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日ノ本未だ一統ならず-内政拡充技術革新と新たなる大戦への備え-

第603話 石山本願寺包囲戦(1574/5/21)

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 天正三年五月一日(1574/5/21)

 純久からの連絡を受けた純正の行動は早かった。
  
 三好の淡路水軍を用いて木津川口を封鎖し、海上からの補給路を断ったのだ。摂津の三好軍も動員して北側を封鎖し、南側は織田領で逃げ場はない。

 京都の独立旅団は純久の指揮下にあるため、そのまま摂津の本願寺に三個連隊3,600名が向かった。
  
 道中は本願寺がどうなるのか? 小佐々軍がどのような戦いをみせるのか?

 そういった様々な面持ちの群衆が街道に詰め寄っていた。




 ■木津川口

「殿、こたびのいくさ如何いかにお考えですか?」

「如何にも何も、我らの勝ちに決まっておろう。織田に武田と手を組み、上杉をも降したのだぞ。われら小佐々勢に、この日ノ本で勝てる勢などおらぬであろう」

 所用で淡路の洲本城にいた三好長治は、純正からの指示と純久の旅団の動きをみて、自分たちにも指令が来るであろう事を予測していた。

 正直なところ、小佐々勢の中では三好家は外様の部類に入る。
  
 純正は一門や譜代、外様というくくりは嫌って使わないが、家中同士では暗黙の了解のようなものができつつあったのだ。

 毛利が外様最有力、そして四国の三好に中国地方の諸大名が該当する。譜代の分類はあやふやだが、九州勢では島津が入るか入らないか、というところだろう。

 史実では一般的に関ヶ原以前は譜代、その前後に徳川に従った大名を外様と呼び、幕府の要職から外されて政権の運営に携わることはなかった。

 この世界では天下を二分する大戦は起こっていない。

 100隻以上の軍船で木津川口を封鎖した三好の淡路水軍は、戦いではなく封鎖が目的である。三好長治は先の上杉との戦いで、永らく三好家に仕えてきた岩成友通を戦死させていた。

「わしが今少し用心しておれば、友通は死なずに済んだやもしれぬ」

「殿、無念にございますが、過ぎた事を悔やんでも仕方ありませぬ」

「そうではあるが……うむ。まあ、こたびは打ち合う事はないであろう。我らは我らの役目を果たすとしよう」

「はは」




 ■京都~摂津街道

「おい、権中納言様が、いよいよ本願寺に討ち入るようだぞ」

「あな恐ろしや恐ろしや。仏罰が降ろうぞ」

「なにが仏罰だ! 暴利を貪りやがって! 返さなければ仏罰が下ると脅して、わしは家屋敷を担保にとられたんだぞ」

「お坊様を殺すのじゃろうか? 恐ろしい」

「因果応報とはこの事じゃ。坊主が御仏の教えの通りになるとはな」




 純久の指示で進軍した京都独立旅団長の岡刑部貴明准将は、現地に到着して布陣早々降伏の使者を出していた。

「降ればよし、降らねば一年でも万年でも寺を囲いて待つだと? 今兵糧はいかほど残っておるのだ?」

「法主様、あまりに小佐々の動きが早うございました。急ぎかき集めた兵糧にございますが、それでも一月は持ちませぬ」

 本願寺教如は、父である顕如を監禁して以降、自身を跡継ぎとして第12代法主を自称していた。

「何たることじゃ! 如何に和睦の命だったとは言え、三年前より蓄えておらなんだのか? あの時は償いの金と軍道具の受け渡しが題目であったはずじゃ!」

「は、それが小佐々や織田の目が厳しく、如何なる由にてそのように尋常ならざる米を蓄えるのか、と差し止めされておりました」

 武器弾薬や兵糧の搬入は、当然目立つ。何のために? と問われれば答えようがないのだ。

 傭兵として協力してきた雑賀衆はいない。辛うじて刀や槍、弓矢などは隠れて搬入していたのであるが、兵糧・武具ともに明らかに不足している。

 決起を表明してすぐに行動を起こしたものの、純久の行動があまりに早かった為に間に合わなかったのだ。

「北条は、北条はいかがじゃ?」

「すでに公方様ならびに氏政には文を遣わしてはおりますが、未だ小田原には着いておらぬでしょう。着いたとて、氏政が即断して動いたとしても、一月や二月はかかります」

「ぐ……」




 ■一ヶ月半後

「まだか、まだ氏政からの返書は届かぬのか?」

「法主様、小田原までの道程もさることながら、織田・徳川・武田の領内を通っての文にございます。道中亡き者にされている恐れもあります。こたびは、打つ手なし。如何ともし難いかと」

「おのれ、おのれ、おのれえええええ!」

 石山本願寺は500m~600m×700m~800mの広さの敷地を土塁と堀で囲み、寺内町を取り込んで、さらに周囲には51の支城を持つ大城郭であった。

 刑部はその全てを攻略する事はせず、各支城に降伏勧告を送りながら、最短距離で本城までの支城を攻略してきた。1つの城が降伏、もしくは落ちれば周囲の2~3の城は降伏したのだ。

 刑部が本城である本願寺の本堂の正門前に到着するころには全51城が降伏した。

 兵糧はすでになく、支城から逃げ込んできた兵が状況を悪化させていたのだ。まるで長島の一向一揆衆が長島城に集結し、兵糧攻めの後に惨殺された状況に酷似している。




「なに? 使者だと?」

 刑部のもとに本願寺からの使者がきたのはその数日後であったが、内容は降伏であった。条件は顕如が受理した前回と同じである。

「愚かな。この二月、人も銭も物も動いておるのだぞ。それを先の題目(条件)と同じとは、通る訳がなかろう」

 そう言って刑部は、使者の話を聞きはしたが、条件などのまぬ、と帰したのだ。

 教如としては純正のやさしさにつけ込んで、なんとか以前と同じ条件で降伏できるのではないか? と考えたのだろうが、さすがの純正もそれは許さなかった。

 石山本願寺、退去。財産と全ての権益を没収。

 それが純正が純久に出していた指令である。最初から譲歩の余地はなかったのだ。




 開城後、純久は城内の兵たちに食糧を分け与え、病気や怪我をした者には治療を施した。和睦派であった顕如は解放され、京都の堀川六条にて西本願寺となった。

 顕如と対立して法主を詐称した教如は同様に解放されたが、常に監視がつきまとい、およそかつては浄土真宗の後継者だったとは思えないほど落ちぶれたのである。

 しかしその教如も許され、数年後には烏丸七条を寺領として与えられて、東本願寺(大谷派)となる。

 純正がこの二つの地を所有していた事はたまたまであったが、二つの宗派には厳正な監視がなされた。

 両本願寺への門徒からの寄進は制限され、事前に小佐々家(合議所)への届け出が必要となり、寺社運営に必要な資金が足りない場合は、補助もしくは融資をする形となったのだ。

 ちなみに加賀本願寺は純正の心証を良くするため、西本願寺に属しつつ、加賀本願寺としての独立性を高めていく。

 次回 第604話 ガレオン小笠原貿易 
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