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天下一統して大日本国となる。-大日本国から世界へ-
第742話 『籠手田安経と三度、イスパニアの影』
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天正十七年二月二十七日(1588/3/28)
純正が向かう東南アジア総督府はカリマンタン島のクチンにあり、ブルネイ県・スラウェシ県・インドネシア県・ニューギニア県・オーストラリア県の広大な領域を統括する総督府である。
陸地面積だけでルソン地方の30倍以上の広大な範囲であるが、カリマンタン島のブルネイ王国、スラウェシ島のゴア王国、インドネシアのバンテン王国以外は政府の体を成している国家がない。
両島では王国と共存関係を営みながらクチンに総督府、マカッサルとジャカルタに支庁をおいているが、その他の県は原住民のみで人口が少ないため、単一の地方として総督府が管轄している。
ゆえに今後は各県が独立した地方となり、総督府を設立する予定であるが、時期はまだ未定である。
「御屋形様! いえ、関白殿下、お久しゅうございます!」
「おお安経よ、息災であったか?」
南方探険艦隊が解体され、内地勤務かと思いきや、家族を引き連れての引越である。平戸松浦氏の旧臣であり、最初期から純正を支えてきた古参の一人だ。
安経が深々と頭を下げると、純正は笑顔で応じた。永禄九年から初の練習艦隊の司令長官を務め、20年近く南方の探険による海図の作成に携わった功績がある。
「安経、ここクチンでの生活はどうだ? 南方の気候に馴染めたか?」
「はっ、まだ慣れぬところも多うございますが、家族共々この地で新たな拠点を築く覚悟でおります。ここは広大な領域を抱えながら、未だ文明の礎も浅く、我らが手で導くべき地でございます」
「うむ。今日はゆっくり休むとしよう。お主も家族を連れて参れ」
「は、有り難き幸せにございます」
「そう固くなるな。お主とオレの仲ではないか」
夜になり、純正とその家族は歓迎会場に向かった。クチンの繁華街は熱帯特有の蒸し暑さに包まれていたが、夜になると涼しい風が吹き抜けていく。
会場に到着すると、安経と一緒に現地の要人たちが純正を出迎えた。
ブルネイの貴族らしき人物も見受けられる。東南アジア地方の公用語は日本語で、ルソン地方と同じくマレー語が第2公用語になっている。
もともとクチンはブルネイのスルタンが治めており、交易で栄えていたが、勢力を弱めて肥前国が入植後、さらに発展してきた。
その関係でアラビア語も使えるが、公職につくには日本語かマレー語のどちらかが堪能でなくてはならない。
「関白殿下、ようこそクチンへ」
現地語と日本語が入り混じる挨拶が飛び交う中、純正は丁寧に応じていく。
会場内は様々な料理の香りが漂い、特に目を引くのは地元特産の料理が並べられた長いテーブルだった。
料理には、蒸し魚の アンブヤットや、香辛料をたっぷり使った レンダン など、南方の味を代表する料理が並び、地元の風習が色濃く反映されていた。
純正はその料理を味わいながら、現地の人々との交流を楽しんでいる。
「安経、この地の食べ物はどうだ?」
「美味でございます。特にこのサゴヤシの粉から作った餅のような食べ物は某の好物でございます」
イスラム教の国では豚肉と酒は禁忌であるが、純正は店をそれぞれ別にしたり、料理にしっかりと説明書を備え付けさせ、トラブルが起きないようにして、自由に飲み食いさせたのだ。
もとよりイスラム教以外である仏教徒やキリスト教徒もいるのである。現代における多民族国家のようなものだ。
「詳しくは明日聞くが、なにか統治において困っていることはないか?」
「は、実は近ごろ新たに憂うべき事(問題)がございます。山の奥を草分ける(開拓する)に従い、現地の民との諍いが増えております。彼らの営みを尊びながら、如何に草分けるか、考えておるところです」
安経は少し考えてから答えたが、純正はうなずきながら聞いている。
「また、気になるのがイスパニアの船にございます。某が赴任した年は一隻も報せがございませんでしたが、翌年には一隻となり、さらに翌年は二隻となりました。年に二隻ないし三隻のイスパニア船が……アカプルコから来ているのではと思われます」
「ふむ、イスパニアか」
純正は考え込んだ。
2度にわたって撃退し、ヌエバ・エスパーニャ副王領の艦隊は全滅したはずである。未だ侵攻してくる兵力があるのだろうか。イスパニア本国は大陸での争いがあるため、副王領へ援軍は出せないはずだ。
この10年で艦隊を再編し、侵攻してくるというのだろうか? 純正の不安は拭いきれない……。
「あいわかった。詳しくは明日聞くとしよう」
純正はそう言って酒を飲み、宴もたけなわとなった。
■翌日 総督府
「さて安経よ、現地の民との争いについては、刃傷沙汰が起きるようであれば入植はするでない。その土地を避けて草分けをするのだ。彼の者らにとって我らは異邦の民であるからの。台湾のような事は起こしたくはない。それよりも……」
「イスパニアの事にございますな?」
「然様、実のところは如何なのだ?」
純正はうなずいた。目に鋭い光が宿る。
「うむ。イスパニアの件だ。彼奴らの船がアカプルコから来ているというのは確かなのか?」
安経は慎重に答える。
「は。殿下の命なくば戦を起こすこと能いませぬ故、物見のみにございますが、どうやら島々に足溜り(拠点)を作っているようにございます」
「足溜まりじゃと? それは真か?」
「は。わが領土はニューギニア県とオーストラリア県があり、ニューギニア県にはニューブリテン島とソロモン諸島などのメラネシアが含まれます。また、オーストラリア県にはニュージーランドが含まれますが、ポリネシアの島々は遠く離れていることもあり、入植の価値なしとみて、発見はしたものの、そのままとなっておりました」
純正の表情がわずかに歪む。
「その……ポリネシアの島々に、イスパニアの足溜りができつつあると?」
「は、如何ほどの兵がおり、如何ほどの粮料(食料・兵糧)、兵船かは不明にございますが、少なくとも艦隊らしきものの報せは入っておりませぬ」
「うむ。まずは足溜りをいくつか設け、その後、再び艦隊をもって押し寄せる恐れがあるの。あい分かった。しばらくはルソンの総督府と鎮守府と報せを密に通わしながら、艦隊を籠手田湊(ポートモレスビー)に集めるよう沙汰をいたそう。加えて……いささか遅きに失したかもしれぬが、籠手田湊に鎮守府を設置して、守りの要となそう」
純正はしばらくクチン総督府に残り、安経と取り決めた戦術案を実行するためにマニラの鎮守府や総督府、そして諫早の艦隊総司令部へ連絡した。
次回 第 743話 (仮)『アラスカ並びに北米西岸の探険・入植と太平洋横断計画』
純正が向かう東南アジア総督府はカリマンタン島のクチンにあり、ブルネイ県・スラウェシ県・インドネシア県・ニューギニア県・オーストラリア県の広大な領域を統括する総督府である。
陸地面積だけでルソン地方の30倍以上の広大な範囲であるが、カリマンタン島のブルネイ王国、スラウェシ島のゴア王国、インドネシアのバンテン王国以外は政府の体を成している国家がない。
両島では王国と共存関係を営みながらクチンに総督府、マカッサルとジャカルタに支庁をおいているが、その他の県は原住民のみで人口が少ないため、単一の地方として総督府が管轄している。
ゆえに今後は各県が独立した地方となり、総督府を設立する予定であるが、時期はまだ未定である。
「御屋形様! いえ、関白殿下、お久しゅうございます!」
「おお安経よ、息災であったか?」
南方探険艦隊が解体され、内地勤務かと思いきや、家族を引き連れての引越である。平戸松浦氏の旧臣であり、最初期から純正を支えてきた古参の一人だ。
安経が深々と頭を下げると、純正は笑顔で応じた。永禄九年から初の練習艦隊の司令長官を務め、20年近く南方の探険による海図の作成に携わった功績がある。
「安経、ここクチンでの生活はどうだ? 南方の気候に馴染めたか?」
「はっ、まだ慣れぬところも多うございますが、家族共々この地で新たな拠点を築く覚悟でおります。ここは広大な領域を抱えながら、未だ文明の礎も浅く、我らが手で導くべき地でございます」
「うむ。今日はゆっくり休むとしよう。お主も家族を連れて参れ」
「は、有り難き幸せにございます」
「そう固くなるな。お主とオレの仲ではないか」
夜になり、純正とその家族は歓迎会場に向かった。クチンの繁華街は熱帯特有の蒸し暑さに包まれていたが、夜になると涼しい風が吹き抜けていく。
会場に到着すると、安経と一緒に現地の要人たちが純正を出迎えた。
ブルネイの貴族らしき人物も見受けられる。東南アジア地方の公用語は日本語で、ルソン地方と同じくマレー語が第2公用語になっている。
もともとクチンはブルネイのスルタンが治めており、交易で栄えていたが、勢力を弱めて肥前国が入植後、さらに発展してきた。
その関係でアラビア語も使えるが、公職につくには日本語かマレー語のどちらかが堪能でなくてはならない。
「関白殿下、ようこそクチンへ」
現地語と日本語が入り混じる挨拶が飛び交う中、純正は丁寧に応じていく。
会場内は様々な料理の香りが漂い、特に目を引くのは地元特産の料理が並べられた長いテーブルだった。
料理には、蒸し魚の アンブヤットや、香辛料をたっぷり使った レンダン など、南方の味を代表する料理が並び、地元の風習が色濃く反映されていた。
純正はその料理を味わいながら、現地の人々との交流を楽しんでいる。
「安経、この地の食べ物はどうだ?」
「美味でございます。特にこのサゴヤシの粉から作った餅のような食べ物は某の好物でございます」
イスラム教の国では豚肉と酒は禁忌であるが、純正は店をそれぞれ別にしたり、料理にしっかりと説明書を備え付けさせ、トラブルが起きないようにして、自由に飲み食いさせたのだ。
もとよりイスラム教以外である仏教徒やキリスト教徒もいるのである。現代における多民族国家のようなものだ。
「詳しくは明日聞くが、なにか統治において困っていることはないか?」
「は、実は近ごろ新たに憂うべき事(問題)がございます。山の奥を草分ける(開拓する)に従い、現地の民との諍いが増えております。彼らの営みを尊びながら、如何に草分けるか、考えておるところです」
安経は少し考えてから答えたが、純正はうなずきながら聞いている。
「また、気になるのがイスパニアの船にございます。某が赴任した年は一隻も報せがございませんでしたが、翌年には一隻となり、さらに翌年は二隻となりました。年に二隻ないし三隻のイスパニア船が……アカプルコから来ているのではと思われます」
「ふむ、イスパニアか」
純正は考え込んだ。
2度にわたって撃退し、ヌエバ・エスパーニャ副王領の艦隊は全滅したはずである。未だ侵攻してくる兵力があるのだろうか。イスパニア本国は大陸での争いがあるため、副王領へ援軍は出せないはずだ。
この10年で艦隊を再編し、侵攻してくるというのだろうか? 純正の不安は拭いきれない……。
「あいわかった。詳しくは明日聞くとしよう」
純正はそう言って酒を飲み、宴もたけなわとなった。
■翌日 総督府
「さて安経よ、現地の民との争いについては、刃傷沙汰が起きるようであれば入植はするでない。その土地を避けて草分けをするのだ。彼の者らにとって我らは異邦の民であるからの。台湾のような事は起こしたくはない。それよりも……」
「イスパニアの事にございますな?」
「然様、実のところは如何なのだ?」
純正はうなずいた。目に鋭い光が宿る。
「うむ。イスパニアの件だ。彼奴らの船がアカプルコから来ているというのは確かなのか?」
安経は慎重に答える。
「は。殿下の命なくば戦を起こすこと能いませぬ故、物見のみにございますが、どうやら島々に足溜り(拠点)を作っているようにございます」
「足溜まりじゃと? それは真か?」
「は。わが領土はニューギニア県とオーストラリア県があり、ニューギニア県にはニューブリテン島とソロモン諸島などのメラネシアが含まれます。また、オーストラリア県にはニュージーランドが含まれますが、ポリネシアの島々は遠く離れていることもあり、入植の価値なしとみて、発見はしたものの、そのままとなっておりました」
純正の表情がわずかに歪む。
「その……ポリネシアの島々に、イスパニアの足溜りができつつあると?」
「は、如何ほどの兵がおり、如何ほどの粮料(食料・兵糧)、兵船かは不明にございますが、少なくとも艦隊らしきものの報せは入っておりませぬ」
「うむ。まずは足溜りをいくつか設け、その後、再び艦隊をもって押し寄せる恐れがあるの。あい分かった。しばらくはルソンの総督府と鎮守府と報せを密に通わしながら、艦隊を籠手田湊(ポートモレスビー)に集めるよう沙汰をいたそう。加えて……いささか遅きに失したかもしれぬが、籠手田湊に鎮守府を設置して、守りの要となそう」
純正はしばらくクチン総督府に残り、安経と取り決めた戦術案を実行するためにマニラの鎮守府や総督府、そして諫早の艦隊総司令部へ連絡した。
次回 第 743話 (仮)『アラスカ並びに北米西岸の探険・入植と太平洋横断計画』
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