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天下一統して大日本国となる。-天下百年の計?-
第713話 『第一回国際天文学会が開催される』
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天正十二年十二月十五日(1584/1/27) 諫早城天文台 特設会場
「さて皆様、ここに、第一回国際天文学会が開ける事にこの上ない喜びを感じます。今回は皆様と新たな論文の発表とあわせて大いに意見を交わし、さらなる天文学の発展につなげましょう」
文科大臣の上泉喜兵衛延利が開会の挨拶を行い、満場の拍手で開始された天文学会の会場には、純正の従兄弟である太田和九十郎政秋がいた。会場にはヨーロッパから様々な学者が国籍を問わず参加している。
セバスティアン一世の政策で有能な天文学者や地理学者を集めて派遣しているのだ。もちろん、今回の学会に限った事ではない。
「皆様、この度は第1回国際天文学会にご参集いただき、誠にありがとうございます。私からは、『諫早時間』と『諫早子午線』について提唱いたします」
政秋はごほん、と咳払いをして、用意した書面を見ながら説明を始めた。
肥前国の勢力下にある地域では天正二年(天正元年・1573)から、海上での経度の測定に諫早時間に合わされた正確なクロノメーターを用いている。
政秋は諫早天文台長を務め、経度と諫早時間に関して論文を発表し、諫早上空を通る子午線を全世界の子午線とするよう提唱したのだ。(本初子午線)
ちなみに北方のアラスカ・アリューシャン列島から西はポルトガルまで測量を継続中だ。
「これは、経度の基準を定める新しい概念です。これまで本初子午線の設定をめぐっては、様々な主張が並立していました。プトレマイオスは西アフリカ沖の最西端を基準としましたが、その後クリストファー・コロンブスは大西洋上の磁針0度点を提案し、メルカトルはカナリア諸島を本初子午線としました」
会議場の全員が政秋に注目している。
「このように国や地域、あるいは所属する団体によって、本初子午線の位置をめぐる見解が異なっていたのが実状です」
ガリレオが深く頷いて発言をする。
「確かに、それぞれが違った基準で本初子午線を定めていましたね」
「ガリレオ先生、その通りです。そのような状況の中で、私が『諫早子午線』を新たな提案として示すことは、真新しいアプローチではありません。さらに、既存の議論を一方的に否定するものでもありません」
「しかし同時に、長年の歴史的経緯も考慮に入れる必要があるのではありませんか? プトレマイオスやメルカトルらの議論は、天文学の発展に一定の影響を及ぼしてきたのですから」
ガリレオは政秋の提案に賛同しつつも、既存の基準も考慮しなければならない、と慎重論も発したのだ。
「その点は十分に理解しております。では皆さん、ここで伺いたいのですが、本初子午線の議論はひとまず置いておくとして、どのようにして経度、つまり現在地を調べるのでしょう? ガリレオ先生、クリストファー先生、トーマス先生、ダーヴィト先生、フィリッペ先生、クリスティアン先生、ミヒャエル先生、お答えください」
場内が騒然となり、各人が発言を始めた。
ミヒャエル・メストリンは冷静な口調で述べる。
「月の満ち欠けの観測から経度を割り出す試みもありますが、観測装置の性能に限界があり、正確な結果を得るのは難しいのです」
「天体の位置観測から経度を導き出す手法についても、私もまた多くの困難に直面しているところです。観測データの誤差が許容範囲に収まらず、実用に耐えません」
クリストファー・クラヴィウスは真剣な眼差しで語りかけた。続いてトーマス・ハリオットが重々しい表情で話しだす。
「私も同じく月の満ち欠けの観測から経度を求めようと試みています。しかし、やはり誤差が大きい。時計を用いる方法もあるが、洋上で正確な時間ははかれないので、経度もわからない」
フィリッペ・ファン・ランスベルゲはゆっくりと、考えながら発言する。
「月と太陽、または黄道付近に位置する恒星との距離(角度)を正確に計測する方法もありますが、課題が多いようです。月の動きや恒星の位置についての知見が不足していたため、正確な経度を得るのは難しい」
それぞれが自らの経験と知見を披露しているが、そのどれもが正確に経度を算出できる方法ではなかった。
「皆さんのお考え、よくわかりました」
政秋はそう言って、助手に取りに行かせていた大きな紙を、広げ、言った。
「これをご覧下さい。世界地図です。いえ、正確にはこの日本を中心としてポルトガル王国までの地図です。10年かかりました。わが国には正確に時を測れる時計があるのです」
政秋は助手に指示して大きな地図を広げると、真剣な表情で続ける。
「今ご覧の地図は、諫早を中心に作成したものです。10年もの歳月をかけて測量を行い、正確な経度を特定したものです。この地図では日本全域、そしてアジアを経て西はポルトガルまでを網羅しています。わが国では既に正確な時計を活用して、経度の測定に成功しているのです」
会場が騒然となり、驚きの声がいたるところで上がる。これまで天文学者たちが苦労して提案した手法では、いずれも正確な経度測定には至らなかったことが明らかになったのだ。
「これは驚くべきことですね。諫早を中心とした地図とおっしゃいましたが、これまでの本初子午線の議論とはまた違うアプローチなのですか?」
ガリレオは目を見開いて政秋に尋ねた。
「違うアプローチというよりも、至極単純な事です。わが国で開発されたので、わが国の諫早の天文台を基準に0°とし、東へ1時間で東経15°、西へ1時間で西経15°とした。それだけです」
ガリレオは手をたたき、大声で叫ぶ。
「素晴らしい! このような正確な地図ができるのなら、何の迷いも無く全世界が子午線も含めて採用すべきです!」
「有難うございます。私の提案は、これまでの天文学の常識を一新すべく、一石を投じるものと考えています」
政秋は微笑みを浮かべていった。
クリストファー・クラヴィウスは大きな期待を感じさせる口調で言った。
「新しい経度基準の導入は、単なる天文学の枠を超えて、さまざまな分野に革新をもたらすことでしょう」
一部に懐疑的な意見や反対もあったが、大筋で認められ、帰国後に各国の天文学会へ報告される事となった。
次回 第714話 (仮)『大日本国政府非加盟国の食糧事情』
「さて皆様、ここに、第一回国際天文学会が開ける事にこの上ない喜びを感じます。今回は皆様と新たな論文の発表とあわせて大いに意見を交わし、さらなる天文学の発展につなげましょう」
文科大臣の上泉喜兵衛延利が開会の挨拶を行い、満場の拍手で開始された天文学会の会場には、純正の従兄弟である太田和九十郎政秋がいた。会場にはヨーロッパから様々な学者が国籍を問わず参加している。
セバスティアン一世の政策で有能な天文学者や地理学者を集めて派遣しているのだ。もちろん、今回の学会に限った事ではない。
「皆様、この度は第1回国際天文学会にご参集いただき、誠にありがとうございます。私からは、『諫早時間』と『諫早子午線』について提唱いたします」
政秋はごほん、と咳払いをして、用意した書面を見ながら説明を始めた。
肥前国の勢力下にある地域では天正二年(天正元年・1573)から、海上での経度の測定に諫早時間に合わされた正確なクロノメーターを用いている。
政秋は諫早天文台長を務め、経度と諫早時間に関して論文を発表し、諫早上空を通る子午線を全世界の子午線とするよう提唱したのだ。(本初子午線)
ちなみに北方のアラスカ・アリューシャン列島から西はポルトガルまで測量を継続中だ。
「これは、経度の基準を定める新しい概念です。これまで本初子午線の設定をめぐっては、様々な主張が並立していました。プトレマイオスは西アフリカ沖の最西端を基準としましたが、その後クリストファー・コロンブスは大西洋上の磁針0度点を提案し、メルカトルはカナリア諸島を本初子午線としました」
会議場の全員が政秋に注目している。
「このように国や地域、あるいは所属する団体によって、本初子午線の位置をめぐる見解が異なっていたのが実状です」
ガリレオが深く頷いて発言をする。
「確かに、それぞれが違った基準で本初子午線を定めていましたね」
「ガリレオ先生、その通りです。そのような状況の中で、私が『諫早子午線』を新たな提案として示すことは、真新しいアプローチではありません。さらに、既存の議論を一方的に否定するものでもありません」
「しかし同時に、長年の歴史的経緯も考慮に入れる必要があるのではありませんか? プトレマイオスやメルカトルらの議論は、天文学の発展に一定の影響を及ぼしてきたのですから」
ガリレオは政秋の提案に賛同しつつも、既存の基準も考慮しなければならない、と慎重論も発したのだ。
「その点は十分に理解しております。では皆さん、ここで伺いたいのですが、本初子午線の議論はひとまず置いておくとして、どのようにして経度、つまり現在地を調べるのでしょう? ガリレオ先生、クリストファー先生、トーマス先生、ダーヴィト先生、フィリッペ先生、クリスティアン先生、ミヒャエル先生、お答えください」
場内が騒然となり、各人が発言を始めた。
ミヒャエル・メストリンは冷静な口調で述べる。
「月の満ち欠けの観測から経度を割り出す試みもありますが、観測装置の性能に限界があり、正確な結果を得るのは難しいのです」
「天体の位置観測から経度を導き出す手法についても、私もまた多くの困難に直面しているところです。観測データの誤差が許容範囲に収まらず、実用に耐えません」
クリストファー・クラヴィウスは真剣な眼差しで語りかけた。続いてトーマス・ハリオットが重々しい表情で話しだす。
「私も同じく月の満ち欠けの観測から経度を求めようと試みています。しかし、やはり誤差が大きい。時計を用いる方法もあるが、洋上で正確な時間ははかれないので、経度もわからない」
フィリッペ・ファン・ランスベルゲはゆっくりと、考えながら発言する。
「月と太陽、または黄道付近に位置する恒星との距離(角度)を正確に計測する方法もありますが、課題が多いようです。月の動きや恒星の位置についての知見が不足していたため、正確な経度を得るのは難しい」
それぞれが自らの経験と知見を披露しているが、そのどれもが正確に経度を算出できる方法ではなかった。
「皆さんのお考え、よくわかりました」
政秋はそう言って、助手に取りに行かせていた大きな紙を、広げ、言った。
「これをご覧下さい。世界地図です。いえ、正確にはこの日本を中心としてポルトガル王国までの地図です。10年かかりました。わが国には正確に時を測れる時計があるのです」
政秋は助手に指示して大きな地図を広げると、真剣な表情で続ける。
「今ご覧の地図は、諫早を中心に作成したものです。10年もの歳月をかけて測量を行い、正確な経度を特定したものです。この地図では日本全域、そしてアジアを経て西はポルトガルまでを網羅しています。わが国では既に正確な時計を活用して、経度の測定に成功しているのです」
会場が騒然となり、驚きの声がいたるところで上がる。これまで天文学者たちが苦労して提案した手法では、いずれも正確な経度測定には至らなかったことが明らかになったのだ。
「これは驚くべきことですね。諫早を中心とした地図とおっしゃいましたが、これまでの本初子午線の議論とはまた違うアプローチなのですか?」
ガリレオは目を見開いて政秋に尋ねた。
「違うアプローチというよりも、至極単純な事です。わが国で開発されたので、わが国の諫早の天文台を基準に0°とし、東へ1時間で東経15°、西へ1時間で西経15°とした。それだけです」
ガリレオは手をたたき、大声で叫ぶ。
「素晴らしい! このような正確な地図ができるのなら、何の迷いも無く全世界が子午線も含めて採用すべきです!」
「有難うございます。私の提案は、これまでの天文学の常識を一新すべく、一石を投じるものと考えています」
政秋は微笑みを浮かべていった。
クリストファー・クラヴィウスは大きな期待を感じさせる口調で言った。
「新しい経度基準の導入は、単なる天文学の枠を超えて、さまざまな分野に革新をもたらすことでしょう」
一部に懐疑的な意見や反対もあったが、大筋で認められ、帰国後に各国の天文学会へ報告される事となった。
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