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本編
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「花月。花月、起きろ」
あったかい身体に抱き着いて、優しい腕に抱きしめられて、これ以上ないくらい安らかに寝ていた。
結城に起こされても、ふわっと現実に戻されるくらいで、寝起きが悪いはずの俺がイライラしなかった。
「鳴海が帰ってきた。まだ寝るならあとでもいいが」
確かに廊下を歩く足音が聞こえる。どれくらい寝ていたんだろう?
「……だいじょうぶ」
結城の背中に回した腕を離して、目元を擦る。
「花月」
「……ん?」
「起きたらまずキスだ」
「ン……」
そっと唇を合わせられて、感触を楽しむみたいに啄まれた。
「これも俺ルール?」
「おう、分かってきたな」
「バカだろ」
ドアをノックする音と、鳴海さんの声が聞こえて、俺は立ち上がろうとした。が、結城の手に阻まれた。
「もう一回」
ちょっとだけ強引に合わせられる薄い唇を、不快だと思うことはなくなっていた。
「……結城」
「そんな可愛い顔で見られたら止まらなくなるぞ。話の前に顔洗ってこい」
「ん。わかった」
結城にだっこされて立たせてもらった。洗面台がある方を指差されて向かう。なんでここまで順応できているのか、自分でも謎だ。
※side鳴海
結城から入室の許可を得て、風見らを連れて部屋に入った。結城が座るソファの向かいに腰を下ろす。風見らは私の後ろに立っている。
「花月さんは?」
「顔洗いに行った」
「そうですか」
「…………」
何かを考えているような顔をする結城。眉間の皺が普段よりも深くなった。
「……あー、様子見てくる。待ってろ」
「えぇ? わざわざ見に行かなくても」
「タオルの場所言ってねぇんだよ」
結城が腰を上げ、バスルームの方へ消えた。お尻から根っこが生えているかのように無精な男が、タオルごときで……笑いが込み上げてくる。
「……タオルて」
山下の口から漏れた言葉に風見が頷いた。
「とりあえず、死にたくなければそういうことを口に出さないでおいた方がいいな。ドスが首に触れるかもしれない」
サァと青くなる二人の顔色。今まで何度と無く結城が愛用する長ドスで切られ、血飛沫をあげる人間を見ている。あの男は、相手が組員だろうがなんだろうが、気に食わないとすぐに手が出るのだ。私も一度不興を買い、左肩をばっさりと切られたことがある。とにかく『乱暴』という形容がぴったりの男だ。
「俺、思ったことポロッと言うてまうんすわ。近い内に死ぬでこれ」
「山下。お前、組長の前で絶対に口を開くな。俺はお前のフォローなんかしねぇからな。巻き添え食うのは御免だ」
「ちょ、助けて下さいよー!!」
「お前だけ殺されろ」
「風見さ……っ!」
山下がピタッと口を閉じた。結城が花月さんを連れて、こちらへ戻ってきたせいだ。
少し眠そうな花月さんの腰には、当然のことのように結城の手があった。
あったかい身体に抱き着いて、優しい腕に抱きしめられて、これ以上ないくらい安らかに寝ていた。
結城に起こされても、ふわっと現実に戻されるくらいで、寝起きが悪いはずの俺がイライラしなかった。
「鳴海が帰ってきた。まだ寝るならあとでもいいが」
確かに廊下を歩く足音が聞こえる。どれくらい寝ていたんだろう?
「……だいじょうぶ」
結城の背中に回した腕を離して、目元を擦る。
「花月」
「……ん?」
「起きたらまずキスだ」
「ン……」
そっと唇を合わせられて、感触を楽しむみたいに啄まれた。
「これも俺ルール?」
「おう、分かってきたな」
「バカだろ」
ドアをノックする音と、鳴海さんの声が聞こえて、俺は立ち上がろうとした。が、結城の手に阻まれた。
「もう一回」
ちょっとだけ強引に合わせられる薄い唇を、不快だと思うことはなくなっていた。
「……結城」
「そんな可愛い顔で見られたら止まらなくなるぞ。話の前に顔洗ってこい」
「ん。わかった」
結城にだっこされて立たせてもらった。洗面台がある方を指差されて向かう。なんでここまで順応できているのか、自分でも謎だ。
※side鳴海
結城から入室の許可を得て、風見らを連れて部屋に入った。結城が座るソファの向かいに腰を下ろす。風見らは私の後ろに立っている。
「花月さんは?」
「顔洗いに行った」
「そうですか」
「…………」
何かを考えているような顔をする結城。眉間の皺が普段よりも深くなった。
「……あー、様子見てくる。待ってろ」
「えぇ? わざわざ見に行かなくても」
「タオルの場所言ってねぇんだよ」
結城が腰を上げ、バスルームの方へ消えた。お尻から根っこが生えているかのように無精な男が、タオルごときで……笑いが込み上げてくる。
「……タオルて」
山下の口から漏れた言葉に風見が頷いた。
「とりあえず、死にたくなければそういうことを口に出さないでおいた方がいいな。ドスが首に触れるかもしれない」
サァと青くなる二人の顔色。今まで何度と無く結城が愛用する長ドスで切られ、血飛沫をあげる人間を見ている。あの男は、相手が組員だろうがなんだろうが、気に食わないとすぐに手が出るのだ。私も一度不興を買い、左肩をばっさりと切られたことがある。とにかく『乱暴』という形容がぴったりの男だ。
「俺、思ったことポロッと言うてまうんすわ。近い内に死ぬでこれ」
「山下。お前、組長の前で絶対に口を開くな。俺はお前のフォローなんかしねぇからな。巻き添え食うのは御免だ」
「ちょ、助けて下さいよー!!」
「お前だけ殺されろ」
「風見さ……っ!」
山下がピタッと口を閉じた。結城が花月さんを連れて、こちらへ戻ってきたせいだ。
少し眠そうな花月さんの腰には、当然のことのように結城の手があった。
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