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日ノ本未だ一統ならず-技術革新と内政の時、日本の内へ、外へ-

第677話 『まず発議した。後はおいおい考えよう。見積もりいくら?』

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 天正九年四月三日(1580/5/16) 京都 大使館

「まずは全体の法を決めねばならぬ。その後省庁をつくり、内閣をつくる」

 純正は現在肥前国に設置された省庁を中央政府、仮に大日本幕府と呼ぼう。

 その中に省庁を同じように置く事を考えた。そして、行政区分を律令制にならって国毎にわけ、肥前なら龍造寺、豊後なら大友というように地方自治を行う。各省庁は例えば陸軍大臣に信長、財務大臣に秀吉といったかたちで選出する。

「それぞれの役所の長は、内閣で決めるという事ですな」

 傍らで聞いていた純久が聞いてくる。

「その通り。 その前にまずは大臣、まあ呼び方は関白でも太政大臣でもなんでもいいが、入れ札で決める。現在は小佐々、織田、武田、浅井、徳川、畠山、里見の七家だが、新たに出羽の大宝寺家が加わった。その中から……ああ、これでは偶数だな。決まらぬ。上杉、あれは如何致そう。加入するか打診してみるといたそう。その九家で決まる」

「なるほど。されど、なんというか従える訳ではないが、日ノ本全ての武家を統べるのであろう? であれば、やはり公方様には将軍位を返上していただかなければ。皆、従いますまい」

 純久の言う事はもっともである。鎌倉、室町と続いた武家社会の頭領は将軍なのだ。よくわからない物などより、将軍という権威を大事に思う者は多数いる。

「そこよの。あの公方様が素直に応じるかどうか」

「ここは朝廷の力を借りるほかありますまい」

「そうなるか」

「そうなります」

 はあ、と純正はため息交じりに肩を落とした。

「平九郎……」

「! ……なんでしょう」

 家臣モードから叔父モードに入った純久は純正に聞く。純正も甥の現代人モードに入る。

「戦略会議室や閣僚の中には、まだふつと(完全に)得心している者はおるまい。そこでいくつか確かめておきたい事がある。これがさださだと(はっきりと)決まっておれば、皆、得心するであろうからな」

「なんなりと」

 純正と純久は、最近こうやって話す事が多い。先日、といってもが年明ける前の話だが、純正の父である太田和政種が大家族を連れて上洛した時がきっかけであった。

 純正は話したのだ。自らが転生人だという事を。そして父である政種も同様である。

 純久は最初、二人が言っている事を冗談として取り合わなかった。しかし、段々と話を聞いていくうちに、そうでもしなければ辻褄が合わないことが多々出てきたのだ。

 周りのみんなが神童だ、麒麟児だと持てはやし、名君として君臨しているのが500年近く先の世からやってきた男なのだ。その事実を、ようやく信じるようになっていた。




「平九郎、そもそも何ゆえ大同盟の官府を作ろうとしているのか、その根となるよし(理由)はなんだ」

 純正は一瞬考え込み、静かに答えた。

「叔父上、俺が大同盟政府を作る根本的な理由は、北加伊道を含まない日ノ本の民の命を守り、皆が幸せに暮らせる世をつくるためです」

「うべな(なるほど)。然れどつぶさには、如何にしてその当て(目的)を成すのだ?」

 純久はさらに続けた。純正も真剣な表情で続ける。

「日ノ本の各大名の私戦を禁じます。次に明やポルトガルなど、全ての外国との外交、これは交易を含みますが、これも禁じます。さらに所領の明らかなる境を決めます。各大名が大同盟から脱退して独立するのを防げれば、他は些細なことです」

 純久は腕を組み、考え込んだ。なるほど理解はできる。しかし絵に描いた餅にならないだろうか? 要するに理想論で終わり、各大名が勝手な事を始めないだろうか。

「戦を禁じる事と国境、いや所領の境であるな。この二つは得心がゆく。されど実のところ、如何にして大名を従わせるのだ?」

 純正は自信を持って答える。それこそ、これが出来なければ意味が無い。力で脅し、征服して従わせるのではなく、それ以外の方法でどうやって従わせるのか?

「各大名には参政権を与え、大同盟政府を代表政府として機能させる事で、共通の利益のために協力するよう促します。また、税金を徴収して政府の運営費にあてます。これを各大名に対する抑止力とします」

 純久は少し眉をひそめた。

「税金の徴収か。それは大名たちにとって大きなる枷になるのではないか?」

 これは小佐々家にとっても重要であり、財政負担は一気に不満を巻き起こすだろう。現在の大同盟はほぼ金銭負担がないのだ。合議所の運営費程度である。

 純正は冷静に答えた。

「確かに負担にはなりますが、所領の広さや勝手向き(財政)の大小に応じて支払う税が異なるようにし、大同盟に及ぼす力の偏りを防ぐために上限を設けることも考えています。肥前国としては戦がなくなり皆が平和で幸せに暮らせるのですから障りありませぬ」

 その時純久は、一つの重要な点を思い出し、さらに問いかけた。

「各大名と言ったが、小佐々家中の毛利や大友、島津には参政の権はないのか?」

 純正は微笑みながら答えた。

「ありませぬ。ゆくゆくは考えなくもないですが、今は小佐々家中としてまとまっておるのです。今俺は自分勝手に動いているように見えても、肥前国の政府では、ちゃんと毛利や大友、島津の意見を汲み上げてやってるでしょう?」

 純久は納得したように頷いた。

「それなら良いのだ」

 純久もまた、純正と同じように小佐々家中の大名の独立を危惧していた。小佐々家が巨大すぎるため、権力の分散を図るために織田家や武田家、他の大名から介入を受けるかもしれない。

 しかしそれは簡単に論破できる。武田に対して木曽や穴山、小山田の参政権を認めるのか、と。徳川は奥三河に北遠江、織田にしても浅井にしても、配下の小大名や国人は多々いるのだ。

 それら全員に認めるのか、と。

 答えは否であろう。

 純正は感謝の意を込めて深々と頭を下げた。




「ちなみに……その、大阪城の見積もりはでたのか?」

「でましたよ」

「いくらだ?」

「百三十万二千九百貫」

「!」

「でしょ。もう金銭感覚が麻痺して笑いも起きない」




 次回 第678話 (仮)『北方探険艦隊の帰還と南遣第四艦隊。南方探険艦隊と世界地図。大同盟の財源は?』
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