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トラック1:長い間文通を交わしていない友達から突然メッセージが来る時は、かなり驚くけど同時に嬉しさもこみ上げてくる
お茶をとってくるつもりだったが……。
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「さて、あんまり紗彩を待たせるわけにもいかないからな」
この辺で上がることにしよう。どうせ夜にまた入るし。
「わり、待たせた」
部屋に戻ると、
「よ、芳ちゃんっ!? 早くない!?」
紗彩はベッドに座って、俺の脱ぎたての制服を鼻の上にあてていた。
とりあえず、ジャージは着てくれたみたいだったので、少し安心した。
にしても、そんなに制服が臭かったのだろうか。
そう思い、
「無造作に投げてて悪い。すぐに乾かしてくるわ」
そう紗彩に制服を渡すように言った。
「全然大丈夫! き、気にしないでいいよ」
「そうか? 男の汗の臭いなんて、百害あって一利なしだと思うが」
「そんなことないよ!」
そう言い、紗彩は両手をぶんぶん振り回した。
……あれ?
よく見てみると、さっきから紗彩の顔色がほんわり紅くなっている。
「どうした紗彩? どこか具合悪いか?」
と、俺は心配になって、顔を近づけてみた。
「ち、違う。そういうのじゃなくて……」
紗彩は俺と目を合わせることなく、俯き始める。
「やっぱ疲れたよな?」
俺との距離が近くなる度、今以上に紗彩は紅潮していく。
「た、確かに疲れてるけど、し、心配しなくて大丈夫だから! すぐに元に戻るから」
紗彩は顔を伏せながら、両手を俺に向けて制してきた。
「そうか。もし体調悪くなったりしたら、教えてくれ」
そう言って、これ以上紗彩に追及するのはやめることにした。
「お茶とかコーヒーとか入れてくけど、紗彩も飲むか?」
風呂から上がるだけでは、身体も冷えてくるだろう。
それに湯船に浸かったわけではないのだから、保温効果も早いうちに無くなってくる。
「あ、じゃあお願い」
「おっけ。わかった」
俺はそう言って部屋を出て、台所に何かホット用品が無いか確認しに行った。
「まじか。これは予想外だったなあ」
収納ケースや冷蔵庫を見ても、それらしい飲み物が見当たらない。
ただひとつ言えることは、生姜やにんにく、蜂蜜、レモンといった風邪予防に聞く食品は一通り揃っていることだった。
これは即興料理を作る羽目になりそうだな…。
正直味の保証は出来ないので、一回紗彩に断っておくか。
NINEで聞こうかと最初は思ったが、もしかしたら見ないかもしれないので、念のため俺は部屋に戻って直接紗彩に聞くことにした。
「ごめん、紗彩。一通り台所探したんだけど、それらしい温かいの無かったわ。とりあえずあり合わせのやつで作ることにするけど、別に構わないか?」
「それって…芳ちゃんの手作りってこと?」
「うん、まあそうなるな」
そう俺が頷いた途端、紗彩は大きい目を更に丸くさせた。
「食べたいっ」
「いや、そんな目を向かれてもなあ」期待に満ちた顔の紗彩さんに、俺は思わず辟易する。「俺、別に料理得意じゃないからな。あまり美味しいの作れないから。そこは覚悟しといて」
ひとまず過度な期待はしないように、保険を入れておいた。
「大丈夫。芳ちゃんの作るものなんだなら、何でも美味しいって言うよ」
「要らないって。そんな見え透いたお世辞」
そう俺が返事すると紗彩は、
「お世辞なんか、今のわたしに言えるわけないじゃん」
自嘲気味に、目を伏せてきた。
「紗彩……」
「あともう少し芳ちゃんが遅かったら、わたし本当に死んでたかもしれない。でもそんな中、芳ちゃんは息切らしてボロボロの姿で助けに来てくれた。そんな命の恩人に、我が儘なんて言えないよ」
その真っ直ぐな言葉に、俺はハッと気づいた。
そうだよな。こうして平気そうに喋っているけど、今紗彩はかなり心が弱っている。
俺だけが頼りの依存状態なのだ。
何とかして、あの世から伸びている魔の手から救ってやらなければ。
俺は俄然料理にやる気を出し始めた。
「そう言ってくれると、何だか俺も出来る気がしてきた。旨いもん作ってくから、期待して待ってろ」
紗彩の頭を撫でた後、俺は台所へ向かった。
その時の紗彩は、どこか子猫のような愛くるしさがあった。
「さて、あんな強気に言ったものの……」
お題は勿論、風邪予防に効く一皿。
材料は、生姜・にんにく・蜂蜜・レモン。
これらをどう活かそうか。
俺はしばし考え始めた。
生姜とにんにくの組み合わせ、蜂蜜とレモンの組み合わせはそれぞれ相性が良いはず。
そこからプラスして更に相性の良い食品を今一度探し出すか。
思わず俺は、RADWIMPSの「いいんですか?」を口ずさみながら再度収納と冷蔵庫を漁った。
料理とレゲエ調の曲は相性が良い。何だかうきうきな気分になってくる。
このまま唐揚げまで作ってしまいそうだ。
まずは、卵。
その他の材料に、生姜とにんにくと鶏がらスープの素。それをベースに混ぜ合わせ、片栗粉でとろみつけたスープ。
何だか中華っぽくなって美味しくなりそうだ。
ストックの方は問題ないだろうか。
収納の方に片栗粉は見つかったものの、鶏がらスープの素はなかった。
逆に中華ペーストが見つかったので、それで代用することにしよう。
次に、りんご。
りんごのすりおろしって、確か風邪や熱に効果があったんだっけな。
ただ、りんごのすりおろしだけだと味気が無い。熱出した子どもに食べさせるような感じになってしまう。
やっぱ生姜とにんにくが一番風邪に効くと思うし、すり下ろしてカレーでも作るのが良いんじゃないか。
なんて思ったが、まだ夕方の時間帯だ。
小腹が空くような時間に、そんな胃に重いのを作ると、食えなくなってしまうから却下。
その他には……。
「ヨーグルトがあるのか」
六個入りの小さいカップではなく、大きい容器に入ったプレーンタイプのヨーグルトだ。
ヨーグルトは言わずと知れた、万病に効く総合栄養食品だ。
バナナも加えると相乗効果も期待できるが、何だか朝食っぽくなる。
ここは、蜂蜜とレモン汁で混ぜる程度で抑えとこう。
「よし。じゃあ、始めるか」
この辺で上がることにしよう。どうせ夜にまた入るし。
「わり、待たせた」
部屋に戻ると、
「よ、芳ちゃんっ!? 早くない!?」
紗彩はベッドに座って、俺の脱ぎたての制服を鼻の上にあてていた。
とりあえず、ジャージは着てくれたみたいだったので、少し安心した。
にしても、そんなに制服が臭かったのだろうか。
そう思い、
「無造作に投げてて悪い。すぐに乾かしてくるわ」
そう紗彩に制服を渡すように言った。
「全然大丈夫! き、気にしないでいいよ」
「そうか? 男の汗の臭いなんて、百害あって一利なしだと思うが」
「そんなことないよ!」
そう言い、紗彩は両手をぶんぶん振り回した。
……あれ?
よく見てみると、さっきから紗彩の顔色がほんわり紅くなっている。
「どうした紗彩? どこか具合悪いか?」
と、俺は心配になって、顔を近づけてみた。
「ち、違う。そういうのじゃなくて……」
紗彩は俺と目を合わせることなく、俯き始める。
「やっぱ疲れたよな?」
俺との距離が近くなる度、今以上に紗彩は紅潮していく。
「た、確かに疲れてるけど、し、心配しなくて大丈夫だから! すぐに元に戻るから」
紗彩は顔を伏せながら、両手を俺に向けて制してきた。
「そうか。もし体調悪くなったりしたら、教えてくれ」
そう言って、これ以上紗彩に追及するのはやめることにした。
「お茶とかコーヒーとか入れてくけど、紗彩も飲むか?」
風呂から上がるだけでは、身体も冷えてくるだろう。
それに湯船に浸かったわけではないのだから、保温効果も早いうちに無くなってくる。
「あ、じゃあお願い」
「おっけ。わかった」
俺はそう言って部屋を出て、台所に何かホット用品が無いか確認しに行った。
「まじか。これは予想外だったなあ」
収納ケースや冷蔵庫を見ても、それらしい飲み物が見当たらない。
ただひとつ言えることは、生姜やにんにく、蜂蜜、レモンといった風邪予防に聞く食品は一通り揃っていることだった。
これは即興料理を作る羽目になりそうだな…。
正直味の保証は出来ないので、一回紗彩に断っておくか。
NINEで聞こうかと最初は思ったが、もしかしたら見ないかもしれないので、念のため俺は部屋に戻って直接紗彩に聞くことにした。
「ごめん、紗彩。一通り台所探したんだけど、それらしい温かいの無かったわ。とりあえずあり合わせのやつで作ることにするけど、別に構わないか?」
「それって…芳ちゃんの手作りってこと?」
「うん、まあそうなるな」
そう俺が頷いた途端、紗彩は大きい目を更に丸くさせた。
「食べたいっ」
「いや、そんな目を向かれてもなあ」期待に満ちた顔の紗彩さんに、俺は思わず辟易する。「俺、別に料理得意じゃないからな。あまり美味しいの作れないから。そこは覚悟しといて」
ひとまず過度な期待はしないように、保険を入れておいた。
「大丈夫。芳ちゃんの作るものなんだなら、何でも美味しいって言うよ」
「要らないって。そんな見え透いたお世辞」
そう俺が返事すると紗彩は、
「お世辞なんか、今のわたしに言えるわけないじゃん」
自嘲気味に、目を伏せてきた。
「紗彩……」
「あともう少し芳ちゃんが遅かったら、わたし本当に死んでたかもしれない。でもそんな中、芳ちゃんは息切らしてボロボロの姿で助けに来てくれた。そんな命の恩人に、我が儘なんて言えないよ」
その真っ直ぐな言葉に、俺はハッと気づいた。
そうだよな。こうして平気そうに喋っているけど、今紗彩はかなり心が弱っている。
俺だけが頼りの依存状態なのだ。
何とかして、あの世から伸びている魔の手から救ってやらなければ。
俺は俄然料理にやる気を出し始めた。
「そう言ってくれると、何だか俺も出来る気がしてきた。旨いもん作ってくから、期待して待ってろ」
紗彩の頭を撫でた後、俺は台所へ向かった。
その時の紗彩は、どこか子猫のような愛くるしさがあった。
「さて、あんな強気に言ったものの……」
お題は勿論、風邪予防に効く一皿。
材料は、生姜・にんにく・蜂蜜・レモン。
これらをどう活かそうか。
俺はしばし考え始めた。
生姜とにんにくの組み合わせ、蜂蜜とレモンの組み合わせはそれぞれ相性が良いはず。
そこからプラスして更に相性の良い食品を今一度探し出すか。
思わず俺は、RADWIMPSの「いいんですか?」を口ずさみながら再度収納と冷蔵庫を漁った。
料理とレゲエ調の曲は相性が良い。何だかうきうきな気分になってくる。
このまま唐揚げまで作ってしまいそうだ。
まずは、卵。
その他の材料に、生姜とにんにくと鶏がらスープの素。それをベースに混ぜ合わせ、片栗粉でとろみつけたスープ。
何だか中華っぽくなって美味しくなりそうだ。
ストックの方は問題ないだろうか。
収納の方に片栗粉は見つかったものの、鶏がらスープの素はなかった。
逆に中華ペーストが見つかったので、それで代用することにしよう。
次に、りんご。
りんごのすりおろしって、確か風邪や熱に効果があったんだっけな。
ただ、りんごのすりおろしだけだと味気が無い。熱出した子どもに食べさせるような感じになってしまう。
やっぱ生姜とにんにくが一番風邪に効くと思うし、すり下ろしてカレーでも作るのが良いんじゃないか。
なんて思ったが、まだ夕方の時間帯だ。
小腹が空くような時間に、そんな胃に重いのを作ると、食えなくなってしまうから却下。
その他には……。
「ヨーグルトがあるのか」
六個入りの小さいカップではなく、大きい容器に入ったプレーンタイプのヨーグルトだ。
ヨーグルトは言わずと知れた、万病に効く総合栄養食品だ。
バナナも加えると相乗効果も期待できるが、何だか朝食っぽくなる。
ここは、蜂蜜とレモン汁で混ぜる程度で抑えとこう。
「よし。じゃあ、始めるか」
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