上 下
707 / 801
天下一統して大日本国となる。-天下百年の計?-

第706話 『一応の決着。その後の新政府会議』

しおりを挟む
 天正十二年三月五日(1583/4/26) 肥前国庁舎 

 数度による肥前国内での協議の上で、大日本国新政府の会議に臨む純正であったが、いくつもの懸念があった。

 ・越後奥州問題
 ・財政問題
 ・大日本国憲法への批准

 参加大名は小佐々純正、織田信長、武田勝頼、徳川家康、浅井長政、畠山義慶、里見義重(正木憲時)、大宝寺義氏の八名だ。氏直は謹慎中である。

「では方々、此度こたびは上記の三点について論じたいが、まずは越後と奥州である。如何いかにすればよいかお考えを伺いたい」

 最初に発言したのは信長であった。力強く堂々としている。

「越後と奥州の儀は、我ら大方に関わる重き儀である」

 そう前置きして続けた。
  
「まず上杉景勝が独り立ちを続く事で、我ら新政府の権が揺らぐ。これを放りたるままではいかぬ。景勝を説いて新政府に予参さすべきかと存ずる。また、もし拒むならば、武を以て制する覚悟も要るかと存ずる」

 強気な信長であるが、それは新政府軍として討伐すべきというのだろうか。大同盟の時は兵や資金の提供の度合いによって得られる利益が決まるため、結局小佐々の独り勝ちであった。

 新政府としてならば、前提から違う。
  
 国として新政府軍を動かすなら、実質は小佐々軍である。そして結局、新政府の領土となるが、運営は小佐々家だ。

 正直なところ、小佐々以外の州にはまったくメリットはない。関心すらないかもしれない。それでもなぜ信長は主張したのだろうか。なにか考えがあってなのだろうか。
 
 信長の発言を受け、広間には一瞬の静寂が訪れた。それぞれの大名(州政府代表・国会議員)が思考を巡らせる中、小佐々純正が軽くせき払いをして、次の発言者を促した。

「他の方のお考えは如何いかがか? 続いてお伺いしたい」

 家康が次に口を開く。

「中将殿の考えに同じます。されど兵を用うるは避けるべきにて、外交の手を尽くし、景勝を説くべきと存じます。新政府へ与する事の利を説き、共に栄える先(将来)を考えさすべきかと存じます」

 勝頼は家康に賛成し、武力行使は最後の手段だと述べたが、長政は反対した。戦による犠牲を考慮し、経済制裁を提案したのだ。義慶も同様で、戦を避けつつ経済制裁で参画を促す方法である。

 里見義重も慎重派であり、奥州の大宝寺義氏は、武力行使には最後まで反対した。

 結局、その後も様々な意見がでたが、以下の折衷案で話がまとまる事となった。

 ・新政府参加の打診を続けるという事。
 ・越後、奥州の各大名が互いに戦をしない事を約束させること。
 ・もし互いに戦になったなら、勅命を以て征伐する。

 小佐々州議会(肥前国会議)で議論された⑤の独立路線が、意外にも他の大名の賛同を得たのだ。

 正直なところ全員自分の所で精一杯で、越後や奥州の所まで手が回らないのだろう。上杉が新政府に加盟し、奥州の諸大名も加盟したなら、今でさえ苦しい負担金が、さらに増える事になる。




「では、越後と奥州に関しては、いましばらくこのまま、と言う事でよろしいかな」

「異議なし」

 満場一致で可決された。


「では次に、方々の負担金についてでありますが、その前にこの新政府の大枠について論じたいと考えております」

 純正は全員を見回し、事前に作成してあった新政府憲法(小佐々法度改め、かなり追加修正を加えた物)を配布した。そしてまず初めに、立憲連邦制について発議したのだ。

 立憲連邦制というと仰々しいが、要するに憲法を定め、それに基づいて統治をするという考え方である。ただしこれについては設立当初から言われてきた事であるし、特に問題はなかった。

 少し違和感があったのが三権分立だろう。
  
 そもそも三権分立とはなんぞや? という事である。日本社会では、立法・司法・行政が一本化していて、いわゆる代官所や奉行所(名称はまちまち)がその全てを行っていたのだ。

「三権分立とはつぶさには如何なるものか?」

 信長が最初に問うと、純正が一同の視線を受けながら説明を続ける。

「三権分立とは、政府の権を立法、行政、司法の三つに分け、それぞれを独り立ちさせて働かせるという仕組みにござる。立法は法を定める議会、この評定のようなもの。行政は法を施行するいわゆる官府たる内閣。司法は検非違使や問注所のようなものにござろうか」

 ……。

 一同がざわつく。無理もない。この概念は戦国時代の大名たちにとって全く馴染みがないのだろう。全員が大なり小なり困惑した表情を浮かべている。

「内府殿にお伺いしたい。何ゆえ三つに分ける要があるのでござろうか。古来この日ノ本では評定衆しかり、幕府の奉行所しかり、すべて一箇所に集約しておりましたが」

 徳川家康が慎重に問いかけた。一同がうなずく。信長は純正の顔を見ながら、その返答を待っている。

「然に候。然れど、三権の分立の利は、権を一所に集めるを防ぎ、三所が互に目を付けあい、釣り合いを保つことにございます。権が一つに集まればそれを濫りに使い、賄賂の温床と成りやすうございましょう。よって三つに分ければより公で誰にでも解りやすい政が為せると存じます」

 純正は一同の視線を受け止め、静かに説明をした。

 ……。

「……然れど、それが如何に我らの利となるのでござろうか。勝手向き(財政)が良くなる訳でもなく、入米(歳入)が増える訳でもない。かえって乱れの元になりはしませぬか?」

「然様。それよりも如何に入米を増やし、勝手向きを良くして国を富ます言問ことといが重しかと存じますが、如何でござろうか」

 勝頼の発言に長政が続いた。
  
 無理もない反応である。ここは議論をせずに、徐々に変えていくべきだろうか。純正は静かに深呼吸し、大名たちの視線を一身に受けながら、さらに説明を続けることにした。

「確かに、入米や勝手向きの話は重しにございましょう。然れど入米にしろ勝手向きにしろ、民あっての事にございます。長い目で見ればこれが民の信を勝ち取り、国を豊かにするのです」

 純正はゆっくりと、じっくり説明をするが、やはり概念としてなじみがないのだろう。

 今でも組織上は立法・司法・行政が分かれてはいる。同じ人間が兼務することがないようにすれば、ひとまずは良いだろうか。理由としては業務の煩雑化やオーバーワークを挙げておけばいいだろう。

 そう純正は考え、概念云々うんぬんの話をするのではなく、単なる業務上の事で話をまとめ切り上げた。それに確かに、財政の問題は吃緊きっきんの課題だったのだ。




「方々、それでは次に、新政府の勝手向きについて論じたいと存じます」

 純正は一番重要で全員の関心事であろう税の話を切り出した。

「まずは各州の年貢は一律四公六民とします。これは新政府が発足した初めからの決まりとなりますので、変わりありませぬ。加えて冥加金は都度徴収されておるところもあると存じますが、これを年貢と同じく毎年とします」

 別段問題はない。

「その後、年貢と運上の四割を政府にいただきたい」

 万座がざわついた。それもそのはず、これまでは何らかの公共事業に対しての負担金の拠出で済んでいたものが、有無を言わさず徴収されるのだ。




「そ、それは、あまりにも無体ではありませぬか? 我らから四割もお取りになるとは」




 次回 第707話 (仮)『財政と琉球領土編入問題』
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

『転生した無名藩士、幕末の動乱を生き抜く~時代・技術考証や設定などは完全無視です!~』

姜維信繁
ファンタジー
佐賀藩より早く蒸気船に蒸気機関車、アームストロング砲。列強に勝つ! 人生100年時代の折り返し地点に来た企画営業部長の清水亨は、大きなプロジェクトをやり遂げて、久しぶりに長崎の実家に帰ってきた。 学生時代の仲間とどんちゃん騒ぎのあげく、急性アルコール中毒で死んでしまう。 しかし、目が覚めたら幕末の動乱期。龍馬や西郷や桂や高杉……と思いつつ。あまり幕末史でも知名度のない「薩長土肥」の『肥』のさらに隣の藩の大村藩のお話。 で、誰に転生したかと言うと、これまた誰も知らない、地元の人もおそらく知らない人の末裔として。 なーんにもしなければ、間違いなく幕末の動乱に巻き込まれ、戊辰戦争マッシグラ。それを回避して西洋列強にまけない国(藩)づくりに励む事になるのだが……。

連れ去られた先で頼まれたから異世界をプロデュースすることにしました。あっ、別に異世界転生とかしないです。普通に家に帰ります。 ② 

KZ
ファンタジー
初めましての人は初めまして。プロデューサーこと、主人公の白夜 零斗(はくや れいと)です。 2回目なので、俺については特に何もここで語ることはありません。みんなが知ってるていでやっていきます。 では、今回の内容をざっくりと紹介していく。今回はホワイトデーの話だ。前回のバレンタインに対するホワイトデーであり、悪魔に対するポンこ……天使の話でもある。 前回のバレンタインでは俺がやらかしていたが、今回はポンこ……天使がやらかす。あとは自分で見てくれ。  ※※※  ※小説家になろうにも掲載しております。現在のところ後追いとなっております※

家ごと異世界ライフ

ねむたん
ファンタジー
突然、自宅ごと異世界の森へと転移してしまった高校生・紬。電気や水道が使える不思議な家を拠点に、自給自足の生活を始める彼女は、個性豊かな住人たちや妖精たちと出会い、少しずつ村を発展させていく。温泉の発見や宿屋の建築、そして寡黙なドワーフとのほのかな絆――未知の世界で織りなす、笑いと癒しのスローライフファンタジー!

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

処理中です...