んこと、大事にしようとしてくれてんのかもな。

「お決まりですか?」

「今あるネタ全部握ってくれ。とりあえず三貫ずつで」

「かしこまりました」

「それといつもの」

「はい。少々お待ち下さいませ」

 さっきのおばさんがニコッとして出てった。煙草を吹かす結城に視線を戻す。

「ネタ全部って、どんな頼み方だよ」

「食いたいやつを食えばいいだろ」

「絶対食い切れねぇよ。お前、痩せの大食いとかそんな感じか?」

「俺のどこが痩せてんだ」

 結城の身体をジトっと眺める。痩せ……てはない。けど、少なくとも太ってもない。

「で、いっぱい食えんのか?」

「まあ人並みに」

「余るだろ!」

「その時はその時だろうが。細けぇことは気にせずに好きなもんを好きなだけ食え」

 居心地が悪い。
 こいつとおると、俺はただのひねたクソガキだって実感させられて、しかもそれを全部許してもらってるような……とにかく、こんなんじゃないのに。俺は、こんな文句ばっか言うような奴じゃないのに。

「変な顔して、何考えてんだ」

「お前に関係ないっ」

「そうか?」

「そう!」

「お前のせいだって顔に書いてあるぞ」

「か……っ!」

 何でこんな、何でもかんでも見透かされるんだよ。

「お前といたら調子狂う! 俺、ほんとはこんな文句ばっか言わねぇし、メシ食わしてもったら何でも感謝するし、お礼も言う! こんな声荒げたり、礼儀知らずじゃないのに!」

 憎まれ口を叩いても、喚き散らしても、結城はただただ笑っているだけ。

「分かってる」

「え」

「分かってるから。……楽にしたらいい」

 居心地が、悪い。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

婚約破棄?しませんよ、そんなもの

おしゃべりマドレーヌ
BL
王太子の卒業パーティーで、王太子・フェリクスと婚約をしていた、侯爵家のアンリは突然「婚約を破棄する」と言い渡される。どうやら真実の愛を見つけたらしいが、それにアンリは「しませんよ、そんなもの」と返す。 アンリと婚約破棄をしないほうが良い理由は山ほどある。 けれどアンリは段々と、そんなメリット・デメリットを考えるよりも、フェリクスが幸せになるほうが良いと考えるようになり…… 「………………それなら、こうしましょう。私が、第一王妃になって仕事をこなします。彼女には、第二王妃になって頂いて、貴方は彼女と暮らすのです」 それでフェリクスが幸せになるなら、それが良い。 <嚙み痕で愛を語るシリーズというシリーズで書いていきます/これはスピンオフのような話です>

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

【完結】幼馴染から離れたい。

June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。 βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。 番外編 伊賀崎朔視点もあります。 (12月:改正版) 読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭 1/27 1000❤️ありがとうございます😭

悩める文官のひとりごと

きりか
BL
幼い頃から憧れていた騎士団に入りたくても、小柄でひ弱なリュカ・アルマンは、学校を卒業と同時に、文官として騎士団に入団する。方向音痴なリュカは、マルーン副団長の部屋と間違え、イザーク団長の部屋に入り込む。 そこでは、惚れ薬を口にした団長がいて…。 エチシーンが書けなくて、朝チュンとなりました。 ムーンライト様にも掲載しております。 

どうせ全部、知ってるくせに。

楽川楽
BL
【腹黒美形×単純平凡】 親友と、飲み会の悪ふざけでキスをした。単なる罰ゲームだったのに、どうしてもあのキスが忘れられない…。 飲み会のノリでしたキスで、親友を意識し始めてしまった単純な受けが、まんまと腹黒攻めに捕まるお話。 ※fujossyさんの属性コンテスト『ノンケ受け』部門にて優秀賞をいただいた作品です。

偽物の僕は本物にはなれない。

15
BL
「僕は君を好きだけど、君は僕じゃない人が好きなんだね」 ネガティブ主人公。最後は分岐ルート有りのハピエン。

淫愛家族

箕田 はる
BL
婿養子として篠山家で生活している睦紀は、結婚一年目にして妻との不仲を悩んでいた。 事あるごとに身の丈に合わない結婚かもしれないと考える睦紀だったが、以前から親交があった義父の俊政と義兄の春馬とは良好な関係を築いていた。 二人から向けられる優しさは心地よく、迷惑をかけたくないという思いから、睦紀は妻と向き合うことを決意する。 だが、同僚から渡された風俗店のカードを返し忘れてしまったことで、正しい三人の関係性が次第に壊れていく――

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

処理中です...