花を愛でる獅子【本編完結】

千環

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本編

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 お店の正規の駐車場ではなさそうな奥まったところに車を停めた。車に残る人と、結城の身を守るように周りに付いてくる鳴海さんや山下さん、風見さんとか数人に別れて、お店の裏口っぽいドアから入った。俺は当然、結城の隣。見たことのないヤクザに囲まれて、ビビリまくりのガキンチョ。かなり居心地が悪い。

 店に入ると和服の美人なおばさんが出迎えてくれた。場違いすぎる俺と目が合っても、ニコッと微笑んでくれるいい人。しかも俺が結城に腰抱かれいるのもスルーしてくれる。

「いらっしゃいませ。巽さん。お久しぶりじゃないですか。ひどいですねぇ」

「俺らみたいな柄悪いのがこんな良い店に来んのは気が引けんだよ」

「ふふ、何を仰いますやら。では、お座敷にどうぞ」

「おう」

 襖で間仕切りされた座敷が三つ。結城は迷わず真ん中の座敷に俺を連れて上がり、他の人達はぞろぞろと両側の座敷に上がっていった。
 結城と二人ってことにとりあえず安心して、俺は襖を閉じた。

「寿司は好きか?」

「うん。けど俺、回ってない寿司屋は初めて」

「そうか。何でも好きなだけ食えよ」

「ん……結城の頼んだのと一緒でいいよ」

「考えるのが面倒か?」

「こんな良い店でどんなの頼んでいいか分かんねぇ」

「そうか」

 結城はそのままメニューを開くでもなく、スーツの内ポケットから煙草を取り出した。

「吸っていいか?」

「いいよ」

「悪いな」

「なんか、そんなの聞くの意外」

「あ?」

「意外と律儀なんだな」

「ああ。お前だから聞いただけだ」

 つまり他の人だったら聞かねぇってことか。うん。そんな感じ。なんか……ほんとに俺んこと、大事にしようとしてくれてんのかもな。

「お決まりですか?」

「今あるネタ全部握ってくれ。とりあえず三貫ずつで」

「かしこまりました」

「それといつもの」

「はい。少々お待ち下さいませ」

 さっきのおばさんがニコッとして出てった。煙草を吹かす結城に視線を戻す。

「ネタ全部って、どんな頼み方だよ」

「食いたいやつを食えばいいだろ」

「絶対食い切れねぇよ。お前、痩せの大食いとかそんな感じか?」

「俺のどこが痩せてんだ」

 結城の身体をジトっと眺める。痩せ……てはない。けど、少なくとも太ってもない。

「で、いっぱい食えんのか?」

「まあ人並みに」

「余るだろ!」

「その時はその時だろうが。細けぇことは気にせずに好きなもんを好きなだけ食え」

 居心地が悪い。
 こいつとおると、俺はただのひねたクソガキだって実感させられて、しかもそれを全部許してもらってるような……とにかく、こんなんじゃないのに。俺は、こんな文句ばっか言うような奴じゃないのに。

「変な顔して、何考えてんだ」

「お前に関係ないっ」

「そうか?」

「そう!」

「お前のせいだって顔に書いてあるぞ」

「か……っ!」

 何でこんな、何でもかんでも見透かされるんだよ。

「お前といたら調子狂う! 俺、ほんとはこんな文句ばっか言わねぇし、メシ食わしてもったら何でも感謝するし、お礼も言う! こんな声荒げたり、礼儀知らずじゃないのに!」

 憎まれ口を叩いても、喚き散らしても、結城はただただ笑っているだけ。

「分かってる」

「え」

「分かってるから。……楽にしたらいい」

 居心地が、悪い。
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