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日ノ本未だ一統ならず-技術革新と内政の時、日本の内へ、外へ-
第670話 『氏政の考えと御館の乱。そしてようやく雷酸水銀』(1579/6/5)
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天正八年五月十一日(1579/6/5) 京都 大使館
「構いなし、か」
純久は純正からの通信を読んで一言つぶやいた。
要するに主眼が北条への上洛要請であり、上杉に関しては関知しないという事だが、この時点で付き合いはないので、どっちの味方もないもんだ。
純久は純正の考えが読めた。
ここで大同盟に参加をしたい、あるいは服属を願いでる、という事であれば、景勝だろうが景虎だろうが味方をしただろう。そう発議して、いずれかの正統性を支持したに違いない。
景勝がそうなれば北条への牽制にもなるし、奥州への足がかりにもなる(経済的な面で)。景虎は景虎で、北条氏康の子で氏政の兄弟であるから、北条を降して上洛させるのに一役買うだろう。
しかし、そのどちらもなかった。
純正にしてみれば、どっちでもいいから互いに争って消耗してくれ、という事なのだろう。その後経済的な締め付けをやらなくても、商人が勝手に動いて越後経済を締め上げる。
さて、これを受けた諸大名はどう動くだろうか。純久は予想しながらもう一つの仕事である、北条氏政への上洛要請文書を書いた。
前略
先般の戦における申し開きを求め候間、近日中に上洛願いたく存じ候。
そもそも事の発端は里見家の内訌にありて、わが小佐々家とも北条家とも一切関わり合いのない事と存じ候。
我が家中は里見佐馬頭殿(義重)の求めによりて勢を動かしけり候へども、北条の兵船に掛かられけり候。
其処故に(そういう理由で)打ち合ひけり候へども、わが兵船兵士にも失出でけり候。
これより先同じ事の起きぬよう、重ねて上洛願いたく存じ候。
早々。
(この前の戦の弁解をして欲しいので、近日中に上洛してくださいね。元々は里見家の内輪もめなんで、うちも北条も関係ないでしょう? 頼まれたから行ったけど、戦うつもりなんてなかったんだよ。でも、攻撃してきたでしょ? だから正当防衛。うちも損害でたから、このまま何もなしって訳にはいかない。じゃあ、よろしくね)
五月廿一日
小佐々治部大丞(純久) 花押
小佐々内大臣(純正) 花押
■躑躅ヶ崎館
「構いなし、とな?」
勝頼はその知らせに驚き、思案にくれた。どうしたものか……。何が武田に一番利があり、内府殿の意向にそむかない事か。
「喜兵衛、虎盛よ。いかが思う?」
二人は顔を見合わせていたが、やがて喜兵衛(真田昌幸)が口を開いた。
「構いなし、というのは文字通り好きにせよの意かと存じますが、その果て(結果)、内府様の益を損なうようになれば如何あいなるか……と読み取れるかと存じます」
「つまり?」
虎盛が聞き直す。
「すなわち、弾正少弼殿(上杉景勝)につこうが三郎殿(上杉景虎)につこうが、勝とうが負けようが、その後小佐々家中に良きように働くようにして欲しいとの事かと存じます」
「……うむ。いずれにせよ勝ち筋に乗るのは当然として、弾正少弼殿に与すれば、間違いなく北条との縁は切れ申す。養子に出したとはいえ、三郎殿は北条の縁者にございますからな。北条とは甲相同盟あれど、直にではないが、大同盟(小佐々)と北条は二度戦うておる。そろそろ潮時であろう。北条との盟に益は見いだせませぬ」
虎盛は有名無実化している甲相同盟の破棄も見据えて、景勝側に味方するよう言っているのだ。
「……二人の考えはわかった。されど、今ひとつわからぬ事がある。なにゆえに内府殿は、構いなしとされたのだろうか。小佐々領である越中と越後は境を接しておる。上杉の去就は、些事とは思えんが」
勝頼の言葉に二人とも考え込んだ。三人は思い思いに考えを巡らし、喜兵衛が発言した。
「されば、それがしは内府様が北条に上洛を促したと聞き及びました」
「北条に! ?」
虎盛は驚くが、勝頼は微動だにしない。
「先日の戦に関わる事にございましょうが、勅もなく上洛せよとは、明らかに北条を下にみているかと存じます。ゆえにこの先、北条との大戦をお考えになっておられるのではないでしょうか」
喜兵衛の言葉に勝頼は結論を出す。
「ふむ。今一度内府殿のお考えを確かめるべく治部大丞殿に文を出せ。武田は弾正少弼殿に与す事に決するが、すべてはそれを聞いてからじゃ。弾正少弼殿にも三郎殿にも、いかなる題目(条件)を出すか聞いておくのだ」
「「はは」」
■小田原城
「なに? 謙信が死んだと?」
謙信死すの報は氏政の元にも届いていたが、氏政はすぐに行動を起こすことができなかった。里見家の内紛への介入に失敗し、小佐々海軍に敗れて兵を退いたとの報は、関東の諸大名に伝わっていたのだ。
そのため佐竹や宇都宮の動きがあやしく、隙あらば兵を動かしそうな気配を見せていた。
しかし、北条領には攻め入っていない。
「殿、まずは上杉の事の様をつぶさに知る事が肝要かと存じます。加えて武田に使者をやり、三郎様にお味方するように伝えるのです。また伊達や蘆名、大宝寺をはじめとする奥州の諸将にも三郎様の正しきを伝え、助力いたすよう文を送りましょう」
板部岡江雪斎がそう言うと、松田憲秀や多目元忠も賛同した。
「あい分かった。いまは軽々に動けぬが、三郎を立てて上杉を北条の永久の味方とするのだ」
「はは」
■岐阜城
「構いなしとは言え、そうよの……今われらに出来ることはなにもなし、やるべき事もなかろう」
信長の言葉に光秀が答えた。
「は。されど何がいかように転ぶかわかりませぬ。よくよく周りに心置き(注意を配り)、いかようにも動けるようにしておくが肝要かと」
「良きに計らえ」
「はは」
■七尾城
「親兄弟相争う事の詮無き事は、我らが身を以て知っておるだろう。故に、こたびは何もせぬ。内府殿もそうお望みじゃ」
「御意」
■浜松城
「我らには味方するよう求めてはこなかったが、然もありなん。武田は境を接しておるし、畠山は海を隔てておるが捨て置けぬ。小佐々は越中を押さえておるし、わが同盟の盟主であるからな」
『構いなし』の報を聞いて初めて謙信の訃報をしった家康であったが、すぐにニヤリと笑い、策謀を巡らせた。
「与七郎(石川数正)、奥三河の事の様はいかがじゃ? 相変わらずか」
「は。七年にわたって手を変え品を変え調略をかけておりますが、申し上げ難き事なれど、こちらに仇なす事はなくなりましたが、離反させるまでには至っておりません」
武田・徳川の和睦問題で、奥三河と北遠江に関してはお互いが好きなように、との条件でまとまったのだ。その後北遠江は調略によって徳川家に寝返った。しかし、奥三河は頑なに拒んだのだ。
「ようやくその時がきた。これでようやく元に戻るのだ。三河と遠江がわが徳川に!」
「殿?」
「良いか。奥三河を取り返す。内府殿には、それこそ構いなしと言われておるではないか」
おおお、とざわめきが起きる。
「武田は援軍を出すとなれば南信濃は手薄になろう。奥三河は容易く取り返せようぞ。数正、支度をいたせ。勝頼の動きに目を光らせ、軍を動かしたならば、すぐにでも動かせるようにしておくのだ」
「はは」
■小谷城
「よいか。構いなしとはいえ、われらに直に関わる事ではないし、それどころではない。今は国力を高める事が肝要ぞ」
「はは」
■純アルメイダ大学 化学研究室
どがあああああああん!
研究室中に鳴り響いた爆音の後、宇田川松庵をはじめとした助手全員が確信した。
「やった! ついにやったぞ!」
雷酸水銀の発明である。
何年も前から松庵と助手たちは、様々な物質を試していた。何十回何百回何千回、何十通り何百通り何千通り、何十種類何百種類何千種類と試し、ようやく可能性のある物質にたどり着いたのだ。
間違いなく、戦国時代に革命をもたらす発明である。
次回 第671話 (仮)『上洛要請のその後と景勝vs.景虎始まる』
「構いなし、か」
純久は純正からの通信を読んで一言つぶやいた。
要するに主眼が北条への上洛要請であり、上杉に関しては関知しないという事だが、この時点で付き合いはないので、どっちの味方もないもんだ。
純久は純正の考えが読めた。
ここで大同盟に参加をしたい、あるいは服属を願いでる、という事であれば、景勝だろうが景虎だろうが味方をしただろう。そう発議して、いずれかの正統性を支持したに違いない。
景勝がそうなれば北条への牽制にもなるし、奥州への足がかりにもなる(経済的な面で)。景虎は景虎で、北条氏康の子で氏政の兄弟であるから、北条を降して上洛させるのに一役買うだろう。
しかし、そのどちらもなかった。
純正にしてみれば、どっちでもいいから互いに争って消耗してくれ、という事なのだろう。その後経済的な締め付けをやらなくても、商人が勝手に動いて越後経済を締め上げる。
さて、これを受けた諸大名はどう動くだろうか。純久は予想しながらもう一つの仕事である、北条氏政への上洛要請文書を書いた。
前略
先般の戦における申し開きを求め候間、近日中に上洛願いたく存じ候。
そもそも事の発端は里見家の内訌にありて、わが小佐々家とも北条家とも一切関わり合いのない事と存じ候。
我が家中は里見佐馬頭殿(義重)の求めによりて勢を動かしけり候へども、北条の兵船に掛かられけり候。
其処故に(そういう理由で)打ち合ひけり候へども、わが兵船兵士にも失出でけり候。
これより先同じ事の起きぬよう、重ねて上洛願いたく存じ候。
早々。
(この前の戦の弁解をして欲しいので、近日中に上洛してくださいね。元々は里見家の内輪もめなんで、うちも北条も関係ないでしょう? 頼まれたから行ったけど、戦うつもりなんてなかったんだよ。でも、攻撃してきたでしょ? だから正当防衛。うちも損害でたから、このまま何もなしって訳にはいかない。じゃあ、よろしくね)
五月廿一日
小佐々治部大丞(純久) 花押
小佐々内大臣(純正) 花押
■躑躅ヶ崎館
「構いなし、とな?」
勝頼はその知らせに驚き、思案にくれた。どうしたものか……。何が武田に一番利があり、内府殿の意向にそむかない事か。
「喜兵衛、虎盛よ。いかが思う?」
二人は顔を見合わせていたが、やがて喜兵衛(真田昌幸)が口を開いた。
「構いなし、というのは文字通り好きにせよの意かと存じますが、その果て(結果)、内府様の益を損なうようになれば如何あいなるか……と読み取れるかと存じます」
「つまり?」
虎盛が聞き直す。
「すなわち、弾正少弼殿(上杉景勝)につこうが三郎殿(上杉景虎)につこうが、勝とうが負けようが、その後小佐々家中に良きように働くようにして欲しいとの事かと存じます」
「……うむ。いずれにせよ勝ち筋に乗るのは当然として、弾正少弼殿に与すれば、間違いなく北条との縁は切れ申す。養子に出したとはいえ、三郎殿は北条の縁者にございますからな。北条とは甲相同盟あれど、直にではないが、大同盟(小佐々)と北条は二度戦うておる。そろそろ潮時であろう。北条との盟に益は見いだせませぬ」
虎盛は有名無実化している甲相同盟の破棄も見据えて、景勝側に味方するよう言っているのだ。
「……二人の考えはわかった。されど、今ひとつわからぬ事がある。なにゆえに内府殿は、構いなしとされたのだろうか。小佐々領である越中と越後は境を接しておる。上杉の去就は、些事とは思えんが」
勝頼の言葉に二人とも考え込んだ。三人は思い思いに考えを巡らし、喜兵衛が発言した。
「されば、それがしは内府様が北条に上洛を促したと聞き及びました」
「北条に! ?」
虎盛は驚くが、勝頼は微動だにしない。
「先日の戦に関わる事にございましょうが、勅もなく上洛せよとは、明らかに北条を下にみているかと存じます。ゆえにこの先、北条との大戦をお考えになっておられるのではないでしょうか」
喜兵衛の言葉に勝頼は結論を出す。
「ふむ。今一度内府殿のお考えを確かめるべく治部大丞殿に文を出せ。武田は弾正少弼殿に与す事に決するが、すべてはそれを聞いてからじゃ。弾正少弼殿にも三郎殿にも、いかなる題目(条件)を出すか聞いておくのだ」
「「はは」」
■小田原城
「なに? 謙信が死んだと?」
謙信死すの報は氏政の元にも届いていたが、氏政はすぐに行動を起こすことができなかった。里見家の内紛への介入に失敗し、小佐々海軍に敗れて兵を退いたとの報は、関東の諸大名に伝わっていたのだ。
そのため佐竹や宇都宮の動きがあやしく、隙あらば兵を動かしそうな気配を見せていた。
しかし、北条領には攻め入っていない。
「殿、まずは上杉の事の様をつぶさに知る事が肝要かと存じます。加えて武田に使者をやり、三郎様にお味方するように伝えるのです。また伊達や蘆名、大宝寺をはじめとする奥州の諸将にも三郎様の正しきを伝え、助力いたすよう文を送りましょう」
板部岡江雪斎がそう言うと、松田憲秀や多目元忠も賛同した。
「あい分かった。いまは軽々に動けぬが、三郎を立てて上杉を北条の永久の味方とするのだ」
「はは」
■岐阜城
「構いなしとは言え、そうよの……今われらに出来ることはなにもなし、やるべき事もなかろう」
信長の言葉に光秀が答えた。
「は。されど何がいかように転ぶかわかりませぬ。よくよく周りに心置き(注意を配り)、いかようにも動けるようにしておくが肝要かと」
「良きに計らえ」
「はは」
■七尾城
「親兄弟相争う事の詮無き事は、我らが身を以て知っておるだろう。故に、こたびは何もせぬ。内府殿もそうお望みじゃ」
「御意」
■浜松城
「我らには味方するよう求めてはこなかったが、然もありなん。武田は境を接しておるし、畠山は海を隔てておるが捨て置けぬ。小佐々は越中を押さえておるし、わが同盟の盟主であるからな」
『構いなし』の報を聞いて初めて謙信の訃報をしった家康であったが、すぐにニヤリと笑い、策謀を巡らせた。
「与七郎(石川数正)、奥三河の事の様はいかがじゃ? 相変わらずか」
「は。七年にわたって手を変え品を変え調略をかけておりますが、申し上げ難き事なれど、こちらに仇なす事はなくなりましたが、離反させるまでには至っておりません」
武田・徳川の和睦問題で、奥三河と北遠江に関してはお互いが好きなように、との条件でまとまったのだ。その後北遠江は調略によって徳川家に寝返った。しかし、奥三河は頑なに拒んだのだ。
「ようやくその時がきた。これでようやく元に戻るのだ。三河と遠江がわが徳川に!」
「殿?」
「良いか。奥三河を取り返す。内府殿には、それこそ構いなしと言われておるではないか」
おおお、とざわめきが起きる。
「武田は援軍を出すとなれば南信濃は手薄になろう。奥三河は容易く取り返せようぞ。数正、支度をいたせ。勝頼の動きに目を光らせ、軍を動かしたならば、すぐにでも動かせるようにしておくのだ」
「はは」
■小谷城
「よいか。構いなしとはいえ、われらに直に関わる事ではないし、それどころではない。今は国力を高める事が肝要ぞ」
「はは」
■純アルメイダ大学 化学研究室
どがあああああああん!
研究室中に鳴り響いた爆音の後、宇田川松庵をはじめとした助手全員が確信した。
「やった! ついにやったぞ!」
雷酸水銀の発明である。
何年も前から松庵と助手たちは、様々な物質を試していた。何十回何百回何千回、何十通り何百通り何千通り、何十種類何百種類何千種類と試し、ようやく可能性のある物質にたどり着いたのだ。
間違いなく、戦国時代に革命をもたらす発明である。
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