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日ノ本未だ一統ならず-北条と東北。明とスペイン、欧州情勢。-
第631話 『開戦か交渉か』(1577/8/15)
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天正六年閏七月二十四日(1577/8/15) 諫早城
「御屋形様、それがしは開戦の時と存じます」
会議が始まって、純正は全員に南遣艦隊からの通信文を見せた。
発 第一艦隊司令長官 宛 御屋形様
秘メ 明国 張居正 ト イスパニア 使者 会談 セリ
ヲリシモ セブ ト 澳門 ノ 間ニテ 盛ンニ 両国ノ 荷船 往来アリテ
澳門ノ ポルトガル艦隊 ナラビニ 情報省カラノ 知ラセ 同ジニシテ
確タル 証ト 存ジ候 秘メ
今回の会議は定例会議ではない。
小佐々家の、統治形態としての国の将来を左右する方針を決める、重要な会議である。そのため、通常の閣僚会議の面々に加え、服属大名も参加している。
龍造寺・島津・伊東・大友・毛利(小早川・吉川)・山名・宇喜多・別所・三好・長宗我部・河野・一条といった国守クラスの大名は全員参加したのだ。
開戦となった場合に戦うのは、小佐々の陸海軍である。つまり基本的に各大名の私兵は動かさない。しかし、前回の上杉戦では、5万近い大名軍が参戦したのだ。
その後、報奨と地域振興の予算が振り分けられた。
勝ち戦なら、利はあるのだ。しかし負けたとなれば、即瓦解とまではいかないだろうが、日ノ本大同盟の盟主たる小佐々の権威は地に落ちるだろう。
そうなれば、最悪離反が続出する可能性がある。
慎重に事を運ばなければならない。
純正は対スペイン戦を5年後ないし7年後と考えていた。その期限の明確な根拠はなかったが、信長の本能寺の変が1582年だ。嫌な予感がした。何かが起こりそうなのだ。
それに、北条がスペインと結んで軍備を拡張しているのは知っていた。将来的に技術革新し、陸海軍を創設して増強すれば、あなどれない勢力にはなるだろう。
去年の9月、北方探険艦隊と北条海軍が、北加伊道の襟裳岬沖で遭遇した事は報告を受けていた。艦艇数は10。この短期間で建艦し、乗組員の訓練を行ったとすれば、さすがである。
しかし、それも限界であろう。ガレオン船1隻で最低でも2万5千貫は必要だ。これでも最初期に純正が造ったコストより大幅に少ない。それを10隻だ。
25万貫である。このような巨額の金を北条が捻出できたのだろうか? 1隻のみ500~1,000トンクラスで、あとは中型から小型の艦なのではないだろうか?
北条の石高は、200万石を超えている。直轄地だけでも150万石はくだらない。そのうち四公六民として40万石だ。年間に120万貫の歳入となる。
しかし、そのすべてを軍艦建造にかけられる訳ではない。他に金銀鉱山や、特産品で相当な収益を得ていなければ、かなり厳しいはずである。
それをここ数年でやったのであるから、産業に力を入れて国力をさらに増強しなければ、これ以上の建艦は不可能である。陸上兵力は推して知るべしだが、兵数は別として、火力においては小佐々は負けないだろう。
そこでスペイン本国に目を向ければ、欧州戦線で手一杯である。ヌエバ・エスパーニャが単独で軍備を拡張したとして、最低でも5年はかかると踏んでいたのだ。
明国も高飛車な物言いだが、その実国庫は厳しいはずである。張居正が改革を行って成果が出ていると言っても、積極的に外征するまでにはいたっていない。
となれば、明とスペインが交易を行ったとしても、すぐに攻勢には出ないだろう。
わが小佐々も軍備を拡張し、満を持してフィリピンからスペイン勢力を一掃する。これが純正の戦略であったのだ。
会議の開始と共に、開口一番で発言した鍋島直茂が続ける。
「御屋形様、明とイスパニアが交易を行っているという話は聞き及んでおります。これだけならば、わが小佐々の経済政策による結果ともとれましょう。さりながら……」
直茂の発言は続いた。
「スペイン総督の使者と、わざわざ明国の首輔である張居正が密談を行ったとなれば、別でございます。なんらかの密約が結ばれたと考えてもおかしくはないかと存じます」
「ふむ。皆はどう思う?」
「よろしいでしょうか」
「構わぬ。三郎(左衛門尉)どの、忌憚のないご意見を聞かせて下され」
島津義久が発言する。
「こたびの戦、南蛮の、その中でもイスパニアという国との戦と聞きおよびました。過日の上杉との戦では、われら大名衆と、小佐々陸海軍が同時に事を起こしましたが、まず初めに矢面に立って上杉と打ち合うたのは我らにございます」
「うむ」
「こたびはいかような、戦の運びとなりましょうや? また、イスパニアは得体の知れぬ、明国よりも広大な土地を治める国と聞き及んでまする。我ら小佐々家中のみで、戦われるおつもりか?」
義久は投入戦力の内訳と、その段取り、そして織田をはじめとした同盟国の支援はあるのか? という事を聞きたいのだ。
「まず、開戦するのであれば……今の俺の考えだが、海軍による艦砲攻撃によってセブの城塞を無力化し、商船を含めた敵艦艇を拿捕する。なおも抵抗するようなら、陸軍兵力でもって完全に要塞を制圧するつもりだ」
「我らの助力はいらぬと?」
「そうではない。呂宋の陸上戦力は半個旅団で三千。台湾とあわせても六千だ。敵の陸上戦力はこれ以下と考える。ただし、兵站(荷駄・補給)の問題もあるため、特に九州の大名には兵糧矢弾の供出を命じるかもしれぬ。そして敵兵力がそれ以上の場合も考え、内城の第四師団は全力で南方へと向かう事になるだろう」
「では我らは、出兵の要なしという事でございますか?」
「事の様(状況)によっては出兵を命じる事にもなるであろうが、それは最後の最後じゃ。国許の守りも大事であろうから、残しておかねばならぬ」
「心得ました。では、次に織田を含めた同盟国と、北条に関する事にござるが……」
次回 第632話 『開戦か交渉か』織田と同盟国と北条と(1577/8/15)
「御屋形様、それがしは開戦の時と存じます」
会議が始まって、純正は全員に南遣艦隊からの通信文を見せた。
発 第一艦隊司令長官 宛 御屋形様
秘メ 明国 張居正 ト イスパニア 使者 会談 セリ
ヲリシモ セブ ト 澳門 ノ 間ニテ 盛ンニ 両国ノ 荷船 往来アリテ
澳門ノ ポルトガル艦隊 ナラビニ 情報省カラノ 知ラセ 同ジニシテ
確タル 証ト 存ジ候 秘メ
今回の会議は定例会議ではない。
小佐々家の、統治形態としての国の将来を左右する方針を決める、重要な会議である。そのため、通常の閣僚会議の面々に加え、服属大名も参加している。
龍造寺・島津・伊東・大友・毛利(小早川・吉川)・山名・宇喜多・別所・三好・長宗我部・河野・一条といった国守クラスの大名は全員参加したのだ。
開戦となった場合に戦うのは、小佐々の陸海軍である。つまり基本的に各大名の私兵は動かさない。しかし、前回の上杉戦では、5万近い大名軍が参戦したのだ。
その後、報奨と地域振興の予算が振り分けられた。
勝ち戦なら、利はあるのだ。しかし負けたとなれば、即瓦解とまではいかないだろうが、日ノ本大同盟の盟主たる小佐々の権威は地に落ちるだろう。
そうなれば、最悪離反が続出する可能性がある。
慎重に事を運ばなければならない。
純正は対スペイン戦を5年後ないし7年後と考えていた。その期限の明確な根拠はなかったが、信長の本能寺の変が1582年だ。嫌な予感がした。何かが起こりそうなのだ。
それに、北条がスペインと結んで軍備を拡張しているのは知っていた。将来的に技術革新し、陸海軍を創設して増強すれば、あなどれない勢力にはなるだろう。
去年の9月、北方探険艦隊と北条海軍が、北加伊道の襟裳岬沖で遭遇した事は報告を受けていた。艦艇数は10。この短期間で建艦し、乗組員の訓練を行ったとすれば、さすがである。
しかし、それも限界であろう。ガレオン船1隻で最低でも2万5千貫は必要だ。これでも最初期に純正が造ったコストより大幅に少ない。それを10隻だ。
25万貫である。このような巨額の金を北条が捻出できたのだろうか? 1隻のみ500~1,000トンクラスで、あとは中型から小型の艦なのではないだろうか?
北条の石高は、200万石を超えている。直轄地だけでも150万石はくだらない。そのうち四公六民として40万石だ。年間に120万貫の歳入となる。
しかし、そのすべてを軍艦建造にかけられる訳ではない。他に金銀鉱山や、特産品で相当な収益を得ていなければ、かなり厳しいはずである。
それをここ数年でやったのであるから、産業に力を入れて国力をさらに増強しなければ、これ以上の建艦は不可能である。陸上兵力は推して知るべしだが、兵数は別として、火力においては小佐々は負けないだろう。
そこでスペイン本国に目を向ければ、欧州戦線で手一杯である。ヌエバ・エスパーニャが単独で軍備を拡張したとして、最低でも5年はかかると踏んでいたのだ。
明国も高飛車な物言いだが、その実国庫は厳しいはずである。張居正が改革を行って成果が出ていると言っても、積極的に外征するまでにはいたっていない。
となれば、明とスペインが交易を行ったとしても、すぐに攻勢には出ないだろう。
わが小佐々も軍備を拡張し、満を持してフィリピンからスペイン勢力を一掃する。これが純正の戦略であったのだ。
会議の開始と共に、開口一番で発言した鍋島直茂が続ける。
「御屋形様、明とイスパニアが交易を行っているという話は聞き及んでおります。これだけならば、わが小佐々の経済政策による結果ともとれましょう。さりながら……」
直茂の発言は続いた。
「スペイン総督の使者と、わざわざ明国の首輔である張居正が密談を行ったとなれば、別でございます。なんらかの密約が結ばれたと考えてもおかしくはないかと存じます」
「ふむ。皆はどう思う?」
「よろしいでしょうか」
「構わぬ。三郎(左衛門尉)どの、忌憚のないご意見を聞かせて下され」
島津義久が発言する。
「こたびの戦、南蛮の、その中でもイスパニアという国との戦と聞きおよびました。過日の上杉との戦では、われら大名衆と、小佐々陸海軍が同時に事を起こしましたが、まず初めに矢面に立って上杉と打ち合うたのは我らにございます」
「うむ」
「こたびはいかような、戦の運びとなりましょうや? また、イスパニアは得体の知れぬ、明国よりも広大な土地を治める国と聞き及んでまする。我ら小佐々家中のみで、戦われるおつもりか?」
義久は投入戦力の内訳と、その段取り、そして織田をはじめとした同盟国の支援はあるのか? という事を聞きたいのだ。
「まず、開戦するのであれば……今の俺の考えだが、海軍による艦砲攻撃によってセブの城塞を無力化し、商船を含めた敵艦艇を拿捕する。なおも抵抗するようなら、陸軍兵力でもって完全に要塞を制圧するつもりだ」
「我らの助力はいらぬと?」
「そうではない。呂宋の陸上戦力は半個旅団で三千。台湾とあわせても六千だ。敵の陸上戦力はこれ以下と考える。ただし、兵站(荷駄・補給)の問題もあるため、特に九州の大名には兵糧矢弾の供出を命じるかもしれぬ。そして敵兵力がそれ以上の場合も考え、内城の第四師団は全力で南方へと向かう事になるだろう」
「では我らは、出兵の要なしという事でございますか?」
「事の様(状況)によっては出兵を命じる事にもなるであろうが、それは最後の最後じゃ。国許の守りも大事であろうから、残しておかねばならぬ」
「心得ました。では、次に織田を含めた同盟国と、北条に関する事にござるが……」
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