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トラック1:長い間文通を交わしていない友達から突然メッセージが来る時は、かなり驚くけど同時に嬉しさもこみ上げてくる
気遣い男子とそれに気づかない天然女子
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紗彩の気が落ち着くようになってからは、俺は紗彩を自宅まで連れていき、暖をとることにした。
紗彩の家に入ることにしなかったのは、いつも一人で引きこもっている場所に行くのは、さすがに野暮すぎだと思ったからであり、俺的には間違った選択はしていないはず。
このひどく荒れた凍え寒い日、俺も紗彩もずぶ濡れだった。
俺に至っては、身体中に土汚れがついていた。
後で、布巾とかで汚れを取っておくか。
「ひとまず、紗彩。先風呂入ってくれよ」
このままだと俺も紗彩も風邪まっしぐら。一秒でも早く、冷えた身体を温めないと辛い目に合う。
「ぶえっくしょい!!」
盛大なくしゃみを放ってしまった。その上あまりにも急だったので、手で押さえる暇もなかった。
「そんな様子だと、芳ちゃん先入った方が良いね」
「別にいいって。俺のことなんか気にする必要無いよ」
「わたしは別に平気だもん……ひくちっ!」
「どの口が言ってんだよ。早く入りな」
俺は、乾いた笑みを紗彩に向けた。
「うん、そうだね。そうかもしれない」紗彩も、俺と同じように歯を見せて苦笑した。「お言葉に甘えさせていただきます」
「着替え後で置いとくからな」
「うん、ありがとう」
そう言い残し、紗彩は部屋から出た。
ぐしょぐしょに濡れた制服と、土っぽい臭い。それらは、俺の気分を悪くするのには十分だった。
「とりあえず服脱がないと」
穿いているソックスは、足のつま先からかかとの部分まで一面に濡れていて、気持ち悪いことこの上ない。
俺はベッドに腰掛けて身体を丸くし、ソックスを脱ぎ始めた。
「ぬ、脱げねえ」
足にぴったりくっついていて、脱ぐのにも一苦労する。
「これだから長い靴下って嫌なんだよなー」
踝までの短いやつなら脱ぐのも簡単なんだけど、指定のやつっていうのは脛あたりまで伸びたデザインが多数だ。
よいしょよいしょと、踏ん張りながら両足分のソックスを脱ごうと必死になる。
奮闘し続け、ようやく両足分のソックスが脱げた。
「ふぅ」
そのときの解放感は、他の何にも言い表せないほど清々しいものがある。
俺は脱いだソックスをひとまずその場に放り投げた。
「はっくしょん!」
再び盛大なくしゃみが出た。勿論今度は、手で押さえている。
ひとまず一刻も早く着替えないと、風邪をひいてしまう。
俺はスラックスを脱ぎ、急いで椅子に掛けておいた普段着に着替えた。
いつも着ている服に着替えたことにより、ようやく家に帰ってこれたことを実感する。
放課後から急な展開、それはもうまるで物語の主人公のように忙しない時の流れだった。
「やばっ。今になって急に疲れがでてきた」
何だか全身が急に重たくなってきた。
新幹線の乗客のように、俺は気付かぬうちに舟を漕ぎ始め、気づかぬうちにまどろんだ。
「芳ちゃん、お風呂上がったよ」
紗彩の声で、夢現状態から覚めた俺は、ようやく現実に戻った。
「おう、そうか」
目を擦り、明るい部屋を見回した。
「あ、そうだった。着替え用意してなかった。ごめん」
「うん、お願いします」
「直ぐ用意するから、そこで待っててく……って紗彩お前、何で下着だけっ!? さすがに俺が用意するまでは制服着ててくれ……」
一糸纏わぬまではなかったが、それでも紗彩の白く透き通る肌は、俺を赤面させるのには十分だった。
「えー、だってまた濡れた服着るの嫌なんだもん」
「だからって、ここは高校生男子の部屋の中なんだって。何か間違いとか起きたらどうすんだよ……」
俺は紗彩の裸姿が見えないよう、必死に顔を伏せた。
「え、間違い? 何のこと?」
「そ、それはだな」俺は軽く咳払いをしながら、何も気づいていない紗彩に答えようとしたが、
「言えない」
と、諦めることにした。
「え、何で何で? 気になっちゃうから教えてよ」
反対に紗彩は、俺の気遣いが分からず、教えてほしいとせがんでくる。
「えっと、それは……」
思えば紗彩は、昔からちょっと天然なところがあった。
少しずれた回答が、逆に彼女の可愛さを際立たせ、小中ではそれなりに人気のある子だった。
今でもその変わらない姿に、俺は少し懐かしい気持ちになった。
回答が気になっている紗彩に、俺は彼女の耳元で、"69"という数字で例えて教えた。
すると、紗彩の反応は予想通り、頭から湯気が湧いているかのように赤くなっていた。
「ほ、ほら……着替え用意するから。ますはこれでも着といてくれ」
紗彩の狼狽ぶりが伝染したのか、俺までも何だか体温が熱くなっていた。
箪笥から適当にT-シャツを取り出して、ベッドに放り込んだ。
そして片っ端から箪笥の中を漁り出し、中学時代のジャージ上下を紗彩に渡した。
「じゃ、俺も風呂入るから」
そう言い残し、俺は部屋を後にした。
紗彩の家に入ることにしなかったのは、いつも一人で引きこもっている場所に行くのは、さすがに野暮すぎだと思ったからであり、俺的には間違った選択はしていないはず。
このひどく荒れた凍え寒い日、俺も紗彩もずぶ濡れだった。
俺に至っては、身体中に土汚れがついていた。
後で、布巾とかで汚れを取っておくか。
「ひとまず、紗彩。先風呂入ってくれよ」
このままだと俺も紗彩も風邪まっしぐら。一秒でも早く、冷えた身体を温めないと辛い目に合う。
「ぶえっくしょい!!」
盛大なくしゃみを放ってしまった。その上あまりにも急だったので、手で押さえる暇もなかった。
「そんな様子だと、芳ちゃん先入った方が良いね」
「別にいいって。俺のことなんか気にする必要無いよ」
「わたしは別に平気だもん……ひくちっ!」
「どの口が言ってんだよ。早く入りな」
俺は、乾いた笑みを紗彩に向けた。
「うん、そうだね。そうかもしれない」紗彩も、俺と同じように歯を見せて苦笑した。「お言葉に甘えさせていただきます」
「着替え後で置いとくからな」
「うん、ありがとう」
そう言い残し、紗彩は部屋から出た。
ぐしょぐしょに濡れた制服と、土っぽい臭い。それらは、俺の気分を悪くするのには十分だった。
「とりあえず服脱がないと」
穿いているソックスは、足のつま先からかかとの部分まで一面に濡れていて、気持ち悪いことこの上ない。
俺はベッドに腰掛けて身体を丸くし、ソックスを脱ぎ始めた。
「ぬ、脱げねえ」
足にぴったりくっついていて、脱ぐのにも一苦労する。
「これだから長い靴下って嫌なんだよなー」
踝までの短いやつなら脱ぐのも簡単なんだけど、指定のやつっていうのは脛あたりまで伸びたデザインが多数だ。
よいしょよいしょと、踏ん張りながら両足分のソックスを脱ごうと必死になる。
奮闘し続け、ようやく両足分のソックスが脱げた。
「ふぅ」
そのときの解放感は、他の何にも言い表せないほど清々しいものがある。
俺は脱いだソックスをひとまずその場に放り投げた。
「はっくしょん!」
再び盛大なくしゃみが出た。勿論今度は、手で押さえている。
ひとまず一刻も早く着替えないと、風邪をひいてしまう。
俺はスラックスを脱ぎ、急いで椅子に掛けておいた普段着に着替えた。
いつも着ている服に着替えたことにより、ようやく家に帰ってこれたことを実感する。
放課後から急な展開、それはもうまるで物語の主人公のように忙しない時の流れだった。
「やばっ。今になって急に疲れがでてきた」
何だか全身が急に重たくなってきた。
新幹線の乗客のように、俺は気付かぬうちに舟を漕ぎ始め、気づかぬうちにまどろんだ。
「芳ちゃん、お風呂上がったよ」
紗彩の声で、夢現状態から覚めた俺は、ようやく現実に戻った。
「おう、そうか」
目を擦り、明るい部屋を見回した。
「あ、そうだった。着替え用意してなかった。ごめん」
「うん、お願いします」
「直ぐ用意するから、そこで待っててく……って紗彩お前、何で下着だけっ!? さすがに俺が用意するまでは制服着ててくれ……」
一糸纏わぬまではなかったが、それでも紗彩の白く透き通る肌は、俺を赤面させるのには十分だった。
「えー、だってまた濡れた服着るの嫌なんだもん」
「だからって、ここは高校生男子の部屋の中なんだって。何か間違いとか起きたらどうすんだよ……」
俺は紗彩の裸姿が見えないよう、必死に顔を伏せた。
「え、間違い? 何のこと?」
「そ、それはだな」俺は軽く咳払いをしながら、何も気づいていない紗彩に答えようとしたが、
「言えない」
と、諦めることにした。
「え、何で何で? 気になっちゃうから教えてよ」
反対に紗彩は、俺の気遣いが分からず、教えてほしいとせがんでくる。
「えっと、それは……」
思えば紗彩は、昔からちょっと天然なところがあった。
少しずれた回答が、逆に彼女の可愛さを際立たせ、小中ではそれなりに人気のある子だった。
今でもその変わらない姿に、俺は少し懐かしい気持ちになった。
回答が気になっている紗彩に、俺は彼女の耳元で、"69"という数字で例えて教えた。
すると、紗彩の反応は予想通り、頭から湯気が湧いているかのように赤くなっていた。
「ほ、ほら……着替え用意するから。ますはこれでも着といてくれ」
紗彩の狼狽ぶりが伝染したのか、俺までも何だか体温が熱くなっていた。
箪笥から適当にT-シャツを取り出して、ベッドに放り込んだ。
そして片っ端から箪笥の中を漁り出し、中学時代のジャージ上下を紗彩に渡した。
「じゃ、俺も風呂入るから」
そう言い残し、俺は部屋を後にした。
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