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日ノ本未だ一統ならず-内政拡充技術革新と新たなる大戦への備え-
第588話 報復行動の可否と恩賞の基準
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天正二年 一月十六日(1573/02/18) 近江国蒲生郡 日ノ本大同盟合議所
「では敵から討ち入られた時は如何致すのでしょうか」
徳川家の青山忠成が発言し、石川数正もそれを後押しする。
これは何も軍事行動だけとは限らない。
隣接国からの正規軍の侵攻に対抗するための報復措置であればわかりやすいが、報復が予測されるため、相手国も真正面から戦いを挑んでこない可能性もあるからだ。
「その時は打ち合う事(自衛戦闘)に何ら差し障りはないでしょう。然れどただちに相手の領国に討ち入って良いという事ではありませぬ。相手もなんらかの由(理由)あるらん。その事の様(状況)をつぶさに調べるために、七大名の名代たる役人を遣わします」
随分とまどろっこしい事を、と思ったのかもしれない。座がざわついた。
「無論、直に関わりのある大名は除きます。残りの六大名となり、七大名のなかでの争いならば、残り五つの大名家にて調べまする。その上で一方に非があるとなったならば過ちを認め、償いの銭を出すよう求めます。如何様に処すかはその際つぶさに決め、それでも応じなければ、我らが行いを一にして勢を起こし討ち入る事になりましょう」
純正は想定問答の通りの答えを、純久と利三郎に確認しつつ答弁した。
「なるほど、では明らかなる討ち入りではない時は如何致すのですか?」
「明らかなる討ち入りではないとき、とは?」
今度は浅井家の家臣、藤堂高虎だ。
「はい。例えば領民に対して傷を負わせ、乱妨取り(乱暴狼藉)や人さらいなどによって争いが起こるように仕掛けたり、そそのかしてきた時にございます。それにより利を得るなど、直に勢をもちいずに、領国に害をなす行いをした場合すべてを含みます」
「ふむ」
「こちらが軍兵を用いず相手に問うたとしても、相手は知らぬ存ぜぬで、その徒党を探してはいるが見つからぬ、と言い張ってきたときには?」
「そのご懸念は当然の事と存じますが、これもさきほどと同じにござる。つぶさに調べ、相手国の領民が起こしたことゆえ、すべての責は相手国にあるとして対処します。探しているがみつからないは通りませぬ。ただし、害を被った側がわざとそうなるように仕向けていた事が露見したときは、相応の罰をうけねばなりませぬ。七ヶ国連名にて処するものとします」
会談の最後に連名にて起請文を書くとしても、間違いがあってはいけないので、都度純正は純久と利三郎の二人に確認する。
「結局は、これまでの扱う(調停をする)事と同じで、それに事の様をつぶさに調べるという行いが加わるという事ですな」
長政が発言する。
「然に候(その通りです)。おおよそその通りと考えてくだされ。方々(皆様)、これまでのところで何か尋ねる事はございませんか?」
純正は全員の顔を見回し、しばらく時間をおいて続けた。
「では、ないようですので、次の題目に移りたいと存じます。まずは前もってお配りしておりました草案の中で、恩賞の則(基準)がわからぬ点と、兵士とはなにをもって兵士となすかにございます」
配った草案には、恩賞は土地ではなく銭にて支払われるとあり、その基準が負担した兵の多さ・兵糧の多さ・銭の多さ・矢玉などの多さによって決まるというものだった。
「左様、討ち入って成敗した後の恩賞の則が定かでないと、不満になりかねませぬ」
「加えて罪を犯した者や食い詰め者を、恩赦や銭を報奨として兵士としてかさ増しいたす事も考えられる」
今まで発言のなかった畠山や里見も、活発に発言をしている。
「では、まずは報酬にござるが、土地を報酬としては一切考えておりませぬ。これは隣りあう国ならまだしも、国境を接しておらぬ国にとっては治めづらいからでございます」
ではどうするのだ? と言わんばかりにざわめきが起きるが、純正は続けた。
「また、銭と言っても、直にいずれかの国が集め、それぞれの国に渡すにあらず。例えばどこぞの湊の利得であれば、その率をあらかじめ決めておき、それに応じて国により得られる銭が変るというもの。これは米や麦などの取れ高も含め、全てにござる」
それぞれの家中で話し合う声が聞こえる。
「では、一つお伺いいたします。このような事を、このような席で申し上げるのも憚られるのですが、つまるところ小佐々の御家中が、一番利得を得るという事になりませぬか?」
光秀の発言に、そうだそうだ、という事を声には出さないが、そう考える者は多かった。
「……その通りにござる」
ふたたび満座がざわめきに覆われるが、純正はすぐに制した。
「それのどこに不都合な点がありましょうや。古来、武功一番の者には一番の恩賞が与えられてきたのではありませぬか? であるならば、それは理に適っております」
それは確かにそうである。しかし武功となれば、これまでの慣習を考えると、少し変わってくる。
「然れど武功とは、獲った大将首の数に落とした砦の数によって決まるのではありませぬか? 仮に権中納言様……殿の軍勢がもっとも多くとも、必ずしも多くの大将首を獲るとは限りませぬぞ」
光秀も退かない。
というよりは至極当然の質問をしているにすぎないのだ。間違いなく争いの種になる。
「それも確かにその通りにござる。わが軍が、いわゆるこれまで言われてきた武功一番ではないかもしれませぬ。然れどそれは、一軍にて、一つの大名家にて相手に攻め入った場合のこと。得た地や得た利得を、その家中で各々の武功により、当主が差配して決めてきたのではございませぬか?」
「その通りにござる」
光秀が答える。
「では今ひとつお伺いいたす。織田家は昨年、越前の朝倉を攻め滅ぼされました。その際、総勢六万の大軍であったと聞き及んでおりましたが、うち浅井勢は一万。軍の始まる前より調略を行い、軍においても武功はなはだしく、一乗谷落城は浅井の武功一番ではなかったかと考えまする」
何を言わんとしているのかは、誰もが想像できた。
「これ以上は口入れ(内政干渉)となりますゆえ、いい難き事なれど、越前の地のほとんどが織田の所領となってはおりませぬか? これはいかなる事でしょうや。先ほどの言の通りならば、少なくとも越前の半分は浅井の所領とならねばおかしいのではありませぬか?」
場がざわつく中で、長政は腕を組み、目をつむっては黙っている。
「誤解のないように言っておきたい。これは織田と浅井の家中の事ゆえ、それがしが口入れする事に非ず。結局は連合にて討ち入りたる時は、各々の武功のみで恩賞は決まらぬという事にござる。ゆえにあらかじめ決めておけば、争いにもならぬというもの」
そう前置きしたあとで、純正は続けた。
「その上で特別に考えるべき儀が起きたならば、別に言問いて(話し合って)決めればよいかと存ずる。いかがか?」
しばらくそれぞれの家中で協議が行われ、決をとって過半数の賛成により可決された。
兵の中身においては犯罪者だろうがなんだろうが関係ない。しかしその行いに大名は完全に責任を持つと言うことも決められた。
しかし明らかに戦意のない数合わせの者、素行の悪い者は除外され、当該国は厳重注意の対象となった。
次回 第589話 終戦決定と責任。そして大国の拒否権発動。
「では敵から討ち入られた時は如何致すのでしょうか」
徳川家の青山忠成が発言し、石川数正もそれを後押しする。
これは何も軍事行動だけとは限らない。
隣接国からの正規軍の侵攻に対抗するための報復措置であればわかりやすいが、報復が予測されるため、相手国も真正面から戦いを挑んでこない可能性もあるからだ。
「その時は打ち合う事(自衛戦闘)に何ら差し障りはないでしょう。然れどただちに相手の領国に討ち入って良いという事ではありませぬ。相手もなんらかの由(理由)あるらん。その事の様(状況)をつぶさに調べるために、七大名の名代たる役人を遣わします」
随分とまどろっこしい事を、と思ったのかもしれない。座がざわついた。
「無論、直に関わりのある大名は除きます。残りの六大名となり、七大名のなかでの争いならば、残り五つの大名家にて調べまする。その上で一方に非があるとなったならば過ちを認め、償いの銭を出すよう求めます。如何様に処すかはその際つぶさに決め、それでも応じなければ、我らが行いを一にして勢を起こし討ち入る事になりましょう」
純正は想定問答の通りの答えを、純久と利三郎に確認しつつ答弁した。
「なるほど、では明らかなる討ち入りではない時は如何致すのですか?」
「明らかなる討ち入りではないとき、とは?」
今度は浅井家の家臣、藤堂高虎だ。
「はい。例えば領民に対して傷を負わせ、乱妨取り(乱暴狼藉)や人さらいなどによって争いが起こるように仕掛けたり、そそのかしてきた時にございます。それにより利を得るなど、直に勢をもちいずに、領国に害をなす行いをした場合すべてを含みます」
「ふむ」
「こちらが軍兵を用いず相手に問うたとしても、相手は知らぬ存ぜぬで、その徒党を探してはいるが見つからぬ、と言い張ってきたときには?」
「そのご懸念は当然の事と存じますが、これもさきほどと同じにござる。つぶさに調べ、相手国の領民が起こしたことゆえ、すべての責は相手国にあるとして対処します。探しているがみつからないは通りませぬ。ただし、害を被った側がわざとそうなるように仕向けていた事が露見したときは、相応の罰をうけねばなりませぬ。七ヶ国連名にて処するものとします」
会談の最後に連名にて起請文を書くとしても、間違いがあってはいけないので、都度純正は純久と利三郎の二人に確認する。
「結局は、これまでの扱う(調停をする)事と同じで、それに事の様をつぶさに調べるという行いが加わるという事ですな」
長政が発言する。
「然に候(その通りです)。おおよそその通りと考えてくだされ。方々(皆様)、これまでのところで何か尋ねる事はございませんか?」
純正は全員の顔を見回し、しばらく時間をおいて続けた。
「では、ないようですので、次の題目に移りたいと存じます。まずは前もってお配りしておりました草案の中で、恩賞の則(基準)がわからぬ点と、兵士とはなにをもって兵士となすかにございます」
配った草案には、恩賞は土地ではなく銭にて支払われるとあり、その基準が負担した兵の多さ・兵糧の多さ・銭の多さ・矢玉などの多さによって決まるというものだった。
「左様、討ち入って成敗した後の恩賞の則が定かでないと、不満になりかねませぬ」
「加えて罪を犯した者や食い詰め者を、恩赦や銭を報奨として兵士としてかさ増しいたす事も考えられる」
今まで発言のなかった畠山や里見も、活発に発言をしている。
「では、まずは報酬にござるが、土地を報酬としては一切考えておりませぬ。これは隣りあう国ならまだしも、国境を接しておらぬ国にとっては治めづらいからでございます」
ではどうするのだ? と言わんばかりにざわめきが起きるが、純正は続けた。
「また、銭と言っても、直にいずれかの国が集め、それぞれの国に渡すにあらず。例えばどこぞの湊の利得であれば、その率をあらかじめ決めておき、それに応じて国により得られる銭が変るというもの。これは米や麦などの取れ高も含め、全てにござる」
それぞれの家中で話し合う声が聞こえる。
「では、一つお伺いいたします。このような事を、このような席で申し上げるのも憚られるのですが、つまるところ小佐々の御家中が、一番利得を得るという事になりませぬか?」
光秀の発言に、そうだそうだ、という事を声には出さないが、そう考える者は多かった。
「……その通りにござる」
ふたたび満座がざわめきに覆われるが、純正はすぐに制した。
「それのどこに不都合な点がありましょうや。古来、武功一番の者には一番の恩賞が与えられてきたのではありませぬか? であるならば、それは理に適っております」
それは確かにそうである。しかし武功となれば、これまでの慣習を考えると、少し変わってくる。
「然れど武功とは、獲った大将首の数に落とした砦の数によって決まるのではありませぬか? 仮に権中納言様……殿の軍勢がもっとも多くとも、必ずしも多くの大将首を獲るとは限りませぬぞ」
光秀も退かない。
というよりは至極当然の質問をしているにすぎないのだ。間違いなく争いの種になる。
「それも確かにその通りにござる。わが軍が、いわゆるこれまで言われてきた武功一番ではないかもしれませぬ。然れどそれは、一軍にて、一つの大名家にて相手に攻め入った場合のこと。得た地や得た利得を、その家中で各々の武功により、当主が差配して決めてきたのではございませぬか?」
「その通りにござる」
光秀が答える。
「では今ひとつお伺いいたす。織田家は昨年、越前の朝倉を攻め滅ぼされました。その際、総勢六万の大軍であったと聞き及んでおりましたが、うち浅井勢は一万。軍の始まる前より調略を行い、軍においても武功はなはだしく、一乗谷落城は浅井の武功一番ではなかったかと考えまする」
何を言わんとしているのかは、誰もが想像できた。
「これ以上は口入れ(内政干渉)となりますゆえ、いい難き事なれど、越前の地のほとんどが織田の所領となってはおりませぬか? これはいかなる事でしょうや。先ほどの言の通りならば、少なくとも越前の半分は浅井の所領とならねばおかしいのではありませぬか?」
場がざわつく中で、長政は腕を組み、目をつむっては黙っている。
「誤解のないように言っておきたい。これは織田と浅井の家中の事ゆえ、それがしが口入れする事に非ず。結局は連合にて討ち入りたる時は、各々の武功のみで恩賞は決まらぬという事にござる。ゆえにあらかじめ決めておけば、争いにもならぬというもの」
そう前置きしたあとで、純正は続けた。
「その上で特別に考えるべき儀が起きたならば、別に言問いて(話し合って)決めればよいかと存ずる。いかがか?」
しばらくそれぞれの家中で協議が行われ、決をとって過半数の賛成により可決された。
兵の中身においては犯罪者だろうがなんだろうが関係ない。しかしその行いに大名は完全に責任を持つと言うことも決められた。
しかし明らかに戦意のない数合わせの者、素行の悪い者は除外され、当該国は厳重注意の対象となった。
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