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本編
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平々凡々。それが俺の人生のテーマであり、目標だった。
「なんじゃワレェ! わしらはこのガキに大事な用があって来たんじゃ! 邪魔じゃ帰れ!」
「私もそちらの方に用があるので、帰るわけには行きませんね」
俺が住んでいるボロアパートに乗り込んできた身に覚えのない借金取り三人組。
それと言い合いをしている内に現れた美人なお兄さん。手には見るからに高級そうなアタッシェケースを持っている。
おい何なんだ、この状況は。
「じゃかあしいんじゃ!! こいつはなぁ、うちに借金があんねや。返してもらうまで俺らは帰らへんでぇ」
「だから何回も言ってんだろ! 俺の借金じゃねぇし返す金もねぇんだよ!!」
もう何回言ったか分からないけれど、俺は言い返した。即座に掴まれる胸倉。顔を近付けて睨まれる。とてつもなく息が臭い。でも掴まれているせいで離れられない。勘弁してほしい。
「ああ、そういうのはやめてもらえますか。あとで面倒になりますので。失礼ですが、借用書は今お持ちですか?」
「当たり前やろ三千万の借金や! こいつのおとんのな! 今すぐ払われへん言うんやったら、働き口紹介したる。お前みたいな女顔好きなオヤジがぎょーさんおんねや。高う売れるでぇ?」
顔がキモいし、息も臭い。三人とも絶対臭い。しかも服が伸びるから離してほしい。
俺がそんなことを考えていたら、ドン! とか、メキ! とか、バン! とか。そんな感じのでっかい音がした。見ると、俺ん家の玄関ドアが外れて倒れていた。
その倒れたドアの上をゆっくり歩いて入ってくる男……まるで、野獣みたいな。その男から、俺は目が離せなかった。
「車でお待ち下さいとお願いしたはずですが?」
「俺がいつまでも大人しく待ってると思う方が間違ってんだよ。何だ? 鬱陶しいことになってるようだが」
「この方たちは……」
「言われなくても分かる。お前がノロノロ運転しやがったせいだろうが」
野獣みたいな男が、俺の胸倉を掴んでいる息クサ男の腕を掴んだ。途端に顔を歪める息クサ男。俺の胸倉はすぐに解放されたけれど、さっきまでギリギリの爪先立ちだったせいで当然よろける。
よろけた俺の腰をグッと抱いて支えてくれたのは、野獣男だった。
「どこの組だ?」
野獣男が借金取りにそれはもうこっちが怖くなるくらいに睨みを利かせて聞いた。お前の方こそどこの組だよって聞きたくなるほど怖い。聞けないけど。
こいつが野獣だとしたら俺はか弱いウサギちゃんだ。怖いとか怖くないとかそんな話じゃなくてまじでとにかく怖い。
「と、東堂組じゃい! 邪魔すんねやったら兄貴が許さんで!」
「何だそれ。お前がかかってこいよ。で? 兄貴ってのは誰だ」
「東堂組舎弟頭補佐、前田さんじゃ!」
「鳴海、知ってるか?」
「名前だけなら」
「じゃあお前が処理しておけ。俺は先に車に戻る。……ああ、そうだ」
なぜか俺の腰を抱いたまま歩きだそうとした野獣男が立ち止まった。
はっきり言って、俺には何も見えなかった。気が付いた時には息クサ男が床に倒れていた。俺が視界に捉えた時には、痛みに苦しむ息クサ男の右手に野獣男の踵が食い込んでいた。
「ぐぁあああ!!!」
悲鳴をあげて痛みを訴える。その叫びにゾッとした。
「帰る前にこの右手、潰しておかねぇとなあ」
「ハァ……だから面倒になると言ったのに……」
野獣男から鳴海と呼ばれた美人なお兄さんが溜め息をついた。確かに息クサ男が俺の胸倉を掴んだ時に言っていた覚えがある。
それが原因で、野獣男がこんなことをすると分かっていたんだろうか。
「なんじゃワレェ! わしらはこのガキに大事な用があって来たんじゃ! 邪魔じゃ帰れ!」
「私もそちらの方に用があるので、帰るわけには行きませんね」
俺が住んでいるボロアパートに乗り込んできた身に覚えのない借金取り三人組。
それと言い合いをしている内に現れた美人なお兄さん。手には見るからに高級そうなアタッシェケースを持っている。
おい何なんだ、この状況は。
「じゃかあしいんじゃ!! こいつはなぁ、うちに借金があんねや。返してもらうまで俺らは帰らへんでぇ」
「だから何回も言ってんだろ! 俺の借金じゃねぇし返す金もねぇんだよ!!」
もう何回言ったか分からないけれど、俺は言い返した。即座に掴まれる胸倉。顔を近付けて睨まれる。とてつもなく息が臭い。でも掴まれているせいで離れられない。勘弁してほしい。
「ああ、そういうのはやめてもらえますか。あとで面倒になりますので。失礼ですが、借用書は今お持ちですか?」
「当たり前やろ三千万の借金や! こいつのおとんのな! 今すぐ払われへん言うんやったら、働き口紹介したる。お前みたいな女顔好きなオヤジがぎょーさんおんねや。高う売れるでぇ?」
顔がキモいし、息も臭い。三人とも絶対臭い。しかも服が伸びるから離してほしい。
俺がそんなことを考えていたら、ドン! とか、メキ! とか、バン! とか。そんな感じのでっかい音がした。見ると、俺ん家の玄関ドアが外れて倒れていた。
その倒れたドアの上をゆっくり歩いて入ってくる男……まるで、野獣みたいな。その男から、俺は目が離せなかった。
「車でお待ち下さいとお願いしたはずですが?」
「俺がいつまでも大人しく待ってると思う方が間違ってんだよ。何だ? 鬱陶しいことになってるようだが」
「この方たちは……」
「言われなくても分かる。お前がノロノロ運転しやがったせいだろうが」
野獣みたいな男が、俺の胸倉を掴んでいる息クサ男の腕を掴んだ。途端に顔を歪める息クサ男。俺の胸倉はすぐに解放されたけれど、さっきまでギリギリの爪先立ちだったせいで当然よろける。
よろけた俺の腰をグッと抱いて支えてくれたのは、野獣男だった。
「どこの組だ?」
野獣男が借金取りにそれはもうこっちが怖くなるくらいに睨みを利かせて聞いた。お前の方こそどこの組だよって聞きたくなるほど怖い。聞けないけど。
こいつが野獣だとしたら俺はか弱いウサギちゃんだ。怖いとか怖くないとかそんな話じゃなくてまじでとにかく怖い。
「と、東堂組じゃい! 邪魔すんねやったら兄貴が許さんで!」
「何だそれ。お前がかかってこいよ。で? 兄貴ってのは誰だ」
「東堂組舎弟頭補佐、前田さんじゃ!」
「鳴海、知ってるか?」
「名前だけなら」
「じゃあお前が処理しておけ。俺は先に車に戻る。……ああ、そうだ」
なぜか俺の腰を抱いたまま歩きだそうとした野獣男が立ち止まった。
はっきり言って、俺には何も見えなかった。気が付いた時には息クサ男が床に倒れていた。俺が視界に捉えた時には、痛みに苦しむ息クサ男の右手に野獣男の踵が食い込んでいた。
「ぐぁあああ!!!」
悲鳴をあげて痛みを訴える。その叫びにゾッとした。
「帰る前にこの右手、潰しておかねぇとなあ」
「ハァ……だから面倒になると言ったのに……」
野獣男から鳴海と呼ばれた美人なお兄さんが溜め息をついた。確かに息クサ男が俺の胸倉を掴んだ時に言っていた覚えがある。
それが原因で、野獣男がこんなことをすると分かっていたんだろうか。
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