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本編
1-3
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「……何だよ」
「何が」
「こっち見過ぎだろ」
「何を見るかは俺の自由だ」
「俺の顔は俺のもんだ。見んな。あと触んな」
見るからにめちゃくちゃ高そうな車の後部座席に乗せられた。隣に乗り込んできた野獣男の右腕は当たり前のようにまた俺の腰に回った。しかも俺の方をじっくり見てくる。
いい加減耐えられなくなった俺は不満を口に出したけど、言ってから後悔した。そうだ、こいつは息クサ男1号の顔面と右手を潰した野獣だった。
「それは聞けない相談だな」
「何で」
「俺はお前を金で買った。今からお前は俺のものだ」
「……は?」
「さっき聞いただろ。お前の父親の借金三千万。俺が肩代わりした。つまり、お前にもう自由はない」
親父が死んで、葬儀とかなんだかんだにお金がかかると親戚連中から言われた。すでに納入が遅れている分の学費のために貯めていたなけなしの金を使って、何とか済ませた。
親戚連中は親父に借金があることを知っていたんだろうか。俺が知らない間に作っていた親父の借金三千万? は? 知らねぇよそんなもん。もうずっと、金金金金。悲しみに暮れる暇さえない。と思った矢先にこのクソ野郎、俺を買っただと?
「何でそんなことすんだよ。何のために!」
「俺は俺のためにしか動かねぇ。どうでもいいことを考えねぇで黙ってろ」
「……っ! ふざけんな俺は帰る! いきなり意味の分かんねぇことしやがって! クソが!」
「いきなりはお前だ。急にキレんな」
野獣男が呆れたみたいにそう言いながら、俺の膝の裏に左腕を入れて、軽々と抱き上げられた。赤ちゃんみたいに野獣男の足の上に横向けに座らされるウサギちゃんの俺。は?
「な……、何すんだよ!! 離せ! 下ろせ!!」
「うるさい。でかい声を出すな」
「お前のせいだ、ろ……」
野獣男の顔をギッと睨んで驚いた。何でそんな優しい顔をして俺を見てるんだ。
野獣みたいに恐ろしい今にも喉笛に噛み付いてくるんじゃないかと思うような、息クサ男1号を蹴っていた時の顔はどこに行ったんだよ。
野獣顔が怖くて見れなかった今までの間ずっと、そんな甘い顔して俺を見てたのか……?
「やっと目が合った」
「お、お前な、ちょっとその顔やめ……」
「お前じゃない。巽だ」
『巽』
俺が野獣男の名前を呼ぶ間もなく、俺の口は塞がれた。
チュって音をわざと鳴らして唇を離したかと思ったら、今度は舌で舐められた。ムズムズとこそばゆい感触に俺は思わず口を開いてしまった。その瞬間を逃がさないとばかりに口の中に侵入してくる野獣の舌。上顎を舌で舐められて背筋がゾワゾワした。
俺の舌も何もかも舐め尽くして満足したみたいに、またチュって音をさせて野獣の唇は離れて行った。俺は荒くなった息を整えるのに精一杯。
「……エロい顔」
お前がな! て言いたかった。欲望を隠そうともしてない野獣の目に吸い込まれそうで、俺はとりあえず野獣の腹に鉄拳をお見舞いした。ポコっと音がしそうなくらいへなちょこパンチだった。
「……力、入んねぇ……クソ」
そう言った俺をまた甘い顔をして見つめてくる野獣。その目から逃れたくて、俺は野獣の肩に顔を埋めた。
「何が」
「こっち見過ぎだろ」
「何を見るかは俺の自由だ」
「俺の顔は俺のもんだ。見んな。あと触んな」
見るからにめちゃくちゃ高そうな車の後部座席に乗せられた。隣に乗り込んできた野獣男の右腕は当たり前のようにまた俺の腰に回った。しかも俺の方をじっくり見てくる。
いい加減耐えられなくなった俺は不満を口に出したけど、言ってから後悔した。そうだ、こいつは息クサ男1号の顔面と右手を潰した野獣だった。
「それは聞けない相談だな」
「何で」
「俺はお前を金で買った。今からお前は俺のものだ」
「……は?」
「さっき聞いただろ。お前の父親の借金三千万。俺が肩代わりした。つまり、お前にもう自由はない」
親父が死んで、葬儀とかなんだかんだにお金がかかると親戚連中から言われた。すでに納入が遅れている分の学費のために貯めていたなけなしの金を使って、何とか済ませた。
親戚連中は親父に借金があることを知っていたんだろうか。俺が知らない間に作っていた親父の借金三千万? は? 知らねぇよそんなもん。もうずっと、金金金金。悲しみに暮れる暇さえない。と思った矢先にこのクソ野郎、俺を買っただと?
「何でそんなことすんだよ。何のために!」
「俺は俺のためにしか動かねぇ。どうでもいいことを考えねぇで黙ってろ」
「……っ! ふざけんな俺は帰る! いきなり意味の分かんねぇことしやがって! クソが!」
「いきなりはお前だ。急にキレんな」
野獣男が呆れたみたいにそう言いながら、俺の膝の裏に左腕を入れて、軽々と抱き上げられた。赤ちゃんみたいに野獣男の足の上に横向けに座らされるウサギちゃんの俺。は?
「な……、何すんだよ!! 離せ! 下ろせ!!」
「うるさい。でかい声を出すな」
「お前のせいだ、ろ……」
野獣男の顔をギッと睨んで驚いた。何でそんな優しい顔をして俺を見てるんだ。
野獣みたいに恐ろしい今にも喉笛に噛み付いてくるんじゃないかと思うような、息クサ男1号を蹴っていた時の顔はどこに行ったんだよ。
野獣顔が怖くて見れなかった今までの間ずっと、そんな甘い顔して俺を見てたのか……?
「やっと目が合った」
「お、お前な、ちょっとその顔やめ……」
「お前じゃない。巽だ」
『巽』
俺が野獣男の名前を呼ぶ間もなく、俺の口は塞がれた。
チュって音をわざと鳴らして唇を離したかと思ったら、今度は舌で舐められた。ムズムズとこそばゆい感触に俺は思わず口を開いてしまった。その瞬間を逃がさないとばかりに口の中に侵入してくる野獣の舌。上顎を舌で舐められて背筋がゾワゾワした。
俺の舌も何もかも舐め尽くして満足したみたいに、またチュって音をさせて野獣の唇は離れて行った。俺は荒くなった息を整えるのに精一杯。
「……エロい顔」
お前がな! て言いたかった。欲望を隠そうともしてない野獣の目に吸い込まれそうで、俺はとりあえず野獣の腹に鉄拳をお見舞いした。ポコっと音がしそうなくらいへなちょこパンチだった。
「……力、入んねぇ……クソ」
そう言った俺をまた甘い顔をして見つめてくる野獣。その目から逃れたくて、俺は野獣の肩に顔を埋めた。
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