4 / 108
本編
1-3
しおりを挟む
「……何だよ」
「何が」
「こっち見過ぎだろ」
「何を見るかは俺の自由だ」
「俺の顔は俺のもんだ。見んな。あと触んな」
見るからにめちゃくちゃ高そうな車の後部座席に乗せられた。隣に乗り込んできた野獣男の右腕は当たり前のようにまた俺の腰に回った。しかも俺の方をじっくり見てくる。
いい加減耐えられなくなった俺は不満を口に出したけど、言ってから後悔した。そうだ、こいつは息クサ男1号の顔面と右手を潰した野獣だった。
「それは聞けない相談だな」
「何で」
「俺はお前を金で買った。今からお前は俺のものだ」
「……は?」
「さっき聞いただろ。お前の父親の借金三千万。俺が肩代わりした。つまり、お前にもう自由はない」
親父が死んで、葬儀とかなんだかんだにお金がかかると親戚連中から言われた。すでに納入が遅れている分の学費のために貯めていたなけなしの金を使って、何とか済ませた。
親戚連中は親父に借金があることを知っていたんだろうか。俺が知らない間に作っていた親父の借金三千万? は? 知らねぇよそんなもん。もうずっと、金金金金。悲しみに暮れる暇さえない。と思った矢先にこのクソ野郎、俺を買っただと?
「何でそんなことすんだよ。何のために!」
「俺は俺のためにしか動かねぇ。どうでもいいことを考えねぇで黙ってろ」
「……っ! ふざけんな俺は帰る! いきなり意味の分かんねぇことしやがって! クソが!」
「いきなりはお前だ。急にキレんな」
野獣男が呆れたみたいにそう言いながら、俺の膝の裏に左腕を入れて、軽々と抱き上げられた。赤ちゃんみたいに野獣男の足の上に横向けに座らされるウサギちゃんの俺。は?
「な……、何すんだよ!! 離せ! 下ろせ!!」
「うるさい。でかい声を出すな」
「お前のせいだ、ろ……」
野獣男の顔をギッと睨んで驚いた。何でそんな優しい顔をして俺を見てるんだ。
野獣みたいに恐ろしい今にも喉笛に噛み付いてくるんじゃないかと思うような、息クサ男1号を蹴っていた時の顔はどこに行ったんだよ。
野獣顔が怖くて見れなかった今までの間ずっと、そんな甘い顔して俺を見てたのか……?
「やっと目が合った」
「お、お前な、ちょっとその顔やめ……」
「お前じゃない。巽だ」
『巽』
俺が野獣男の名前を呼ぶ間もなく、俺の口は塞がれた。
チュって音をわざと鳴らして唇を離したかと思ったら、今度は舌で舐められた。ムズムズとこそばゆい感触に俺は思わず口を開いてしまった。その瞬間を逃がさないとばかりに口の中に侵入してくる野獣の舌。上顎を舌で舐められて背筋がゾワゾワした。
俺の舌も何もかも舐め尽くして満足したみたいに、またチュって音をさせて野獣の唇は離れて行った。俺は荒くなった息を整えるのに精一杯。
「……エロい顔」
お前がな! て言いたかった。欲望を隠そうともしてない野獣の目に吸い込まれそうで、俺はとりあえず野獣の腹に鉄拳をお見舞いした。ポコっと音がしそうなくらいへなちょこパンチだった。
「……力、入んねぇ……クソ」
そう言った俺をまた甘い顔をして見つめてくる野獣。その目から逃れたくて、俺は野獣の肩に顔を埋めた。
「何が」
「こっち見過ぎだろ」
「何を見るかは俺の自由だ」
「俺の顔は俺のもんだ。見んな。あと触んな」
見るからにめちゃくちゃ高そうな車の後部座席に乗せられた。隣に乗り込んできた野獣男の右腕は当たり前のようにまた俺の腰に回った。しかも俺の方をじっくり見てくる。
いい加減耐えられなくなった俺は不満を口に出したけど、言ってから後悔した。そうだ、こいつは息クサ男1号の顔面と右手を潰した野獣だった。
「それは聞けない相談だな」
「何で」
「俺はお前を金で買った。今からお前は俺のものだ」
「……は?」
「さっき聞いただろ。お前の父親の借金三千万。俺が肩代わりした。つまり、お前にもう自由はない」
親父が死んで、葬儀とかなんだかんだにお金がかかると親戚連中から言われた。すでに納入が遅れている分の学費のために貯めていたなけなしの金を使って、何とか済ませた。
親戚連中は親父に借金があることを知っていたんだろうか。俺が知らない間に作っていた親父の借金三千万? は? 知らねぇよそんなもん。もうずっと、金金金金。悲しみに暮れる暇さえない。と思った矢先にこのクソ野郎、俺を買っただと?
「何でそんなことすんだよ。何のために!」
「俺は俺のためにしか動かねぇ。どうでもいいことを考えねぇで黙ってろ」
「……っ! ふざけんな俺は帰る! いきなり意味の分かんねぇことしやがって! クソが!」
「いきなりはお前だ。急にキレんな」
野獣男が呆れたみたいにそう言いながら、俺の膝の裏に左腕を入れて、軽々と抱き上げられた。赤ちゃんみたいに野獣男の足の上に横向けに座らされるウサギちゃんの俺。は?
「な……、何すんだよ!! 離せ! 下ろせ!!」
「うるさい。でかい声を出すな」
「お前のせいだ、ろ……」
野獣男の顔をギッと睨んで驚いた。何でそんな優しい顔をして俺を見てるんだ。
野獣みたいに恐ろしい今にも喉笛に噛み付いてくるんじゃないかと思うような、息クサ男1号を蹴っていた時の顔はどこに行ったんだよ。
野獣顔が怖くて見れなかった今までの間ずっと、そんな甘い顔して俺を見てたのか……?
「やっと目が合った」
「お、お前な、ちょっとその顔やめ……」
「お前じゃない。巽だ」
『巽』
俺が野獣男の名前を呼ぶ間もなく、俺の口は塞がれた。
チュって音をわざと鳴らして唇を離したかと思ったら、今度は舌で舐められた。ムズムズとこそばゆい感触に俺は思わず口を開いてしまった。その瞬間を逃がさないとばかりに口の中に侵入してくる野獣の舌。上顎を舌で舐められて背筋がゾワゾワした。
俺の舌も何もかも舐め尽くして満足したみたいに、またチュって音をさせて野獣の唇は離れて行った。俺は荒くなった息を整えるのに精一杯。
「……エロい顔」
お前がな! て言いたかった。欲望を隠そうともしてない野獣の目に吸い込まれそうで、俺はとりあえず野獣の腹に鉄拳をお見舞いした。ポコっと音がしそうなくらいへなちょこパンチだった。
「……力、入んねぇ……クソ」
そう言った俺をまた甘い顔をして見つめてくる野獣。その目から逃れたくて、俺は野獣の肩に顔を埋めた。
25
お気に入りに追加
445
あなたにおすすめの小説
悩める文官のひとりごと
きりか
BL
幼い頃から憧れていた騎士団に入りたくても、小柄でひ弱なリュカ・アルマンは、学校を卒業と同時に、文官として騎士団に入団する。方向音痴なリュカは、マルーン副団長の部屋と間違え、イザーク団長の部屋に入り込む。
そこでは、惚れ薬を口にした団長がいて…。
エチシーンが書けなくて、朝チュンとなりました。
ムーンライト様にも掲載しております。
婚約破棄?しませんよ、そんなもの
おしゃべりマドレーヌ
BL
王太子の卒業パーティーで、王太子・フェリクスと婚約をしていた、侯爵家のアンリは突然「婚約を破棄する」と言い渡される。どうやら真実の愛を見つけたらしいが、それにアンリは「しませんよ、そんなもの」と返す。
アンリと婚約破棄をしないほうが良い理由は山ほどある。
けれどアンリは段々と、そんなメリット・デメリットを考えるよりも、フェリクスが幸せになるほうが良いと考えるようになり……
「………………それなら、こうしましょう。私が、第一王妃になって仕事をこなします。彼女には、第二王妃になって頂いて、貴方は彼女と暮らすのです」
それでフェリクスが幸せになるなら、それが良い。
<嚙み痕で愛を語るシリーズというシリーズで書いていきます/これはスピンオフのような話です>
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
君に望むは僕の弔辞
爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。
全9話
匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意
表紙はあいえだ様!!
小説家になろうにも投稿
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!
音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに!
え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!!
調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。
【完結・ルート分岐あり】オメガ皇后の死に戻り〜二度と思い通りにはなりません〜
ivy
BL
魔術師の家門に生まれながら能力の発現が遅く家族から虐げられて暮らしていたオメガのアリス。
そんな彼を国王陛下であるルドルフが妻にと望み生活は一変する。
幸せになれると思っていたのに生まれた子供共々ルドルフに殺されたアリスは目が覚めると子供の頃に戻っていた。
もう二度と同じ轍は踏まない。
そう決心したアリスの戦いが始まる。
【完結】僕の大事な魔王様
綾雅(要らない悪役令嬢1巻重版)
BL
母竜と眠っていた幼いドラゴンは、なぜか人間が住む都市へ召喚された。意味が分からず本能のままに隠れたが発見され、引きずり出されて兵士に殺されそうになる。
「お母さん、お父さん、助けて! 魔王様!!」
魔族の守護者であった魔王様がいない世界で、神様に縋る人間のように叫ぶ。必死の嘆願は幼ドラゴンの魔力を得て、遠くまで響いた。そう、隣接する別の世界から魔王を召喚するほどに……。
俺様魔王×いたいけな幼ドラゴン――成長するまで見守ると決めた魔王は、徐々に真剣な想いを抱くようになる。彼の想いは幼過ぎる竜に届くのか。ハッピーエンド確定
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/11……完結
2023/09/28……カクヨム、週間恋愛 57位
2023/09/23……エブリスタ、トレンドBL 5位
2023/09/23……小説家になろう、日間ファンタジー 39位
2023/09/21……連載開始
【完結】幼馴染から離れたい。
June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。
βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。
番外編 伊賀崎朔視点もあります。
(12月:改正版)
読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭
1/27 1000❤️ありがとうございます😭
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる