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天下一統して大日本国となる。-天下百年の計?-
第724話 『会合衆の世界進出と九州五傑』
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天正十四年一月十五日(1585/2/14) 堺
「そう、それが最も難し事なのだ」
会合衆の議論は連日続き、白熱していった。
千宗易(利休)の提案に多くの者が興味を示す一方で、実現に向けての課題も浮き彫りになっていた。
山上宗二は腕を組み、目を閉じて考え込む。
「確かに、畿内の産物は西国の物と比べても遜色はない。然れど津田殿の言うように、如何にして運ぶか、如何にして売るかというのが大きな壁となりましょう」
「そうですな」
紅屋宗陽は顎に手をやり、一呼吸置いてから語り始めた。
「九州五傑に助けを仰ぐしかないでしょう。頭を下げてでも、彼の者らの持つ船路と人の繋がりを用いねばなりませぬ」
塩屋宗悦がそれを受けて言う。
「宗久殿、そう言えばあなたは、五傑のひとり、平戸道喜どのと昵懇とか……」
「昵懇、というほどではありませぬ。以前胡椒の商いで世話になっただけでございます。それも先代、当代の道喜殿とは一度面識があるのみにございます」
宗久の言葉に会合衆の面々は複雑な表情を浮かべるが、津田宗及が茶碗を置いて発言する。
「それでも繋がりはあるのです。宗久殿、一度渡りがつくよう話をしていただけませぬか?」
宗久は腕を組んでしばらく考えていたが、意を決したように返事をした。
「わかりました。では私が平戸に今一度赴き、道喜殿と話をしてみましょう。然れど、道喜殿も商人。ただで引き受けていただく事は能わぬでしょう。相応の代(対価・代償)を渡さねば、得心されぬでしょうから、私に一任していただけますかな?」
宗久の言葉に部屋の雰囲気が急変した。会合衆の面々は互いの顔を見合わせ、その表情には新たな可能性への期待と、未知の取り組みへの緊張感が交錯していた。
「……宗久殿の判に委ねるのが良いでしょう。いずれにしても我らに他に道はないのです」
千宗易は静かに茶碗を置き、穏やかな口調で話した。しばらくして松江隆仙は宗久に近づきながら言う。
「相応の代と仰せですが、如何ほどと考えておられますか?」
宗久は腕を組んだまま、天井を見上げて答えた。全員が宗久を見る。
「そうですな……つぶさなる代は話してみなければわかりませぬが、我らの品の値と先の事を考えれば、決して安き代ではないかと存じます」
全ては今井宗久の交渉次第。堺の会合衆の運命は宗久の双肩にかかっている。
■肥前 平戸
「おや、これはこれは。宗久殿ではございませぬか」
杖など必要ないくらい背筋が伸び、足取りも軽やかな老人が言った。道喜の屋敷は海沿いにあり、対岸には平戸の瀬戸の黒小島、そして田平村を望む。
間断なく商船が行き交い、平戸は往時と変わらぬ賑わいを見せていた。純正が松浦氏を滅ぼした後、平戸城を棄却せずにそのまま残し、横瀬とともに湊として整備して保護していたからだ。
平戸、横瀬、長崎、口之津。この肥前の4港のうち一番古いのが平戸である。
純正がまだ沢森政忠だった頃、当時の寄親的存在であった大村純忠の支援の下に、横瀬を開いたのだが、時を同じくして兄である有馬義貞が口之津を開いたのだ。
そして最後が長崎である。ここは貿易港としてはもちろんだが、肥前の中では佐世保と並んで造船の町でもある。
「ご無沙汰しております、道喜殿。此度は、少々お願いしたし儀がありまして参上しました」
宗久は頭を下げて道喜に答えた。道喜は微笑み、手招きする。
「ふふふ……これは珍しいことですな。胡椒の商い以来でございましょうか。ささ、お入りください」
屋敷の中に通された宗久は、用意された茶席に座り、改めて話を切り出した。
「実は我ら堺の会合衆も、新たに南蛮への商いの道を探しておりまして、その際に道喜殿のご助力を仰ぎたいと考えております。つぶさには船路と、南蛮商人との繋がりをお借りしたいのです」
道喜は静かに茶を点てながら、興味深そうに言う。
「うべなるかな(なるほど)。それは興有りにございますな。して、如何なる品をお考えですか?」
「茶の湯の道具や、京や畿内の工芸品でございます。漆器、刀剣、織物などに加え、茶器や絹織物、薬品などを考えております」
宗久の言葉に道喜は表情を変えなかったが、点て終えた茶を宗久に静かに渡し、返事をする。
「ふむ、如何様(確かに)面白し(興味深い)品々ですな。然れど異国で如何ほどの要ありや、如何にして運ぶかなど、考えねばならぬ事柄も多そうです。船路の手配を致すだけなら銭をいただければやりましょう。然れど彼の地にて商いの指南を少なからずやるとなれば話は別。やはり直に品を見てみなければなりません」
宗久は道喜の話に聞き入っている。
「如何でしょう宗久殿。それらの品を一度こちらに送って下さいませぬか? その上で改めてお話をいたすということで」
道喜は慎重に考え、答えた。それを受け宗久は覚悟を決めたように言う。
「無論にございます。また相応に報います(報酬を支払う)。それでは、早速堺に戻り、支度を整えます。此度はありがとうございます」
「承知しました。加えて……つぶさなる題目は詰める要ありにございますが……まずは利の半ら(半分)をいただくという事で、いかがでしょうか」
「な!」
半分の利益を要求することは予想以上の条件だ。しかし、この機会を逃せば堺の商人たちの夢は潰えてしまう。
「利の半らとは、随分と高いとお思いでしょう?」
「それは……」
「良いのです。私が逆の立場なら、同じように考えます。然れど宗久殿も商人なら、物の値は如何に要があるか、如何に供す量があるかで決まる事をご存じでしょう。昔は南方の香辛料は、南蛮の商人が命をかけて海を渡り、この平戸で売っておりました。代わりに今は、我らが赴いているのです。命の値は安くはありませぬ」
道喜はニコニコと笑いながら言った。
「道喜殿、案を提していただき有難く存じます。如何様(確かに)難し題目ではございますが、道喜殿のお力添えなくしては成し得ない大商いにございます。お受けいたします」
宗久は道喜の話を聞き、ためらいはしたものの、やがて決意を固めた。
「よろしゅうございます。では、つぶさなる取り決めは品物を拝見してからにいたしましょう」
道喜は満足げに微笑んだ。
次回 第725話 (仮)『奥羽越三州同盟』
「そう、それが最も難し事なのだ」
会合衆の議論は連日続き、白熱していった。
千宗易(利休)の提案に多くの者が興味を示す一方で、実現に向けての課題も浮き彫りになっていた。
山上宗二は腕を組み、目を閉じて考え込む。
「確かに、畿内の産物は西国の物と比べても遜色はない。然れど津田殿の言うように、如何にして運ぶか、如何にして売るかというのが大きな壁となりましょう」
「そうですな」
紅屋宗陽は顎に手をやり、一呼吸置いてから語り始めた。
「九州五傑に助けを仰ぐしかないでしょう。頭を下げてでも、彼の者らの持つ船路と人の繋がりを用いねばなりませぬ」
塩屋宗悦がそれを受けて言う。
「宗久殿、そう言えばあなたは、五傑のひとり、平戸道喜どのと昵懇とか……」
「昵懇、というほどではありませぬ。以前胡椒の商いで世話になっただけでございます。それも先代、当代の道喜殿とは一度面識があるのみにございます」
宗久の言葉に会合衆の面々は複雑な表情を浮かべるが、津田宗及が茶碗を置いて発言する。
「それでも繋がりはあるのです。宗久殿、一度渡りがつくよう話をしていただけませぬか?」
宗久は腕を組んでしばらく考えていたが、意を決したように返事をした。
「わかりました。では私が平戸に今一度赴き、道喜殿と話をしてみましょう。然れど、道喜殿も商人。ただで引き受けていただく事は能わぬでしょう。相応の代(対価・代償)を渡さねば、得心されぬでしょうから、私に一任していただけますかな?」
宗久の言葉に部屋の雰囲気が急変した。会合衆の面々は互いの顔を見合わせ、その表情には新たな可能性への期待と、未知の取り組みへの緊張感が交錯していた。
「……宗久殿の判に委ねるのが良いでしょう。いずれにしても我らに他に道はないのです」
千宗易は静かに茶碗を置き、穏やかな口調で話した。しばらくして松江隆仙は宗久に近づきながら言う。
「相応の代と仰せですが、如何ほどと考えておられますか?」
宗久は腕を組んだまま、天井を見上げて答えた。全員が宗久を見る。
「そうですな……つぶさなる代は話してみなければわかりませぬが、我らの品の値と先の事を考えれば、決して安き代ではないかと存じます」
全ては今井宗久の交渉次第。堺の会合衆の運命は宗久の双肩にかかっている。
■肥前 平戸
「おや、これはこれは。宗久殿ではございませぬか」
杖など必要ないくらい背筋が伸び、足取りも軽やかな老人が言った。道喜の屋敷は海沿いにあり、対岸には平戸の瀬戸の黒小島、そして田平村を望む。
間断なく商船が行き交い、平戸は往時と変わらぬ賑わいを見せていた。純正が松浦氏を滅ぼした後、平戸城を棄却せずにそのまま残し、横瀬とともに湊として整備して保護していたからだ。
平戸、横瀬、長崎、口之津。この肥前の4港のうち一番古いのが平戸である。
純正がまだ沢森政忠だった頃、当時の寄親的存在であった大村純忠の支援の下に、横瀬を開いたのだが、時を同じくして兄である有馬義貞が口之津を開いたのだ。
そして最後が長崎である。ここは貿易港としてはもちろんだが、肥前の中では佐世保と並んで造船の町でもある。
「ご無沙汰しております、道喜殿。此度は、少々お願いしたし儀がありまして参上しました」
宗久は頭を下げて道喜に答えた。道喜は微笑み、手招きする。
「ふふふ……これは珍しいことですな。胡椒の商い以来でございましょうか。ささ、お入りください」
屋敷の中に通された宗久は、用意された茶席に座り、改めて話を切り出した。
「実は我ら堺の会合衆も、新たに南蛮への商いの道を探しておりまして、その際に道喜殿のご助力を仰ぎたいと考えております。つぶさには船路と、南蛮商人との繋がりをお借りしたいのです」
道喜は静かに茶を点てながら、興味深そうに言う。
「うべなるかな(なるほど)。それは興有りにございますな。して、如何なる品をお考えですか?」
「茶の湯の道具や、京や畿内の工芸品でございます。漆器、刀剣、織物などに加え、茶器や絹織物、薬品などを考えております」
宗久の言葉に道喜は表情を変えなかったが、点て終えた茶を宗久に静かに渡し、返事をする。
「ふむ、如何様(確かに)面白し(興味深い)品々ですな。然れど異国で如何ほどの要ありや、如何にして運ぶかなど、考えねばならぬ事柄も多そうです。船路の手配を致すだけなら銭をいただければやりましょう。然れど彼の地にて商いの指南を少なからずやるとなれば話は別。やはり直に品を見てみなければなりません」
宗久は道喜の話に聞き入っている。
「如何でしょう宗久殿。それらの品を一度こちらに送って下さいませぬか? その上で改めてお話をいたすということで」
道喜は慎重に考え、答えた。それを受け宗久は覚悟を決めたように言う。
「無論にございます。また相応に報います(報酬を支払う)。それでは、早速堺に戻り、支度を整えます。此度はありがとうございます」
「承知しました。加えて……つぶさなる題目は詰める要ありにございますが……まずは利の半ら(半分)をいただくという事で、いかがでしょうか」
「な!」
半分の利益を要求することは予想以上の条件だ。しかし、この機会を逃せば堺の商人たちの夢は潰えてしまう。
「利の半らとは、随分と高いとお思いでしょう?」
「それは……」
「良いのです。私が逆の立場なら、同じように考えます。然れど宗久殿も商人なら、物の値は如何に要があるか、如何に供す量があるかで決まる事をご存じでしょう。昔は南方の香辛料は、南蛮の商人が命をかけて海を渡り、この平戸で売っておりました。代わりに今は、我らが赴いているのです。命の値は安くはありませぬ」
道喜はニコニコと笑いながら言った。
「道喜殿、案を提していただき有難く存じます。如何様(確かに)難し題目ではございますが、道喜殿のお力添えなくしては成し得ない大商いにございます。お受けいたします」
宗久は道喜の話を聞き、ためらいはしたものの、やがて決意を固めた。
「よろしゅうございます。では、つぶさなる取り決めは品物を拝見してからにいたしましょう」
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