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天下一統して大日本国となる。-天下百年の計?-
第725話 『奥羽越三州同盟』
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天正十四年二月二十四日(1585/3/25) 出羽国 置賜郡 米沢城
場内は殺伐とした雰囲気でありながらも、一つの目的を持って怱々たる面々が集まっている。
南部大膳大夫信直、斯波民部大輔詮直、葛西左京大夫晴信、戸沢治部大輔盛安、小野寺景道、最上右京大夫義光、大崎左衛門佐義隆、伊達左京大夫輝宗、蘆名左京亮盛隆、相馬長門守義胤らの出羽、陸奥の諸大名、そして越後の上杉弾正少弼景勝である。
その他にも大小の国人を入れると二十人はくだらない。
南部信直は四方を敵に囲まれ斯波詮直と敵対している。斯波詮直は大崎義隆と同盟し、その義隆は最上義光と同盟しつつ葛西晴信と敵対している。
伊達輝宗は蘆名盛隆と同盟を結ぶも最上義光や相馬義胤と敵対しており、上杉景勝は同盟を結んでいないが、敵対もしていない。
利害が絡み合う奥羽越三州の大名がここ米沢城で一堂に会したのには理由があった。
小佐々純正率いる大日本国について協議するためである。
米沢城の広間に集まった面々は、緊張感が漂う中静かに座っていたが、最初に口を開いたのは南部信直であった。石高で言えば上杉景勝が一歩抜きん出ていたが、上杉は独立独歩。国境を接する蘆名や伊達に勧められて参加している。
「方々(皆様)、本日はよくぞお集まりくださった。我らが集うのは、南の大国、大日本国に対する策を講じるためにござる」
南部信直の発言後、広間に集まった面々は沈黙に包まれる。突如最上義光が立ち上がり、自身の考えを述べた。
「方々、大日本国とはすなわち何ぞや? という事を考えねばならぬではないか?」
最上義光のとんちのような問いかけに、全員が動揺を隠せない様子だ。それぞれが互いに顔を見合わせ、誰かが答えを出すのを待っているように見える。
「最上殿、その問いの意図するところは何か? 我らは既に大日本国の何たるかを知っているではないか。佐竹と宇都宮は軍門に降り、関東より西、越後より南、西国全てが従っておる。忽ちに(すぐさま)取り掛くと(攻め寄せる)は思わぬが、以後は如何なる事の様になるかわからぬではありませぬか」
そう返事をしたのは葛西晴信だ。
最上義光は晴信の言葉を受け、ゆっくりと口を開く。広間の空気が張り詰める中、義光の声が静かに響く。
「葛西殿の仰せの通りだ。その通り、我ら皆、大日本国の勢いは十分に承知をしておる。然れど、某が問うているのはその先にあるものだ」
義光の言葉に、広間に静けさが広がった。
一部の者は身を乗り出し、他の者は腕を組んで考え込む。義光の発言が、これまでの議論の方向性を変える可能性を感じ取ったかのようだ。やがて伊達輝宗が姿勢を正し、義光を質した。
「最上殿、その先とは何を指しているのだ?」
伊達輝宗の問いに、広間の空気が変わる。大名たちの視線が義光に集中し、彼の答えを待った。義光は一呼吸置き、ゆっくりと言葉を選びながら話し始めた。
「大日本国の国力が増す中で、我らの所領に及ぼす名残(影響)も思い消つ(無視する)事能わぬ。また、大日本国とはすなわち肥前国に他なりませぬ。肥前国はもはや織田や武田が云々という類いの話ではなく、抗うなど到底能わぬのだ」
義光は苦々しくも現実を踏まえ、冷静に続ける。
「今年一月、村上郡で一揆が起きた砌、鮭延城よりわれらに施し米を都合してくれと求めがあった。然れどわれらに余力なく、能わなかった。ゆえに彼の者等は大日本国へ参入を求めて降り、矢庭に(即座に)十分過ぎるほどの施し米を得たそうじゃ。冬を越してもなお、余りあるくらいだ」
「某からも、今ひとつ」
発言したのは、上杉景勝である。
「わが上杉は、かつて小佐々と刃を交え申した。先代謙信公の頃にござるが、戦場にて敵と打ち合う兵法においては、些かも負けたとは思うておりませぬ。然れど、越後上野から信濃加賀までの広き国に数多の兵を配し、それを最も効あるように用いる武略と物量には、如何ともし難かったのでございます」
上杉家はここにいる大名の中で唯一、大日本国の前身である大同盟時代に、その中核たる小佐々家と戦争をし、そして敗れていたのだ。
「越中を奪われ湊を奪われ、それでも何とか一力にて国を統べ、富ませて国を治めようとしてまいったが、事ここにいたっては、如何ともし難い仕儀にござる」
普段あまり口数の多い方でない景勝であったが、よほど苦労してきたのだろう。眉間のしわが取れないほど、しかめっ面である。
広間に重苦しい空気が漂い、各大名たちは自らの領地の状況と照らし合わせ、深い考えに沈む。
「然して此度、伊達殿と蘆名殿、そして最上殿の誘いにて参ったが、我が上杉は、大日本国に加盟し、その恩恵を受けようと考える。如何なる手を打っても、流民が後をたたぬのだ。是非もなし」
「! ! !」
景勝の言葉を受け、広間は一瞬の静寂の後に怒号に包まれる。伊達輝宗が立ち上がり、拳を握りしめながら叫ぶ。
「何を仰せか弾正殿! 越後は大国、然様な事を仰せでは、亡き謙信公が浮かばれませぬぞ!」
「その我が父! 謙信公、先代の軍神御実城様ですら、勝てなかったのだ! 兵法曰く、戦は戦う前から勝敗が決まっておるという。まさに、銭、兵、戦道具、どれをとっても勝てるものなどないではないか!」
景勝はここぞとばかりに叫んだ。腹心の直江景綱は黙って横に座って聞いている。
「加えて領内の事の様をみるが良い。大日本国の中でも関白様が治める肥前国は富みに富み、隆盛を謳歌しておるというではないか。では何故に、斯様な差が生まれたのであろうか? 我らは未だ、米を年貢として納めさせる事で銭にしておる。然れど大日本国は違うのだ」
さらに続く。
「もう何十年も前から米ではなく、銭を国の礎として、商いを興して栄えさせ、それが米やその他の作物の出来にも名残となって及ぼすのだ。彼の地の民は飢えを知らぬ。いや、飢えずに済むようになったのだ。飢えず朝夕事にゆとりができ、蓄えや遊びに使える銭もある。然様な暮らしに憧れて、わが領内の民は流民となって留まる事がないのだ。如何にすればよいのだ?」
南部信直が冷静に応じる。
「弾正殿、我らもその現を心得て(理解して)おる。然れど我らには我らの術がある。まずは国許の商人たちを助け、商いを盛んにする策を講じることが肝要」
「密に報せを携え、一丸となって各地の動きを速やかに掴み、適切な対応を取るための仕組みを整えよう」
そう述べたのは斯波詮直であった。葛西晴信、小野寺景道、大崎義隆も同意したが、似たり寄ったりの意見である。
「ふふふふふ、あははははは……」
「弾正殿、何がおかしいのだ?」
最上義光が尋ねた。
「つぶさには? して其れを成すのに何年かかる?」
その問いに、面々は考え込んだ。伊達輝宗が重々しく答える。
「如何様(確かに)、我らの策を行い実を成すまでには時がかかりましょう。然れど何もしなければ悪し様となる」
「然様。我らが助け合い、行いを共にすることで、わずかでも変わろう。我らの決意と行いが先の世を切り開くのだ」
南部信直が続けた。
「つまびらかなる策はなし、という事ですな。その策をこれから考えるなど……。考えておる内に越後の領民は居なくなりまする」
景勝の言葉に、広間は再び静まり返る。各大名たちは互いの顔を見合わせ、答えに窮している様子だ。
「方々の領内の様子は存じませぬが、越後はお話した通りにござる。実のある話でもあればと思い参じましたが、そうではなかったようです。方々に仇なすつもりはありませぬゆえ、これにて失礼つかまつる」
景勝の言葉に広間は凍りついたかのような雰囲気となり、各大名たちは動揺を隠せない。景勝が立ち上がると、その動きに合わせて周囲の空気がさらに張り詰める。
「弾正殿、待たれよ。確かに我らの策は十分ではないかもしれぬ。然れど、ここで話し合いを終えては何も始まらぬ」
最上義光が景勝の正面に進み出て声を上げた。その言葉に他の大名たちも同意するように声をあげ、伊達輝宗が立ち上がり、景勝に向かって言う。
「弾正殿、我らも貴殿の苦境は得心致した。今一度、共に道を探ることはできぬか」
「? ……なぜ上杉が共に歩まねばならぬのだ? このままでは立ちゆかぬゆえ、大日本国に加わると申したまでだ。話はこれで終わりに御座ろう」
「弾正殿、その判の意は分かっております。然れど大日本国の名残(影響)を受けている今、我らが助け合い策を講じなければ、我らの領地は益々貧しくなるのではありませぬか?」
輝宗はさらに景勝に問いかけた。
「いや、然ればこそ、上杉は大日本国に加盟するゆえ、後は知らん。貴殿らが如何に動こうとも、我が領地と民を安んずる事が最も先に考えねばならぬ事。貴殿等も先の見えぬ評定を幾度もやるよりも、いっその事加わればよいのだ」
「なに?」
輝宗は景勝の言葉に動揺を隠せず、再度問いかけた。
「弾正殿、それが誠に最も良き策とお考えか? 大日本国に加盟する事が我らの唯一の道であるならば、以後は如何相成る? 服属せねばならぬなら、おいそれとは同意できかねる」
「服属? 何を仰せか。服属などせずともよい。方々にも新政府へ加わるよう書状が来ていたのではありませぬか? 我が領地と民が守られるのであれば、他のことは些事に過ぎぬのです。今は我が領民を安んじ栄えさせる事が何よりも大事である」
その言葉を最後に、景勝は兼続を伴って米沢城を後にした。越後上杉が大日本国へ加盟したのは翌月の事である。
次回 第726話 (仮)『予備役と各大名の私兵。大日本国と肥前国内の話』
場内は殺伐とした雰囲気でありながらも、一つの目的を持って怱々たる面々が集まっている。
南部大膳大夫信直、斯波民部大輔詮直、葛西左京大夫晴信、戸沢治部大輔盛安、小野寺景道、最上右京大夫義光、大崎左衛門佐義隆、伊達左京大夫輝宗、蘆名左京亮盛隆、相馬長門守義胤らの出羽、陸奥の諸大名、そして越後の上杉弾正少弼景勝である。
その他にも大小の国人を入れると二十人はくだらない。
南部信直は四方を敵に囲まれ斯波詮直と敵対している。斯波詮直は大崎義隆と同盟し、その義隆は最上義光と同盟しつつ葛西晴信と敵対している。
伊達輝宗は蘆名盛隆と同盟を結ぶも最上義光や相馬義胤と敵対しており、上杉景勝は同盟を結んでいないが、敵対もしていない。
利害が絡み合う奥羽越三州の大名がここ米沢城で一堂に会したのには理由があった。
小佐々純正率いる大日本国について協議するためである。
米沢城の広間に集まった面々は、緊張感が漂う中静かに座っていたが、最初に口を開いたのは南部信直であった。石高で言えば上杉景勝が一歩抜きん出ていたが、上杉は独立独歩。国境を接する蘆名や伊達に勧められて参加している。
「方々(皆様)、本日はよくぞお集まりくださった。我らが集うのは、南の大国、大日本国に対する策を講じるためにござる」
南部信直の発言後、広間に集まった面々は沈黙に包まれる。突如最上義光が立ち上がり、自身の考えを述べた。
「方々、大日本国とはすなわち何ぞや? という事を考えねばならぬではないか?」
最上義光のとんちのような問いかけに、全員が動揺を隠せない様子だ。それぞれが互いに顔を見合わせ、誰かが答えを出すのを待っているように見える。
「最上殿、その問いの意図するところは何か? 我らは既に大日本国の何たるかを知っているではないか。佐竹と宇都宮は軍門に降り、関東より西、越後より南、西国全てが従っておる。忽ちに(すぐさま)取り掛くと(攻め寄せる)は思わぬが、以後は如何なる事の様になるかわからぬではありませぬか」
そう返事をしたのは葛西晴信だ。
最上義光は晴信の言葉を受け、ゆっくりと口を開く。広間の空気が張り詰める中、義光の声が静かに響く。
「葛西殿の仰せの通りだ。その通り、我ら皆、大日本国の勢いは十分に承知をしておる。然れど、某が問うているのはその先にあるものだ」
義光の言葉に、広間に静けさが広がった。
一部の者は身を乗り出し、他の者は腕を組んで考え込む。義光の発言が、これまでの議論の方向性を変える可能性を感じ取ったかのようだ。やがて伊達輝宗が姿勢を正し、義光を質した。
「最上殿、その先とは何を指しているのだ?」
伊達輝宗の問いに、広間の空気が変わる。大名たちの視線が義光に集中し、彼の答えを待った。義光は一呼吸置き、ゆっくりと言葉を選びながら話し始めた。
「大日本国の国力が増す中で、我らの所領に及ぼす名残(影響)も思い消つ(無視する)事能わぬ。また、大日本国とはすなわち肥前国に他なりませぬ。肥前国はもはや織田や武田が云々という類いの話ではなく、抗うなど到底能わぬのだ」
義光は苦々しくも現実を踏まえ、冷静に続ける。
「今年一月、村上郡で一揆が起きた砌、鮭延城よりわれらに施し米を都合してくれと求めがあった。然れどわれらに余力なく、能わなかった。ゆえに彼の者等は大日本国へ参入を求めて降り、矢庭に(即座に)十分過ぎるほどの施し米を得たそうじゃ。冬を越してもなお、余りあるくらいだ」
「某からも、今ひとつ」
発言したのは、上杉景勝である。
「わが上杉は、かつて小佐々と刃を交え申した。先代謙信公の頃にござるが、戦場にて敵と打ち合う兵法においては、些かも負けたとは思うておりませぬ。然れど、越後上野から信濃加賀までの広き国に数多の兵を配し、それを最も効あるように用いる武略と物量には、如何ともし難かったのでございます」
上杉家はここにいる大名の中で唯一、大日本国の前身である大同盟時代に、その中核たる小佐々家と戦争をし、そして敗れていたのだ。
「越中を奪われ湊を奪われ、それでも何とか一力にて国を統べ、富ませて国を治めようとしてまいったが、事ここにいたっては、如何ともし難い仕儀にござる」
普段あまり口数の多い方でない景勝であったが、よほど苦労してきたのだろう。眉間のしわが取れないほど、しかめっ面である。
広間に重苦しい空気が漂い、各大名たちは自らの領地の状況と照らし合わせ、深い考えに沈む。
「然して此度、伊達殿と蘆名殿、そして最上殿の誘いにて参ったが、我が上杉は、大日本国に加盟し、その恩恵を受けようと考える。如何なる手を打っても、流民が後をたたぬのだ。是非もなし」
「! ! !」
景勝の言葉を受け、広間は一瞬の静寂の後に怒号に包まれる。伊達輝宗が立ち上がり、拳を握りしめながら叫ぶ。
「何を仰せか弾正殿! 越後は大国、然様な事を仰せでは、亡き謙信公が浮かばれませぬぞ!」
「その我が父! 謙信公、先代の軍神御実城様ですら、勝てなかったのだ! 兵法曰く、戦は戦う前から勝敗が決まっておるという。まさに、銭、兵、戦道具、どれをとっても勝てるものなどないではないか!」
景勝はここぞとばかりに叫んだ。腹心の直江景綱は黙って横に座って聞いている。
「加えて領内の事の様をみるが良い。大日本国の中でも関白様が治める肥前国は富みに富み、隆盛を謳歌しておるというではないか。では何故に、斯様な差が生まれたのであろうか? 我らは未だ、米を年貢として納めさせる事で銭にしておる。然れど大日本国は違うのだ」
さらに続く。
「もう何十年も前から米ではなく、銭を国の礎として、商いを興して栄えさせ、それが米やその他の作物の出来にも名残となって及ぼすのだ。彼の地の民は飢えを知らぬ。いや、飢えずに済むようになったのだ。飢えず朝夕事にゆとりができ、蓄えや遊びに使える銭もある。然様な暮らしに憧れて、わが領内の民は流民となって留まる事がないのだ。如何にすればよいのだ?」
南部信直が冷静に応じる。
「弾正殿、我らもその現を心得て(理解して)おる。然れど我らには我らの術がある。まずは国許の商人たちを助け、商いを盛んにする策を講じることが肝要」
「密に報せを携え、一丸となって各地の動きを速やかに掴み、適切な対応を取るための仕組みを整えよう」
そう述べたのは斯波詮直であった。葛西晴信、小野寺景道、大崎義隆も同意したが、似たり寄ったりの意見である。
「ふふふふふ、あははははは……」
「弾正殿、何がおかしいのだ?」
最上義光が尋ねた。
「つぶさには? して其れを成すのに何年かかる?」
その問いに、面々は考え込んだ。伊達輝宗が重々しく答える。
「如何様(確かに)、我らの策を行い実を成すまでには時がかかりましょう。然れど何もしなければ悪し様となる」
「然様。我らが助け合い、行いを共にすることで、わずかでも変わろう。我らの決意と行いが先の世を切り開くのだ」
南部信直が続けた。
「つまびらかなる策はなし、という事ですな。その策をこれから考えるなど……。考えておる内に越後の領民は居なくなりまする」
景勝の言葉に、広間は再び静まり返る。各大名たちは互いの顔を見合わせ、答えに窮している様子だ。
「方々の領内の様子は存じませぬが、越後はお話した通りにござる。実のある話でもあればと思い参じましたが、そうではなかったようです。方々に仇なすつもりはありませぬゆえ、これにて失礼つかまつる」
景勝の言葉に広間は凍りついたかのような雰囲気となり、各大名たちは動揺を隠せない。景勝が立ち上がると、その動きに合わせて周囲の空気がさらに張り詰める。
「弾正殿、待たれよ。確かに我らの策は十分ではないかもしれぬ。然れど、ここで話し合いを終えては何も始まらぬ」
最上義光が景勝の正面に進み出て声を上げた。その言葉に他の大名たちも同意するように声をあげ、伊達輝宗が立ち上がり、景勝に向かって言う。
「弾正殿、我らも貴殿の苦境は得心致した。今一度、共に道を探ることはできぬか」
「? ……なぜ上杉が共に歩まねばならぬのだ? このままでは立ちゆかぬゆえ、大日本国に加わると申したまでだ。話はこれで終わりに御座ろう」
「弾正殿、その判の意は分かっております。然れど大日本国の名残(影響)を受けている今、我らが助け合い策を講じなければ、我らの領地は益々貧しくなるのではありませぬか?」
輝宗はさらに景勝に問いかけた。
「いや、然ればこそ、上杉は大日本国に加盟するゆえ、後は知らん。貴殿らが如何に動こうとも、我が領地と民を安んずる事が最も先に考えねばならぬ事。貴殿等も先の見えぬ評定を幾度もやるよりも、いっその事加わればよいのだ」
「なに?」
輝宗は景勝の言葉に動揺を隠せず、再度問いかけた。
「弾正殿、それが誠に最も良き策とお考えか? 大日本国に加盟する事が我らの唯一の道であるならば、以後は如何相成る? 服属せねばならぬなら、おいそれとは同意できかねる」
「服属? 何を仰せか。服属などせずともよい。方々にも新政府へ加わるよう書状が来ていたのではありませぬか? 我が領地と民が守られるのであれば、他のことは些事に過ぎぬのです。今は我が領民を安んじ栄えさせる事が何よりも大事である」
その言葉を最後に、景勝は兼続を伴って米沢城を後にした。越後上杉が大日本国へ加盟したのは翌月の事である。
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