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今にも泣き出しそうな顔の島田。頼りになる男になるとか言いながら、情けない表情過ぎて……可愛いと思ってしまう。もし今、手を自由に動かすことができるなら頭でも撫でてやりたいような、くすぐったい気分。
愛おしいって、こういう気持ちなんだろうか。
「平野主任とは、ただの友人だ」
「…………へ?」
「同期で、仲が良いってだけの関係だよ」
「え、嘘。俺……」
「変な勘違いしてんじゃねーよ、バカ。おまけに勢いで告白までしやがって」
「うわ、まじか。俺が言ったこと忘れるとかできます? 引きましたよね、絶対。気持ち悪いですよね。もう最悪だ」
さっきまで抵抗出来ないような力強さで俺の腕を掴んでいたのに、へたり込んで小さくなってしまっている島田が、可愛い。
バカだなー、こいつ。
忘れるなんてできるわけないだろ。変な誤解して、辛そうな表情をしているお前に、安心してもらいたいなんて思ってしまったんだぞ、俺は。
お前の真剣な告白に、不覚にもドキドキさせられてしまったし、男に好かれて嬉しいなんて思ってしまった。
「……いいぞ」
「え、忘れてくれるんですか!」
「ちげーよ!」
パッと嬉しそうな顔をして、俺を見上げた島田を一蹴する。
「お前を、選んでやっても……いいって、言ってんだ」
「それって……」
「俺と付き合いたいんだろ?」
「そんなこと言って……いいんですか? 俺、本気にしますよ」
「お前が言い出したんだろうが」
「俺は、主任にキスしたり、身体中触りたいって思ってるんですよ? 気持ち悪くないんですか?」
何とも答えにくい質問だ。
島田が男だとかそういうのの以前に、俺は女でも気持ちが悪いと思ってしまうようになってる。そもそも、俺がそういう意味で島田が好きかどうかさえもよく分からない。
でも、こいつを無下にはしたくない。出来るなら喜ばせたいし、出来るだけ悲しませたくない。
「……じゃあ、試してみるか」
「試す……?」
「お前が俺に、キスしてみればいい」
戸惑っている表情。この機にキスしたいという思いと、こんな風にキスしたくないという思いがせめぎ合っている様子が、こちらに伝わってくる。
ああ、こいつ本当に俺が好きなんだな、なんて思ってしまう。
「でも先に言っとくぞ。もし俺がお前を気持ち悪いと思っても、それはお前が悪いんじゃない。俺は、あの時から……あの、痴漢……をされた日から、女だろうが誰だろうが触られると気持ち悪いんだ。だから、もしダメでも、落ち込んだりとかすんじゃ、んぅ!?」
キスをされている。目の前に、目を閉じた島田の顔がある。唇を合わせやすいように頬に添えられた手は強引で、でも優しくて、俺はうっとりと目を閉じた。
何度も触れるだけのキスを繰り返す。唇を離してまた合わせる度に島田と目が合った。欲を孕んだ男の瞳。その瞳に、興奮した。
「……ハァ、」
呼吸が上がっている。ただのキスでどんだけ盛り上がってんだ。でも何となく、主導権を握られたキスってのはあんまり経験がないから……やばい。
「……どうですか? 気持ち、悪かったですか?」
「わざわざ聞かなくても分かんだろ、それくらい」
「分かりませんよ! 我慢してんのかもって思うじゃないですか。主任優しいし、俺に気を遣ってくれてるんだって、思うのが……普通でしょ」
何だよもう、何なんだよ。その今にも泣き出しそうな顔は!
くそ。可愛いな、バカが。
「どうすれば信じられる? 俺からキスすればいいのか? つーか、あれだ。お前、今日ウチに来い。いくらでも好きなだけ俺に触れ」
「さ、さわっ!?」
「お前なら嫌じゃなかった。……何でだろうな」
「……本当に?」
「つーか俺は別に優しくねぇし、お前に気を遣って我慢なんかしてやる気もねぇし、嫌なことは嫌だってはっきり言ってやる」
「じゃあ、俺の……恋人に、なって下さい」
「いいぞ」
自信なさげに言う島田の言葉に被せるくらい、即答してやる。俺は本当にそれでいいと思ってるぞって島田が分かるように。
「本当にいいんですか? 恋人ですよ? 俺、結構束縛するタイプだし、さっきみたいにすぐ嫉妬するし、大体……男だし」
「いいって言ってんだろ」
「付き合ってから、その……セックスは無理、とか言うの無しですよ。俺はそこまで期待してますから」
「言わねぇよ。お前、性欲とかあんだな。意外だわ」
「ありますよ! 俺が毎日どんだけ主任のスーツ姿に欲情してると思っ……!」
バッと口を手で押さえる島田。そんなことしても遅いだろ。事の9割は言ってしまった後だろうが。
「ふーん? 俺のスーツ姿に興奮しちゃってんだ? 会社で。就業中に」
「すみません! 仕事は毎日マジメにしてます!」
「お前今晩ウチ来るだろ?」
「え、あ。主任さえ、よければ」
「スーツ、脱がさせてやってもいいけど?」
ポカーンと口を開けてこれ以上ないくらいのバカ面をしている島田。でもそれすらも可愛いと思ってしまう俺。
ようやく俺の言ったことを理解したのか勢いよく立ち上がった島田は、めちゃくちゃ嬉しそうな顔をしていた。
「主任! 俺、今日主任の分まで働きますから! 今日に限っては残業無しですよ!」
そうと決まれば早速仕事しましょう! 早く戻りますよ! と、まるで散歩に行く前の犬みたいにはしゃいで俺の手を引くにやけ面。
何だよこいつ。くそ可愛い。
「やべー……うっかりハマりそうだ」
いや、もうハマってるな。それもどっぷりと。
end.
愛おしいって、こういう気持ちなんだろうか。
「平野主任とは、ただの友人だ」
「…………へ?」
「同期で、仲が良いってだけの関係だよ」
「え、嘘。俺……」
「変な勘違いしてんじゃねーよ、バカ。おまけに勢いで告白までしやがって」
「うわ、まじか。俺が言ったこと忘れるとかできます? 引きましたよね、絶対。気持ち悪いですよね。もう最悪だ」
さっきまで抵抗出来ないような力強さで俺の腕を掴んでいたのに、へたり込んで小さくなってしまっている島田が、可愛い。
バカだなー、こいつ。
忘れるなんてできるわけないだろ。変な誤解して、辛そうな表情をしているお前に、安心してもらいたいなんて思ってしまったんだぞ、俺は。
お前の真剣な告白に、不覚にもドキドキさせられてしまったし、男に好かれて嬉しいなんて思ってしまった。
「……いいぞ」
「え、忘れてくれるんですか!」
「ちげーよ!」
パッと嬉しそうな顔をして、俺を見上げた島田を一蹴する。
「お前を、選んでやっても……いいって、言ってんだ」
「それって……」
「俺と付き合いたいんだろ?」
「そんなこと言って……いいんですか? 俺、本気にしますよ」
「お前が言い出したんだろうが」
「俺は、主任にキスしたり、身体中触りたいって思ってるんですよ? 気持ち悪くないんですか?」
何とも答えにくい質問だ。
島田が男だとかそういうのの以前に、俺は女でも気持ちが悪いと思ってしまうようになってる。そもそも、俺がそういう意味で島田が好きかどうかさえもよく分からない。
でも、こいつを無下にはしたくない。出来るなら喜ばせたいし、出来るだけ悲しませたくない。
「……じゃあ、試してみるか」
「試す……?」
「お前が俺に、キスしてみればいい」
戸惑っている表情。この機にキスしたいという思いと、こんな風にキスしたくないという思いがせめぎ合っている様子が、こちらに伝わってくる。
ああ、こいつ本当に俺が好きなんだな、なんて思ってしまう。
「でも先に言っとくぞ。もし俺がお前を気持ち悪いと思っても、それはお前が悪いんじゃない。俺は、あの時から……あの、痴漢……をされた日から、女だろうが誰だろうが触られると気持ち悪いんだ。だから、もしダメでも、落ち込んだりとかすんじゃ、んぅ!?」
キスをされている。目の前に、目を閉じた島田の顔がある。唇を合わせやすいように頬に添えられた手は強引で、でも優しくて、俺はうっとりと目を閉じた。
何度も触れるだけのキスを繰り返す。唇を離してまた合わせる度に島田と目が合った。欲を孕んだ男の瞳。その瞳に、興奮した。
「……ハァ、」
呼吸が上がっている。ただのキスでどんだけ盛り上がってんだ。でも何となく、主導権を握られたキスってのはあんまり経験がないから……やばい。
「……どうですか? 気持ち、悪かったですか?」
「わざわざ聞かなくても分かんだろ、それくらい」
「分かりませんよ! 我慢してんのかもって思うじゃないですか。主任優しいし、俺に気を遣ってくれてるんだって、思うのが……普通でしょ」
何だよもう、何なんだよ。その今にも泣き出しそうな顔は!
くそ。可愛いな、バカが。
「どうすれば信じられる? 俺からキスすればいいのか? つーか、あれだ。お前、今日ウチに来い。いくらでも好きなだけ俺に触れ」
「さ、さわっ!?」
「お前なら嫌じゃなかった。……何でだろうな」
「……本当に?」
「つーか俺は別に優しくねぇし、お前に気を遣って我慢なんかしてやる気もねぇし、嫌なことは嫌だってはっきり言ってやる」
「じゃあ、俺の……恋人に、なって下さい」
「いいぞ」
自信なさげに言う島田の言葉に被せるくらい、即答してやる。俺は本当にそれでいいと思ってるぞって島田が分かるように。
「本当にいいんですか? 恋人ですよ? 俺、結構束縛するタイプだし、さっきみたいにすぐ嫉妬するし、大体……男だし」
「いいって言ってんだろ」
「付き合ってから、その……セックスは無理、とか言うの無しですよ。俺はそこまで期待してますから」
「言わねぇよ。お前、性欲とかあんだな。意外だわ」
「ありますよ! 俺が毎日どんだけ主任のスーツ姿に欲情してると思っ……!」
バッと口を手で押さえる島田。そんなことしても遅いだろ。事の9割は言ってしまった後だろうが。
「ふーん? 俺のスーツ姿に興奮しちゃってんだ? 会社で。就業中に」
「すみません! 仕事は毎日マジメにしてます!」
「お前今晩ウチ来るだろ?」
「え、あ。主任さえ、よければ」
「スーツ、脱がさせてやってもいいけど?」
ポカーンと口を開けてこれ以上ないくらいのバカ面をしている島田。でもそれすらも可愛いと思ってしまう俺。
ようやく俺の言ったことを理解したのか勢いよく立ち上がった島田は、めちゃくちゃ嬉しそうな顔をしていた。
「主任! 俺、今日主任の分まで働きますから! 今日に限っては残業無しですよ!」
そうと決まれば早速仕事しましょう! 早く戻りますよ! と、まるで散歩に行く前の犬みたいにはしゃいで俺の手を引くにやけ面。
何だよこいつ。くそ可愛い。
「やべー……うっかりハマりそうだ」
いや、もうハマってるな。それもどっぷりと。
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