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本編
1-4
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「お待たせいたしました」
そのまましばらくぼーっとしていたら、鳴海さんが運転席に座ってそう言った。途端にドカン! と羞恥が襲ってきて、野獣の膝の上で暴れた。
「シートに座る! 離せ!」
「何だまたいきなり。今の今まで大人しくしてただろうが」
「こんな体勢でいるとこ見られて大人しくできるか!」
「ああ、私のせいでしたか。私は全く気にしておりませんし、見ておりませんので、お気になさらず」
「鳴海は空気だと思え」
「そういう問題じゃねぇ! とにかく離せ!」
「あーもー、うるせぇな」
野獣男ががっちりと掴んでいた俺の腰から手を離した。すぐに飛び退く。
「それで。どこに連れてくつもりなんだよ」
「とりあえず事務所」
「真っ直ぐ帰ってよろしいのですか?」
「こいつの借金のことはもう済んだんだろ」
「はい」
「なら、もう外に用はない」
……事務所て何だ。ヤクザの事務所とか? いやいやいやいや『とりあえず生で』みたいな居酒屋のノリで何口走ってくれてんだよ。まじでない。ないない。死んでも行きたくない。
「じ……事務所って?」
「ああ? ああ、うちの組の事務所だ。心配すんな」
「…………」
するわボケー!!! むしろ心配の要素しかねぇだろうが!!
まさか俺、売られる? ヤクザに連れて行かれて殺されて、内臓とか取り出されたりとかする?
「何だまた大人しくなって。忙しい奴だな」
「お、俺……殺される?」
「はあ?」
「内臓とか売られたりする?」
「バカか。もう何も考えなくていいから、着くまで寝てろ」
寝れるか!! と思っていたのに、野獣の肩に頭を無理矢理乗せられて、髪を撫でられる内にウトウトしてくる。
こいつに触れられると落ち着く。こいつの匂いに包まれると、安心する。
何で……?
※side鳴海
「鳴海、組の奴らには俺が帰っても出迎えなくていいから今日は一切顔出すなって言っておけ」
「かしこまりました」
「あと風見と、山下でいいか。事務所戻って俺ら降ろしたら、そのままこの車を使って構わないから、二人連れて、こいつん家戻って必要な物を取って来い」
「風見と山下ですね」
「あいつらだったら、こいつもビビらねぇだろ。それから、今はノロノロ走れ。揺らしたら殺す」
思わず笑ってしまった。結城の口から『ノロノロ走れ』などという言葉が出てくるとは。せっかちで得手勝手な男が、自分の肩で眠る人間を気遣うなんて。
「か、かしこまりました」
「笑うなっつってんだろ。朝からニヤニヤニヤニヤしやがって鬱陶しい」
「申し訳……」
「笑い堪えながらこっち見るな。笑うな見るな息すんな。ついでに死ね」
どれだけ凄んでミラー越しに睨まれようが、これだけ声が小さければただのお笑いだ。柳園花月が絡むだけで、こんなにも人が変わるなんて信じられない。
結城にとって柳園花月はどういう存在なのだろうか? ただ単に、性欲に対して淡泊な人間なのだと思ってきたが、この入れ込み様と今朝の『一生で一番大事な思い出』という話から想像すると、柳園花月は、結城の子供の頃からの想い人ということになるのでは……?
あの結城が、恋。
あの結城が、片思い。
……今日は信じられないこと尽くしだ。
そのまましばらくぼーっとしていたら、鳴海さんが運転席に座ってそう言った。途端にドカン! と羞恥が襲ってきて、野獣の膝の上で暴れた。
「シートに座る! 離せ!」
「何だまたいきなり。今の今まで大人しくしてただろうが」
「こんな体勢でいるとこ見られて大人しくできるか!」
「ああ、私のせいでしたか。私は全く気にしておりませんし、見ておりませんので、お気になさらず」
「鳴海は空気だと思え」
「そういう問題じゃねぇ! とにかく離せ!」
「あーもー、うるせぇな」
野獣男ががっちりと掴んでいた俺の腰から手を離した。すぐに飛び退く。
「それで。どこに連れてくつもりなんだよ」
「とりあえず事務所」
「真っ直ぐ帰ってよろしいのですか?」
「こいつの借金のことはもう済んだんだろ」
「はい」
「なら、もう外に用はない」
……事務所て何だ。ヤクザの事務所とか? いやいやいやいや『とりあえず生で』みたいな居酒屋のノリで何口走ってくれてんだよ。まじでない。ないない。死んでも行きたくない。
「じ……事務所って?」
「ああ? ああ、うちの組の事務所だ。心配すんな」
「…………」
するわボケー!!! むしろ心配の要素しかねぇだろうが!!
まさか俺、売られる? ヤクザに連れて行かれて殺されて、内臓とか取り出されたりとかする?
「何だまた大人しくなって。忙しい奴だな」
「お、俺……殺される?」
「はあ?」
「内臓とか売られたりする?」
「バカか。もう何も考えなくていいから、着くまで寝てろ」
寝れるか!! と思っていたのに、野獣の肩に頭を無理矢理乗せられて、髪を撫でられる内にウトウトしてくる。
こいつに触れられると落ち着く。こいつの匂いに包まれると、安心する。
何で……?
※side鳴海
「鳴海、組の奴らには俺が帰っても出迎えなくていいから今日は一切顔出すなって言っておけ」
「かしこまりました」
「あと風見と、山下でいいか。事務所戻って俺ら降ろしたら、そのままこの車を使って構わないから、二人連れて、こいつん家戻って必要な物を取って来い」
「風見と山下ですね」
「あいつらだったら、こいつもビビらねぇだろ。それから、今はノロノロ走れ。揺らしたら殺す」
思わず笑ってしまった。結城の口から『ノロノロ走れ』などという言葉が出てくるとは。せっかちで得手勝手な男が、自分の肩で眠る人間を気遣うなんて。
「か、かしこまりました」
「笑うなっつってんだろ。朝からニヤニヤニヤニヤしやがって鬱陶しい」
「申し訳……」
「笑い堪えながらこっち見るな。笑うな見るな息すんな。ついでに死ね」
どれだけ凄んでミラー越しに睨まれようが、これだけ声が小さければただのお笑いだ。柳園花月が絡むだけで、こんなにも人が変わるなんて信じられない。
結城にとって柳園花月はどういう存在なのだろうか? ただ単に、性欲に対して淡泊な人間なのだと思ってきたが、この入れ込み様と今朝の『一生で一番大事な思い出』という話から想像すると、柳園花月は、結城の子供の頃からの想い人ということになるのでは……?
あの結城が、恋。
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……今日は信じられないこと尽くしだ。
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