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トラック1:長い間文通を交わしていない友達から突然メッセージが来る時は、かなり驚くけど同時に嬉しさもこみ上げてくる
とある日の追憶
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あれは去年の九月、二学期が始まって間もない頃だった。
俺は相も変わらずメタルコアを聴きながら、翌日の英語の予習をしていた。
お袋からは「よくそんなうるさいの聴いて勉強なんてできるわね」と皮肉めいたことをよく言っていた。
俺もそれに対して「何なら寝ることだってできる」と言い返していたっけな。
丁度きりの良いところまで終えた俺は、休憩がてらそれまで聴いていた音楽を止め、両親がいる一階のリビングへ向かうことにした。
『紗彩ちゃん心配ね。急にどうしちゃったのかしらね』
不安そうな声で、お袋は近くにいた親父に話し始めた。
リビングへの扉がすぐそこまで近づいたところで話し声が聞こえたので、俺はドアノブを握る寸前でピタリと止まってしまった。
『え、あの子に何かあったというのか?』
口調だけでもわかる。その時の親父の表情は、さぞかしきょとんとしていただろう。
『……あんた、何も知らないの?』
口調だけでもわかる。その時のお袋の態度は、さぞ呆れていたはずだ。
『ああ、すまん。全く分からなかった』
『全く。あんたのその鈍いところ、ずっと変わらないわね。もう芳人まで移っちゃってるわよ』
大きなため息をつきながら、お袋は言った。
今は俺の話なんかどうでもいい。早く紗彩のことを教えてくれ。
そう俺は唇をぎゅっと強く結んだ。
『一体、あの子に何があったというんだ?』
お袋の言ったことに全面スルーして、聞いてくる親父。
俺は、両親の会話に耳を傾け、固唾を呑んだ。
そしてお袋は悲しそうな声色で、こう教えた。
『夏休み頃から急に部屋に引きこもってしまって、二学期始まってからずっと学校通ってないみたいなの』
あまりにも卒業時の頃とかけ離れていた姿。
思わず俺は耳を疑った。
想像なんてできるわけがないし、したくもなかった。
今こうして思い返せば、紗彩のNINEは、最後の彼女からのSOSだったのだ。
おい紗彩、早まるなよ。
お前、別にメンヘラでも何でもなかったじゃないか。
一年前中学を卒業した頃のお前は、あんなに活き活きしてたじゃないか。
何でそうなってしまったんだよ。
何で俺に相談してくれなかったんだよ。
昔からお互いよく知っていたというのに、助け合うことすらできないような、そんな脆い関係だったのかよ。
紗彩に対しての感情が津波のように襲いかかり、またあっという間に自分の思考を支配していく。
中でも最も強かったのは、自分に対する苛立ちだった。
歯ぎしりしながら強く拳を握り、正門に向かって走り出す。
何故気づけなかったのか。何故もっと気にかけてやれなかったのか。
何故NINEをしなくなったことに、自分で勝手に理由づけて問題ないと思っていたのか。
思い出せば思い出すほど、自分の腹が煮えくり返ってきた。
喉から声にならない声が、湧き上がる。
目にうっすらと涙を浮かべ、俺はバスに乗り込んだ。
発車するまでの待ち時間。
俺は紗彩に何度も電話を試みた。だが決して電話に出ることはなかった。
コール音が耳の中にしぶとく張り付く。それは、切除してもどこかで再生し続ける癌細胞のようだ。
今の俺にとっては、さぞ永遠のように長く感じるに違いない。
普段の俺はわざわざシートに座ろうとしないが、今だけは気持ちを少しだけでも落ち着かせたい思いが強く、空いていたシートに気付いた途端、それに吸いつかれていくかのように、俺は腰かけた。
定刻になり、バスの扉が閉まる。
スマホを確認すると、実際に待った時間は五分程だった。
だが俺の感覚では、二十分以上待っていたくらいに長い時間だった。
下を向いたまま、両手を合わせて必死に祈る。
紗彩、どうか無事でいてくれ、と。
きっと周辺に座っている他の生徒は、俺の姿を見て不審がっているかもしれない。
それでも俺は、不安と焦りがマーブルのように入り組んだ、複雑且つ混沌とした今の表情を誰にも見られたくない思いが強く、依然として下を向きつつ、祈り続けていた。
ただただ、生きていてほしい、その一心で。
俺は相も変わらずメタルコアを聴きながら、翌日の英語の予習をしていた。
お袋からは「よくそんなうるさいの聴いて勉強なんてできるわね」と皮肉めいたことをよく言っていた。
俺もそれに対して「何なら寝ることだってできる」と言い返していたっけな。
丁度きりの良いところまで終えた俺は、休憩がてらそれまで聴いていた音楽を止め、両親がいる一階のリビングへ向かうことにした。
『紗彩ちゃん心配ね。急にどうしちゃったのかしらね』
不安そうな声で、お袋は近くにいた親父に話し始めた。
リビングへの扉がすぐそこまで近づいたところで話し声が聞こえたので、俺はドアノブを握る寸前でピタリと止まってしまった。
『え、あの子に何かあったというのか?』
口調だけでもわかる。その時の親父の表情は、さぞかしきょとんとしていただろう。
『……あんた、何も知らないの?』
口調だけでもわかる。その時のお袋の態度は、さぞ呆れていたはずだ。
『ああ、すまん。全く分からなかった』
『全く。あんたのその鈍いところ、ずっと変わらないわね。もう芳人まで移っちゃってるわよ』
大きなため息をつきながら、お袋は言った。
今は俺の話なんかどうでもいい。早く紗彩のことを教えてくれ。
そう俺は唇をぎゅっと強く結んだ。
『一体、あの子に何があったというんだ?』
お袋の言ったことに全面スルーして、聞いてくる親父。
俺は、両親の会話に耳を傾け、固唾を呑んだ。
そしてお袋は悲しそうな声色で、こう教えた。
『夏休み頃から急に部屋に引きこもってしまって、二学期始まってからずっと学校通ってないみたいなの』
あまりにも卒業時の頃とかけ離れていた姿。
思わず俺は耳を疑った。
想像なんてできるわけがないし、したくもなかった。
今こうして思い返せば、紗彩のNINEは、最後の彼女からのSOSだったのだ。
おい紗彩、早まるなよ。
お前、別にメンヘラでも何でもなかったじゃないか。
一年前中学を卒業した頃のお前は、あんなに活き活きしてたじゃないか。
何でそうなってしまったんだよ。
何で俺に相談してくれなかったんだよ。
昔からお互いよく知っていたというのに、助け合うことすらできないような、そんな脆い関係だったのかよ。
紗彩に対しての感情が津波のように襲いかかり、またあっという間に自分の思考を支配していく。
中でも最も強かったのは、自分に対する苛立ちだった。
歯ぎしりしながら強く拳を握り、正門に向かって走り出す。
何故気づけなかったのか。何故もっと気にかけてやれなかったのか。
何故NINEをしなくなったことに、自分で勝手に理由づけて問題ないと思っていたのか。
思い出せば思い出すほど、自分の腹が煮えくり返ってきた。
喉から声にならない声が、湧き上がる。
目にうっすらと涙を浮かべ、俺はバスに乗り込んだ。
発車するまでの待ち時間。
俺は紗彩に何度も電話を試みた。だが決して電話に出ることはなかった。
コール音が耳の中にしぶとく張り付く。それは、切除してもどこかで再生し続ける癌細胞のようだ。
今の俺にとっては、さぞ永遠のように長く感じるに違いない。
普段の俺はわざわざシートに座ろうとしないが、今だけは気持ちを少しだけでも落ち着かせたい思いが強く、空いていたシートに気付いた途端、それに吸いつかれていくかのように、俺は腰かけた。
定刻になり、バスの扉が閉まる。
スマホを確認すると、実際に待った時間は五分程だった。
だが俺の感覚では、二十分以上待っていたくらいに長い時間だった。
下を向いたまま、両手を合わせて必死に祈る。
紗彩、どうか無事でいてくれ、と。
きっと周辺に座っている他の生徒は、俺の姿を見て不審がっているかもしれない。
それでも俺は、不安と焦りがマーブルのように入り組んだ、複雑且つ混沌とした今の表情を誰にも見られたくない思いが強く、依然として下を向きつつ、祈り続けていた。
ただただ、生きていてほしい、その一心で。
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