上 下
698 / 767
天下一統して大日本国となる。-天下百年の計?-

第697話 『本能寺の変』(1582/6/21)

しおりを挟む
 天正十一年六月二日(1582/6/21) 京都大使館 

 織田信長をはじめとした旧来の新政府の面々に加え、北条からの使者を諫早に迎える事が出来たのは大きかった。氏規も江雪斎も小佐々の国力と軍事力に度肝を抜かれ、すっかり新政府の一員としての考えに感化されて帰って行ったのだ。

「あー疲れた!」

「諫早に帰ったんだ、疲れるも何もなかろう」

 純久は諫早帰りの純正のだらけきった有り様にあきれてため息をつきながら言った。叔父である純久の前だけで見せる、だらけモードの純正である。

「いやあ、20年たってもこればっかりは肩が凝るね。根が平民も平民だからね~」

「20年とは……もうそんなに経つか」

 叔父である純久には、自分と父親が未来からの転生者だという事を知らせてある。その為、以前にも増してぶっちゃけトークができるのだ。

「あの頃は叔父さんも凜とした若武者だったのに、おっさんになったねえ……」

「やかましい。それを言うならお主も、可愛らしい童がふてぶてしい大人になったではないか」

 あははははは、と二人して笑う。




「申し上げます!」

 大使館の職員がけたたましい声を上げて入ってきた。

「何事か!」

「は! 左近衛中将様、本能寺にて何者かに襲われましてございます!」

「「何い! ?」」

 二人は顔を見合わせて驚愕きょうがくの表情を浮かべた。

「つぶさに報せよ!」

 純久が厳しい口調で命じると、職員は息を整えながら続けた。

「本能寺にて中将様(信長)が襲われ、手負いの程は重けれど、命に別状はなしとの事にございます!」

「それは、まずは良し! されど刑部(京都独立旅団長)は何をしておったのだ! 京の警固は要人の警固であろうが!」

 職員は恐縮して続ける。

「それが……刑部様は中将様をはじめ、新政府の議員の方々の警固は特に構えて(注意)おられたのですが、中将様が要らぬと仰せにて、警固を解いたようにございます。中将様のお付きの者も少なき人数だった由にてかような仕儀に」

 職員の報告に純正は腹立たしくつぶやく。

「あのおっさん……こんな時に傾くなよ。立場考えろって……」

 純正は頭をかいた。

「それで、中将様はご無事なのだな? 賊は如何いかがした?」

 純久の矢継ぎ早な質問に職員が答える。

「は、中将様は只今療養しておられます。賊は数名捕らえましたが、全てではありませぬ。京の市中(町中)は乱れており、急ぎ備えを強める事が肝要かと存じます」

「うべな(なるほど)。ともかく、中将様がご無事であることは幸いだ。然れど斯様かような目(事態)を招いたことは由々しき事である」

 純久は厳しい表情を浮かべながら言った。

「平九郎よ、速やかに処さねばならぬ。市中を安んじなければ、何が新政府かと、民心を惑わす事になる」

 純正はうなずき、即座に行動に移る決意を固めた。

「わかってる。中将殿は無論の事、新政府への影響を最小限に抑えなければならない」

「よし、この機に我らの力を示し、信を得ることが急務だ」

 純久は職員に向かって再度指示を出した。

「刑部に伝令! 丹波・近江・伊賀・大和・河内・摂津への街道すべてを塞ぎ、賊を出す出ないぞ。怪しい者は捕らえよ! 中将様の無事を確かめ、警固を強めるのだ」

「はっ!」

 職員が退出すると、純久は深く息をつき、平九郎に向かって言った。

「これからが正念場だ。覆水盆に還らずだが、中将様が襲われた事で、新政府の礎が揺らぐ事があってはならぬ」

「さすが叔父さんだね。俺がいなくても大丈夫なんじゃね?」

「馬鹿たれ」




 ■数日後

「賊が全員捕まったそうですね」

「ああ。然れど首謀者の名は吐かぬ」

 溜息とともに純久は続ける。

「連中は忠義を尽くしているのか、恐怖に怯えているのか、いずれにせよ、今少し刻がかかろう」

「心当たりは?」

「無きにしも非ずだが、お主もあるのではないか?」

 今度は純正がふう、と息を吐いて言う。

「大方、六角や松永、本願寺の息のかかっていた連中の仕業では? 奴ら俺や中将殿、いや幾内は中将殿の方が多いか。逆恨みしていたとしてもおかしくはない」

「そうやも知れぬ。まったく、逆恨みにしても何年憾むのだ? 本願寺も松永も八年前、六角に至っては更にその前ではないか。そんな暇があるなら職を探して生きろというのだ」

 純久は純正に同意しつつ、賊の真意がわからなかった。
  
 純正の統治、新政府の統治は間違いなく領民のためになっているはずだ。良い物が安く手に入るようになり、街道や海岸、通信設備などの公共事業も行って雇用を促進している。

 よって、働けない、職がないというのは考えにくい。それなのに未だに反抗するという事は、純正や信長、新政府の恩恵を認めたくはない、という事なのだろう。

 純正や信長に敗れた大名に仕えていた頃の、在りし日の栄耀よう栄華が忘れられず、あの時は良かった、純正がいなければ、信長がいなければ……という思いが恨み辛みとなって吹き出したのだろうか?

「動機がどうあれ、首謀者がどうあれ、明らかにせねばならぬ。明らかにして厳罰を与えねば、新政府たりえぬ」

「そうですね……ああそれから、中将殿は元気にしてらっしゃいましたよ」

「見舞いに行ったのか? わしも行ったが、その時はまだ安静が要るとのことであったが」

「ええ。俺に対して軽口をたたけるくらいには回復してました」

 純久は安堵の表情を見せた。

「それは良い知らせだ。中将様が息災ならば、我らも心強い。だが、今後も油断は禁物だ。京の治安を回復し、再びこのような事態が起こらぬようにせねばならん」

「そうだね」




 まったく、テロかよ。と一連の騒動を振り返って思った純正であったが、戦争のない日本でも政治家を狙ったテロが起きている。この時代は暗殺など日常茶飯事なのだ。




 次回 第698話 (仮)『力による現状変更と海上保険と貿易会社』
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

公爵令嬢はアホ係から卒業する

依智川ゆかり
ファンタジー
『エルメリア・バーンフラウト! お前との婚約を破棄すると、ここに宣言する!!」  婚約相手だったアルフォード王子からそんな宣言を受けたエルメリア。  そんな王子は、数日後バーンフラウト家にて、土下座を披露する事になる。   いや、婚約破棄自体はむしろ願ったり叶ったりだったんですが、あなた本当に分かってます?  何故、私があなたと婚約する事になったのか。そして、何故公爵令嬢である私が『アホ係』と呼ばれるようになったのか。  エルメリアはアルフォード王子……いや、アホ王子に話し始めた。  彼女が『アホ係』となった経緯を、嘘偽りなく。    *『小説家になろう』でも公開しています。

【完結】悪役令嬢の断罪現場に居合わせた私が巻き込まれた悲劇

藍生蕗
ファンタジー
悪役令嬢と揶揄される公爵令嬢フィラデラが公の場で断罪……されている。 トリアは会場の端でその様を傍観していたが、何故か急に自分の名前が出てきた事に動揺し、思わず返事をしてしまう。 会場が注目する中、聞かれる事に答える度に場の空気は悪くなって行って……

【完結】6歳の王子は無自覚に兄を断罪する

土広真丘
ファンタジー
ノーザッツ王国の末の王子アーサーにはある悩みがあった。 異母兄のゴードン王子が婚約者にひどい対応をしているのだ。 その婚約者は、アーサーにも優しいマリーお姉様だった。 心を痛めながら、アーサーは「作文」を書く。 ※全2話。R15は念のため。ふんわりした世界観です。 前半はひらがなばかりで、読みにくいかもしれません。 主人公の年齢的に恋愛ではないかなと思ってファンタジーにしました。 小説家になろうに投稿したものを加筆修正しました。

あなた方はよく「平民のくせに」とおっしゃいますが…誰がいつ平民だと言ったのですか?

水姫
ファンタジー
頭の足りない王子とその婚約者はよく「これだから平民は…」「平民のくせに…」とおっしゃられるのですが… 私が平民だとどこで知ったのですか?

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

「お前は彼女(婚約者)に助けられている」という言葉を信じず不貞をして、婚約者を罵ってまで婚約解消した男の2度目は無かった話

ラララキヲ
ファンタジー
 ロメロには5歳の時から3歳年上の婚約者が居た。侯爵令息嫡男の自分に子爵令嬢の年上の婚約者。そしてそんな婚約者の事を両親は 「お前は彼女の力で助けられている」 と、訳の分からない事を言ってくる。何が“彼女の力”だ。そんなもの感じた事も無い。  そう思っていたロメロは次第に婚約者が疎ましくなる。どれだけ両親に「彼女を大切にしろ」と言われてもロメロは信じなかった。  両親の言葉を信じなかったロメロは15歳で入学した学園で伯爵令嬢と恋に落ちた。  そしてロメロは両親があれだけ言い聞かせた婚約者よりも伯爵令嬢を選び婚約解消を口にした。  自分の婚約者を「詐欺師」と罵りながら……──  これは【人の言う事を信じなかった男】の話。 ◇テンプレ自己中男をざまぁ ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾もあるかも。 ◇なろうにも上げる予定です。 <!!ホットランキング&ファンタジーランキング(4位)入り!!ありがとうございます(*^^*)!![2022.8.29]>

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

処理中です...