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中国分割と世界戦略始動-東アジアの風雲-
第781話 『決戦前夜』
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天正二十一年三月十二日(1592/4/23) 竜岩浦 西部軍団
「さて、では我らも北上するとしようか」
敵である明軍の補給物資を接収し、補給部隊の再編も終わった島津義弘が号令を発した。竜岩浦から明軍の本隊がある義州府までは約45km、2日ないし3日の距離である。
「敵はいるでしょうか?」
「……うむ、まあおらぬだろうな。いたとしても先の戦いで生き残った敗残兵であろう。補給路が断たれ、兵糧も奪われたとあってはな。兵糧弾薬が潤沢にあれば、義州府は朝鮮へ攻め入る足溜り(拠点・橋頭堡)ともなろうが、今となっては守っても詮無き事よ(無意味だ)」
参謀長の中馬重方の問いに義弘は答えた。
「では敵は平壌へ?」
「うむ。もとよりそれが当て所(目的)だったのだ。我らと戦い、殲滅を考えておったのだろうが大敗を喫した。ゆえに兵糧がなくなり、平壌へ向かうより他ないのだ」
「では次の主役は吉原の第6師団になりますな」
「それは致し方のない事であろう。……わが軍は先の戦で大勝した。敵の残りは10万ほどだ。鉄砲の雨あられと大砲の威力で、敵はわしに近づく事も能わぬうちに、退くしかのうなった。この刀一本で命のやり取りをし、切り従えてきた頃が懐かしいの」
「軍団長閣下、いえ殿。それは……詮無き事にございます」
重方が笑うと義弘も笑った。
■甲軍(最短平坦・平壌まで310km:義州府出発より4日後):史憲誠
義州府を出て4日。
鴨緑江沿いの道を北上した甲軍は、平坦な道の行軍だけあって速度は速く、途中徴発をしながらすすんだために、士気の低下はあったものの他の部隊に比べると比較的少なかった。
大館郡まであと32kmの地点である。
「将軍、ここまでは敵の襲撃はありませんでしたね」
「うむ。平地となれば狙い撃ちされるとはいえ、大軍の数の利が活かせる故な。寡兵である敵は仕掛けてこぬ事はわかっておった。問題は次じゃ。次の最初で最後の隘路さえぬけば、あとは平壌まで開けた道だ」
「では敵が仕掛けてくるのは……」
「うむ、次で間違いなかろう。今宵は食事をしっかりとらせ、明日の行軍に備えさせよ」
「ははっ」
■乙軍(中距離・平壌まで272km:義州府出発より4日後):祖承訓
「将軍、驚くほど静かですね……」
「うむ、最初の隘路で小競り合いがあったくらいで、その後は不気味なほどだ」
「しかし将軍……これはいったいなんでしょうか?」
祖承訓は副官が見せてきた肥前国の新式銃をまざまざと見る。小競り合いの中で鹵獲できたものである。
「火縄のない銃など……いったいどうやって弾を撃つのだ?」
「異様な大きさの天灯にしろこの銃にしろ、わからぬところが多いですね。雨の中でも使えるという……。撃たれた兵を見ましたが、いままでの銃とは比べものにならないくらい、傷口がぐちゃぐちゃになっておりました。さらに発熱、嘔吐、下痢を催しており、長くないと医官が申しております」
ライフルマスケットは南北戦争において歩兵戦術を変えた武器である。
「いずれにしろ通らねばならぬ、通らねば未来はない」
祖承訓と副官は顔を見合わせながらうなずき、気持ちを新たにした。
■丙軍(険しく最短・平壌まで244km:義州府出発より4日後):楊鎬
「軍務様! 前方に巨大な天灯(ごく小さな提灯サイズの熱気球)のようなもの、多数見えます」
斥候の報告を聞いて楊鎬は考え込む。
本来、伏兵は敵に悟られずに兵を配して油断を誘い、一気に急襲するのが定道である。しかし第6師団長の高橋紹運はあえて気球を揚げ、敵情の把握に努めたのだ。
「ふ……伏兵がいてもいなくても関係ない、ここを通るしかお前達には道がないとでもいいたそうだな」
「しかし軍務様、癪ですがその通りです」
「うむ、そこでだ」
楊鎬は地図を出し、副官に話し始めた。
「よいか、義州府から3つの隘路が合わさる白雲まで出るのに155里(約89km)だ。そのうち我らは100里(約60km)ほど進む事ができた。途中隘路はいくつもあったが、盆地との繰り返しで伏兵には適さないと思ったのか、幸いにして敵の攻撃はなかった」
「つまりは……」
「うむ、敵は次の長い隘路にて側面から攻撃を仕掛け、われらを叩くつもりであろう」
「それを分かった上で通らねばならぬとは、かなり厳しいですね」
「仕方あるまい。どちらにしてもここを通り抜けなければならぬのだ。側面からの敵の攻撃に応戦することなく、突破、突破して隘路を抜け白雲へ抜ける事を第一とする」
「ははっ」
■隘路防衛:第6師団司令部(泰川郡)
「観測部隊より報告! 丙路の敵は隘路手前で小休止を取っており、時期をみて通過を試みると考えられます」
「うむ、あい分かった。頼長には隘路攻撃を行い、討ちもらした敵は手筈通りにやれと伝えよ」
「ははっ」
「申し上げます! 敵甲路上より無数の煙あり、おそらく食事のためと思われます」
「うむ、では正則には兵にしかと休息をあたえ、明日に備えよと伝えよ」
「ははっ」
次回予告 第782話 『激突』
「さて、では我らも北上するとしようか」
敵である明軍の補給物資を接収し、補給部隊の再編も終わった島津義弘が号令を発した。竜岩浦から明軍の本隊がある義州府までは約45km、2日ないし3日の距離である。
「敵はいるでしょうか?」
「……うむ、まあおらぬだろうな。いたとしても先の戦いで生き残った敗残兵であろう。補給路が断たれ、兵糧も奪われたとあってはな。兵糧弾薬が潤沢にあれば、義州府は朝鮮へ攻め入る足溜り(拠点・橋頭堡)ともなろうが、今となっては守っても詮無き事よ(無意味だ)」
参謀長の中馬重方の問いに義弘は答えた。
「では敵は平壌へ?」
「うむ。もとよりそれが当て所(目的)だったのだ。我らと戦い、殲滅を考えておったのだろうが大敗を喫した。ゆえに兵糧がなくなり、平壌へ向かうより他ないのだ」
「では次の主役は吉原の第6師団になりますな」
「それは致し方のない事であろう。……わが軍は先の戦で大勝した。敵の残りは10万ほどだ。鉄砲の雨あられと大砲の威力で、敵はわしに近づく事も能わぬうちに、退くしかのうなった。この刀一本で命のやり取りをし、切り従えてきた頃が懐かしいの」
「軍団長閣下、いえ殿。それは……詮無き事にございます」
重方が笑うと義弘も笑った。
■甲軍(最短平坦・平壌まで310km:義州府出発より4日後):史憲誠
義州府を出て4日。
鴨緑江沿いの道を北上した甲軍は、平坦な道の行軍だけあって速度は速く、途中徴発をしながらすすんだために、士気の低下はあったものの他の部隊に比べると比較的少なかった。
大館郡まであと32kmの地点である。
「将軍、ここまでは敵の襲撃はありませんでしたね」
「うむ。平地となれば狙い撃ちされるとはいえ、大軍の数の利が活かせる故な。寡兵である敵は仕掛けてこぬ事はわかっておった。問題は次じゃ。次の最初で最後の隘路さえぬけば、あとは平壌まで開けた道だ」
「では敵が仕掛けてくるのは……」
「うむ、次で間違いなかろう。今宵は食事をしっかりとらせ、明日の行軍に備えさせよ」
「ははっ」
■乙軍(中距離・平壌まで272km:義州府出発より4日後):祖承訓
「将軍、驚くほど静かですね……」
「うむ、最初の隘路で小競り合いがあったくらいで、その後は不気味なほどだ」
「しかし将軍……これはいったいなんでしょうか?」
祖承訓は副官が見せてきた肥前国の新式銃をまざまざと見る。小競り合いの中で鹵獲できたものである。
「火縄のない銃など……いったいどうやって弾を撃つのだ?」
「異様な大きさの天灯にしろこの銃にしろ、わからぬところが多いですね。雨の中でも使えるという……。撃たれた兵を見ましたが、いままでの銃とは比べものにならないくらい、傷口がぐちゃぐちゃになっておりました。さらに発熱、嘔吐、下痢を催しており、長くないと医官が申しております」
ライフルマスケットは南北戦争において歩兵戦術を変えた武器である。
「いずれにしろ通らねばならぬ、通らねば未来はない」
祖承訓と副官は顔を見合わせながらうなずき、気持ちを新たにした。
■丙軍(険しく最短・平壌まで244km:義州府出発より4日後):楊鎬
「軍務様! 前方に巨大な天灯(ごく小さな提灯サイズの熱気球)のようなもの、多数見えます」
斥候の報告を聞いて楊鎬は考え込む。
本来、伏兵は敵に悟られずに兵を配して油断を誘い、一気に急襲するのが定道である。しかし第6師団長の高橋紹運はあえて気球を揚げ、敵情の把握に努めたのだ。
「ふ……伏兵がいてもいなくても関係ない、ここを通るしかお前達には道がないとでもいいたそうだな」
「しかし軍務様、癪ですがその通りです」
「うむ、そこでだ」
楊鎬は地図を出し、副官に話し始めた。
「よいか、義州府から3つの隘路が合わさる白雲まで出るのに155里(約89km)だ。そのうち我らは100里(約60km)ほど進む事ができた。途中隘路はいくつもあったが、盆地との繰り返しで伏兵には適さないと思ったのか、幸いにして敵の攻撃はなかった」
「つまりは……」
「うむ、敵は次の長い隘路にて側面から攻撃を仕掛け、われらを叩くつもりであろう」
「それを分かった上で通らねばならぬとは、かなり厳しいですね」
「仕方あるまい。どちらにしてもここを通り抜けなければならぬのだ。側面からの敵の攻撃に応戦することなく、突破、突破して隘路を抜け白雲へ抜ける事を第一とする」
「ははっ」
■隘路防衛:第6師団司令部(泰川郡)
「観測部隊より報告! 丙路の敵は隘路手前で小休止を取っており、時期をみて通過を試みると考えられます」
「うむ、あい分かった。頼長には隘路攻撃を行い、討ちもらした敵は手筈通りにやれと伝えよ」
「ははっ」
「申し上げます! 敵甲路上より無数の煙あり、おそらく食事のためと思われます」
「うむ、では正則には兵にしかと休息をあたえ、明日に備えよと伝えよ」
「ははっ」
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