663 / 828
日ノ本未だ一統ならず-技術革新と内政の時、日本の内へ、外へ-
第662話 『海軍の再編成と陸軍の再編成。増員と人事異動』(1579/1/19)
しおりを挟む
天正七年十二月二十二日(1579/1/19) 諫早城
純正はフィリピン戦を見据えて、陸軍を8個師団編制、海軍を8個艦隊編制とする予定であった。
しかし勝利したものの、明への対応も含め、スペインがいつ盛り返してくるか分からない。そのため3個師団ならびに3個艦隊への戦力増強は予定通り行われる事に決まった。
また、今後の国家戦略として、その戦力配置に関しては十分な検討をする必要があったため、純正は戦略会議室のメンバーと陸相と海相を集めて会議を行ったのだ。
「まず、陸海軍ともに、国内に主眼をおくか、国外に主眼をおくかによって兵力の配置は変わってくるかと存じます」
直茂が発言し、会議がスタートした。
「うむ」
「まずは国内、日ノ本にござるが、大同盟があり、同盟を結んではおらずとも、上杉ならびに北条とは戦う由もなし。ゆえに第一師団から第三師団までの配置については変えずともよいかと存ずるがいかに?」
直茂の言葉に長与純平が応じ、続けた。
「左様、万が一上杉が寄す(攻めてくる)ならば越中の第五師団に処させれば良いし、北条ならば武田徳川がおりまする。未だ武田と徳川遺恨在り、同心(協力)能わぬならば、武田に求め陸路と海路にて三個師団を遣ればよい」
「うむ、他に考えのあるものは? ……ではそのようにいたそう。されど万が一の時に助勢に時がかかろうから、念のため新設の一個師団を吉原の湊に駐屯せしめ、もって北条にあたるのがよかろう」
「はは」
「陸軍の残りの二個師団は南方に配置しようかと思うがいかに?」
台湾とフィリピンに1個旅団をおいて、その戦力でセブ島のサン・ペドロ要塞攻略を行ったのだが、今後は行動範囲が何倍にも広がる。極端に言えばオーストラリアまで入るのだ。
「では、台湾と呂宋の一個旅団に加え、新たに二個師団を南方に配すのでしょうか」
陸軍大臣の純平が確認する。
「いや、種子島の分屯隊を除き、第四師団のすべてを南へ移す。台湾の基隆に師団司令部を置き、呂宋の半個旅団も基隆へ移す。そして呂宋には新設の第七師団、そしてさらに南の新幾内亜島の籠手田湊(ポートモレスビー)に第八師団を駐屯させるのだ」
基隆に1個師団を置いたのは明へ対処するため、ニューギニアに置くのは壊滅させたとはいえ、いつスペインが攻め寄せてくるかも不明なため、陸上戦力をおいて防備を固めようとの考えである。
「第四師団は司令部が移動し、二個師団が動く訳であるが、基隆と呂宋に駐屯している部隊と連携すればなんら障りなく能うであろう。第七と第八は新設で加えて南方の配備ゆえ不満もでるかもしれぬが、人事考査で考慮すればよかろう」
師団内部での兵員配置は師団長に一任するとし、当面は治安の維持に努める事となる。基隆とマニラは別だが、他は入植して日も浅い。どんなトラブルが起こるかもわからないからだ。
その代わり士官、下士官兵ともに昇進が早まるようにする。
ああそれから、と純正が続けた。
「第四師団の深作宗右衛門少将であるが、南方方面軍司令官に就任するため、中将へ昇進させるものとする。要塞攻略戦での働きは見事であった。陸軍大臣、よいか?」
「はは」
戦時特例での昇進であるが、当然他の師団の将兵は対象ではない。
戦略会議室は、あらゆる角度から見た政治の中枢である。しかし軍略面においては、おおまかな戦略を考え検討はするが、細部はほぼ各大臣の所掌となる。
「では次に海軍になりますが、本は陸軍と同じ考えでよろしいでしょうか」
直茂が純正に聞く。要するに南方重視でよいか? という事だ。
「うむ。陸軍にしても海軍にしても、日ノ本には今のところ大きく備えねばならぬ敵はおらぬであろう。奥州から北の北加伊道や樺太、千島も同じである。ゆえに南に重きを置く」
全員がうなずいて具体策を聞こうと視線を純正に集める。
「まず、既存の第一から第四艦隊を、南遣艦隊として独立させる。鎮守府を馬尼拉置き、第一、第二艦隊を置く。基隆には警備府と第三艦隊、籠手田湊(ポートモレスビー)にも同じく警備府と第四艦隊を置く」
南遣第一艦隊、第二、第三、第四とするのだ。
「佐世保に第五、呉に第六、北海鎮守府(越中・岩瀬)に第七、そして最後に吉原湊にも鎮守府を置いて第八艦隊とする」
直江津と吉原湊は陸軍とほぼ同じ目的である。呉はどちらにも対応できるよう、佐世保は西海ではあるが、状況によっては南方へも北方、東国へも作戦行動を展開する。
「海軍大臣、何かあるか?」
「ございませぬ。ただ……」
「ただ、何じゃ?」
純正をはじめ一同は、部隊配置に問題なしとしていたので、純賢の言葉が気になったのだ。
「新たにできた蒸気機関なるもの、風がなくとも船が動くとのこと。以前より知っておりましたが、近頃さらに強く早いものができたとか。まず何よりも海軍の船へ乗せ、船戦に使えるように訓練をいたしたく存じます」
「御屋形様! それならば陸軍も!」
純賢の発言に純平がかぶせるように加えた。
「わかっている。蒸気機関は陸でも海でも、これまでの理を覆すからくりにて、万事うまくよう取り計らう。すでに海軍に関しては、船に載せるものを開発するよう申しつけておる」
「はは」
「陸軍も同じく機関車なる乗り物をこしらえる考えゆえ、あせるでない」
「はは」
蒸気機関の誕生は、軍事面でも大きな影響を及ぼしそうである。
次回 第663話 (仮)『日ノ本大同盟の今』
純正はフィリピン戦を見据えて、陸軍を8個師団編制、海軍を8個艦隊編制とする予定であった。
しかし勝利したものの、明への対応も含め、スペインがいつ盛り返してくるか分からない。そのため3個師団ならびに3個艦隊への戦力増強は予定通り行われる事に決まった。
また、今後の国家戦略として、その戦力配置に関しては十分な検討をする必要があったため、純正は戦略会議室のメンバーと陸相と海相を集めて会議を行ったのだ。
「まず、陸海軍ともに、国内に主眼をおくか、国外に主眼をおくかによって兵力の配置は変わってくるかと存じます」
直茂が発言し、会議がスタートした。
「うむ」
「まずは国内、日ノ本にござるが、大同盟があり、同盟を結んではおらずとも、上杉ならびに北条とは戦う由もなし。ゆえに第一師団から第三師団までの配置については変えずともよいかと存ずるがいかに?」
直茂の言葉に長与純平が応じ、続けた。
「左様、万が一上杉が寄す(攻めてくる)ならば越中の第五師団に処させれば良いし、北条ならば武田徳川がおりまする。未だ武田と徳川遺恨在り、同心(協力)能わぬならば、武田に求め陸路と海路にて三個師団を遣ればよい」
「うむ、他に考えのあるものは? ……ではそのようにいたそう。されど万が一の時に助勢に時がかかろうから、念のため新設の一個師団を吉原の湊に駐屯せしめ、もって北条にあたるのがよかろう」
「はは」
「陸軍の残りの二個師団は南方に配置しようかと思うがいかに?」
台湾とフィリピンに1個旅団をおいて、その戦力でセブ島のサン・ペドロ要塞攻略を行ったのだが、今後は行動範囲が何倍にも広がる。極端に言えばオーストラリアまで入るのだ。
「では、台湾と呂宋の一個旅団に加え、新たに二個師団を南方に配すのでしょうか」
陸軍大臣の純平が確認する。
「いや、種子島の分屯隊を除き、第四師団のすべてを南へ移す。台湾の基隆に師団司令部を置き、呂宋の半個旅団も基隆へ移す。そして呂宋には新設の第七師団、そしてさらに南の新幾内亜島の籠手田湊(ポートモレスビー)に第八師団を駐屯させるのだ」
基隆に1個師団を置いたのは明へ対処するため、ニューギニアに置くのは壊滅させたとはいえ、いつスペインが攻め寄せてくるかも不明なため、陸上戦力をおいて防備を固めようとの考えである。
「第四師団は司令部が移動し、二個師団が動く訳であるが、基隆と呂宋に駐屯している部隊と連携すればなんら障りなく能うであろう。第七と第八は新設で加えて南方の配備ゆえ不満もでるかもしれぬが、人事考査で考慮すればよかろう」
師団内部での兵員配置は師団長に一任するとし、当面は治安の維持に努める事となる。基隆とマニラは別だが、他は入植して日も浅い。どんなトラブルが起こるかもわからないからだ。
その代わり士官、下士官兵ともに昇進が早まるようにする。
ああそれから、と純正が続けた。
「第四師団の深作宗右衛門少将であるが、南方方面軍司令官に就任するため、中将へ昇進させるものとする。要塞攻略戦での働きは見事であった。陸軍大臣、よいか?」
「はは」
戦時特例での昇進であるが、当然他の師団の将兵は対象ではない。
戦略会議室は、あらゆる角度から見た政治の中枢である。しかし軍略面においては、おおまかな戦略を考え検討はするが、細部はほぼ各大臣の所掌となる。
「では次に海軍になりますが、本は陸軍と同じ考えでよろしいでしょうか」
直茂が純正に聞く。要するに南方重視でよいか? という事だ。
「うむ。陸軍にしても海軍にしても、日ノ本には今のところ大きく備えねばならぬ敵はおらぬであろう。奥州から北の北加伊道や樺太、千島も同じである。ゆえに南に重きを置く」
全員がうなずいて具体策を聞こうと視線を純正に集める。
「まず、既存の第一から第四艦隊を、南遣艦隊として独立させる。鎮守府を馬尼拉置き、第一、第二艦隊を置く。基隆には警備府と第三艦隊、籠手田湊(ポートモレスビー)にも同じく警備府と第四艦隊を置く」
南遣第一艦隊、第二、第三、第四とするのだ。
「佐世保に第五、呉に第六、北海鎮守府(越中・岩瀬)に第七、そして最後に吉原湊にも鎮守府を置いて第八艦隊とする」
直江津と吉原湊は陸軍とほぼ同じ目的である。呉はどちらにも対応できるよう、佐世保は西海ではあるが、状況によっては南方へも北方、東国へも作戦行動を展開する。
「海軍大臣、何かあるか?」
「ございませぬ。ただ……」
「ただ、何じゃ?」
純正をはじめ一同は、部隊配置に問題なしとしていたので、純賢の言葉が気になったのだ。
「新たにできた蒸気機関なるもの、風がなくとも船が動くとのこと。以前より知っておりましたが、近頃さらに強く早いものができたとか。まず何よりも海軍の船へ乗せ、船戦に使えるように訓練をいたしたく存じます」
「御屋形様! それならば陸軍も!」
純賢の発言に純平がかぶせるように加えた。
「わかっている。蒸気機関は陸でも海でも、これまでの理を覆すからくりにて、万事うまくよう取り計らう。すでに海軍に関しては、船に載せるものを開発するよう申しつけておる」
「はは」
「陸軍も同じく機関車なる乗り物をこしらえる考えゆえ、あせるでない」
「はは」
蒸気機関の誕生は、軍事面でも大きな影響を及ぼしそうである。
次回 第663話 (仮)『日ノ本大同盟の今』
4
お気に入りに追加
163
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。
アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。
両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。
両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。
テッドには、妹が3人いる。
両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。
このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。
そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。
その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。
両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。
両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…
両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが…
母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。
今日も依頼をこなして、家に帰るんだ!
この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。
お楽しみくださいね!
HOTランキング20位になりました。
皆さん、有り難う御座います。
四代目 豊臣秀勝
克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。
読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。
史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。
秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。
小牧長久手で秀吉は勝てるのか?
朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか?
朝鮮征伐は行われるのか?
秀頼は生まれるのか。
秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?
スキルが【アイテムボックス】だけってどうなのよ?
山ノ内虎之助
ファンタジー
高校生宮原幸也は転生者である。
2度目の人生を目立たぬよう生きてきた幸也だが、ある日クラスメイト15人と一緒に異世界に転移されてしまう。
異世界で与えられたスキルは【アイテムボックス】のみ。
唯一のスキルを創意工夫しながら異世界を生き抜いていく。

魔道具作ってたら断罪回避できてたわw
かぜかおる
ファンタジー
転生して魔法があったからそっちを楽しんで生きてます!
って、あれまあ私悪役令嬢だったんですか(笑)
フワッと設定、ざまあなし、落ちなし、軽〜く読んでくださいな。


帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす
黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。
4年前に書いたものをリライトして載せてみます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる