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日ノ本未だ一統ならず-技術革新と内政の時、日本の内へ、外へ-

第688話 『貨幣政策と度量衡、明の陰り』(1581/4/14) 

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 天正十年三月十一日(1581/4/14) 南近江 暫定新政府庁舎

 庁舎の会議室は和室ではなく洋室である。

 上座に純正が座り、官位の順に並んでいる。窓から差し込む光が重厚な木製のテーブルを照らし、各大名が座る中、財務大臣の太田屋弥市が立ち上がり、議論を始める。

「方々、本日は貨幣鋳造と紙幣の発行について言問こととい(議論)いたしたく存じます。つぶさ(具体的)には、貨幣を替える際の分(割合・レート)、金銀銅の含む分、世の中に流す量、そして紙幣についてにござる」

 弥市が話し始めると、会議室内の空気が一気に引き締まった。

「まず、案を提ずるは貨幣を替える分についてにござる。金貨一枚は金十両に相当し、金一両は四分、十六朱、銀五十匁、銭四貫文、つまり四千文に相当するとします。また銀一枚は金一両に等しいとし、銭一貫文が千文、銭一ぴきが十文、一文が永楽銭一枚とします」

 弥市の説明に信長が反応する。

「うべなるかな(なるほど)。それについては我が領でも同じようにしておるから障りはない」

 織田領内は小佐々との同盟期間も長く、以前純正から提案があった後に、同じような貨幣政策を行い、レートも同じにしてあったのだ。違うのは鋳造については関知していない点である。

「はい。則(基準)となる銭として永楽銭を用い、他の銭はその値に応じて区分します。つぶさには、宣徳銭は半分、破銭は五分の一、私鋳銭は十分の一と致します」

「待たれよ」

 口を開いたのは武田勝頼である。
  
 小佐々家によって大規模な経済支援を受け、技術導入も行っていたが、貨幣に関しては服属しているわけではないので、甲州金をそのまま使っていたのだ。

「わが領内で用いておる甲州金は如何いかがありなりましょうや? 加えて甲州金には一朱が二朱中、四糸目、八小糸目と細かく分かれておりまする」

「武田殿、甲州金の細かい金貨についても然るべく(適切に)算用(計算)いたします。甲州金は金を含む分が幾内の金貨より多うございますので、算用いたしましたところ、甲州金十両を、幾内の十両三分一朱と同じとして替えまする。然すれば公(公平)に商いが能うかと存じます」

 加えて、と弥市は続ける。

「一分が一貫文、一朱が二百五十文、朱中が百二十五文、糸目が六十三文、小糸目が三十一文として替えまする」

「うべなるかな(なるほど)。左様な分であれば、我が領国も損をすることはない」

 勝頼は満足げにうなずいては笑顔を見せた。弥市は貨幣の鋳造所の件にも触れ、中央政府が金座、銀座、銅座を設立して管理する事を提案した。




「では方々、これについては新しく天正大判(金一枚)ならびに小判(一両)、そして新たな天正通宝を鋳造し、天下に広く用いるものとする。よろしいか」

 純正が決を取ると、全員が返事をする。

「異議なし」

「異論ござらぬ」

「承知いたした」

 満場一致で可決された。中央政府の設立に関しては連名で上奏している。通貨の鋳造に関しては国家の根幹に関わる事なので、後日参内し、上奏する事となった。




「続いては、各国で散々さんざんなる(バラバラな)度量衡を尺貫法として定めて、共に用いるための言問にございます」

 弥市が続けて話をする。

「まず第一に、度量衡を一統すれば商いを無駄なく盛んにする事能いまする。のり(基準)の異なる国同士の取引がなめらかに行われる様になり、量り間違いによるいさかいを防ぎます」

「ふむ」

 事前に考えていた純正は小さく頷いては、弥市の続きを待つ。

「つぶさな名残(影響)を教えてくれ」

 具体的な影響と利点を信長が確認する。

「第二に、様々な匠の技と生業なりわい(技術と産業)が盛んになり、定めしのりに基づく技や術が極みへと進み(統一基準による技術革新)、石高も増え、運上金も増えまする」

「うべなるかな」

「最後に、政を行う上で管領かんれい(管理)が易くなり租税が公(公平)に納められます」

 弥市が締めくくった。

「如何でござろうか。方々、御異論はございませぬか?」

 この尺貫法としての度量衡を統一し、検地を行う事で効率をあげるという議題も、可決された。純正としては一気にメートル法まで行きたかったところだが、それは今後の課題とした。

 現代の換算基準と同じにするつもりである。ポルトガルを含めたヨーロッパ諸国との交易にあたっては、共通の度量衡が必要であり、それまでに国内の基準を変更すればいい。

 現在は諸外国も単位はまちまちであり、対外的な事は実質小佐々家が行っているので、緊急課題ではなかったからだ。




 ■明国 紫禁城近く 張居正居宅

 幼君万暦帝を補佐し、明の屋台骨を支えてきた張居正は病床に伏し、信頼する三人の重臣である金学曾、王国光、殷正茂が見舞いのために集まっていた。

 寝室は静寂に包まれ、かすかな呼吸音だけが響いている。張居正の顔は青白く、目はやや曇っていたが、その知性と鋭さは失われていない。

「先生、どうかご自愛ください。我らは先生の指示に従い、改革を続けます。大明国には首輔である先生が必要です。元気になって、再び我らを導いてください」

 金学曾は言う。張居正はかすかに微笑み、うなずく。彼の目には感謝の色が浮かんでいた。

「金、君の努力と忠誠には感謝している。荊州の改革は君の手腕によるものだ。今後も正直で果断な判断を下し、国家のために尽くしてほしい」

 弱々しいが、それでいて芯のある声だ。王国光が前にでては張居正の枕元に立ち、深い敬意を示して言う。

「先生、我らは先生の信念を引き継ぎ、万暦新政を推進します。先生の遺志を裏切ることはありません。どうか元気になってください」

 張居正は王国光をじっと見つめ、その忠誠心に感謝の意を込めてうなずいた。

「王よ、君は私の右腕だ。君の支えなくして、この改革は成功しなかった。私がいなくなっても、君がいる限り、改革は続くだろう」

「「「何を仰いますか」」」

 全員が居正に詰め寄る。ふふふふふ、と笑った後に居正は言った。

「私は良い友、そして良い部下を持ったようだ。これで思い残すことはない」

 再び詰め寄る三人を居正は手で制す。

「先生、私は広西での任務を果たしましたが、それも先生のおかげです。これからも先生の教えを胸に、明朝を支えます。どうか無理をせず、回復に努めてください」

 殷正茂だ。張居正の親友であり、その信頼する腹心だった。

「殷、君は私の親友であり、信頼する腹心だ。皆を導く力強い姿は、私たちが必要としているものだ。君たちがこうして集まり、私の健康を気遣ってくれることが何よりの力になる」

 三人の重臣はそれぞれ張居正の言葉に深く感動し、彼の意思を引き継ぐ決意を新たにした。

 ……が、張居正がこのまま復帰しなければ、明は衰退の一途を辿たどることになるのである。




 次回 第689話 (仮)『殖産と産業育成政策』
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