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天下一統して大日本国となる。-天下百年の計?-
第714話 『大日本国政府非加盟国の食糧事情』
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天正十三年一月二十七日(1584/3/9) 岐阜城
「殿、筑前守様(羽柴秀吉)、お越しにございます」
「通せ」
岐阜城の謁見の間において秀吉を出迎えた信忠は、諫早で学んでいた頃の面影を残しつつも、為政者としての威厳が備わりつつあった。
信忠は数えで27歳である。
「筑前、お召しにより只今参上致しましてございます」
「うむ、大儀である」
型通りの挨拶が終わった後は、織田領の内政における事実上のトップとなった信忠と、前当主信長を支えてきた功臣秀吉との会話となる。信忠は臣下である秀吉に敬意を払いつつ、なごやかに会話は進む。
「日向守にも聞いたのだが、粮料の自給率が足りぬようじゃな?」
「自……給率、に、ございますか?」
秀吉は信忠が時々発する言葉の意味が理解できない。
というのも信忠をはじめとした小佐々留学組は、現在でも同期の小佐々領(州)在住者と手紙のやり取りで交流を続けており、新しい概念や言葉、ポルトガル語の和訳で新たに生まれた言葉を使っていたのだ。
これはいわゆる純正の言葉である。
日本語であれば漢文の素養があればなんとなく理解はできるのだが、問題はこの当時には存在しない英語が、そのまま日本語になったカタカナである。
例えば前述の自給率でいえば、率であるためパーセントであるが、自給率~パーセントと言われても理解ができない。もともとはラテン語の"per centum"が語源であり、perは『毎に』、centumは『百』を意味する。
英語表記ならイギリスでは "per cent"と2語で書かれることが多いが、アメリカ合衆国では"percent"と1語で書かれる。
いずれにしても、同じだ。
「ああ、要するに自らの朝夕事(日常生活)に要る粮料を、如何ほど自領で賄えておるか、という事じゃ。全て賄えておるなら十となり、足りなければ九割、八割となる」
「申し訳ありませぬ。それがし浅学にて然様な言葉は存じませんでした」
「良い。斯様な事は些末な事であり、要はこれを如何に生かすかという事なのだ。して、如何であろうか?」
信忠は改めて秀吉に聞いた。
「は。然れば、調べてはおらぬゆえつぶさには存じませぬが、おおよそ八割から八割五分ほどではないかと存じます」
「ほう? 残りの二割はなんじゃ?」
「田舎や山里の『自給率』はほぼ十にございますが、岐阜や清洲、その他の開けた市中(市街地・町中)では米は買うより他ございませぬので、その分を不足として二割減らしてございます」
信忠は秀吉の報告を聞いて、考え込む。
「では、餓ゑ(飢饉)となった時には如何致すのだ? 他にも地震(ない)などの災いがあろう。施し米の蓄えはあるのか?」
「は。幾分かはございますが、とても民すべてに施せる数はございませぬ」
「……それでは非常の際には民が飢ゑ苦しむではないか。新政府の発足以来、父上は国政に専念されておる。わしは濃尾のみならず全織田領の統治をまかされておるのだ」
「は」
偉大な父を持ち、その背負ってきた物を引き継いだ若者の背に、責任が重くのしかかる。
「まずは仮初めでも構わぬ故、小佐々州より古米や古古米を買い集めるのだ。値については商人がつり上げないよう内府……今は関白様であるな。いや、その前に常陸介……治部少輔殿(小佐々純久)に願いでよう。筑前、内閣の副財務大臣への打診があったのであろう? わしも大学の時の知己を頼ってみるゆえ、農水大臣の曽根殿にも便宜を図ってもらうのだ」
「はは」
■出羽国 村上郡 真室城(鮭延城)
「申し上げます! 一揆、一揆が起きましてございます!」
「何? 何処でじゃ?」
「川内村にございます!」
鮭延秀綱は、家臣の慌てた報告に眉をひそめた。
「川内村だと? 何故だ? その故(理由・原因)はわかっておるのか?」
聞かなくてもわかる。
食料だ。戦国時代の一揆の原因なんて、食えないからに決まっている。
我慢強いとか礼儀礼節の前に、まず食うことが困難だったのだ。その為に、まずは日々の生活で食事にありつける。それだけで幸せだったのだ。
切り詰めて切り詰めて、それでもどうにもならなくて、一揆を起こすのだ。
実は秀綱は悪い予感がしていた。
昨年の凶作に続いて今年は寒さが厳しく、施し米の蓄えもないので昨年馬揃えを行って武威を示した最上家に、恭順するので兵糧の蓄えを回してほしいと頼んでいたのだ。
しかし、最上家からは返答がなかった。
国人の鮭延氏と複数の郡を統べる大名の最上氏では国力の差は明らかである。にもかかわらず、援助はなかったのだ。やはり北国はどこも同じだったのだろう。
実は、今回の飢饉に限らず鮭延領では領民の逃散による流民が相次いでいた。領民にしっかりと命じ、罰を与えると通達しても逃げ出す者は増えていたのだ。
飯が食いたい。
ただその思いだけで逃散し国を捨てて流民となっても、小佐々領にいけば食える。そして職にありついて安心して暮らせるのだ。
そうせず、我慢していた者達が、今回の一揆を起こした。
「……最上家からの返答はまだか? ……まだであろうがな」
秀綱は頭を抱え、しばらく考えた後に再び家臣に尋ねた。
「申し訳ございません。未だ返答はございません」
状況は思った以上に深刻である。
「あい分かった。では、すぐに川内村へ向かうとする。十郎を同行させよ。それから其の方、大宝寺殿へ助けを求める使者となれ。誼は通わしておらねど、小佐々の新政府とやらからは何度も文が来ておる。助けてくれるだろう」
「かしこまりました」
家臣は深々と頭を下げ、すぐに大宝寺家へ向かうための準備を始めた。
秀綱は重い足取りで馬に乗り、家老の鮭延十郎と共に川内村へと向かう。寒風が吹きすさぶ中、村に到着すると、そこには飢えと寒さに苦しむ農民たちの姿があった。
「皆、聞いてくれ」
秀綱は声を張り上げた。
「今、皆の朝夕事が窮しておることは十分に存じておる。然れど、ここで一揆を起こしても何も成らぬ」
村の代官所の前に集まった群衆の中から、一人の痩せこけた農民が前に出てきた。村の長老であり村長である。
「殿様、もうこれ以上忍ぶこと能いませぬ。忍ぶに忍び、耐えに耐えても、子らは飢えて死にそうです。聞けば小佐々の領内では食うに困ることはなく、生業もあり、朝夕事に困る事はないとの事」
秀綱は農民たちの絶望的な表情を見回した。確かに、彼らの訴えは切実だった。
「わかった」
秀綱は深く息を吐いた。
「まずは城の蔵から残りの米をすべて分け与えよう。加えて大宝寺家に助けを求める使者を出した。必ず助けは来る」
農民たちの表情が少し和らいだが、まだ疑いの色は消えなかった。
「殿」
十郎が進言した。
「ここに至っては、小佐々の新政府に加盟する他ありますまい。少なくとも、民が飢え、斯様な一揆を起こす事はなくなりまする」
秀綱は一瞬躊躇したが、すぐに決断した。
「あい分かった。この鮭延領は小佐々の新政府に加盟する事とする」
鮭延秀綱が治める真室川一帯の地域が、新政府の加盟地域となった。
次回 第715話 (仮)『大日本政府、大臣以下の閣僚人事』
「殿、筑前守様(羽柴秀吉)、お越しにございます」
「通せ」
岐阜城の謁見の間において秀吉を出迎えた信忠は、諫早で学んでいた頃の面影を残しつつも、為政者としての威厳が備わりつつあった。
信忠は数えで27歳である。
「筑前、お召しにより只今参上致しましてございます」
「うむ、大儀である」
型通りの挨拶が終わった後は、織田領の内政における事実上のトップとなった信忠と、前当主信長を支えてきた功臣秀吉との会話となる。信忠は臣下である秀吉に敬意を払いつつ、なごやかに会話は進む。
「日向守にも聞いたのだが、粮料の自給率が足りぬようじゃな?」
「自……給率、に、ございますか?」
秀吉は信忠が時々発する言葉の意味が理解できない。
というのも信忠をはじめとした小佐々留学組は、現在でも同期の小佐々領(州)在住者と手紙のやり取りで交流を続けており、新しい概念や言葉、ポルトガル語の和訳で新たに生まれた言葉を使っていたのだ。
これはいわゆる純正の言葉である。
日本語であれば漢文の素養があればなんとなく理解はできるのだが、問題はこの当時には存在しない英語が、そのまま日本語になったカタカナである。
例えば前述の自給率でいえば、率であるためパーセントであるが、自給率~パーセントと言われても理解ができない。もともとはラテン語の"per centum"が語源であり、perは『毎に』、centumは『百』を意味する。
英語表記ならイギリスでは "per cent"と2語で書かれることが多いが、アメリカ合衆国では"percent"と1語で書かれる。
いずれにしても、同じだ。
「ああ、要するに自らの朝夕事(日常生活)に要る粮料を、如何ほど自領で賄えておるか、という事じゃ。全て賄えておるなら十となり、足りなければ九割、八割となる」
「申し訳ありませぬ。それがし浅学にて然様な言葉は存じませんでした」
「良い。斯様な事は些末な事であり、要はこれを如何に生かすかという事なのだ。して、如何であろうか?」
信忠は改めて秀吉に聞いた。
「は。然れば、調べてはおらぬゆえつぶさには存じませぬが、おおよそ八割から八割五分ほどではないかと存じます」
「ほう? 残りの二割はなんじゃ?」
「田舎や山里の『自給率』はほぼ十にございますが、岐阜や清洲、その他の開けた市中(市街地・町中)では米は買うより他ございませぬので、その分を不足として二割減らしてございます」
信忠は秀吉の報告を聞いて、考え込む。
「では、餓ゑ(飢饉)となった時には如何致すのだ? 他にも地震(ない)などの災いがあろう。施し米の蓄えはあるのか?」
「は。幾分かはございますが、とても民すべてに施せる数はございませぬ」
「……それでは非常の際には民が飢ゑ苦しむではないか。新政府の発足以来、父上は国政に専念されておる。わしは濃尾のみならず全織田領の統治をまかされておるのだ」
「は」
偉大な父を持ち、その背負ってきた物を引き継いだ若者の背に、責任が重くのしかかる。
「まずは仮初めでも構わぬ故、小佐々州より古米や古古米を買い集めるのだ。値については商人がつり上げないよう内府……今は関白様であるな。いや、その前に常陸介……治部少輔殿(小佐々純久)に願いでよう。筑前、内閣の副財務大臣への打診があったのであろう? わしも大学の時の知己を頼ってみるゆえ、農水大臣の曽根殿にも便宜を図ってもらうのだ」
「はは」
■出羽国 村上郡 真室城(鮭延城)
「申し上げます! 一揆、一揆が起きましてございます!」
「何? 何処でじゃ?」
「川内村にございます!」
鮭延秀綱は、家臣の慌てた報告に眉をひそめた。
「川内村だと? 何故だ? その故(理由・原因)はわかっておるのか?」
聞かなくてもわかる。
食料だ。戦国時代の一揆の原因なんて、食えないからに決まっている。
我慢強いとか礼儀礼節の前に、まず食うことが困難だったのだ。その為に、まずは日々の生活で食事にありつける。それだけで幸せだったのだ。
切り詰めて切り詰めて、それでもどうにもならなくて、一揆を起こすのだ。
実は秀綱は悪い予感がしていた。
昨年の凶作に続いて今年は寒さが厳しく、施し米の蓄えもないので昨年馬揃えを行って武威を示した最上家に、恭順するので兵糧の蓄えを回してほしいと頼んでいたのだ。
しかし、最上家からは返答がなかった。
国人の鮭延氏と複数の郡を統べる大名の最上氏では国力の差は明らかである。にもかかわらず、援助はなかったのだ。やはり北国はどこも同じだったのだろう。
実は、今回の飢饉に限らず鮭延領では領民の逃散による流民が相次いでいた。領民にしっかりと命じ、罰を与えると通達しても逃げ出す者は増えていたのだ。
飯が食いたい。
ただその思いだけで逃散し国を捨てて流民となっても、小佐々領にいけば食える。そして職にありついて安心して暮らせるのだ。
そうせず、我慢していた者達が、今回の一揆を起こした。
「……最上家からの返答はまだか? ……まだであろうがな」
秀綱は頭を抱え、しばらく考えた後に再び家臣に尋ねた。
「申し訳ございません。未だ返答はございません」
状況は思った以上に深刻である。
「あい分かった。では、すぐに川内村へ向かうとする。十郎を同行させよ。それから其の方、大宝寺殿へ助けを求める使者となれ。誼は通わしておらねど、小佐々の新政府とやらからは何度も文が来ておる。助けてくれるだろう」
「かしこまりました」
家臣は深々と頭を下げ、すぐに大宝寺家へ向かうための準備を始めた。
秀綱は重い足取りで馬に乗り、家老の鮭延十郎と共に川内村へと向かう。寒風が吹きすさぶ中、村に到着すると、そこには飢えと寒さに苦しむ農民たちの姿があった。
「皆、聞いてくれ」
秀綱は声を張り上げた。
「今、皆の朝夕事が窮しておることは十分に存じておる。然れど、ここで一揆を起こしても何も成らぬ」
村の代官所の前に集まった群衆の中から、一人の痩せこけた農民が前に出てきた。村の長老であり村長である。
「殿様、もうこれ以上忍ぶこと能いませぬ。忍ぶに忍び、耐えに耐えても、子らは飢えて死にそうです。聞けば小佐々の領内では食うに困ることはなく、生業もあり、朝夕事に困る事はないとの事」
秀綱は農民たちの絶望的な表情を見回した。確かに、彼らの訴えは切実だった。
「わかった」
秀綱は深く息を吐いた。
「まずは城の蔵から残りの米をすべて分け与えよう。加えて大宝寺家に助けを求める使者を出した。必ず助けは来る」
農民たちの表情が少し和らいだが、まだ疑いの色は消えなかった。
「殿」
十郎が進言した。
「ここに至っては、小佐々の新政府に加盟する他ありますまい。少なくとも、民が飢え、斯様な一揆を起こす事はなくなりまする」
秀綱は一瞬躊躇したが、すぐに決断した。
「あい分かった。この鮭延領は小佐々の新政府に加盟する事とする」
鮭延秀綱が治める真室川一帯の地域が、新政府の加盟地域となった。
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