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日ノ本未だ一統ならず-技術革新と内政の時、日本の内へ、外へ-

第661話 『腕木通信と通信距離の延長、鉄道馬車から鉄道へ』(1578/12/15)

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 天正七年十一月十七日(1578/12/15) 諫早城

 純正は内政の拡充の一環として技術革新を推進していたが、科学技術省主導の最新技術ではなく、今できる新しい技術はないかと考えていた。
  
 長年純正の頭を悩ませていた通信距離の延長、通信時間の短縮である。

 通信手段は現在、手旗や発光の他に火振りや飛脚、馬などを用いていた。晴天時は一番速いのが手旗であり、望遠鏡を使えば素早い通信が可能であった。

 これをもっと早くできないかと考え出し抜いたのが『腕木通信』である。

 ざっくり簡単に言えば大がかりな手旗装置だ。純正はこの設備を開発するにあたって、複雑な動作を可能とするために、正確な時計を制作した天才的な時計師、慈恩張秦じおんはりしん に設計を命じた。




 ■諫早城通信台

「張秦よ。これはまた、かなり大がかりな物となったな」

 純正は諫早城の通信台に設置された腕木通信塔を見て言った。

「は。これまでより一度に届く距離を長くするには、大きくする他はなく、さりとて動きが鈍重になっては本末転倒にて、この大きさと相成りました」

 恐縮している張秦に純正は再び声をかける。

「良い良い。して、いかほどで届くのだ?」

 純正は10mの高さの塔を見上げながら続けた。重要なのは速度なのだ。

「は。一語につき約十二秒で送れますので、例えば十文字送ろうとすれば、六分ほどで、送って帰って参ります」

「むふ。ではやって見せよ」




 テスト

 ワレ ウデギ ニテ ツウシンチユウ イサハヤ ヨリ マツタケ マデ ウデギ ニテ ツウシンチユウ




 全部で41文字である。
  
 張秦は塔の内部の下側にいる通信員に文を見せ、精巧に組み合わされたハンドルやレバーを操作して信号を送る。塔の内部には常時二人が待機しており、一人が操作し、一人は塔の上部につながった望遠鏡をみて信号を解読する仕組みである。

 通信塔は城や丘などの高所に設置されたので、二つの方向に望遠鏡が設置されてあるのだ。




 ■33分後

「来ました!」

 信号の発信者が、受信者が受信してメモをとりだしたのを張秦に知らせた。約25km先にある松岳城信号所からの信号を受信したのだ。

「御屋形様、これが受信文にございます」

 見せられた文は純正が書いた文面と全く同じであったが、松岳城から折り返しで送られてきたのである。距離は倍の十二里弱(50km)である。

 これまでの手旗通信より格段に早い。一文字あたりの伝達スピードは手旗の方が速いが、伝達距離が長いのでそのデメリットを補うのだ。

「素晴らしい! 張秦よ、時計とあわせ改善できるものがあれば、どんどんやるが良い。銭はいくらかかっても構わぬ」

「ははっ」




 ■馬車鉄道から鉄道へ

 六年前の天正元年に開発と設置を始めた馬車鉄道の敷設が、ようやく終わった。蒸気機関の開発前に、初期の研究段階から構想があった物を実用化したのだ。

 ・天正元年(1572年)……木製レールを用いて炭鉱で使用が開始され始める。これは主に石炭を港まで効率よく運ぶために設置。

 ・天正二年(1573年)……木材は摩耗が激しかったために、鋳鉄を部分的にレールに使用する。摩耗の激しいカーブ部分の木材の表面を鋳鉄で覆った物。
 
 ・天正三年(1574年)……全輸送区間に鋳鉄が利用された。メンテナンスの頻度が減少し、運行効率が上がるも、鋳鉄は曲げにくかったために脱線事故が多発した。

 ・天正四年(1575年)……フランジ付きレールの導入により脱線事故が減少し安全性が向上するも、車輪とのきしみが走行の問題となったり、雨水や落葉がたまるという問題が発生。

 ・天正五年(1576年)……この問題を解決すべくL字形のレールが開発される。

 ・天正六年(1577年)……レールではなく車輪側にフランジを付け、魚腹形レールと組み合わせる事で脱線事故が大幅に減少。

 ・天正七年(1578年)……反射炉の完成により、錬鉄のレールを試作。耐久性と安全性が高まるも、現状ではコストがかかるため鉱山用に短距離のものしか使用されていない。

 生産量が増え、コストの低下と共に一般の輸送用の路線にも錬鉄を導入していく予定で、蒸気機関車が実用化されていけば、順次鉄道馬車から代えていく予定である。




「皆、ようやく街道が整備され、駅馬車が普及してきたのだ。初めは小佐々の家中での営み、生業としておったが、領民の中にも銭に余裕のある者は自前で馬車を買い求め、駅馬車を生業とする者も出てきた。こたびのように鉄道馬車が鉱山だけでなく領内隅々まで行き渡り、さらに機関車まで走れば、人々の職を奪うことになるのではないか?」

 純正の問いに対して、太田屋弥市が最初に口を開いた。

「御屋形様、確かに初めは鉄道の導入が一部の領民の職に影響を与えるやもしれませぬ。されど鉄道によって輸送の費用が削減され、商品の値が下がれば、物を買う者や遊興にふけるもの、諸々の事に銭をつかう者が増えましょう。銭が回れば国は豊かになりますす。また、遠方への商品流通が容易になるため、商人たちの商いの場も広がることでしょう」

 短期的には打撃を受ける者も、補助金を出して新規の商売に参入を促すことで、利益を得られるようにする。いきなり全域に導入するわけではないからだ。

 次に、内務省の太田七郎左衛門が続いた。

「さらに、鉄道建設自体が新たな雇用を生み出します。鉄道の維持管理、駅の運営など、多くの民が関わる事になりますゆえ、農民たちもその恵を受けることができるでしょう。かかる銭が少なくなれば、それだけ実入りも多くなりまする」

 経済産業省の岡甚右衛門も意見を加える。それぞれが異なった分野の目線から、領内全土の鉄道網の構築に賛成意見を述べているのだ。

「確かに短い目で見れば、一部の職を奪うように見えるかもしれませぬ。されどそもそも、街道を用いる駅馬車と鉄道では、駅も違えばつかう人々も違います。街道が整ってない所でも駅があり、駅がないところでも駅馬車の停車場がある。そのような棲み分けが能うはずかと存じます」

「うむ」

「加えて、長い目で見れば銭の流れをさらに生み、新たな生業も生むのです。古きものから新しい物に変わるとき、多かれ少なかれかような事は生じます。一時のことゆえ、案ずる事はございませぬ」

 最後に国土交通省の遠藤千右衛門が話を締めくくった。

「御屋形様、鉄道は領内の連携を強化し、敵からの備えにおいても大きな利がございます。大量の兵や兵糧、武具に矢弾などを速やかに遠方に送る事があたいます。この辺りは陸軍省の方々も、同じ思いかと存じます」


 

 純正はそれぞれの意見を聞きながら、この技術革新がもたらす変化を恐れず、進んでいく決意を新たにした。




 次回 第662話 (仮)『海軍の再編成と陸軍の再編成。増員と人事異動』
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