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日ノ本未だ一統ならず-北条と東北。明とスペイン、欧州情勢。-
第620話 『朝鮮貿易拡大と女真族への援助』(1575/4/21)
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天正四年三月十一日(1575/4/21)
対馬の宗氏を介した李氏朝鮮との貿易も、ここにきて様子が変わってきていた。ずいぶん前に対馬の宗氏と五島の宇久氏はは純正に服属し、その交易権を委譲していたのだ。
当初より純正は積極的に明を除く諸外国と交易を行っていたので、小佐々の産物が女真・朝鮮・琉球・ポルトガル・東南アジアへと流れていったのだが、近年のそれは、明に対する経済的な圧迫を目的としていた。
李氏朝鮮は琉球とは違い中継貿易ではない。そのため琉球が朝貢貿易の優遇がなくなって衰退したのに対して、十分に利益を出していたのだ。
もともと朝鮮は民間貿易と朝貢貿易の両方を行っていたのだが、民間貿易には関税をかけられ、朝貢貿易は関税がかからず様々な優遇を受けていたため、最終的には民間貿易を廃止した。
この十数年の間に、小佐々は明の特産品であるはずの生糸や絹製品、陶磁器にお茶などを朝鮮へ輸出した。さらに胡椒その他の香辛料に香料も加えて輸出し、経典や朝鮮人参などは関税なしで輸入している。
形は違っても、朝貢貿易の冊封国のメリットは、価値の高い品を得る事である。それが純正の交易政策によって崩れ去ったのだ。明から得られるものは、すべて小佐々から得られる。
経済的な依存が、明から小佐々に移ったのである。もちろん、琉球と同じように冊封を受け朝貢は続けるものの、その意義は急速に薄れつつあった。
■李氏朝鮮 景福宮
「柳成龍よ、そなたの日本、いや小佐々と親交をさらに深め、交易をさかんにるつという考えに変わりはないか」
朝議が終わり、末席にいた正四品の議政府舎人である柳成龍を呼び止めて聞いているのは、李氏朝鮮第11代王の宣祖である。
「は。変わりませぬ。日本からの産物はここ十年でめまぐるしく変わりました。はじめは銅や硫黄、琉球からの胡椒や薬種、蘇木などの香辛料に香料でございました」
「うむ」
「しかし今日、日本からは明から下賜される交易品よりも質が良い陶磁器に生糸、さらには絹に絹織物。茶を含めて、商人の間ではかなりの評判にございます。しかも関税もなく、自由に交易ができます。さらに、石けんや鉛筆、珈琲と言った、明にさえない産物があふれております。良い品をこれほどに扱う国が、貧しいわけがありませぬ」
「さようか。対馬の島主の宗氏とは長年わが朝鮮は交易を続けてきたが、その宗氏も小佐々に降ったというではないか。その小佐々がわが朝鮮に攻め寄せてくることはないのか?」
宣祖は小佐々の発展と経済力は認めていたが、同時に西日本を統治する軍事力を脅威とも考えていたのだ。
「陛下。ご心配には及びませぬ。対馬の宗氏は力で屈服させられたのではございませぬ。宗氏と小佐々氏の力が対等であったのは十年以上昔の話。それでも小佐々は服属を迫ることはございませんでした」
「ほう」
「宗氏は自らの繁栄のためにその道を選んだのです。もし、小佐々がその気であれば、とうに済州島は小佐々の領土となっておりましょう」
「さようか。……ではその小佐々から、鳥銃や大砲は買うことができるのか?」
「は。それは交渉次第かと存じます」
大陸との地続きであった朝鮮半島は、古来より中国の影響を色濃く受け、その支配下になって久しかった。李氏朝鮮しかり、高麗しかり、新羅・高句麗しかりである。
完全に支配されていない時代もあったが、李氏朝鮮は独立国という体を保っていたものの、事実上は明の服属国家であった。
そのようななか宣祖には、いつかは完全な独立国、かつて高句麗が大国である隋や唐と戦ったように、尊厳を持って国を導きたいという願いがあったのだ。
■へトゥアラ
「ようやく五部をまとめる事ができたな」
そういって祝杯をあげるのはスクスフ(蘇克素護)部族長のギオチャンガである。フネへ(渾河)・ワンギヤ(完顔)・ドンゴ(董鄂)・ジェチェン(哲陳)の部族の連合体である。
小佐々との交易により他部族より利益を得て、部族連合の首長となったのだ。
史実でヌルハチが建州女直を完全統一するのは13年も後であるから、厳密には統一ではない。その礎を築いたのだ。
「父上の武威のお陰にございましょう」
息子のタクシに孫のヌルハチも声を揃えて言う。
「がはははは、なんのなんの。小佐々から得た銃も良いし、大砲も良いな。しかし、まだ単なる連合の長じゃ。わしのもとに力を集め、他の部族の離反を防いで強大な国をつくらねばならぬ」
部族同士の連合体ではなく、完全なる中央集権国家を作ろうというのだ。しかしそれは、各部族の反感を生む。慎重に事を運ばなければならない問題であった。
軍事力という面では、武器弾薬の輸出に問題はなかった。
小佐々の領内ではすでに火縄銃とフランキ砲は骨董品となりつつあり、安価で提供できたのだ。朝鮮も明も主力の火力はフランキ砲であり、そして火縄銃に関していれば、日本製の火縄銃が何倍も優れていた。
「確かゲンザブロウと言うたかの。あの者は若いが切れ者よのう。わしらの部族が大きくなるのに、足りぬ物を良く知っておる。物だけを売るのではなく、その調練もいたす人間も貸すとはな。わしは人を簡単には信じぬが、あの者が仕えておるゴンチュウナゴンとやらは信じてもよいようだな」
女真族内で力をつけ存在感を増すギオチャンガは、明にとっては目の上のたんこぶになりつつあった。
次回 第621話 『珈琲豆の収穫とオーストラリアの発見』
対馬の宗氏を介した李氏朝鮮との貿易も、ここにきて様子が変わってきていた。ずいぶん前に対馬の宗氏と五島の宇久氏はは純正に服属し、その交易権を委譲していたのだ。
当初より純正は積極的に明を除く諸外国と交易を行っていたので、小佐々の産物が女真・朝鮮・琉球・ポルトガル・東南アジアへと流れていったのだが、近年のそれは、明に対する経済的な圧迫を目的としていた。
李氏朝鮮は琉球とは違い中継貿易ではない。そのため琉球が朝貢貿易の優遇がなくなって衰退したのに対して、十分に利益を出していたのだ。
もともと朝鮮は民間貿易と朝貢貿易の両方を行っていたのだが、民間貿易には関税をかけられ、朝貢貿易は関税がかからず様々な優遇を受けていたため、最終的には民間貿易を廃止した。
この十数年の間に、小佐々は明の特産品であるはずの生糸や絹製品、陶磁器にお茶などを朝鮮へ輸出した。さらに胡椒その他の香辛料に香料も加えて輸出し、経典や朝鮮人参などは関税なしで輸入している。
形は違っても、朝貢貿易の冊封国のメリットは、価値の高い品を得る事である。それが純正の交易政策によって崩れ去ったのだ。明から得られるものは、すべて小佐々から得られる。
経済的な依存が、明から小佐々に移ったのである。もちろん、琉球と同じように冊封を受け朝貢は続けるものの、その意義は急速に薄れつつあった。
■李氏朝鮮 景福宮
「柳成龍よ、そなたの日本、いや小佐々と親交をさらに深め、交易をさかんにるつという考えに変わりはないか」
朝議が終わり、末席にいた正四品の議政府舎人である柳成龍を呼び止めて聞いているのは、李氏朝鮮第11代王の宣祖である。
「は。変わりませぬ。日本からの産物はここ十年でめまぐるしく変わりました。はじめは銅や硫黄、琉球からの胡椒や薬種、蘇木などの香辛料に香料でございました」
「うむ」
「しかし今日、日本からは明から下賜される交易品よりも質が良い陶磁器に生糸、さらには絹に絹織物。茶を含めて、商人の間ではかなりの評判にございます。しかも関税もなく、自由に交易ができます。さらに、石けんや鉛筆、珈琲と言った、明にさえない産物があふれております。良い品をこれほどに扱う国が、貧しいわけがありませぬ」
「さようか。対馬の島主の宗氏とは長年わが朝鮮は交易を続けてきたが、その宗氏も小佐々に降ったというではないか。その小佐々がわが朝鮮に攻め寄せてくることはないのか?」
宣祖は小佐々の発展と経済力は認めていたが、同時に西日本を統治する軍事力を脅威とも考えていたのだ。
「陛下。ご心配には及びませぬ。対馬の宗氏は力で屈服させられたのではございませぬ。宗氏と小佐々氏の力が対等であったのは十年以上昔の話。それでも小佐々は服属を迫ることはございませんでした」
「ほう」
「宗氏は自らの繁栄のためにその道を選んだのです。もし、小佐々がその気であれば、とうに済州島は小佐々の領土となっておりましょう」
「さようか。……ではその小佐々から、鳥銃や大砲は買うことができるのか?」
「は。それは交渉次第かと存じます」
大陸との地続きであった朝鮮半島は、古来より中国の影響を色濃く受け、その支配下になって久しかった。李氏朝鮮しかり、高麗しかり、新羅・高句麗しかりである。
完全に支配されていない時代もあったが、李氏朝鮮は独立国という体を保っていたものの、事実上は明の服属国家であった。
そのようななか宣祖には、いつかは完全な独立国、かつて高句麗が大国である隋や唐と戦ったように、尊厳を持って国を導きたいという願いがあったのだ。
■へトゥアラ
「ようやく五部をまとめる事ができたな」
そういって祝杯をあげるのはスクスフ(蘇克素護)部族長のギオチャンガである。フネへ(渾河)・ワンギヤ(完顔)・ドンゴ(董鄂)・ジェチェン(哲陳)の部族の連合体である。
小佐々との交易により他部族より利益を得て、部族連合の首長となったのだ。
史実でヌルハチが建州女直を完全統一するのは13年も後であるから、厳密には統一ではない。その礎を築いたのだ。
「父上の武威のお陰にございましょう」
息子のタクシに孫のヌルハチも声を揃えて言う。
「がはははは、なんのなんの。小佐々から得た銃も良いし、大砲も良いな。しかし、まだ単なる連合の長じゃ。わしのもとに力を集め、他の部族の離反を防いで強大な国をつくらねばならぬ」
部族同士の連合体ではなく、完全なる中央集権国家を作ろうというのだ。しかしそれは、各部族の反感を生む。慎重に事を運ばなければならない問題であった。
軍事力という面では、武器弾薬の輸出に問題はなかった。
小佐々の領内ではすでに火縄銃とフランキ砲は骨董品となりつつあり、安価で提供できたのだ。朝鮮も明も主力の火力はフランキ砲であり、そして火縄銃に関していれば、日本製の火縄銃が何倍も優れていた。
「確かゲンザブロウと言うたかの。あの者は若いが切れ者よのう。わしらの部族が大きくなるのに、足りぬ物を良く知っておる。物だけを売るのではなく、その調練もいたす人間も貸すとはな。わしは人を簡単には信じぬが、あの者が仕えておるゴンチュウナゴンとやらは信じてもよいようだな」
女真族内で力をつけ存在感を増すギオチャンガは、明にとっては目の上のたんこぶになりつつあった。
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