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本編
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※side山下
一緒に降りようと言ってくれた花月さんの誘いを断って、俺は階段を駆け降りて別のエレベーターホールに小走りで向かった。
組長が関西に行くとなればそれなりに大事。組長が乗る車以外にも五台は用意する。事務所内がちょっとだけ慌ただしい。
「あー! 乗ります! エレベーター待って!!」
ちょうど下に行くエレベーターに駆け込む。これでなんとか組長を待たせんで済むやろう。俺は長い息を吐いた。
「何でそんなに急いでるんですか? 確か今日、行かないって言ってたでしょ」
「それが行くことなったんや。今さっき。組長に来い言われてな」
「ええ! 直々にっすか!?」
「せや。運転せぇ言われたわ」
「まじすか! すげぇ!」
一応自分よりも下のもんはおるけど、俺なんかまだまだ下っ端で組長の車の運転なんか有り得へんことや。
組長は怖い。できれば近付きたくない。けど、近付きたい。組で上の方に行きたい。偉くなりたい。金も欲しい。そんなもん組員全員が思っとる。
チャンスや。組長に気に入られるんや! ヘマしたらその瞬間、頭と身体が離れ離れやろうけど……めっちゃ怖いけど! 花月さんの世話役、頑張ったんで!
顔がヤクザらしいなあてよかった。なんか、初めて思った。
「何で山下さんだけ急に呼ばれたんすか?」
「新しい役もろたんや」
「えー! なんすか?」
『組長のイロの世話役』
……とは言わん。
「たぶん言うてええもんちゃう。ま、そのうち分かる。ほなな!」
エレベーターから降りて俺はまた走った。
「山下! こっちだ」
事務所の下にある車庫というか駐車場に出たところで、風見さんに声を掛けられた。俺は風見さんに駆け寄る。
「風見さん! 風見さんも一緒ですか?」
「俺とお前で交代しながら行く」
「よかったあ! 風見さんとでホッとしましたわ」
「俺はお前とで不安増大だけど、まぁ花月さんも乗るんだから当然だな」
組長と花月さんが乗る車まで早歩きで向かいながら話す。風見さんの困った時の笑顔が俺は好き。風見さんの懐の深さを表したみたいやから。
風見さんは結城組の若頭補佐、つまり偉い人。組員は組長から見て、弟分と子分とに大別される。風見さんは弟分で、俺は子分。
結城組は組長、若頭、顧問、舎弟頭、舎弟頭補佐四人、若頭補佐三人、顧問補佐一人、合わせて12人の幹部が取り仕切っとる。そんな上層の風見さんに俺は気に入ってもろて、なんだかんだでそばにおらしてくれて、ほんで花月さんの世話役になれたんも風見さんのそばにおったから目に付いたんやと思う。俺の尊敬する人。風見さんもいつかは組長にならはるやろうから、俺はそうなった時、そばで支えて、役に立てる人間になりたい。だから偉くなりたい。
野田組の二次団体の幹部らへんは大概自身も組長として組を持っとるもんやけど、結城組はちょっと特殊で組長を筆頭に幹部に若い人が多くて三次団体は少ない。組を持ってるんは、若頭、顧問、舎弟頭、舎弟頭補佐二人、若頭補佐一人の六人だけ。
ほんでも噂では顧問補佐が……いや、滅多なことは考えるもんやない。ポロッと口にしてまうんがオチや。
組長と花月さんが乗ってはる車に近付いた時、俺は急いで運転席に回った。
「俺、先運転します。風見さんはしばらく休んどって下さい」
「お前こそ今日は慣れないことばっかりで疲れたろ」
「そんなことないっす! 風見さんは明日も忙しないし俺がします」
「そうか? 悪いな。疲れたら言えよ」
「はい!」
ほぼ同時にドアを開けて、車に乗り込んだ。
一緒に降りようと言ってくれた花月さんの誘いを断って、俺は階段を駆け降りて別のエレベーターホールに小走りで向かった。
組長が関西に行くとなればそれなりに大事。組長が乗る車以外にも五台は用意する。事務所内がちょっとだけ慌ただしい。
「あー! 乗ります! エレベーター待って!!」
ちょうど下に行くエレベーターに駆け込む。これでなんとか組長を待たせんで済むやろう。俺は長い息を吐いた。
「何でそんなに急いでるんですか? 確か今日、行かないって言ってたでしょ」
「それが行くことなったんや。今さっき。組長に来い言われてな」
「ええ! 直々にっすか!?」
「せや。運転せぇ言われたわ」
「まじすか! すげぇ!」
一応自分よりも下のもんはおるけど、俺なんかまだまだ下っ端で組長の車の運転なんか有り得へんことや。
組長は怖い。できれば近付きたくない。けど、近付きたい。組で上の方に行きたい。偉くなりたい。金も欲しい。そんなもん組員全員が思っとる。
チャンスや。組長に気に入られるんや! ヘマしたらその瞬間、頭と身体が離れ離れやろうけど……めっちゃ怖いけど! 花月さんの世話役、頑張ったんで!
顔がヤクザらしいなあてよかった。なんか、初めて思った。
「何で山下さんだけ急に呼ばれたんすか?」
「新しい役もろたんや」
「えー! なんすか?」
『組長のイロの世話役』
……とは言わん。
「たぶん言うてええもんちゃう。ま、そのうち分かる。ほなな!」
エレベーターから降りて俺はまた走った。
「山下! こっちだ」
事務所の下にある車庫というか駐車場に出たところで、風見さんに声を掛けられた。俺は風見さんに駆け寄る。
「風見さん! 風見さんも一緒ですか?」
「俺とお前で交代しながら行く」
「よかったあ! 風見さんとでホッとしましたわ」
「俺はお前とで不安増大だけど、まぁ花月さんも乗るんだから当然だな」
組長と花月さんが乗る車まで早歩きで向かいながら話す。風見さんの困った時の笑顔が俺は好き。風見さんの懐の深さを表したみたいやから。
風見さんは結城組の若頭補佐、つまり偉い人。組員は組長から見て、弟分と子分とに大別される。風見さんは弟分で、俺は子分。
結城組は組長、若頭、顧問、舎弟頭、舎弟頭補佐四人、若頭補佐三人、顧問補佐一人、合わせて12人の幹部が取り仕切っとる。そんな上層の風見さんに俺は気に入ってもろて、なんだかんだでそばにおらしてくれて、ほんで花月さんの世話役になれたんも風見さんのそばにおったから目に付いたんやと思う。俺の尊敬する人。風見さんもいつかは組長にならはるやろうから、俺はそうなった時、そばで支えて、役に立てる人間になりたい。だから偉くなりたい。
野田組の二次団体の幹部らへんは大概自身も組長として組を持っとるもんやけど、結城組はちょっと特殊で組長を筆頭に幹部に若い人が多くて三次団体は少ない。組を持ってるんは、若頭、顧問、舎弟頭、舎弟頭補佐二人、若頭補佐一人の六人だけ。
ほんでも噂では顧問補佐が……いや、滅多なことは考えるもんやない。ポロッと口にしてまうんがオチや。
組長と花月さんが乗ってはる車に近付いた時、俺は急いで運転席に回った。
「俺、先運転します。風見さんはしばらく休んどって下さい」
「お前こそ今日は慣れないことばっかりで疲れたろ」
「そんなことないっす! 風見さんは明日も忙しないし俺がします」
「そうか? 悪いな。疲れたら言えよ」
「はい!」
ほぼ同時にドアを開けて、車に乗り込んだ。
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