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本編
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「ふ、二人乗ってきた!」
俺は声を潜めて、結城に助けを求めて縋った。運転席、助手席と後部座席との間にカーテンがあって、山下さんともう一人誰が乗ってきたか分からないけど、それがヤクザだということだけは分かってしまっているから恐かった。
「風見や。安心せぇ」
「そうか。じゃあいいけど。ビビった……」
左右と後ろの窓にスモークフィルムが貼ってあって、前はカーテン。完全に『ヤクザ乗ってまっせー』って感じの車に乗って、ヤクザに腰を抱かれて身体を預けてる俺。昨日までの俺カムバック!
「花月、晩メシ何か食いたい物あるか?」
「俺は何でもいいけど?」
「嫌いな物は?」
「たぶんない。食べたことない物は分かんないけど、何でも食えると思う」
「そうか」
結城が俺の髪にチュッチュしてくる。あまりにも自然で、しかも不快ではないから放っておく。ていうか俺は結城に触れられるのは好きなんだろうと自覚してきている。もう一回言う。昨日までの俺カムバック!!
「お前、昼は何食った?」
「コンビニのおにぎり」
「コンビニか。そんなとこしばらく行ってねぇな」
「学生の頃とか?」
「ああ、そうだな。八年ほど前になるか」
「八年前だったら俺小学生だな」
しばらく沈黙が続いた。
「……おい。そう言われるとすげー年が離れてるように思うのは何でだ」
「いや知らねぇよ」
難しい顔でまた沈黙する結城。
「…………で、携帯は?」
「あっ、買ったよ! ありがとう。大事にする」
「番号は?」
「知らない。どうしたら分かる?」
「貸してみろ。今持ってないとかはないな?」
「持ってる持ってる」
二泊分の荷物が入ったショルダーバッグから、真新しいスマホを取り出して結城に手渡す。
「味気ねぇケースだな」
「あ、うん。別になんでもいいし。これお前のと一緒?」
「大抵の奴がこれだろ」
大抵の人がこれらしい。すごいな。とりあえず俺は自分の番号の表示の仕方を聞いた。アプリというやつを押してどうのこうの。うん、分からん。
結城がスーツのポケットから出した携帯に、その番号を打ち込んで、俺の携帯が鳴った。俺の携帯の初着信は一秒も鳴らず、そして繋がらずに終わった。寂しい。
「それ登録しとけ」
「どうやって?」
「山下の番号登録してねぇのか? やり方なんか何となくで分かんだろ」
「だって一番最初に登録するのは結城の番号がいいって山下さんが言うてたし、充電しただけで何も触ってない」
また沈黙が訪れる。結城の眉間のシワが深くなったのを見ると、いちいち説明するのがめんどくさいって思われたかな。
「山下」
「はい!」
若干怯えを含んだ山下さんの返事が聞こえる。ごめん山下さん。俺、山下さんが悪いみたいな言い方してしまったのかもしれない。
「お前の好きな物言え」
「す、好きなもんですか?」
「食いもんだ」
「あの、寿司です」
「そうか」
結城がまた携帯を取り出して、誰かに電話を掛けた。
「晩飯。朝霞屋」
それは俺でもテレビとかで見たことがあるくらい有名な寿司屋の店名だった。
俺は声を潜めて、結城に助けを求めて縋った。運転席、助手席と後部座席との間にカーテンがあって、山下さんともう一人誰が乗ってきたか分からないけど、それがヤクザだということだけは分かってしまっているから恐かった。
「風見や。安心せぇ」
「そうか。じゃあいいけど。ビビった……」
左右と後ろの窓にスモークフィルムが貼ってあって、前はカーテン。完全に『ヤクザ乗ってまっせー』って感じの車に乗って、ヤクザに腰を抱かれて身体を預けてる俺。昨日までの俺カムバック!
「花月、晩メシ何か食いたい物あるか?」
「俺は何でもいいけど?」
「嫌いな物は?」
「たぶんない。食べたことない物は分かんないけど、何でも食えると思う」
「そうか」
結城が俺の髪にチュッチュしてくる。あまりにも自然で、しかも不快ではないから放っておく。ていうか俺は結城に触れられるのは好きなんだろうと自覚してきている。もう一回言う。昨日までの俺カムバック!!
「お前、昼は何食った?」
「コンビニのおにぎり」
「コンビニか。そんなとこしばらく行ってねぇな」
「学生の頃とか?」
「ああ、そうだな。八年ほど前になるか」
「八年前だったら俺小学生だな」
しばらく沈黙が続いた。
「……おい。そう言われるとすげー年が離れてるように思うのは何でだ」
「いや知らねぇよ」
難しい顔でまた沈黙する結城。
「…………で、携帯は?」
「あっ、買ったよ! ありがとう。大事にする」
「番号は?」
「知らない。どうしたら分かる?」
「貸してみろ。今持ってないとかはないな?」
「持ってる持ってる」
二泊分の荷物が入ったショルダーバッグから、真新しいスマホを取り出して結城に手渡す。
「味気ねぇケースだな」
「あ、うん。別になんでもいいし。これお前のと一緒?」
「大抵の奴がこれだろ」
大抵の人がこれらしい。すごいな。とりあえず俺は自分の番号の表示の仕方を聞いた。アプリというやつを押してどうのこうの。うん、分からん。
結城がスーツのポケットから出した携帯に、その番号を打ち込んで、俺の携帯が鳴った。俺の携帯の初着信は一秒も鳴らず、そして繋がらずに終わった。寂しい。
「それ登録しとけ」
「どうやって?」
「山下の番号登録してねぇのか? やり方なんか何となくで分かんだろ」
「だって一番最初に登録するのは結城の番号がいいって山下さんが言うてたし、充電しただけで何も触ってない」
また沈黙が訪れる。結城の眉間のシワが深くなったのを見ると、いちいち説明するのがめんどくさいって思われたかな。
「山下」
「はい!」
若干怯えを含んだ山下さんの返事が聞こえる。ごめん山下さん。俺、山下さんが悪いみたいな言い方してしまったのかもしれない。
「お前の好きな物言え」
「す、好きなもんですか?」
「食いもんだ」
「あの、寿司です」
「そうか」
結城がまた携帯を取り出して、誰かに電話を掛けた。
「晩飯。朝霞屋」
それは俺でもテレビとかで見たことがあるくらい有名な寿司屋の店名だった。
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