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日ノ本未だ一統ならず-北条と東北。明とスペイン、欧州情勢。-
第645話 『イスパニアの戦力とその動向』
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天正七年四月二十八日 レイテ島 カバリアン湾 スペイン軍基地
「危険です! 私の部隊の見張りの報告では、湾の入り口付近で多数の艦影を見たとのこと。もし、我らがここにいることを知られたならば、敵はこぞって攻めてまいりますぞ!」
フアン・デ・サルセードは、先日の見張りの報告が気になって仕方がない。杞憂であれば良いが、自軍の所在地が敵に露見していれば、迎撃準備も整わないうちに、攻撃を受けるからだ。
ここは速やかに引き払い、別の停泊地へ向かうか、拠点であるセブ島へ向かうべきと考えた。しかし、小佐々軍の正確な位置と戦力がわからない。
「フアン提督、まあ落ち着きなさい。我らはアカプルコからここまで、一ヶ月半の長旅を経てやってきたのだ。まずは兵達に十分な休息を与えない事には、士気も上がらぬというもの」
艦隊総司令はフアン・デ・オニャーテ。
いかにも貴族という風体で、冒険者や航海者という雰囲気はない。およそこの時代のコンキスタドール(征服者)とは一線を画すような感じである。
「ではどうするのですか? すでに5日たっているのです。ここは我々も偵察隊を出し、敵情を探る必要があります。敵がここに現れたと言う事は、メニイラ(マニラ)からミンドロ・パナイ・ネグロス・セブ、これらを越えてきているのです」
オニャーテはため息をついて、見下すように言う。
「フアン提督、何がいいたいのだ?」
「セブ島にはサン・ペドロ要塞、ネグロスやボホール島、そしてマクタン島にも要塞や堡塁を築いているのです。それらを無視してこのレイテ島のカバリアン湾に来たという事は」
フアンは考えたくもない、というような素振りで、言った。
「これらの要塞群が敵の手に落ちた、もしくは陥落寸前という事を意味しているのではないでしょうか」
ははははは! とオニャーテが笑い出した。
「何を言い出すかと思えば、フアン提督。若いというのは、そういう突飛な発想がでてくるものなのだな。ははははは」
何を寝ぼけたことを、とでも言いたげだ。
「そんな事はありえぬよ、フアン提督。報告によればメニイラの敵の艦隊は30隻前後だ。それから3年前にジパングで戦争が起きたとの東国王からの知らせでは、KOZASAとやらの兵力は44隻だった。仮にそうだとしても、我が艦隊は60隻だ。今のヌエバ・エスパーニャのほぼ全てではあるがな」
ヌエバ・エスパーニャ副王は、隣接副王領であるペルー副王に沿岸の防衛を要請してまで、この機にマニラ大侵攻作戦を考えていたのだ。
セブ島の総督からの手紙はまだ届いていない。
「しかし万が一、万が一再び敗れるような事があれば、ヌエバ・エスパーニャは、副王領は終わりですぞ。明国との交易はもとより、東国王との交易も危うくなります」
「不愉快だな、そのような事。夢にもあってはならんことだ、一度ならず二度までも黄色い猿にわれらが負けるとは。……で、提督は何がしたいのだ? 何をすれば良いと思う?」
オニャーテはとりあえず聞いてやる、という感じだ。
「まずは、敵の情報を知らなければなりません。そのため、少数の偵察部隊をセブ島方面へ向かわせます。それと同時に敵襲に備えなければなりませんので、パナアン海峡に見張りを立てましょう。欲を言えばサンリカルドの岬にも欲しいところです」
「なるほど」
「では……」
「やるなら勝手にやりたまえ。いるかどうかもわからぬ敵に怯えて、余計な兵力を割きたくはない」
「な!」
要するにやりたいのなら、自分の部隊だけでやれと言う事なのだろう。ヌエバ・エスパーニャの艦隊は全60隻。そのうちフアンが指揮するのは10隻だ。
こから偵察隊や見張りの兵員を出せというのだろう。
「フアン」
40代のもう一人の指揮官らしき男が、首を横に振りながら呼ぶ。
「何を言っても無駄なようだ。俺たちだけでやろう」
「おじさん……」
マルティン・デ・ゴイチ。
マニラ戦役の生き残りである。レガスピと孫のフアン、そしてレガスピの右腕だったゴイチは、最初のフィリピン到達からずっと行動を共にしてきた家族のようなものだ。
ゴイチの艦隊も10隻。二人の艦隊は、今回オニャーテが来るまでのビサヤ以南のスペイン軍の全艦隊である。
「まあ、いろいろとやるのは構わんが、わしに迷惑だけはかけんでくれよ」
そう言ってオニャーテは他の幕僚とともに部屋を出て行った。
「で、フアン。どうするつもりだ?」
ゴイチはニヤニヤしながらフアンに聞いてくる。
レガスピが戦死した後、艦隊を再編してこれまでやってきた。ゴイチはフアンにとってパートナーであり、親のようなものである。
「まずは敵を知らなきゃならない。3隻ほどで偵察部隊を組もうと思う。そしてさっきも言ったけど、パナアン海峡とサンリカルドの岬に見張りをたてる。これは急いでも二日はかかるだろう」
「わかった。船はどうする?」
「俺の艦隊から出そう。砲は少ないが船足が速い。敵を見つけたら戦うんじゃなく、逃げて知らせて貰わなきゃならないからね。そのかわり、おじさん。見張りの方はお願いできる?」
数日前に部下を前にしてカリカリした態度をみせていた人間とは、同一人物には見えない。人なつっこい好青年のようだ。あるいはゴイチの前でだけ素を出せるのかもしれない。
「わかった。やつらがどんな兵力だろうが、今回が最後だ。今回勝てなければ、イスパニア人としての俺たちは死ぬ」
「ああ」
即座に偵察部隊の艦艇3隻と、見張りの人員が選ばれ、行動に移った。
次回 第646話 (仮)『ファーストコンタクト イン レイテ』
「危険です! 私の部隊の見張りの報告では、湾の入り口付近で多数の艦影を見たとのこと。もし、我らがここにいることを知られたならば、敵はこぞって攻めてまいりますぞ!」
フアン・デ・サルセードは、先日の見張りの報告が気になって仕方がない。杞憂であれば良いが、自軍の所在地が敵に露見していれば、迎撃準備も整わないうちに、攻撃を受けるからだ。
ここは速やかに引き払い、別の停泊地へ向かうか、拠点であるセブ島へ向かうべきと考えた。しかし、小佐々軍の正確な位置と戦力がわからない。
「フアン提督、まあ落ち着きなさい。我らはアカプルコからここまで、一ヶ月半の長旅を経てやってきたのだ。まずは兵達に十分な休息を与えない事には、士気も上がらぬというもの」
艦隊総司令はフアン・デ・オニャーテ。
いかにも貴族という風体で、冒険者や航海者という雰囲気はない。およそこの時代のコンキスタドール(征服者)とは一線を画すような感じである。
「ではどうするのですか? すでに5日たっているのです。ここは我々も偵察隊を出し、敵情を探る必要があります。敵がここに現れたと言う事は、メニイラ(マニラ)からミンドロ・パナイ・ネグロス・セブ、これらを越えてきているのです」
オニャーテはため息をついて、見下すように言う。
「フアン提督、何がいいたいのだ?」
「セブ島にはサン・ペドロ要塞、ネグロスやボホール島、そしてマクタン島にも要塞や堡塁を築いているのです。それらを無視してこのレイテ島のカバリアン湾に来たという事は」
フアンは考えたくもない、というような素振りで、言った。
「これらの要塞群が敵の手に落ちた、もしくは陥落寸前という事を意味しているのではないでしょうか」
ははははは! とオニャーテが笑い出した。
「何を言い出すかと思えば、フアン提督。若いというのは、そういう突飛な発想がでてくるものなのだな。ははははは」
何を寝ぼけたことを、とでも言いたげだ。
「そんな事はありえぬよ、フアン提督。報告によればメニイラの敵の艦隊は30隻前後だ。それから3年前にジパングで戦争が起きたとの東国王からの知らせでは、KOZASAとやらの兵力は44隻だった。仮にそうだとしても、我が艦隊は60隻だ。今のヌエバ・エスパーニャのほぼ全てではあるがな」
ヌエバ・エスパーニャ副王は、隣接副王領であるペルー副王に沿岸の防衛を要請してまで、この機にマニラ大侵攻作戦を考えていたのだ。
セブ島の総督からの手紙はまだ届いていない。
「しかし万が一、万が一再び敗れるような事があれば、ヌエバ・エスパーニャは、副王領は終わりですぞ。明国との交易はもとより、東国王との交易も危うくなります」
「不愉快だな、そのような事。夢にもあってはならんことだ、一度ならず二度までも黄色い猿にわれらが負けるとは。……で、提督は何がしたいのだ? 何をすれば良いと思う?」
オニャーテはとりあえず聞いてやる、という感じだ。
「まずは、敵の情報を知らなければなりません。そのため、少数の偵察部隊をセブ島方面へ向かわせます。それと同時に敵襲に備えなければなりませんので、パナアン海峡に見張りを立てましょう。欲を言えばサンリカルドの岬にも欲しいところです」
「なるほど」
「では……」
「やるなら勝手にやりたまえ。いるかどうかもわからぬ敵に怯えて、余計な兵力を割きたくはない」
「な!」
要するにやりたいのなら、自分の部隊だけでやれと言う事なのだろう。ヌエバ・エスパーニャの艦隊は全60隻。そのうちフアンが指揮するのは10隻だ。
こから偵察隊や見張りの兵員を出せというのだろう。
「フアン」
40代のもう一人の指揮官らしき男が、首を横に振りながら呼ぶ。
「何を言っても無駄なようだ。俺たちだけでやろう」
「おじさん……」
マルティン・デ・ゴイチ。
マニラ戦役の生き残りである。レガスピと孫のフアン、そしてレガスピの右腕だったゴイチは、最初のフィリピン到達からずっと行動を共にしてきた家族のようなものだ。
ゴイチの艦隊も10隻。二人の艦隊は、今回オニャーテが来るまでのビサヤ以南のスペイン軍の全艦隊である。
「まあ、いろいろとやるのは構わんが、わしに迷惑だけはかけんでくれよ」
そう言ってオニャーテは他の幕僚とともに部屋を出て行った。
「で、フアン。どうするつもりだ?」
ゴイチはニヤニヤしながらフアンに聞いてくる。
レガスピが戦死した後、艦隊を再編してこれまでやってきた。ゴイチはフアンにとってパートナーであり、親のようなものである。
「まずは敵を知らなきゃならない。3隻ほどで偵察部隊を組もうと思う。そしてさっきも言ったけど、パナアン海峡とサンリカルドの岬に見張りをたてる。これは急いでも二日はかかるだろう」
「わかった。船はどうする?」
「俺の艦隊から出そう。砲は少ないが船足が速い。敵を見つけたら戦うんじゃなく、逃げて知らせて貰わなきゃならないからね。そのかわり、おじさん。見張りの方はお願いできる?」
数日前に部下を前にしてカリカリした態度をみせていた人間とは、同一人物には見えない。人なつっこい好青年のようだ。あるいはゴイチの前でだけ素を出せるのかもしれない。
「わかった。やつらがどんな兵力だろうが、今回が最後だ。今回勝てなければ、イスパニア人としての俺たちは死ぬ」
「ああ」
即座に偵察部隊の艦艇3隻と、見張りの人員が選ばれ、行動に移った。
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