『転生したら弱小領主の嫡男でした!!元アラフィフの戦国サバイバル~時代・技術考証や設定などは完全無視です!~』

姜維信繁

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天下一統して大日本国となる。-大日本国から世界へ-

第740話 『台湾総督府』 

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 天正十六年十一月三十日(1587/11/30)台湾総督府

 純正が台湾への入植を始めたのは今から21年前、永禄十年の1567年であり、信長との同盟を結ぶ前の肥前の一大名に過ぎない頃であった。

 当初は入植者の原住民による殺害事件などの悲惨な出来事があったが、それを乗り越え、紆余曲折をへて台湾地方として行政が敷かれている。

「御屋形様、いえ、関白殿下。遠路はるばる、ご苦労様でございます」

 純正一行を出迎えたのは台湾総督の若林中務少輔鎮興なかつかさのしょうしげおきである。

「おお、鎮興しげおき。息災であったか? なかなか台湾に寄ることも出来ず済まなかったの。イスパニアとの戦い以来であろうか」

「は、然様にございます」

「ははは、お互い、ふけたのう」

 そう言って純正は笑う。

 鎮興は純正より年上であり白髪も交じり始めた50過ぎであったが、お互いに苦笑いをしつつ総督府へ向かう。家族はそこで別れて宿舎へ向かい、純正と閣僚のみが総督府へ向かった。




 台湾総督府の会議室に入ると、広間には既に台湾の統治を担う主要な閣僚たちが集まっていた。

 純正は窓から広がる景色に目を奪われる。かつて原生林だった場所に、今では整然と区画された街並みが広がっているのだ。港には大型船が停泊し、活気に満ちた様子が見て取れた。

「見事じゃ。イスパニア戦から十年が経つが、これほどとは……」

 純正が感慨深げに述べると、鎮興がうなずきながら答える。

「関白殿下のご英断あってのことです。これよりつぶさに報せとうございます」

「聞かせてくれ」

 純正の指示に従い、鎮興が前に進み出た。

「では殿下、まずは台湾地方の総括についてお報せいたします。只今ただいま、入植者数は増加しており、農業、漁業ともに順調に発展を続けております。特に水田の開発が進み、近年は米の取れ高が倍増いたしました。加えて現地の原住民との関係も改められ、夫婦となって子を設けておる者も多数おります。また交易も盛んになっております」

「それは何より。米の収穫は我が国にとっても重要な基盤となる。原住民との関係が良好なのは、大変喜ばしいことだ」

 純正はうなずいて、鎮興の報告を受け止めた。

「然りながら懸念もございます。造船所の船渠せんきょ増設に関しまして、基隆は子細なく行われすでに完成しておるのですが、高雄、台中、蘇澳、花蓮、安平、馬公、台北において子細(問題)あり、三年経った今でも完成しておりませぬ」

 純正はしばらく黙って考えた後、口を開いた。

何故なにゆえじゃ? 賦役における賃金も支払い、材にかかる銭も不足はないのであろう?」

 純正の問いに、鎮興は少しどまどいながら答える。

「は、賃金と材料費に関しては十分な手当てがなされております。然れどなんは人手と職人の不足でございます」

「詳しく聞かせてくれ」

「造船の技、特に大型船の建造に関する技を持つ者が不足しております。基隆港を造成した者達は優れておりますが、時を同じくして七か所もの工事を行うとなれば、基隆と同じ大きさであれば二倍ないし三倍のときを要すると存じます。急ぎ技術者を育てておりますが、それでもまだたりませぬ」

 純正は腕を組んで考え込んだ。しばらくして、彼は鎮興に向かって言った。

「鎮興、お主の見解はどうじゃ?」

 鎮興は一呼吸置いてから答える。

「殿下、私見ではございますが、この問題には二つの解決策があると考えます。一つは、日本からさらなる技術者を招聘しょうへいし、現地での技術教育を強めることです。もう一つは、原住民や明国からの移民たちにも積極的に技術を教え、造船業に携わってもらうことです」

 純正はうなずきながら聞いていた。

「うべなるかな(なるほど)。いずれも検討に値するな。然れど肥前国からの技術者招聘には限界がある。むしろ、現地の民の教育に力を入れるべきではないか? これは今までもやってきたであろう?」

「然れど殿下。原住民や明からの移民に高度な技術を教えることには、一部の日本人入植者から反対の声も上がっております」

「愚かな事を申すな。我らの当て所(目的)は台湾が栄える事ぞだ。出自に関わらず、才能ある者を登用し、教育せねばならぬ。そうでなければ、真の発展はありえん。それを宣言し、政を行っているからこそ、これだけ多くの民が我が国に流れ込んできているのではないか」

「はは、仰せの通りにございます」

「時に鎮興よ」

「は」

「賄賂は好きか?」

「は? 今なんと仰せでございますか?」

「賄賂は好きか、と聞いておる」

 鎮興は突然の質問に驚いた様子であったが、慎重に言葉を選びながら答えた。

「殿下、賄賂は……好みません。それは政の腐敗を招き、民の信を失うものと存じます。賄賂は短期的には利があるように見えても、長い目で見れば必ず禍根を残すものと考えます」

 純正はしばらく無言で鎮興を見つめていたが、やがて満足げな笑みを浮かべた。

「その通りじゃ。オレも好かん。いや、無論銭は好きだぞ。然れど賄賂は別じゃ。そこで、じゃ。ひとつ聞きたい。例えば街道を整備したとしよう。その周辺の民が感謝の意を込めて果物や作物を持ってきたとしよう。これも賄賂か? 銭でもよい」

 鎮興は純正の問いに対して慎重に考えを巡らせたが、やがて口を開く。

「殿下、これは難しい問いでございます。民の純粋な感謝の気持ちと賄賂の線引きは、時に曖昧になりかねません」

 鎮興はさらに続けた。

「私見ではございますが、その行い自体は純粋な感謝の表れかもしれません。然れどそれを受け取ることで、さきの決定に影響を与える恐れがあるのではないでしょうか」

「うべな(なるほど)。然れば如何いかが致す? 水清ければ魚棲まずというぞ」

「一つの案としては、それがし一人が受け取るのではなく、役所で公に受け取り、皆で分け合うか、あるいは困窮している民への施しに使うなどの策がございます。または必ず記し、誰もが分かるようにする事も肝要かと存じます」

「うむ。私腹を肥やすとは、自らの財を蓄え使う事をいうが、公のために使うのであればなにも問題はない。目指すべきは、清廉潔白でありながらも、民との温かい関係を築くことじゃ。そのためには、常に自らの行動を省み、公平性を保つ努力が必要じゃ」

「はは」




「明は、如何じゃ」

「は、明国からの流民は年々増えておりますが、殿下がお断りになり、イスパニアとの戦いに勝って十年。まったく音沙汰はありませぬ」

「あい分かった。然れど備えを怠るでないぞ」

「はは」




 次回 第741話 (仮)『ルソン総督と北川長介純清』
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