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天下一統して大日本国となる。-天下百年の計?-
第736話 『ペトロパブロフスク・カムチャツキーからオホーツクをへてウラジオストクへ』
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天正十六年六月十七日(1587/7/22)沿海地方 沿海県 ニコラエフスク・ナ・アムーレ(北黒瀬浦)
純正は小樽を出港後、1か月半かけて北加伊道沿岸を回り、その後カムチャッカ半島のペトロパブロフスク・カムチャツキー、オホーツクのオホーツクを経て、約3か月後に北樺太の対岸にある港町であるニコラエフスク・ナ・アムーレへ立ち寄っていた。
ここは樺太の対岸の港町ということもあって、沿海県都であり総督府のあるウラジオストクの次に栄えていた。総督府の副総督である間宮森蔵が出迎えに来ている。
「ようこそお越しくださいました、関白様。十分なおもてなしも出来ませぬが、どうぞこちらへ」
間宮森蔵は伊能忠孝と同じく北方探検艦隊の司令部勤務(忠孝が長官で森蔵は副官)であったが、艦隊の解体とともに沿海総督府勤務となっていたのだ。
将来的にカムチャッカ県もしくはオホーツク県が地方に昇格した場合には、その地の総督が内定している。
「うむ、出迎えご苦労」
純正はそう言って随員である閣僚と家族を船から降ろし、宿舎へ向かう。
小樽のような大きな宿泊施設がなかったために、海軍の宿舎を利用するのだ。その間軍関係者は民間の宿泊施設を使う事になる。
これは他の地域でも同じであった。
小樽、ペトロパブロフスク・カムチャツキー、オホーツク、ウラジオストク以外は未だ小都市もしくは漁村であったので、それらの地域の開発も急務である。
「なに? それは真か?」
純正は宿舎につくと、森蔵の報告を聞いて愕然とした。森蔵は慎重に言葉を選びながら説明を続ける。
「はい、関白様。斥候からの報せによると、ロシア・ツァーリ国の探検隊がアムール川流域に進出してきているとの事にございます。彼奴らは毛皮を求めて東進を続けており、我らの所領に迫っています」
眉間にしわを寄せた純正は、しばらく考えて、その後再び尋ねた。
「我が国の領土との衝突の恐れはあるのか?」
森蔵は頷きながら答える。
「その恐れは十分にあります。彼奴らは既にブレヤ川とゼヤ川の合わさる処に砦を設け始めておるとの報せもございます。我らは主に海沿いに足溜り(拠点)を設けておりますが、ゆくゆくは奥地へ向かうため、いずれ我らの利得の権を奪わんとする恐れがありましょう」
純正は静かに深呼吸し、随行している鍋島直茂をゆっくりとみる。その他の閣僚も真剣だ。
直茂は戦略会議室の長として諫早に置いておくつもりだったのだが、官兵衛や春家がいれば問題はないと、随行を申し出てきたのだ。おかげで随分助かっている。
ちなみに会議室次席の宇喜多直家は昨年既に没しており(史実より5年遅い)、宇喜多家の家督をついだ秀家も16歳(史実より2年早生まれ)となっていた。
そのため、後見の必要はなく、宇喜多春家が遺言により純正の許しをえて会議衆となっていたのだ。
「諸君」
純正は穏やかな声で切り出した。
「我らがいま差し当たって(直面して)おる事の様(状況)は、オレが考えていた以上に早く進んでいるようだ」
純正の声には重みがあり、部屋の空気が一段と引き締まる。
「然れど」と純正は続けた。
「これは同時に、我が国の北方政策を見直し、強める好機でもある」
閣僚たちは互いに顔を見合わせ、静かに頷いた。
「さて、まずはこのニコラエフスク・ナ・アムーレ……長いな。うむ……。ここは今日から北黒瀬浦町と名付ける。よいな?」
「はは!」
「ではここへ連隊、少なくとも大隊の兵を駐屯させ、独立して黒瀬部隊とする。もちろん、管轄は沿海地方総督府となるが、実務である軍政並びに軍令は陸軍とする」
それから……と純正がは続けた。
「ここは要塞化をすすめ、前線基地としてしかるべき川の上流地域にも橋頭堡を構える。直茂、なにかあるか?」
「北黒瀬浦の要塞化と前線基地化には賛成です。ただ、既存の先住民族との友好関係をさらに深める必要があるでしょう」
直茂は腕を組み、しばらく考え込んだ後、ゆっくりと口を開いた。地図を指さしながらさらに続ける。
「我らはすでに現地の民と誼を通わしてはおりますが、ロシア(ロシア・ツァーリ国)の東進に抗するには、彼らの助けをより強いものとせねばなりませぬ。然らば……例えば彼の者等を我が軍に組込み、斥候や通詞として用うるが如しにございましょう。また、彼の者等の古よりの狩り場を安んじ保つ事で、我が肥前国の友好の証とするのです」
純正は納得し、そのまま直茂の提案に耳を傾けた。
さらに、と直茂は続ける。
「アムール川を用いた奥地への交易の道を拡げ、銭と物と人の結びつきを強めるのが肝要かと存じます。彼の者等の産物を敢えて(積極的に)取引し、暮らし向きを良くできれば、我らの名残(影響力)はより安んじ定まる事でしょう」
純正は直茂の意見を聞き終えると、じっくりと考えた。やがて決意を固めたように全員を見渡し、声をあげる。
「よし、直茂の案を軸に進めよう。先住民との関係強化、内陸部への経済進出、そして軍事力の増強。この3つを柱とする」
純正は森蔵に向かって指示を出した。
「森蔵、お主は現地民との交誼をさらに深め、わが軍への投入と訓練を、陸軍と協力して行うのだ」
「はは」
森蔵は深々と頭を下げ、任務を受け入れた。
「直茂、お主はここに滞在中に商人と談合し、いかに商いを広げるかを考えよ。また、奥地に新たに足溜りを設けるべく、つぶさなる計画を立てるのだ」
「はは」
ロシア・ツァーリ国の東進が思ったより早い。それを見越しての港湾整備と総督府や鎮守府、陸軍の部隊配置であったが、より早く、より大規模な計画変更が必要になりつつあった。
次回 第737話 (仮)『ウラジオストクにて、ヌルハチと』
純正は小樽を出港後、1か月半かけて北加伊道沿岸を回り、その後カムチャッカ半島のペトロパブロフスク・カムチャツキー、オホーツクのオホーツクを経て、約3か月後に北樺太の対岸にある港町であるニコラエフスク・ナ・アムーレへ立ち寄っていた。
ここは樺太の対岸の港町ということもあって、沿海県都であり総督府のあるウラジオストクの次に栄えていた。総督府の副総督である間宮森蔵が出迎えに来ている。
「ようこそお越しくださいました、関白様。十分なおもてなしも出来ませぬが、どうぞこちらへ」
間宮森蔵は伊能忠孝と同じく北方探検艦隊の司令部勤務(忠孝が長官で森蔵は副官)であったが、艦隊の解体とともに沿海総督府勤務となっていたのだ。
将来的にカムチャッカ県もしくはオホーツク県が地方に昇格した場合には、その地の総督が内定している。
「うむ、出迎えご苦労」
純正はそう言って随員である閣僚と家族を船から降ろし、宿舎へ向かう。
小樽のような大きな宿泊施設がなかったために、海軍の宿舎を利用するのだ。その間軍関係者は民間の宿泊施設を使う事になる。
これは他の地域でも同じであった。
小樽、ペトロパブロフスク・カムチャツキー、オホーツク、ウラジオストク以外は未だ小都市もしくは漁村であったので、それらの地域の開発も急務である。
「なに? それは真か?」
純正は宿舎につくと、森蔵の報告を聞いて愕然とした。森蔵は慎重に言葉を選びながら説明を続ける。
「はい、関白様。斥候からの報せによると、ロシア・ツァーリ国の探検隊がアムール川流域に進出してきているとの事にございます。彼奴らは毛皮を求めて東進を続けており、我らの所領に迫っています」
眉間にしわを寄せた純正は、しばらく考えて、その後再び尋ねた。
「我が国の領土との衝突の恐れはあるのか?」
森蔵は頷きながら答える。
「その恐れは十分にあります。彼奴らは既にブレヤ川とゼヤ川の合わさる処に砦を設け始めておるとの報せもございます。我らは主に海沿いに足溜り(拠点)を設けておりますが、ゆくゆくは奥地へ向かうため、いずれ我らの利得の権を奪わんとする恐れがありましょう」
純正は静かに深呼吸し、随行している鍋島直茂をゆっくりとみる。その他の閣僚も真剣だ。
直茂は戦略会議室の長として諫早に置いておくつもりだったのだが、官兵衛や春家がいれば問題はないと、随行を申し出てきたのだ。おかげで随分助かっている。
ちなみに会議室次席の宇喜多直家は昨年既に没しており(史実より5年遅い)、宇喜多家の家督をついだ秀家も16歳(史実より2年早生まれ)となっていた。
そのため、後見の必要はなく、宇喜多春家が遺言により純正の許しをえて会議衆となっていたのだ。
「諸君」
純正は穏やかな声で切り出した。
「我らがいま差し当たって(直面して)おる事の様(状況)は、オレが考えていた以上に早く進んでいるようだ」
純正の声には重みがあり、部屋の空気が一段と引き締まる。
「然れど」と純正は続けた。
「これは同時に、我が国の北方政策を見直し、強める好機でもある」
閣僚たちは互いに顔を見合わせ、静かに頷いた。
「さて、まずはこのニコラエフスク・ナ・アムーレ……長いな。うむ……。ここは今日から北黒瀬浦町と名付ける。よいな?」
「はは!」
「ではここへ連隊、少なくとも大隊の兵を駐屯させ、独立して黒瀬部隊とする。もちろん、管轄は沿海地方総督府となるが、実務である軍政並びに軍令は陸軍とする」
それから……と純正がは続けた。
「ここは要塞化をすすめ、前線基地としてしかるべき川の上流地域にも橋頭堡を構える。直茂、なにかあるか?」
「北黒瀬浦の要塞化と前線基地化には賛成です。ただ、既存の先住民族との友好関係をさらに深める必要があるでしょう」
直茂は腕を組み、しばらく考え込んだ後、ゆっくりと口を開いた。地図を指さしながらさらに続ける。
「我らはすでに現地の民と誼を通わしてはおりますが、ロシア(ロシア・ツァーリ国)の東進に抗するには、彼らの助けをより強いものとせねばなりませぬ。然らば……例えば彼の者等を我が軍に組込み、斥候や通詞として用うるが如しにございましょう。また、彼の者等の古よりの狩り場を安んじ保つ事で、我が肥前国の友好の証とするのです」
純正は納得し、そのまま直茂の提案に耳を傾けた。
さらに、と直茂は続ける。
「アムール川を用いた奥地への交易の道を拡げ、銭と物と人の結びつきを強めるのが肝要かと存じます。彼の者等の産物を敢えて(積極的に)取引し、暮らし向きを良くできれば、我らの名残(影響力)はより安んじ定まる事でしょう」
純正は直茂の意見を聞き終えると、じっくりと考えた。やがて決意を固めたように全員を見渡し、声をあげる。
「よし、直茂の案を軸に進めよう。先住民との関係強化、内陸部への経済進出、そして軍事力の増強。この3つを柱とする」
純正は森蔵に向かって指示を出した。
「森蔵、お主は現地民との交誼をさらに深め、わが軍への投入と訓練を、陸軍と協力して行うのだ」
「はは」
森蔵は深々と頭を下げ、任務を受け入れた。
「直茂、お主はここに滞在中に商人と談合し、いかに商いを広げるかを考えよ。また、奥地に新たに足溜りを設けるべく、つぶさなる計画を立てるのだ」
「はは」
ロシア・ツァーリ国の東進が思ったより早い。それを見越しての港湾整備と総督府や鎮守府、陸軍の部隊配置であったが、より早く、より大規模な計画変更が必要になりつつあった。
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