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本編
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今朝、家に借金取りが来て、そうしたら野獣みたいな男に拐われた。野獣の名前は結城。結城組の組長で、野田組の幹部。でもそんな根っからのヤーさんだとは知らずに、俺は野獣の腕の中で安心して眠った。
時刻は午後14時半。いつの間にか、そんな時間になっていた。
「山下」
結城がカードを一枚、テーブルの上に放った。真っ黒いクレジットカード。
「な、なんすか! このカード!」
「花月と行って携帯買ってこい。ついでに遅くなったが昼飯も食わせておけ。17時にはこっちを出発するから、その準備もしろ」
「分かりました!」
「鳴海、俺の名義で契約するなら何がいる?」
「新規で契約する場合、代理人は認められなかったはずですから、今すぐにとなると、顔写真のない身分証を渡しておいて、山下が結城の振りをするしかありませんね」
「じゃあ保険証。鳴海に預かってから行け」
「了解です!」
それって不正だろって思ったけど、あえて言わなかった。そもそもヤクザに不正だっていう意味なんかないし。
「保険証なんか持ってるんだな」
「俺の会社の健保組合のやつだ」
「それって社長ってこと?」
「まあな」
「……ふーん」
「お前どうせ怪しい会社だと思ってんだろ」
「ちがうの?」
「完全に合法だ。ヤクザが絡んでるってことすら知らずに働いてる社員もいるかもしれねぇな」
うわ。可哀相。
俺だったらすぐにやめるわ。でも絶対やめさせてくれない今流行りのブラック企業なんだろうな。
「言っておくが、ブラックじゃねぇぞ」
「……考えてることよく分かったな」
「顔に書いてあんだよ」
結城、鳴海さん、風見さんの三人が会議に行くのを見送ったあと、山下さんと車に乗って出掛けた。
結城から乗れって勧められたエレベーターに乗るのを、山下さんが何でだかめちゃくちゃ嫌がったせいで、一人ポツンと裏口で待たされたっていう謎。俺それなら山下さんと一緒に階段で下りる方がいいって言ったのに、それも全力で拒否られるし。
「何食い行きましょー?」
「何でもいいんですか?」
「あ、あんまり高いもんは勘弁して下さいね。花月さんの分は組長のカードありますけど、俺は自腹やし」
「え? そうなの? 山下さんもそれで食ったらいいじゃないですかね?」
「な訳が!! もし組長がその気でいらっしゃったとしても! 俺は絶対自腹で食います!!」
前向いて運転してよ。
そんな全力で来ないで。
「あー、じゃあコンビニとかで済ませましょっか。17時までに戻らなきゃだし」
「……そんなん食わせたって知れたら俺……打ち首ちゃうやろか……」
「そんなことあるわけないっすよ。さっさと携帯買って休みましょ。ね?」
しぶしぶって感じの山下さんを急かしながらコンビニに寄って、おにぎり二個と紅茶ジュースを買った。もともと食が細いからそれで満足なのに、『そんだけしか食べさせへんかったって知られたら怒られます! もっと食べて下さい!!』って、店内で大音量で叫ばれたのはビビった。そんなことでヤクザの組長が怒ったら笑うしかない。食えないもんは食えない。
「ほんまにそんなんで腹ええんですか」
「満腹です。早く携帯買いに行きましょって」
「ほんまのほんまですか?」
「もーしつこい! 俺は胃が小さいの! これからもずっとこんなもんだから慣れて下さい!」
「す、すんません」
「あ、や、こちらこそ」
いい人そうな山下さんだってヤクザはヤクザなのに……。しつこい! とか言ってしまった……。
微妙な雰囲気になって、ずっと沈黙のまま携帯ショップに向かった。
時刻は午後14時半。いつの間にか、そんな時間になっていた。
「山下」
結城がカードを一枚、テーブルの上に放った。真っ黒いクレジットカード。
「な、なんすか! このカード!」
「花月と行って携帯買ってこい。ついでに遅くなったが昼飯も食わせておけ。17時にはこっちを出発するから、その準備もしろ」
「分かりました!」
「鳴海、俺の名義で契約するなら何がいる?」
「新規で契約する場合、代理人は認められなかったはずですから、今すぐにとなると、顔写真のない身分証を渡しておいて、山下が結城の振りをするしかありませんね」
「じゃあ保険証。鳴海に預かってから行け」
「了解です!」
それって不正だろって思ったけど、あえて言わなかった。そもそもヤクザに不正だっていう意味なんかないし。
「保険証なんか持ってるんだな」
「俺の会社の健保組合のやつだ」
「それって社長ってこと?」
「まあな」
「……ふーん」
「お前どうせ怪しい会社だと思ってんだろ」
「ちがうの?」
「完全に合法だ。ヤクザが絡んでるってことすら知らずに働いてる社員もいるかもしれねぇな」
うわ。可哀相。
俺だったらすぐにやめるわ。でも絶対やめさせてくれない今流行りのブラック企業なんだろうな。
「言っておくが、ブラックじゃねぇぞ」
「……考えてることよく分かったな」
「顔に書いてあんだよ」
結城、鳴海さん、風見さんの三人が会議に行くのを見送ったあと、山下さんと車に乗って出掛けた。
結城から乗れって勧められたエレベーターに乗るのを、山下さんが何でだかめちゃくちゃ嫌がったせいで、一人ポツンと裏口で待たされたっていう謎。俺それなら山下さんと一緒に階段で下りる方がいいって言ったのに、それも全力で拒否られるし。
「何食い行きましょー?」
「何でもいいんですか?」
「あ、あんまり高いもんは勘弁して下さいね。花月さんの分は組長のカードありますけど、俺は自腹やし」
「え? そうなの? 山下さんもそれで食ったらいいじゃないですかね?」
「な訳が!! もし組長がその気でいらっしゃったとしても! 俺は絶対自腹で食います!!」
前向いて運転してよ。
そんな全力で来ないで。
「あー、じゃあコンビニとかで済ませましょっか。17時までに戻らなきゃだし」
「……そんなん食わせたって知れたら俺……打ち首ちゃうやろか……」
「そんなことあるわけないっすよ。さっさと携帯買って休みましょ。ね?」
しぶしぶって感じの山下さんを急かしながらコンビニに寄って、おにぎり二個と紅茶ジュースを買った。もともと食が細いからそれで満足なのに、『そんだけしか食べさせへんかったって知られたら怒られます! もっと食べて下さい!!』って、店内で大音量で叫ばれたのはビビった。そんなことでヤクザの組長が怒ったら笑うしかない。食えないもんは食えない。
「ほんまにそんなんで腹ええんですか」
「満腹です。早く携帯買いに行きましょって」
「ほんまのほんまですか?」
「もーしつこい! 俺は胃が小さいの! これからもずっとこんなもんだから慣れて下さい!」
「す、すんません」
「あ、や、こちらこそ」
いい人そうな山下さんだってヤクザはヤクザなのに……。しつこい! とか言ってしまった……。
微妙な雰囲気になって、ずっと沈黙のまま携帯ショップに向かった。
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