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日ノ本未だ一統ならず-北条と東北。明とスペイン、欧州情勢。-
第605話 対北条戦略と対明経済戦略
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天正三年七月二十五日(1574/8/11) 日ノ本大同盟合議所
「皆様、よろしいでしょうか?」
発言したのは里見家家老、正木左近大夫(従五位、左近衛将監)頼忠である。
大同盟合議所では、加盟している大名家の名代が、正使と副使の2人が常駐していた。今でいうNATOの代表のようなものだ。
合議所の近くに宿所が建てられているのだが、本会議が月に一度開催され、各国の状況や今後の課題、そして前回から引き継がれた議題が論議されていた。
それとは別に臨時合議が各国代表の発議により随時開催される。
頼忠の発議によって、臨時合議が開催されたのだ。
「いかなる発議にござろう」
小佐々家の外務省の本省は諫早にあるものの、在京の大使館に併設された京都支所に業務の比重が移りつつあった。
宿舎も増やされ、合議には基本的に大使の純久と大臣の利三郎が出席していた。
純久の質問に対して頼忠が答える。
「関東における北条の動きにございます。氏政は武田家と不可侵の盟を結んでおり、上杉とも結んでおります。しかして我らが一力(単独)での討ち入り(攻め込み・戦闘)能わずを知ってか知らずか、下野と常陸に討ち入ってございます」
武田家の武藤喜兵衛と曽根虎盛は黙って聞いている。
武田は北条と不可侵の盟を結んでいる以上、破って攻め入るのは信義にもとる行いとなってしまう。
「それで?」
徳川家の石川数正が無表情で確認する。
「佐竹や宇都宮と誼を通わしている里見としては、北条の全軍が北へ向かっているこの機に、下総に攻め入りたいと?」
忖度なし、率直な考えを口にする数正である。
「……そのような事を仰せでは、身も蓋もありませぬ。さりながら佐竹や宇都宮から援軍をとの、矢のような催促があるのは事実。この合議の場にて賛成の決をいただき、援軍として下総に討ち入り、北条の後背を脅かしたいと存ずるが、皆様のお考えはいかに?」
……。
「下総がもともと誰の所領で、いついかなる文にて奪い奪われたのかは正直存じませぬが、北条の勢がこれ以上大きくなれば、我らのこの大同盟を脅かす事にもなりかねませんな」
そう答えたのは浅井家の一門、浅井政元である。
「左様、『もともと誰の』と論じてしまえば、多かれ少なかれ誰もが他人の土地を奪った事となる。詮無き事じゃ。それがしは里見家が討ち入る事に抗う文はなしと存ずる」
畠山家の大塚連家も賛成した。
「されど」
光秀が賛成の流れを止めた。
「抗う(反対する)わけではござらぬが、方々(皆さん)、仮に北条が常陸や下野から退き、転じて里見殿と争う事となったらいかがいたすのじゃ? 我らは盟により助けねばならぬ。言い難き事にござるが、関東は遠い。銭も兵糧もかなりかかるかと存ずるが、いかに?」
確かに、直接の援軍としてなら海路で房総半島へ向かわなければならない。陸路であっても、武田領を通って伊豆や相模に攻め入って後背をつくかたちになる。
いずれにしても、里見を援助するには負担が大きいのだ。
「それは論ずるに及びませぬ。里見家へはわが小佐々が助力いたそう。そもそもこの同盟に里見家を誘ったのはわが家中にござる。言ってしまえば合議の同盟の前に、里見家とは盟を結んでおりました。案ずるには及びませぬ」
「ではわれらは……」
正直なところ里見家もそうだが、連合軍で攻め入って負担の割合で取り分が決まるというのは、純正に有利ではあっても、他の大名としてはあまりうま味のない内容であった。
そのため兵を出したり資金や兵糧を捻出するのに二の足を踏んだのである。
伊豆や相模、ましてや下野や常陸に飛び地の領地(権益)をもらっても、損が多いと思ったのだ。イメージができないと言う方が正しいのかもしれない。
加賀は合議制とはいえ小佐々単独でなし得た事で、言ってしまえば隠れ小佐々領といっても過言ではない。
しかし純正は、今後のテストケースとして加賀を使うつもりであった。
加賀において領内運営のモデルケースとして合議制を成功させ、今後の運営の模範としたかったのだ。
ただし、現時点でそのうま味を実感できる大名はいなかった。
「方々、今一度確かめますが、この儀、里見家と小佐々家との責任にて執り行う事、よろしいか?」
満場一致で可決された。
■数日後 諫早城
「して甚右衛門よ、明に朝貢する国は今はいかがなのじゃ?」
純正は明への経済制裁として、朝貢貿易を行っている国に対して、さかんにアプローチをかけていた。
絹・絹織物・綿・綿織物・陶磁器等は、国産品が明国産品の品質を上回っていて、それを朝貢国に売る事によって明国の(民間の)利益を減らす目的があった。
「は、今では琉球の他には朝鮮やアユタヤの数カ国となっております」
「であろうな。朝貢貿易なぞ、利益などないからの」
朝貢貿易の意義を低下させ、明の権威を失墜させる事が目的である。東南アジアにおいて明よりも小佐々の方が国益になると思わせる戦略をとっていたのだ。
「申し上げます! 京都より通信が入っております」
「うむ」
発 京都大使館 宛 権中納言
秘メ 合議ニテ 里見家ヨリ北条ヘ 討チ入リノ発議アリ 盟友タル 佐竹ナラビニ 宇都宮ヲ助クタメ 下総ヘノ討チ入リ 許可サレタシ トノ事 シカシテ小佐々ト里見ニテ 討チ入ル儀ト ナリニケリ 秘メ
「なるほどね」
次回 第606話 新型戦列艦の就役と艦隊編成
「皆様、よろしいでしょうか?」
発言したのは里見家家老、正木左近大夫(従五位、左近衛将監)頼忠である。
大同盟合議所では、加盟している大名家の名代が、正使と副使の2人が常駐していた。今でいうNATOの代表のようなものだ。
合議所の近くに宿所が建てられているのだが、本会議が月に一度開催され、各国の状況や今後の課題、そして前回から引き継がれた議題が論議されていた。
それとは別に臨時合議が各国代表の発議により随時開催される。
頼忠の発議によって、臨時合議が開催されたのだ。
「いかなる発議にござろう」
小佐々家の外務省の本省は諫早にあるものの、在京の大使館に併設された京都支所に業務の比重が移りつつあった。
宿舎も増やされ、合議には基本的に大使の純久と大臣の利三郎が出席していた。
純久の質問に対して頼忠が答える。
「関東における北条の動きにございます。氏政は武田家と不可侵の盟を結んでおり、上杉とも結んでおります。しかして我らが一力(単独)での討ち入り(攻め込み・戦闘)能わずを知ってか知らずか、下野と常陸に討ち入ってございます」
武田家の武藤喜兵衛と曽根虎盛は黙って聞いている。
武田は北条と不可侵の盟を結んでいる以上、破って攻め入るのは信義にもとる行いとなってしまう。
「それで?」
徳川家の石川数正が無表情で確認する。
「佐竹や宇都宮と誼を通わしている里見としては、北条の全軍が北へ向かっているこの機に、下総に攻め入りたいと?」
忖度なし、率直な考えを口にする数正である。
「……そのような事を仰せでは、身も蓋もありませぬ。さりながら佐竹や宇都宮から援軍をとの、矢のような催促があるのは事実。この合議の場にて賛成の決をいただき、援軍として下総に討ち入り、北条の後背を脅かしたいと存ずるが、皆様のお考えはいかに?」
……。
「下総がもともと誰の所領で、いついかなる文にて奪い奪われたのかは正直存じませぬが、北条の勢がこれ以上大きくなれば、我らのこの大同盟を脅かす事にもなりかねませんな」
そう答えたのは浅井家の一門、浅井政元である。
「左様、『もともと誰の』と論じてしまえば、多かれ少なかれ誰もが他人の土地を奪った事となる。詮無き事じゃ。それがしは里見家が討ち入る事に抗う文はなしと存ずる」
畠山家の大塚連家も賛成した。
「されど」
光秀が賛成の流れを止めた。
「抗う(反対する)わけではござらぬが、方々(皆さん)、仮に北条が常陸や下野から退き、転じて里見殿と争う事となったらいかがいたすのじゃ? 我らは盟により助けねばならぬ。言い難き事にござるが、関東は遠い。銭も兵糧もかなりかかるかと存ずるが、いかに?」
確かに、直接の援軍としてなら海路で房総半島へ向かわなければならない。陸路であっても、武田領を通って伊豆や相模に攻め入って後背をつくかたちになる。
いずれにしても、里見を援助するには負担が大きいのだ。
「それは論ずるに及びませぬ。里見家へはわが小佐々が助力いたそう。そもそもこの同盟に里見家を誘ったのはわが家中にござる。言ってしまえば合議の同盟の前に、里見家とは盟を結んでおりました。案ずるには及びませぬ」
「ではわれらは……」
正直なところ里見家もそうだが、連合軍で攻め入って負担の割合で取り分が決まるというのは、純正に有利ではあっても、他の大名としてはあまりうま味のない内容であった。
そのため兵を出したり資金や兵糧を捻出するのに二の足を踏んだのである。
伊豆や相模、ましてや下野や常陸に飛び地の領地(権益)をもらっても、損が多いと思ったのだ。イメージができないと言う方が正しいのかもしれない。
加賀は合議制とはいえ小佐々単独でなし得た事で、言ってしまえば隠れ小佐々領といっても過言ではない。
しかし純正は、今後のテストケースとして加賀を使うつもりであった。
加賀において領内運営のモデルケースとして合議制を成功させ、今後の運営の模範としたかったのだ。
ただし、現時点でそのうま味を実感できる大名はいなかった。
「方々、今一度確かめますが、この儀、里見家と小佐々家との責任にて執り行う事、よろしいか?」
満場一致で可決された。
■数日後 諫早城
「して甚右衛門よ、明に朝貢する国は今はいかがなのじゃ?」
純正は明への経済制裁として、朝貢貿易を行っている国に対して、さかんにアプローチをかけていた。
絹・絹織物・綿・綿織物・陶磁器等は、国産品が明国産品の品質を上回っていて、それを朝貢国に売る事によって明国の(民間の)利益を減らす目的があった。
「は、今では琉球の他には朝鮮やアユタヤの数カ国となっております」
「であろうな。朝貢貿易なぞ、利益などないからの」
朝貢貿易の意義を低下させ、明の権威を失墜させる事が目的である。東南アジアにおいて明よりも小佐々の方が国益になると思わせる戦略をとっていたのだ。
「申し上げます! 京都より通信が入っております」
「うむ」
発 京都大使館 宛 権中納言
秘メ 合議ニテ 里見家ヨリ北条ヘ 討チ入リノ発議アリ 盟友タル 佐竹ナラビニ 宇都宮ヲ助クタメ 下総ヘノ討チ入リ 許可サレタシ トノ事 シカシテ小佐々ト里見ニテ 討チ入ル儀ト ナリニケリ 秘メ
「なるほどね」
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