12 / 108
本編
1-11
しおりを挟む
※side山下
組長が何かを考えとるような表情をしながら花月さんの顔を見ていたかと思うと、スッといつもの見慣れた無表情になって、かしらに視線を移した。
「鳴海、俺の今日の予定何がある?」
「このあと15時から会議。その後、明日の会食のために関西へ向かっていただきます」
「あ? 会食? 誰とだ」
「野田組の幹部会ですよ。忘れないで下さい」
「それは外せねぇな。あ、花月も一緒に行くか? まあ行っても面白いものはないけどな。美味いものは食えるぞ」
目が点になるってこういうことかと、どっか冷静な自分が思った。野田組の幹部会に堅気の人間を連れていこうとするか? 普通。
いや、組長は『普通』のお人ではないんやけども。
「はあ!? お前バカじゃねぇの! 野田組なんか俺でも知ってるぞ! 死んでも嫌だ!!」
めっちゃ普通の反応。みんなこう思うやろう。言い方がまた、連れに言うみたいに軽いけど。
「お前くらいの若いのもいるぞ。チビで面白い奴」
「知らねぇよ!」
組長の提案を一蹴したあと、花月さんはふと何か思い当たったような表情をして、顔を引き攣らせながら組長を指差した。
「……てゆーか、野田組の……人なのか?」
そこかい! ってツッコミたくなった。
日本のヤクザの約半数が野田組の構成員とまで言われる日本最大の広域指定暴力団。その野田組系組織の中で、結城組は関東を占める役割を担う組で、全体でも四番手、もしくは五番手くらいの地位にある。ほんまのこと言うたら、こんなに若い人が組長になれるような組ではない。
「結城組は野田組の二次団体で、結城は野田組では執行部と言われる……つまり、幹部です」
「ちょ、ちょっと待って……。話に付いて行けねぇ」
「俺が極道なのは最初から分かってただろ。今さら付いて行けねぇってなんだ」
花月さんが組長の方に身体を向けて、組長の目を真っすぐ睨みながら啖呵を切った。組長との口論が始まって、こっちの肝が冷える。
「野田組の幹部なんか次元がちげーだろ!」
「関係ねぇよ。俺は俺だ」
「俺は一般人だぞ! ヤクザは恐い!」
「言っておくが、お前はもう一般人じゃあねぇぞ。お前は俺が買った。結城組の関係者になった」
「知らねぇっての! そんなのお前が勝手にしただけだろうが!」
「今日俺がお前の借金を肩代わりしなかったらどうなってた? 三千万返せたか? 東堂組なんざ捕まったらお前なんかシャブ漬けにされて精神侵されてケツも散々犯されて使えなくなったらポイだ。うちと東堂組、どっちがマシかって話だ」
「……っ!」
「金だけやるなんてバカなことを俺はしねぇ。世の中ギブアンドテイクだろ。お前の借金を返した代わりに、お前を貰う。ただし、お前が望むことは可能な限り叶えてやるし、大事に扱うつもりだ」
言葉を失い俯く花月さんに、真摯な声で組長が言った。その言葉に思わず耳を疑う。『大事に』って……恐い!
「…………。……俺、会食は行かない」
「分かった。でもここに置いては行かないからな。付いて来い。ホテルにでもいたらいいだろう」
「……うん」
「不満か?」
「……うん」
「言ってみろ」
「俺、ヤクザじゃねぇもん」
「分かってる。誰もそんなことは思ってない。お前はあれだ。うちのお姫さんみたいな、あーっと、あれだ。ピーチ姫」
「……お前がクッパ?」
「マリオだろ」
「何でそうなんだよ。バカじゃね」
パッと花が咲いたみたいに、花月さんの顔に笑みが広がった。組長の表情も和らぐ。
「そうやって、ずっと笑ってくれたら、それでいい」
「……うん」
こんなん、俺の知っとる組長ちゃう。残忍で冷酷で、乱暴で粗野。でもそれに惚れて、みんなここにおる。
こんな風に微笑む組長は知らん。けど、この光景を守りたいって強く思った。
組長が何かを考えとるような表情をしながら花月さんの顔を見ていたかと思うと、スッといつもの見慣れた無表情になって、かしらに視線を移した。
「鳴海、俺の今日の予定何がある?」
「このあと15時から会議。その後、明日の会食のために関西へ向かっていただきます」
「あ? 会食? 誰とだ」
「野田組の幹部会ですよ。忘れないで下さい」
「それは外せねぇな。あ、花月も一緒に行くか? まあ行っても面白いものはないけどな。美味いものは食えるぞ」
目が点になるってこういうことかと、どっか冷静な自分が思った。野田組の幹部会に堅気の人間を連れていこうとするか? 普通。
いや、組長は『普通』のお人ではないんやけども。
「はあ!? お前バカじゃねぇの! 野田組なんか俺でも知ってるぞ! 死んでも嫌だ!!」
めっちゃ普通の反応。みんなこう思うやろう。言い方がまた、連れに言うみたいに軽いけど。
「お前くらいの若いのもいるぞ。チビで面白い奴」
「知らねぇよ!」
組長の提案を一蹴したあと、花月さんはふと何か思い当たったような表情をして、顔を引き攣らせながら組長を指差した。
「……てゆーか、野田組の……人なのか?」
そこかい! ってツッコミたくなった。
日本のヤクザの約半数が野田組の構成員とまで言われる日本最大の広域指定暴力団。その野田組系組織の中で、結城組は関東を占める役割を担う組で、全体でも四番手、もしくは五番手くらいの地位にある。ほんまのこと言うたら、こんなに若い人が組長になれるような組ではない。
「結城組は野田組の二次団体で、結城は野田組では執行部と言われる……つまり、幹部です」
「ちょ、ちょっと待って……。話に付いて行けねぇ」
「俺が極道なのは最初から分かってただろ。今さら付いて行けねぇってなんだ」
花月さんが組長の方に身体を向けて、組長の目を真っすぐ睨みながら啖呵を切った。組長との口論が始まって、こっちの肝が冷える。
「野田組の幹部なんか次元がちげーだろ!」
「関係ねぇよ。俺は俺だ」
「俺は一般人だぞ! ヤクザは恐い!」
「言っておくが、お前はもう一般人じゃあねぇぞ。お前は俺が買った。結城組の関係者になった」
「知らねぇっての! そんなのお前が勝手にしただけだろうが!」
「今日俺がお前の借金を肩代わりしなかったらどうなってた? 三千万返せたか? 東堂組なんざ捕まったらお前なんかシャブ漬けにされて精神侵されてケツも散々犯されて使えなくなったらポイだ。うちと東堂組、どっちがマシかって話だ」
「……っ!」
「金だけやるなんてバカなことを俺はしねぇ。世の中ギブアンドテイクだろ。お前の借金を返した代わりに、お前を貰う。ただし、お前が望むことは可能な限り叶えてやるし、大事に扱うつもりだ」
言葉を失い俯く花月さんに、真摯な声で組長が言った。その言葉に思わず耳を疑う。『大事に』って……恐い!
「…………。……俺、会食は行かない」
「分かった。でもここに置いては行かないからな。付いて来い。ホテルにでもいたらいいだろう」
「……うん」
「不満か?」
「……うん」
「言ってみろ」
「俺、ヤクザじゃねぇもん」
「分かってる。誰もそんなことは思ってない。お前はあれだ。うちのお姫さんみたいな、あーっと、あれだ。ピーチ姫」
「……お前がクッパ?」
「マリオだろ」
「何でそうなんだよ。バカじゃね」
パッと花が咲いたみたいに、花月さんの顔に笑みが広がった。組長の表情も和らぐ。
「そうやって、ずっと笑ってくれたら、それでいい」
「……うん」
こんなん、俺の知っとる組長ちゃう。残忍で冷酷で、乱暴で粗野。でもそれに惚れて、みんなここにおる。
こんな風に微笑む組長は知らん。けど、この光景を守りたいって強く思った。
18
お気に入りに追加
445
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
婚約破棄?しませんよ、そんなもの
おしゃべりマドレーヌ
BL
王太子の卒業パーティーで、王太子・フェリクスと婚約をしていた、侯爵家のアンリは突然「婚約を破棄する」と言い渡される。どうやら真実の愛を見つけたらしいが、それにアンリは「しませんよ、そんなもの」と返す。
アンリと婚約破棄をしないほうが良い理由は山ほどある。
けれどアンリは段々と、そんなメリット・デメリットを考えるよりも、フェリクスが幸せになるほうが良いと考えるようになり……
「………………それなら、こうしましょう。私が、第一王妃になって仕事をこなします。彼女には、第二王妃になって頂いて、貴方は彼女と暮らすのです」
それでフェリクスが幸せになるなら、それが良い。
<嚙み痕で愛を語るシリーズというシリーズで書いていきます/これはスピンオフのような話です>
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
告白ゲームの攻略対象にされたので面倒くさい奴になって嫌われることにした
雨宮里玖
BL
《あらすじ》
昼休みに乃木は、イケメン三人の話に聞き耳を立てていた。そこで「それぞれが最初にぶつかった奴を口説いて告白する。それで一番早く告白オッケーもらえた奴が勝ち」という告白ゲームをする話を聞いた。
その直後、乃木は三人のうちで一番のモテ男・早坂とぶつかってしまった。
その日の放課後から早坂は乃木にぐいぐい近づいてきて——。
早坂(18)モッテモテのイケメン帰国子女。勉強運動なんでもできる。物静か。
乃木(18)普通の高校三年生。
波田野(17)早坂の友人。
蓑島(17)早坂の友人。
石井(18)乃木の友人。
君に望むは僕の弔辞
爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。
全9話
匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意
表紙はあいえだ様!!
小説家になろうにも投稿
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!
音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに!
え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!!
調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
愛などもう求めない
白兪
BL
とある国の皇子、ヴェリテは長い長い夢を見た。夢ではヴェリテは偽物の皇子だと罪にかけられてしまう。情を交わした婚約者は真の皇子であるファクティスの側につき、兄は睨みつけてくる。そして、とうとう父親である皇帝は処刑を命じた。
「僕のことを1度でも愛してくれたことはありましたか?」
「お前のことを一度も息子だと思ったことはない。」
目が覚め、現実に戻ったヴェリテは安心するが、本当にただの夢だったのだろうか?もし予知夢だとしたら、今すぐここから逃げなくては。
本当に自分を愛してくれる人と生きたい。
ヴェリテの切実な願いが周りを変えていく。
ハッピーエンド大好きなので、絶対に主人公は幸せに終わらせたいです。
最後まで読んでいただけると嬉しいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる