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中国分割と世界戦略始動-東アジアの風雲-
第765話 『勢力圏構想-東アジア-』
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天正十九年八月十九日(1590/9/17) 諫早 <小佐々純正>
オレは風呂に入りながら考えていた。
ある程度の世界情勢が理解できたので、それを踏まえた肥前国の勢力圏の構想だ。転生してきたばかりのころは、生き延びるのに必死だった。しかしそれも遠い昔。
今では国内を統一はしていないものの、大日本国を樹立して戦争のない仕組みを作り上げた。肥前国の脅威となるスペインは二度にわたって撃退し、現在は凋落のきざしがあるという。
そこでオレは、世界各地での貿易拡大と同時に、欧州諸国の植民地化推進を牽制するための経済圏・外交圏の拡大を目指す事にしたのだ。
※東アジア
ここは何の問題もない。というか既定路線で進めば、半永久的な平和が訪れる。国内(肥前国を含む日本国内)の統治を万全にするのと並行して、中国大陸に強大な国家をつくらせないこと。
明が弱体化しているので他の勢力を支援し、かつ支援しすぎないようにして、複数の国家を乱立させ、それぞれと国交を結ぶ。
※ 北アメリカ
アラスカを拠点にカナダ・アメリカ西海岸の内陸部を領有し、経済的に取り込むことを計画。
※北アジア
カムチャッカ地方や沿海地方から内陸部へ拡大し、東アジア・中央アジアへの経済進出を目指す。
※東南アジア
既存の貿易関係を強化しつつ、内陸部を取り込む。条約締結を通じて欧州諸国を牽制。
※オセアニア
ニューギニアやオーストラリア内陸部・島嶼部を領有し、漁業・哨戒網の拠点化を図る。
※南アジア
中小国との条約締結を通じて、ヴィジャヤナガル王国やムガル帝国の大国化を防ぎ、牽制を強化。
※西アジア
サファヴィー朝などと条約を結び、敵性国家であるオスマン帝国や欧州諸国を牽制しつつ、貿易の安定を目指す。
※アフリカ
南部アフリカ内陸部の経済統合を進め、北部や西部など既存国家とは条約を通じて貿易安定・緩衝地帯確保を図る。
ざっくりはこうだ。
こういう一連の動きをすることで、肥前国としては欧州諸国の勢力拡大を抑えつつ、自国の安定した貿易圏と影響力を確立し、将来的には国際的枠組みの形成を視野に入れている。
よし、会議衆(戦略会議室メンバー)と考えよう。
■諫早城
「さてみんな、いまさらだがオレがいない間、大儀であった。まあ鬼の居ぬ間になんとやらで、ゆっくりできたかもしれんがな。わはははは」
純正はそう言って大きく笑い、直茂にふった。
「直茂、今後の肥前国の構想を話し合いたい」
鍋島直茂は居住まいを正し、純正に進言する。深い皺の刻まれた顔に、真摯な表情が浮かぶ。
「はい。先ほどの世界戦略の件ですが、それがしとしては東アジアの安定化が最も重きかと存じます」
「ほう? つぶさに申してみよ」
「は。ただいまの明は、北は女真族の台頭を許し、哱拝の乱にて北方は崩壊しております。さらに播州では楊応龍が乱を起こし、役所を襲っては乱妨(らんぼう)の限りをつくしております。加えて嘉靖帝の時代から続く財政難と官僚の腐敗により、統治の実が失われつつあります」
「ふむ」
鍋島直茂はテーブルの上に広げられた地図を指さしながら、ゆっくりと説明をした。それに対して官兵衛が静かに補足を入れる。
「万暦帝は有能とは言えず遊興にふけっており、堕落の極み。張居正の死後は宦官の専横も目に余ります。このままでは明の分裂は時間の問題かと」
「うべなるかな(なるほど)」
「そこで私が提案したいのは、まず遼東の女真族に対して、ほどよい助力を行うことです。彼らは騎馬と弓術に長けており、明を北から圧迫する格好の勢力となりましょう」
官兵衛の補足に直茂はうなずきながら続けたが、純正の顔が曇る。
「いや、ヌルハチになら武器弾薬の助力はもとより、貿易も盛んに行っておるではないか。そのおかげで八年前に建州女真を一統し、海西女真を二度も破っておる。じきに傘下に加えるだろうと聞き及んでおるぞ」
直茂は一瞬言葉に詰まったが、すぐに冷静な声で続けた。
「仰せの通りにございます。然ればこそ、ほどよく助力を、と申し上げました」
「ほどよく、とは、あまりやり過ぎるな、と?」
「はい」
と直茂は慎重に言葉を選びながら続ける。
「余りに強大になられては、かえって我らの首を絞めることにもなりかねません」
「然様。それがしもおなじ考えにございます。殿下と室長(直茂)はウラジオストクでヌルハチと会われたと聞きましたが、いかがですか、ヌルハチという人物は?」
黒田官兵衛が直茂の後に聞いた。
「うむ……沿海州の利得の権について話したときは『誇り高いが実利に乏しい』と思うおったが、なかなかどうして。その誇りを行いで示し、功を挙げることで女真の民の信を勝ち取った。長い目で考え、成功を見据えて行動する希代の兵法家であろうかの」
宇喜多春家が静かに口を開く。
「誇り高き者が実利を得る術を知るとは、まさに恐るべき存在ということですな」
「その通りじゃ」
と純正はうなずく。
「はじめは単なる部族の長としか見ておらなかった、実に巧みな手練手管の持ち主よ。まず誇りで人心を掴み、次に実利で部下を束ね、そして成功で忠誠を確かなものにする」
純正が言うと官兵衛が続いて問う。
「ウラジオストクでの会談の際、殿下の言葉の端々に注意深く耳を傾け、時に深い洞察を示されたとか」
「我らの意図も見抜かれているのではないでしょうか」
土居三郎清良が心配そうに問うが、純正は苦笑する。
「それは、わからぬ。然れど今の誼が永遠に続くとは考えておるまい。然ればこそ、我らの助力を上手く利用しつつ、自前の火器製造まで始めたのだろう」
尾和谷弥三郎が眉をひそめる。
「まさに虎を養うようなものですな」
「いや」
と純正は首を振る。
「虎だとしても、はるかに我らが先達である。われらの助力なくば、我らに追いつくなど百年かかっても能うまい」
「然に候。ゆえに女真とはつかず離れずで貿易は盛んに行うが、技を伝えるは、ほどよくがよろしいかと」
直茂が持論をまとめた。
「あい分かった」
と純正は話題を切る。
「ヌルハチの件はそれまでじゃ。技の伝えを止めれば、それ以上にはなるまい。朝鮮とさらなる結びつきを強め、女真に備える。大陸においては個々の国と友誼を結ぶ。楊応龍については様子見じゃ。乱妨狼藉で国が続くわけがないからの」
※東アジア勢力圏構想
1. 女真族の抑制
ヌルハチへの技術供与停止
これ以上の勢力拡大を防止
2. 朝鮮との関係強化
既存の強い結びつきを活用
明との関係は形式的なものに
3. 勢力の分散維持
哱拝との友好関係構築
明の分割統治を促進
複数の小国家の維持
4. 基本方針
どの勢力も大国化させない
相互牽制による均衡維持
貿易による影響力の保持
次回予告 第756話 『哱拝対明国』
オレは風呂に入りながら考えていた。
ある程度の世界情勢が理解できたので、それを踏まえた肥前国の勢力圏の構想だ。転生してきたばかりのころは、生き延びるのに必死だった。しかしそれも遠い昔。
今では国内を統一はしていないものの、大日本国を樹立して戦争のない仕組みを作り上げた。肥前国の脅威となるスペインは二度にわたって撃退し、現在は凋落のきざしがあるという。
そこでオレは、世界各地での貿易拡大と同時に、欧州諸国の植民地化推進を牽制するための経済圏・外交圏の拡大を目指す事にしたのだ。
※東アジア
ここは何の問題もない。というか既定路線で進めば、半永久的な平和が訪れる。国内(肥前国を含む日本国内)の統治を万全にするのと並行して、中国大陸に強大な国家をつくらせないこと。
明が弱体化しているので他の勢力を支援し、かつ支援しすぎないようにして、複数の国家を乱立させ、それぞれと国交を結ぶ。
※ 北アメリカ
アラスカを拠点にカナダ・アメリカ西海岸の内陸部を領有し、経済的に取り込むことを計画。
※北アジア
カムチャッカ地方や沿海地方から内陸部へ拡大し、東アジア・中央アジアへの経済進出を目指す。
※東南アジア
既存の貿易関係を強化しつつ、内陸部を取り込む。条約締結を通じて欧州諸国を牽制。
※オセアニア
ニューギニアやオーストラリア内陸部・島嶼部を領有し、漁業・哨戒網の拠点化を図る。
※南アジア
中小国との条約締結を通じて、ヴィジャヤナガル王国やムガル帝国の大国化を防ぎ、牽制を強化。
※西アジア
サファヴィー朝などと条約を結び、敵性国家であるオスマン帝国や欧州諸国を牽制しつつ、貿易の安定を目指す。
※アフリカ
南部アフリカ内陸部の経済統合を進め、北部や西部など既存国家とは条約を通じて貿易安定・緩衝地帯確保を図る。
ざっくりはこうだ。
こういう一連の動きをすることで、肥前国としては欧州諸国の勢力拡大を抑えつつ、自国の安定した貿易圏と影響力を確立し、将来的には国際的枠組みの形成を視野に入れている。
よし、会議衆(戦略会議室メンバー)と考えよう。
■諫早城
「さてみんな、いまさらだがオレがいない間、大儀であった。まあ鬼の居ぬ間になんとやらで、ゆっくりできたかもしれんがな。わはははは」
純正はそう言って大きく笑い、直茂にふった。
「直茂、今後の肥前国の構想を話し合いたい」
鍋島直茂は居住まいを正し、純正に進言する。深い皺の刻まれた顔に、真摯な表情が浮かぶ。
「はい。先ほどの世界戦略の件ですが、それがしとしては東アジアの安定化が最も重きかと存じます」
「ほう? つぶさに申してみよ」
「は。ただいまの明は、北は女真族の台頭を許し、哱拝の乱にて北方は崩壊しております。さらに播州では楊応龍が乱を起こし、役所を襲っては乱妨(らんぼう)の限りをつくしております。加えて嘉靖帝の時代から続く財政難と官僚の腐敗により、統治の実が失われつつあります」
「ふむ」
鍋島直茂はテーブルの上に広げられた地図を指さしながら、ゆっくりと説明をした。それに対して官兵衛が静かに補足を入れる。
「万暦帝は有能とは言えず遊興にふけっており、堕落の極み。張居正の死後は宦官の専横も目に余ります。このままでは明の分裂は時間の問題かと」
「うべなるかな(なるほど)」
「そこで私が提案したいのは、まず遼東の女真族に対して、ほどよい助力を行うことです。彼らは騎馬と弓術に長けており、明を北から圧迫する格好の勢力となりましょう」
官兵衛の補足に直茂はうなずきながら続けたが、純正の顔が曇る。
「いや、ヌルハチになら武器弾薬の助力はもとより、貿易も盛んに行っておるではないか。そのおかげで八年前に建州女真を一統し、海西女真を二度も破っておる。じきに傘下に加えるだろうと聞き及んでおるぞ」
直茂は一瞬言葉に詰まったが、すぐに冷静な声で続けた。
「仰せの通りにございます。然ればこそ、ほどよく助力を、と申し上げました」
「ほどよく、とは、あまりやり過ぎるな、と?」
「はい」
と直茂は慎重に言葉を選びながら続ける。
「余りに強大になられては、かえって我らの首を絞めることにもなりかねません」
「然様。それがしもおなじ考えにございます。殿下と室長(直茂)はウラジオストクでヌルハチと会われたと聞きましたが、いかがですか、ヌルハチという人物は?」
黒田官兵衛が直茂の後に聞いた。
「うむ……沿海州の利得の権について話したときは『誇り高いが実利に乏しい』と思うおったが、なかなかどうして。その誇りを行いで示し、功を挙げることで女真の民の信を勝ち取った。長い目で考え、成功を見据えて行動する希代の兵法家であろうかの」
宇喜多春家が静かに口を開く。
「誇り高き者が実利を得る術を知るとは、まさに恐るべき存在ということですな」
「その通りじゃ」
と純正はうなずく。
「はじめは単なる部族の長としか見ておらなかった、実に巧みな手練手管の持ち主よ。まず誇りで人心を掴み、次に実利で部下を束ね、そして成功で忠誠を確かなものにする」
純正が言うと官兵衛が続いて問う。
「ウラジオストクでの会談の際、殿下の言葉の端々に注意深く耳を傾け、時に深い洞察を示されたとか」
「我らの意図も見抜かれているのではないでしょうか」
土居三郎清良が心配そうに問うが、純正は苦笑する。
「それは、わからぬ。然れど今の誼が永遠に続くとは考えておるまい。然ればこそ、我らの助力を上手く利用しつつ、自前の火器製造まで始めたのだろう」
尾和谷弥三郎が眉をひそめる。
「まさに虎を養うようなものですな」
「いや」
と純正は首を振る。
「虎だとしても、はるかに我らが先達である。われらの助力なくば、我らに追いつくなど百年かかっても能うまい」
「然に候。ゆえに女真とはつかず離れずで貿易は盛んに行うが、技を伝えるは、ほどよくがよろしいかと」
直茂が持論をまとめた。
「あい分かった」
と純正は話題を切る。
「ヌルハチの件はそれまでじゃ。技の伝えを止めれば、それ以上にはなるまい。朝鮮とさらなる結びつきを強め、女真に備える。大陸においては個々の国と友誼を結ぶ。楊応龍については様子見じゃ。乱妨狼藉で国が続くわけがないからの」
※東アジア勢力圏構想
1. 女真族の抑制
ヌルハチへの技術供与停止
これ以上の勢力拡大を防止
2. 朝鮮との関係強化
既存の強い結びつきを活用
明との関係は形式的なものに
3. 勢力の分散維持
哱拝との友好関係構築
明の分割統治を促進
複数の小国家の維持
4. 基本方針
どの勢力も大国化させない
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