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日ノ本未だ一統ならず-内政拡充技術革新と新たなる大戦への備え-
第584話 純正の大義名分と信長の大義名分(1572/12/05)
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天正元年 十一月一日(1572/12/05) 諫早城
「さてみんな、集まってもらったのは他でもない。例の如く小佐々家の今後の基本方針と、織田・武田・徳川・浅井・畠山・里見に対する外交姿勢について論じたいからである」
集まった閣僚の表情は十人十色であった。
顔を紅潮させ、純正がついに決意したのか? という期待に溢れる表情の者もいれば、今さら何を? と不思議そうに首をひねっている者もいた。
鍋島直茂は、前者である。
「御屋形様、それはつまり御屋形様が旗頭となり、この日ノ本を治めるという事でしょうか」
やっぱりな、という顔をしている純正。戦略会議室の面々は直茂と似たような顔つきだ。
「そうではない。ただし、結果的にそうならざるを得ない、そのようにするしか術がないのであれば、甘んじて受けいれよう」
「それは……すでにその機は熟しているのではございませぬか?」
「ない」
直茂の問いにキッパリと答える。
「俺はな、合議制を考えておる」
「合議制?」
満座がざわつく。
「そうだ。今はまだ北条や上杉を含めた東国より北は、定まってはおらぬ。例えば上杉は越中に攻め入り静謐を乱したがゆえに、大義の下戦って排した」
皆がうなずく。
「然れどどうだ? 主上や朝廷は日ノ本全ての静謐を望んでおられるが、北条が佐竹や結城の他、関東以北を攻めたならなんとする?」
「然れば、幕府はあれど公方なし。朝廷に求めがあり、朝廷からわれらに求めがあれば、助けねばなりますまい」
官兵衛が答えた。
「その通りである」
「いかに朝廷の求めとは言え、関東は遠い。過日の上杉戦より戦線が広がり、兵站の面でも苦労するのは目に見えております。簡単にはいかぬかと」
「それもまた真なり」
直家の言葉に、再び満座がざわつく。
「そこでじゃ。わが小佐々家を棟梁として治めるならば、特に織田と武田は、少なくとも今の毛利と同じ処遇にせねばならない。兵部卿殿と大膳大夫殿が、それを認めるか?」
……。
まず認めないだろう。
二者だけでなく徳川に浅井、里見と畠山にしても窮鼠猫を噛む状態になるかもしれない。
「毛利とは、少なくとも我らが大友と戦い、服属させる時までは同等であった。然れど我らは東と南に敵を抱えていたゆえ、盟を結びつつ力を蓄え、島津と四国、三好まで従えた上で毛利を服属させたのだ」
純正は、今の同盟国を毛利と同じように服属させるためには、抗いようもない力の差を見せつけなければならない、と言っているのだ。
しかし、織田単独でも小佐々の半分程度の石高はあり、もし窮した織田が同じ思いとなった武田と結んだなら、純正もやけど程度ではすまない。
重傷を負う覚悟が必要なのだ。
それに北条や上杉と組んで立ち向かってくるかもしれない。いや、間違いなくそうするだろう。
北条がスペインと組んでいるのなら、なおさら面倒くさい事になる。
「ゆえに合議制なのだ」
全員が純正の顔をみる。
「小佐々・織田・徳川・浅井・武田・畠山・里見のそれぞれの軍事行動においては、合議を要す。これでいかがじゃ?」
「そ、その儀につきましては、定むるはいささか早きかと存じます」
「なにゆえじゃ?」
直茂の言葉に純正が聞き返した。
「我らの行動が同盟国の諸大名の言に左右されるなど、あってはなりませぬ。北条はもとより、奥州の地を治めんとしたとき、差し障りとなりましょう」
……。
多くの家臣がそうであるかのように、直茂が本音を吐露した。
「皆も、そう思うか?」
純正は全員を見回す。当たらずとも遠からず。やはりみんな、純正が日本を統一し、武家の棟梁となることを望んでいるようだ。
「皆に一つ言っておくことがある。俺は平和を求めてここまでやってきた。その目標は、おおかた達成できたと思う。誰も我ら小佐々に攻め入ろうなどと言うものはおらぬだろう」
全員が純正を見る。
「天下を一統することが俺の望みではない。一統せずとも皆が平和で幸せに、豊かに暮らせればよいのだ。然れど、そうせざるを得ない、そうしなければ平和が得られないならば、それもありというだけだ」
「では、合議となった後、いかに日ノ本を治めるのでございますか?」
官兵衛だ。
「まずは関東の、これは北条も含めてだが、そして奥州の各大名に書状を送り、この合議大同盟に参加するよう求める」
「応じましょうや?」
「応じなければ応じぬともよい。まず北条は応じぬであろうが、それならばそれで、我らに害がなければそれでよい。捨て置け」
「その後は?」
「大同盟に応じる勢と応じぬ勢がでてくるが、われらの勢に害があるなら討ち入る(攻める)もよし、害がなくとも朝廷の求めで静謐をなさんとするならば討ち入ればよいのだ」
「ではその後、切り取った所領はいかがなさるおつもりでしょうか? 我らのみで切り取ったのではなく、合議ならば織田や武田の勢も加わっておりましょう。彼らに知行を与えぬというのは道理が通りませぬが、いかがなさるおつもりで?」
官兵衛の問いは続く。
「そうだな、例えば加賀と越中ならば、織田は欲しがるであろう?」
「間違いなく」
全員が同じように口ずさみ、うなずく。
「では武蔵の地はいかがか? 上野は?」
「いらぬ、とまでは言わぬでしょうが、得ても治むるのは難しにございましょうな」
今度は直家である。
「すなわち知行ではなく、銭にて報いると?」
「その通り」
合議制の良し悪し、今後の戦略会議は続く。
次回 第585話 合議制による銭の力で日ノ本一統。
「さてみんな、集まってもらったのは他でもない。例の如く小佐々家の今後の基本方針と、織田・武田・徳川・浅井・畠山・里見に対する外交姿勢について論じたいからである」
集まった閣僚の表情は十人十色であった。
顔を紅潮させ、純正がついに決意したのか? という期待に溢れる表情の者もいれば、今さら何を? と不思議そうに首をひねっている者もいた。
鍋島直茂は、前者である。
「御屋形様、それはつまり御屋形様が旗頭となり、この日ノ本を治めるという事でしょうか」
やっぱりな、という顔をしている純正。戦略会議室の面々は直茂と似たような顔つきだ。
「そうではない。ただし、結果的にそうならざるを得ない、そのようにするしか術がないのであれば、甘んじて受けいれよう」
「それは……すでにその機は熟しているのではございませぬか?」
「ない」
直茂の問いにキッパリと答える。
「俺はな、合議制を考えておる」
「合議制?」
満座がざわつく。
「そうだ。今はまだ北条や上杉を含めた東国より北は、定まってはおらぬ。例えば上杉は越中に攻め入り静謐を乱したがゆえに、大義の下戦って排した」
皆がうなずく。
「然れどどうだ? 主上や朝廷は日ノ本全ての静謐を望んでおられるが、北条が佐竹や結城の他、関東以北を攻めたならなんとする?」
「然れば、幕府はあれど公方なし。朝廷に求めがあり、朝廷からわれらに求めがあれば、助けねばなりますまい」
官兵衛が答えた。
「その通りである」
「いかに朝廷の求めとは言え、関東は遠い。過日の上杉戦より戦線が広がり、兵站の面でも苦労するのは目に見えております。簡単にはいかぬかと」
「それもまた真なり」
直家の言葉に、再び満座がざわつく。
「そこでじゃ。わが小佐々家を棟梁として治めるならば、特に織田と武田は、少なくとも今の毛利と同じ処遇にせねばならない。兵部卿殿と大膳大夫殿が、それを認めるか?」
……。
まず認めないだろう。
二者だけでなく徳川に浅井、里見と畠山にしても窮鼠猫を噛む状態になるかもしれない。
「毛利とは、少なくとも我らが大友と戦い、服属させる時までは同等であった。然れど我らは東と南に敵を抱えていたゆえ、盟を結びつつ力を蓄え、島津と四国、三好まで従えた上で毛利を服属させたのだ」
純正は、今の同盟国を毛利と同じように服属させるためには、抗いようもない力の差を見せつけなければならない、と言っているのだ。
しかし、織田単独でも小佐々の半分程度の石高はあり、もし窮した織田が同じ思いとなった武田と結んだなら、純正もやけど程度ではすまない。
重傷を負う覚悟が必要なのだ。
それに北条や上杉と組んで立ち向かってくるかもしれない。いや、間違いなくそうするだろう。
北条がスペインと組んでいるのなら、なおさら面倒くさい事になる。
「ゆえに合議制なのだ」
全員が純正の顔をみる。
「小佐々・織田・徳川・浅井・武田・畠山・里見のそれぞれの軍事行動においては、合議を要す。これでいかがじゃ?」
「そ、その儀につきましては、定むるはいささか早きかと存じます」
「なにゆえじゃ?」
直茂の言葉に純正が聞き返した。
「我らの行動が同盟国の諸大名の言に左右されるなど、あってはなりませぬ。北条はもとより、奥州の地を治めんとしたとき、差し障りとなりましょう」
……。
多くの家臣がそうであるかのように、直茂が本音を吐露した。
「皆も、そう思うか?」
純正は全員を見回す。当たらずとも遠からず。やはりみんな、純正が日本を統一し、武家の棟梁となることを望んでいるようだ。
「皆に一つ言っておくことがある。俺は平和を求めてここまでやってきた。その目標は、おおかた達成できたと思う。誰も我ら小佐々に攻め入ろうなどと言うものはおらぬだろう」
全員が純正を見る。
「天下を一統することが俺の望みではない。一統せずとも皆が平和で幸せに、豊かに暮らせればよいのだ。然れど、そうせざるを得ない、そうしなければ平和が得られないならば、それもありというだけだ」
「では、合議となった後、いかに日ノ本を治めるのでございますか?」
官兵衛だ。
「まずは関東の、これは北条も含めてだが、そして奥州の各大名に書状を送り、この合議大同盟に参加するよう求める」
「応じましょうや?」
「応じなければ応じぬともよい。まず北条は応じぬであろうが、それならばそれで、我らに害がなければそれでよい。捨て置け」
「その後は?」
「大同盟に応じる勢と応じぬ勢がでてくるが、われらの勢に害があるなら討ち入る(攻める)もよし、害がなくとも朝廷の求めで静謐をなさんとするならば討ち入ればよいのだ」
「ではその後、切り取った所領はいかがなさるおつもりでしょうか? 我らのみで切り取ったのではなく、合議ならば織田や武田の勢も加わっておりましょう。彼らに知行を与えぬというのは道理が通りませぬが、いかがなさるおつもりで?」
官兵衛の問いは続く。
「そうだな、例えば加賀と越中ならば、織田は欲しがるであろう?」
「間違いなく」
全員が同じように口ずさみ、うなずく。
「では武蔵の地はいかがか? 上野は?」
「いらぬ、とまでは言わぬでしょうが、得ても治むるのは難しにございましょうな」
今度は直家である。
「すなわち知行ではなく、銭にて報いると?」
「その通り」
合議制の良し悪し、今後の戦略会議は続く。
次回 第585話 合議制による銭の力で日ノ本一統。
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