上 下
3 / 26
トラック1:長い間文通を交わしていない友達から突然メッセージが来る時は、かなり驚くけど同時に嬉しさもこみ上げてくる

とある日の追憶

しおりを挟む
 あれは去年の九月、二学期が始まって間もない頃だった。
 俺は相も変わらずメタルコアを聴きながら、翌日の英語の予習をしていた。
 おふくろからは「よくそんなうるさいの聴いて勉強なんてできるわね」と皮肉めいたことをよく言っていた。
 俺もそれに対して「何なら寝ることだってできる」と言い返していたっけな。

 丁度きりの良いところまで終えた俺は、休憩がてらそれまで聴いていた音楽を止め、両親がいる一階のリビングへ向かうことにした。
紗彩さあやちゃん心配ね。急にどうしちゃったのかしらね』
 不安そうな声で、お袋は近くにいた親父に話し始めた。
 リビングへの扉がすぐそこまで近づいたところで話し声が聞こえたので、俺はドアノブをにぎる寸前でピタリと止まってしまった。
『え、あの子に何かあったというのか?』
 口調だけでもわかる。その時の親父の表情は、さぞかしきょとんとしていただろう。
『……あんた、何も知らないの?』
 口調だけでもわかる。その時のお袋の態度は、さぞあきれていたはずだ。
『ああ、すまん。全く分からなかった』
『全く。あんたのその鈍いところ、ずっと変わらないわね。もう芳人よしひとまで移っちゃってるわよ』
 大きなため息をつきながら、お袋は言った。
 今は俺の話なんかどうでもいい。早く紗彩のことを教えてくれ。
 そう俺は唇をぎゅっと強く結んだ。
『一体、あの子に何があったというんだ?』
 お袋の言ったことに全面スルーして、聞いてくる親父。
 俺は、両親の会話に耳をかたむけ、固唾かたずんだ。

 そしてお袋は悲しそうな声色で、こう教えた。
『夏休み頃から急に部屋に引きこもってしまって、二学期始まってからずっと学校通ってないみたいなの』
 あまりにも卒業時の頃とかけ離れていた姿。
 思わず俺は耳を疑った。
 想像なんてできるわけがないし、したくもなかった。

 今こうして思い返せば、紗彩のNINEは、最後の彼女からのSOSだったのだ。

 おい紗彩、早まるなよ。
 お前、別にメンヘラでも何でもなかったじゃないか。
 一年前中学を卒業した頃のお前は、あんなに活き活きしてたじゃないか。
 何でそうなってしまったんだよ。
 何で俺に相談してくれなかったんだよ。
 昔からお互いよく知っていたというのに、助け合うことすらできないような、そんなもろい関係だったのかよ。

 紗彩に対しての感情が津波のようにおそいかかり、またあっという間に自分の思考を支配していく。
 中でも最も強かったのは、
 歯ぎしりしながら強く拳を握り、正門に向かって走り出す。

 何故気づけなかったのか。何故もっと気にかけてやれなかったのか。
 何故NINEをしなくなったことに、自分で勝手に理由づけて問題ないと思っていたのか。
 思い出せば思い出すほど、自分の腹が煮えくり返ってきた。
 喉から声にならない声が、湧き上がる。
 目にうっすらと涙を浮かべ、俺はバスに乗り込んだ。

 発車するまでの待ち時間。
 俺は紗彩に何度も電話を試みた。だが決して電話に出ることはなかった。
 コール音が耳の中にしぶとく張り付く。それは、切除してもどこかで再生し続ける癌細胞がんさいぼうのようだ。
 今の俺にとっては、さぞ永遠のように長く感じるに違いない。
 普段の俺はわざわざシートに座ろうとしないが、今だけは気持ちを少しだけでも落ち着かせたい思いが強く、空いていたシートに気付いた途端、それに吸いつかれていくかのように、俺は腰かけた。
 定刻になり、バスの扉が閉まる。
 スマホを確認すると、実際に待った時間は五分程だった。
 だが俺の感覚では、二十分以上待っていたくらいに長い時間だった。

 下を向いたまま、両手を合わせて必死に祈る。
 紗彩、どうか無事でいてくれ、と。
 きっと周辺に座っている他の生徒は、俺の姿を見て不審ふしんがっているかもしれない。
 それでも俺は、不安と焦りがマーブルのように入り組んだ、複雑混沌こんとんとした今の表情を誰にも見られたくない思いが強く、依然として下を向きつつ、祈り続けていた。

 ただただ、、その一心で。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。

スタジオ.T
青春
 幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。  そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。    ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。

家政婦さんは同級生のメイド女子高生

coche
青春
祖母から習った家事で主婦力抜群の女子高生、彩香(さいか)。高校入学と同時に小説家の家で家政婦のアルバイトを始めた。実はその家は・・・彩香たちの成長を描く青春ラブコメです。

機械娘の機ぐるみを着せないで!

ジャン・幸田
青春
 二十世紀末のOVA(オリジナルビデオアニメ)作品の「ガーディアンガールズ」に憧れていたアラフィフ親父はとんでもない事をしでかした! その作品に登場するパワードスーツを本当に開発してしまった!  そのスーツを娘ばかりでなく友人にも着せ始めた! そのとき、トラブルの幕が上がるのであった。

幼馴染をわからせたい ~実は両想いだと気が付かない二人は、今日も相手を告らせるために勝負(誘惑)して空回る~

下城米雪
青春
「よわよわ」「泣いちゃう?」「情けない」「ざーこ」と幼馴染に言われ続けた尾崎太一は、いつか彼女を泣かすという一心で己を鍛えていた。しかし中学生になった日、可愛くなった彼女を見て気持ちが変化する。その後の彼は、自分を認めさせて告白するために勝負を続けるのだった。  一方、彼の幼馴染である穂村芽依は、三歳の時に交わした結婚の約束が生きていると思っていた。しかし友人から「尾崎くんに対して酷過ぎない?」と言われ太一に恨まれていると錯覚する。だが勝負に勝ち続ける限りは彼と一緒に遊べることに気が付いた。そして思った。いつか負けてしまう前に、彼をメロメロにして告らせれば良いのだ。  かくして、実は両想いだと気が付かない二人は、互いの魅力をわからせるための勝負を続けているのだった。  芽衣は少しだけ他人よりも性欲が強いせいで空回りをして、太一は「愛してるゲーム」「脱衣チェス」「乳首当てゲーム」などの意味不明な勝負に惨敗して自信を喪失してしまう。  乳首当てゲームの後、泣きながら廊下を歩いていた太一は、アニメが大好きな先輩、白柳楓と出会った。彼女は太一の話を聞いて「両想い」に気が付き、アドバイスをする。また二人は会話の波長が合うことから、気が付けば毎日会話するようになっていた。  その関係を芽依が知った時、幼馴染の関係が大きく変わり始めるのだった。

私たち、博麗学園おしがまクラブ(非公認)です! 〜特大膀胱JKたちのおしがま記録〜

赤髪命
青春
街のはずれ、最寄り駅からも少し離れたところにある私立高校、博麗学園。そのある新入生のクラスのお嬢様・高橋玲菜、清楚で真面目・内海栞、人懐っこいギャル・宮内愛海の3人には、膀胱が同年代の女子に比べて非常に大きいという特徴があった。 これは、そんな学校で普段はトイレにほとんど行かない彼女たちの爆尿おしがまの記録。 友情あり、恋愛あり、おしがまあり、そしておもらしもあり!? そんなおしがまクラブのドタバタ青春小説!

女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。

矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。 女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。 取って付けたようなバレンタインネタあり。 カクヨムでも同内容で公開しています。

姉らぶるっ!!

藍染惣右介兵衛
青春
 俺には二人の容姿端麗な姉がいる。 自慢そうに聞こえただろうか?  それは少しばかり誤解だ。 この二人の姉、どちらも重大な欠陥があるのだ…… 次女の青山花穂は高校二年で生徒会長。 外見上はすべて完璧に見える花穂姉ちゃん…… 「花穂姉ちゃん! 下着でウロウロするのやめろよなっ!」 「んじゃ、裸ならいいってことねっ!」 ▼物語概要 【恋愛感情欠落、解離性健忘というトラウマを抱えながら、姉やヒロインに囲まれて成長していく話です】 47万字以上の大長編になります。(2020年11月現在) 【※不健全ラブコメの注意事項】  この作品は通常のラブコメより下品下劣この上なく、ドン引き、ドシモ、変態、マニアック、陰謀と陰毛渦巻くご都合主義のオンパレードです。  それをウリにして、ギャグなどをミックスした作品です。一話(1部分)1800~3000字と短く、四コマ漫画感覚で手軽に読めます。  全編47万字前後となります。読みごたえも初期より増し、ガッツリ読みたい方にもお勧めです。  また、執筆・原作・草案者が男性と女性両方なので、主人公が男にもかかわらず、男性目線からややずれている部分があります。 【元々、小説家になろうで連載していたものを大幅改訂して連載します】 【なろう版から一部、ストーリー展開と主要キャラの名前が変更になりました】 【2017年4月、本幕が完結しました】 序幕・本幕であらかたの謎が解け、メインヒロインが確定します。 【2018年1月、真幕を開始しました】 ここから読み始めると盛大なネタバレになります(汗)

処理中です...