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中国分割と世界戦略始動- 八紘共栄圏を目指して-
第792話 『賠償金の受取~黄金の雫』
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文禄二年三月十日(1593/4/11) 京都 大日本国政庁
「これはこれは……まさに圧巻であるな」
大日本国の財務副大臣である羽柴秀吉は、目の前にある66万貫文の永楽通宝を見てあっけに取られていた。肥前国(肥前州)の役人が特別歳入として届けてきた明国からの第1回賠償金である。
大日本国政府は成立して10年が経過しており、その間肥前国による技術供与や財政支援などで産業を振興してきたが、それでも肥前国を除く州からの歳入で換算すると、年間の歳入に匹敵する金額である。
石高と交易収入の20%が国税として国庫に納められるが、そのうち11%は交付金として各州に交付されるので、実際に国庫に入る歳入は9%程度なのだ。
「関白殿下はこれを向こう十年大日本国の歳入として良いと仰せだが、それにしても金額も然ることながら、肥前州とは……太刀打ちどころかもはや別の国ではないか。前々から思うておったが、大日本国が属国のような……いやいや、不遜である。斯様な考えは不遜だ」
秀吉は自分の内にあるよくわからない感情を抑えながら、予算会議へと向かうのであった。
「方々、特別歳入の予算枠について話す前に、この大日本国の省庁について、新たな提議を行いたい」
そう発言したのは議員筆頭の織田信長である。
「中将(正四位上左近衛中将)殿、それはいかなる事にございましょうや」
徳川家康が質問すると、信長はふむ、と一息ついてから続けた。
「この政府の省庁についてじゃ。これまでは新しき国の仕組み故、われら議員の合議はあれど、各省庁はそのまま肥前国の人間が担うておった。されどもう十年。十年の時がたち、少なくとも民の暮らしは安んじられるようになった。ゆえに外交と防衛については致し方ないが、その他の省庁の長は、われら各州の代表者にて関白殿下のもとで内閣を作るべきかと存ずるが、如何でござろうか」
「中将殿のお考えはもっともだ。それがしも同じ(賛成し)まする」
従四位上蔵人所頭の武田勝頼である。勝頼は深くうなずき、信長の意見に賛同した。
「うむ」
続いたのは従五位下左京大夫の北条氏直だ。
「確かに関白殿下のご尽力と肥前州の加盟なくして、今日の大日本国はあり得なかった。然れど殿下も仰せのように、真の統一国家となるためには、各州出身の優秀な人材を積極的に登用し、国政への参加を促すべきではないか」
会議場には静かな緊張が走ったが、肥前州出身の大臣たちは互いに顔を見合わせ、沈黙を守っている。彼らの表情には、いずれは来るだろうと思っていた時が今日であった、という思いが見て取れた。
「然様。中将殿(織田)、左京大夫殿(北条)の仰せの通り、関白殿下のご意向を踏まえ、この十年の間、大日本国は人材を育つる事にも力を注いでまいりました。各州から優秀な人材を中央政府に集め、研修や肥前州の行政機関での実務経験を通じて、多くの者が国政に関わる知識と経験を培ってきたかと存じます」
従四位下右近衛権少将の家康は続ける。
「いま各省庁の副大臣や局長級には、肥前州出身以外の優秀な人材が多く登用されており、彼の者らが中心となって実務を担っているのが事の様にございましょう。ゆえに彼らの中には、既に大臣の職務を十分にこなせるだけの力を持った者もいるかと存じます」
「然りながら……」
今度は従五位上左衛門佐の浅井長政が反論した。
「大臣ならば関白殿下の直下にて内閣を成す面々にござろう。然すれば我らは州の長にて代表として議員となっておるが、自らの臣下の風下に立つことにはなりますまいか? 方々はそれでよろしいのか? 浅井州のものならば、浅井の禄を食むものにござるぞ」
「左衛門佐(浅井)どの、それはちと違うのではないか?」
口を開いたのは家康だった。
「我らは確かに州の長、代表として議員となってはいるが、それすなわち大日本国の議員でもある。関白殿下はもとより、肥前州の大臣たちが築き上げた大日本国を、より良くしていくのが我らの役目ではないか?」
家康は言葉を続けた。
「確かに、臣下が自分より上位の官職に就くことは、気分の良いものではないかもしれん。然れど大日本国の発展のためには、優秀な人材を積極的に登用していく必要がある。それは、関白殿下も望んでおられることではないか?」
長政は反論する。
「ではお伺いいたす。まず、大日本国は『肥前州の大臣たちが築き上げた』わけではござらぬ。我ら肥前州以外の州も共に築き上げたのじゃ。心得違いをなさっては困る。加えて権少将(家康)殿は、ご自身の臣下である酒井殿に本多殿、榊原殿に井伊殿から『お主』と呼ばれていずれかを命じられても、平然としておられるのか?」
家康は言葉を詰まらせた。信長は二人のやり取りを静かに見守っていたが、ゆっくりと口を開いた。
「左衛門佐(浅井)どの、そして権少将(家康)どの。確かに、臣下が主君の上に立つのは、この時代では考えにくい。然れどいま我らが論じているのは、大日本国、すなわち新しい国のことだ。ならば、新しいやり方を考えても良いのではないか?」
信長は続けた。
「そこで提案だが、我ら議員の中から、各省の大臣を選出するのはいかがだ? 我々は各州の代表であると同時に、大日本国の議員でもある。ならば議員が大臣を兼任しても問題はないはずだ」
その言葉に、会議場がざわめいた。前代未聞の提案に議員たちは驚きを隠せないが、長政はこの提案に深くうなずいた。
「うべなるかな(なるほど)。中将殿(信長)それは良い案だ。我らが大臣になれば、臣下が主君の上に立つという問題は起こらない」
「確かに、それは良い案かもしれませんな」
家康も同意し、他の大名も同じようにうなずいた。
「では、外務大臣・陸海軍大臣・財務大臣以外を選びましょう」
秀吉が続けた。
・副総理兼官房長官:織田信長
・財務大臣ならびに陸海軍大臣:(肥前国担当)
・司法大臣:浅井長政
・外務大臣:(肥前国担当)
・内務大臣:(肥前国地方行財政庁担当)
・文部大臣:上杉景勝
・農水大臣:徳川家康
・国交大臣:畠山義慶
・情報大臣:北条氏直
・経産大臣:里見義重
・厚労大臣:武田勝頼
・通信大臣:大宝寺義氏
・領土安全保障大臣:(肥前国担当)
ただし、肥前国内の行政機構が成立しているので、上部組織として存在はするが、肥前州内に関しては年次調査と報告が行われるのみである。
その後、特別歳入の予算について協議がなされた。
次回予告 第793話 『オスマン帝国の受難』
「これはこれは……まさに圧巻であるな」
大日本国の財務副大臣である羽柴秀吉は、目の前にある66万貫文の永楽通宝を見てあっけに取られていた。肥前国(肥前州)の役人が特別歳入として届けてきた明国からの第1回賠償金である。
大日本国政府は成立して10年が経過しており、その間肥前国による技術供与や財政支援などで産業を振興してきたが、それでも肥前国を除く州からの歳入で換算すると、年間の歳入に匹敵する金額である。
石高と交易収入の20%が国税として国庫に納められるが、そのうち11%は交付金として各州に交付されるので、実際に国庫に入る歳入は9%程度なのだ。
「関白殿下はこれを向こう十年大日本国の歳入として良いと仰せだが、それにしても金額も然ることながら、肥前州とは……太刀打ちどころかもはや別の国ではないか。前々から思うておったが、大日本国が属国のような……いやいや、不遜である。斯様な考えは不遜だ」
秀吉は自分の内にあるよくわからない感情を抑えながら、予算会議へと向かうのであった。
「方々、特別歳入の予算枠について話す前に、この大日本国の省庁について、新たな提議を行いたい」
そう発言したのは議員筆頭の織田信長である。
「中将(正四位上左近衛中将)殿、それはいかなる事にございましょうや」
徳川家康が質問すると、信長はふむ、と一息ついてから続けた。
「この政府の省庁についてじゃ。これまでは新しき国の仕組み故、われら議員の合議はあれど、各省庁はそのまま肥前国の人間が担うておった。されどもう十年。十年の時がたち、少なくとも民の暮らしは安んじられるようになった。ゆえに外交と防衛については致し方ないが、その他の省庁の長は、われら各州の代表者にて関白殿下のもとで内閣を作るべきかと存ずるが、如何でござろうか」
「中将殿のお考えはもっともだ。それがしも同じ(賛成し)まする」
従四位上蔵人所頭の武田勝頼である。勝頼は深くうなずき、信長の意見に賛同した。
「うむ」
続いたのは従五位下左京大夫の北条氏直だ。
「確かに関白殿下のご尽力と肥前州の加盟なくして、今日の大日本国はあり得なかった。然れど殿下も仰せのように、真の統一国家となるためには、各州出身の優秀な人材を積極的に登用し、国政への参加を促すべきではないか」
会議場には静かな緊張が走ったが、肥前州出身の大臣たちは互いに顔を見合わせ、沈黙を守っている。彼らの表情には、いずれは来るだろうと思っていた時が今日であった、という思いが見て取れた。
「然様。中将殿(織田)、左京大夫殿(北条)の仰せの通り、関白殿下のご意向を踏まえ、この十年の間、大日本国は人材を育つる事にも力を注いでまいりました。各州から優秀な人材を中央政府に集め、研修や肥前州の行政機関での実務経験を通じて、多くの者が国政に関わる知識と経験を培ってきたかと存じます」
従四位下右近衛権少将の家康は続ける。
「いま各省庁の副大臣や局長級には、肥前州出身以外の優秀な人材が多く登用されており、彼の者らが中心となって実務を担っているのが事の様にございましょう。ゆえに彼らの中には、既に大臣の職務を十分にこなせるだけの力を持った者もいるかと存じます」
「然りながら……」
今度は従五位上左衛門佐の浅井長政が反論した。
「大臣ならば関白殿下の直下にて内閣を成す面々にござろう。然すれば我らは州の長にて代表として議員となっておるが、自らの臣下の風下に立つことにはなりますまいか? 方々はそれでよろしいのか? 浅井州のものならば、浅井の禄を食むものにござるぞ」
「左衛門佐(浅井)どの、それはちと違うのではないか?」
口を開いたのは家康だった。
「我らは確かに州の長、代表として議員となってはいるが、それすなわち大日本国の議員でもある。関白殿下はもとより、肥前州の大臣たちが築き上げた大日本国を、より良くしていくのが我らの役目ではないか?」
家康は言葉を続けた。
「確かに、臣下が自分より上位の官職に就くことは、気分の良いものではないかもしれん。然れど大日本国の発展のためには、優秀な人材を積極的に登用していく必要がある。それは、関白殿下も望んでおられることではないか?」
長政は反論する。
「ではお伺いいたす。まず、大日本国は『肥前州の大臣たちが築き上げた』わけではござらぬ。我ら肥前州以外の州も共に築き上げたのじゃ。心得違いをなさっては困る。加えて権少将(家康)殿は、ご自身の臣下である酒井殿に本多殿、榊原殿に井伊殿から『お主』と呼ばれていずれかを命じられても、平然としておられるのか?」
家康は言葉を詰まらせた。信長は二人のやり取りを静かに見守っていたが、ゆっくりと口を開いた。
「左衛門佐(浅井)どの、そして権少将(家康)どの。確かに、臣下が主君の上に立つのは、この時代では考えにくい。然れどいま我らが論じているのは、大日本国、すなわち新しい国のことだ。ならば、新しいやり方を考えても良いのではないか?」
信長は続けた。
「そこで提案だが、我ら議員の中から、各省の大臣を選出するのはいかがだ? 我々は各州の代表であると同時に、大日本国の議員でもある。ならば議員が大臣を兼任しても問題はないはずだ」
その言葉に、会議場がざわめいた。前代未聞の提案に議員たちは驚きを隠せないが、長政はこの提案に深くうなずいた。
「うべなるかな(なるほど)。中将殿(信長)それは良い案だ。我らが大臣になれば、臣下が主君の上に立つという問題は起こらない」
「確かに、それは良い案かもしれませんな」
家康も同意し、他の大名も同じようにうなずいた。
「では、外務大臣・陸海軍大臣・財務大臣以外を選びましょう」
秀吉が続けた。
・副総理兼官房長官:織田信長
・財務大臣ならびに陸海軍大臣:(肥前国担当)
・司法大臣:浅井長政
・外務大臣:(肥前国担当)
・内務大臣:(肥前国地方行財政庁担当)
・文部大臣:上杉景勝
・農水大臣:徳川家康
・国交大臣:畠山義慶
・情報大臣:北条氏直
・経産大臣:里見義重
・厚労大臣:武田勝頼
・通信大臣:大宝寺義氏
・領土安全保障大臣:(肥前国担当)
ただし、肥前国内の行政機構が成立しているので、上部組織として存在はするが、肥前州内に関しては年次調査と報告が行われるのみである。
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