609 / 812
日ノ本未だ一統ならず-北条と東北。明とスペイン、欧州情勢。-
第609話 加賀と越中西部の自治について言問を行う(1574/9/17)
しおりを挟む
天正三年九月三日(1574/9/17)
5月に行われた合議において、越中の旧本願寺勢力の所領である礪波郡については、当初畠山義慶の管轄下に置くのが良いのではないかとされたが、義慶は辞退した。
家臣からは要望があったようだが、足ることを知るという考えで辞退したのだ。能登一国と加賀の分割統治となれば、それ以上は許容量過多という訳である。
この件については小佐々軍の単独である。
そのため、他の大名の発言力はないに等しい。しかしそれでも純正は合議とし、年貢や港の他、全ての権益を話し合いで分担しようとしたのだ。
加賀守護は建前では富樫氏であったが、その権力を奪われて久しく、一国をまとめるだけの人員もいなければ資金力もなかった。
そのため合議には参加するが、ほとんどは事後承諾という形で会議は進められた。
「各々方、加賀は河北・石川・能美・江沼の四郡である。その他越中の礪波郡とあわせ五郡となるが、いかようにして治めるか?」
利三郎の言葉に、全員が口ごもる。
「いかようにと仰せでも、郡司を置くにしても五つじゃ。われらは七つの家中であるゆえ、二つの家中は余りますぞ」
「さよう。いかようにして決めるのですか」
光秀の問いに秀吉が追従した。
「入れ札にて決めるのはいかがじゃ?」
純久の発言に武藤喜兵衛が答える。
「入れ札は構いませぬが、小佐々家は外せぬでしょう。この儀の立役者にござれば、入れぬのはおかしい」
「それでは残り四つにござるな。されど里見は辞退しとうござる。遠方であるし、今は北条に討ち入らんとしておるところ。人は出せぬのが実のところにござる」
里見義政が喜兵衛の発言に対して要望を口にした。確かに里見にとってみれば、それどころではない。
「では残り四つを畠山、織田、武田、浅井、徳川で決めるということですかな?」
「いやいや、わざわざ分けずとも、石川郡は高十八万石と多い故、それを二つに分けることで、誰もが受け持つことになりますぞ」
石川数正の発言に宮部継潤が答えると、おお、そうだ、という声があがった。
「ではそれで、決をとりたいがいかがかな?」
「「「異議なし」」」
結局、越中の礪波郡は畠山氏が治める事になり、加賀を五つに分けて小佐々・織田・武田・浅井・徳川が治める事となった。
「さて、次に重しなのは法度にござる。各々方、領国ではそれぞれの分国法、法度にて治めておると存ずるが、こたびの加賀を、礪波郡も含めて加賀というが、いかなる法度で治むるかにござろう」
利三郎が全員の顔を見回しながら発言する。
「それは……もう小佐々諸法度で良いのではござらぬか? 皆で治めるとはいえ、六つも七つもある分国法を考え直して、一からつくるのも時がかかろう。まずは、小佐々の諸法度でやってみて、変えるべき点があればその都度変えればよいかと存ずる」
光秀の発言だ。
全員がその通り、と同意の意を示す。
もしかすると、自領に直接利益をもたらすことではないから、関心が薄いのではないだろうか? 利三郎も純久も同じ事を考えているようで、顔を見合わせた。
「されど各々方、小佐々の諸法度は……いささかなじみが薄い点も多い故、赴任した郡代や代官が戸惑うやもしれませぬぞ」
利三郎が言うと、光秀が切り返す。
「それは承知の上にござる。一番重し事は政の隙間をつくらぬ事ではござらぬか? 幸いにして今のところは訴えの類いは起きておらぬようだが、一刻も早く民に示さねば無法の地となりますぞ」
光秀の言葉は言い得て妙である。現代でいうところの政治の空白である。
「……各々方、いかがか?」
「「「異議なし」」」
これも満場一致で決まった。各地区に小佐々家から司法省の補佐官が派遣され、一定期間司法のサポートをすることになったのだ。
もちろん、あくまで司法であるから行政上の越権行為は禁止した。
「次に年貢に運上金、冥加金についてにござるが」
利三郎は財源の確保について発議した。
「それについても考えがございます」
また発言したのは光秀であった。
「年貢、運上金、冥加金、すべて四公六民といたします。その四公をさらにわけ、四を同盟分として六を加賀を治めるための銭にいたします。四の同盟分は半分を残し、半分は六分割するのはいかがでしょうか」
実は利三郎も純久も、光秀と同じように考えていた。違うのは同盟分をさらに半分にするところだ。
しかしこれは考えてみれば当然の結果である。
ようするに大同盟だ合議だと言っても、実入りがないのだ。
当初は合議制を行うにあたって、得た権益についてはかけた労力分(国力による比率)で分配するというものであった。
半分を残しておいたのは、運営の諸経費と、今後起こるであろう軍事行動の費用にあてるためである。
利益を得つつ、今後かかる費用を抑えようと考えるのは、納得できるものであった。
「うべなるかな(なるほど)。いずれにしても初めての試みゆえ、さまざまな差し障りがでてくるやもしれませぬが、日向守殿の仰せの通りにござる。方々、いかがでござろうか?」
結局税率は40%で、40%の内訳は郡予算が10%で国予算が10%、残りの20%を半分が合議所で残りを各国で当分するかたちとなった。
実際にどの程度の予算が運営に必要なのかはやってみなければわからない。
ほどなくして合議所に出納局が設けられ、同盟の資金を管理する事となった。加賀から近江までの資金輸送は各郡がそれぞれ個別に行ったのだ。
ちなみに延暦寺や雑賀寺、本願寺から得られた諸々の権益も、大同盟歳入として出納局が管理した。
次回 第610話 駿河~伊豆大島~安房航路
5月に行われた合議において、越中の旧本願寺勢力の所領である礪波郡については、当初畠山義慶の管轄下に置くのが良いのではないかとされたが、義慶は辞退した。
家臣からは要望があったようだが、足ることを知るという考えで辞退したのだ。能登一国と加賀の分割統治となれば、それ以上は許容量過多という訳である。
この件については小佐々軍の単独である。
そのため、他の大名の発言力はないに等しい。しかしそれでも純正は合議とし、年貢や港の他、全ての権益を話し合いで分担しようとしたのだ。
加賀守護は建前では富樫氏であったが、その権力を奪われて久しく、一国をまとめるだけの人員もいなければ資金力もなかった。
そのため合議には参加するが、ほとんどは事後承諾という形で会議は進められた。
「各々方、加賀は河北・石川・能美・江沼の四郡である。その他越中の礪波郡とあわせ五郡となるが、いかようにして治めるか?」
利三郎の言葉に、全員が口ごもる。
「いかようにと仰せでも、郡司を置くにしても五つじゃ。われらは七つの家中であるゆえ、二つの家中は余りますぞ」
「さよう。いかようにして決めるのですか」
光秀の問いに秀吉が追従した。
「入れ札にて決めるのはいかがじゃ?」
純久の発言に武藤喜兵衛が答える。
「入れ札は構いませぬが、小佐々家は外せぬでしょう。この儀の立役者にござれば、入れぬのはおかしい」
「それでは残り四つにござるな。されど里見は辞退しとうござる。遠方であるし、今は北条に討ち入らんとしておるところ。人は出せぬのが実のところにござる」
里見義政が喜兵衛の発言に対して要望を口にした。確かに里見にとってみれば、それどころではない。
「では残り四つを畠山、織田、武田、浅井、徳川で決めるということですかな?」
「いやいや、わざわざ分けずとも、石川郡は高十八万石と多い故、それを二つに分けることで、誰もが受け持つことになりますぞ」
石川数正の発言に宮部継潤が答えると、おお、そうだ、という声があがった。
「ではそれで、決をとりたいがいかがかな?」
「「「異議なし」」」
結局、越中の礪波郡は畠山氏が治める事になり、加賀を五つに分けて小佐々・織田・武田・浅井・徳川が治める事となった。
「さて、次に重しなのは法度にござる。各々方、領国ではそれぞれの分国法、法度にて治めておると存ずるが、こたびの加賀を、礪波郡も含めて加賀というが、いかなる法度で治むるかにござろう」
利三郎が全員の顔を見回しながら発言する。
「それは……もう小佐々諸法度で良いのではござらぬか? 皆で治めるとはいえ、六つも七つもある分国法を考え直して、一からつくるのも時がかかろう。まずは、小佐々の諸法度でやってみて、変えるべき点があればその都度変えればよいかと存ずる」
光秀の発言だ。
全員がその通り、と同意の意を示す。
もしかすると、自領に直接利益をもたらすことではないから、関心が薄いのではないだろうか? 利三郎も純久も同じ事を考えているようで、顔を見合わせた。
「されど各々方、小佐々の諸法度は……いささかなじみが薄い点も多い故、赴任した郡代や代官が戸惑うやもしれませぬぞ」
利三郎が言うと、光秀が切り返す。
「それは承知の上にござる。一番重し事は政の隙間をつくらぬ事ではござらぬか? 幸いにして今のところは訴えの類いは起きておらぬようだが、一刻も早く民に示さねば無法の地となりますぞ」
光秀の言葉は言い得て妙である。現代でいうところの政治の空白である。
「……各々方、いかがか?」
「「「異議なし」」」
これも満場一致で決まった。各地区に小佐々家から司法省の補佐官が派遣され、一定期間司法のサポートをすることになったのだ。
もちろん、あくまで司法であるから行政上の越権行為は禁止した。
「次に年貢に運上金、冥加金についてにござるが」
利三郎は財源の確保について発議した。
「それについても考えがございます」
また発言したのは光秀であった。
「年貢、運上金、冥加金、すべて四公六民といたします。その四公をさらにわけ、四を同盟分として六を加賀を治めるための銭にいたします。四の同盟分は半分を残し、半分は六分割するのはいかがでしょうか」
実は利三郎も純久も、光秀と同じように考えていた。違うのは同盟分をさらに半分にするところだ。
しかしこれは考えてみれば当然の結果である。
ようするに大同盟だ合議だと言っても、実入りがないのだ。
当初は合議制を行うにあたって、得た権益についてはかけた労力分(国力による比率)で分配するというものであった。
半分を残しておいたのは、運営の諸経費と、今後起こるであろう軍事行動の費用にあてるためである。
利益を得つつ、今後かかる費用を抑えようと考えるのは、納得できるものであった。
「うべなるかな(なるほど)。いずれにしても初めての試みゆえ、さまざまな差し障りがでてくるやもしれませぬが、日向守殿の仰せの通りにござる。方々、いかがでござろうか?」
結局税率は40%で、40%の内訳は郡予算が10%で国予算が10%、残りの20%を半分が合議所で残りを各国で当分するかたちとなった。
実際にどの程度の予算が運営に必要なのかはやってみなければわからない。
ほどなくして合議所に出納局が設けられ、同盟の資金を管理する事となった。加賀から近江までの資金輸送は各郡がそれぞれ個別に行ったのだ。
ちなみに延暦寺や雑賀寺、本願寺から得られた諸々の権益も、大同盟歳入として出納局が管理した。
次回 第610話 駿河~伊豆大島~安房航路
2
お気に入りに追加
158
あなたにおすすめの小説
『転生した無名藩士、幕末の動乱を生き抜く~時代・技術考証や設定などは完全無視です!~』
姜維信繁
ファンタジー
佐賀藩より早く蒸気船に蒸気機関車、アームストロング砲。列強に勝つ!
人生100年時代の折り返し地点に来た企画営業部長の清水亨は、大きなプロジェクトをやり遂げて、久しぶりに長崎の実家に帰ってきた。
学生時代の仲間とどんちゃん騒ぎのあげく、急性アルコール中毒で死んでしまう。
しかし、目が覚めたら幕末の動乱期。龍馬や西郷や桂や高杉……と思いつつ。あまり幕末史でも知名度のない「薩長土肥」の『肥』のさらに隣の藩の大村藩のお話。
で、誰に転生したかと言うと、これまた誰も知らない、地元の人もおそらく知らない人の末裔として。
なーんにもしなければ、間違いなく幕末の動乱に巻き込まれ、戊辰戦争マッシグラ。それを回避して西洋列強にまけない国(藩)づくりに励む事になるのだが……。
幼い公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~
朱色の谷
ファンタジー
公爵家の末娘として生まれた6歳のティアナ
お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。
お父様やお兄様は私に関心がないみたい。愛されたいと願い、愛想よく振る舞っていたが一向に興味を示してくれない…
そんな中、夢の中の本を読むと、、、
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
ボッチの少女は、精霊の加護をもらいました
星名 七緒
ファンタジー
身寄りのない少女が、異世界に飛ばされてしまいます。異世界でいろいろな人と出会い、料理を通して交流していくお話です。異世界で幸せを探して、がんばって生きていきます。
【書籍化進行中、完結】私だけが知らない
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化進行中です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/12/26……書籍化確定、公表
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
異世界でホワイトな飲食店経営を
視世陽木
ファンタジー
定食屋チェーン店で雇われ店長をしていた飯田譲治(イイダ ジョウジ)は、気がついたら真っ白な世界に立っていた。
彼の最後の記憶は、連勤に連勤を重ねてふらふらになりながら帰宅し、赤信号に気づかずに道路に飛び出し、トラックに轢かれて亡くなったというもの。
彼が置かれた状況を説明するためにスタンバイしていた女神様を思いっきり無視しながら、1人考察を進める譲治。
しまいには女神様を泣かせてしまい、十分な説明もないままに異世界に転移させられてしまった!
ブラック企業で酷使されながら、それでも料理が大好きでいつかは自分の店を開きたいと夢見ていた彼は、はたして異世界でどんな生活を送るのか!?
異世界物のテンプレと超ご都合主義を盛り沢山に、ちょいちょい社会風刺を入れながらお送りする異世界定食屋経営物語。はたしてジョージはホワイトな飲食店を経営できるのか!?
● 異世界テンプレと超ご都合主義で話が進むので、苦手な方や飽きてきた方には合わないかもしれません。
● かつて作者もブラック飲食店で店長をしていました。
● 基本的にはおふざけ多め、たまにシリアス。
● 残酷な描写や性的な描写はほとんどありませんが、後々死者は出ます。
魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる