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西国王小佐々純正と第三勢力-対上杉謙信 奥州東国をも巻き込む-
国内と国外~ヌルハチの祖父とフェリペ二世~
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天正元年(1572) 四月十四日 岐阜城
「ははっ」
長秀が苦笑いし、光秀や秀吉はわからないようにため息をしている。
「さて、加賀の、本願寺の動きはどうか?」
「は、謙信からの計略によって引き起こされた一揆にございましたが、それにより本願寺の我らに対する不信は増しております。然りながら、この和睦が成れば、上杉の後ろ盾がなくなりまする」
光秀が答えた。
……織田と本願寺は和睦していた。
内心は敵対していても、表向きは和睦していたのだ。
その織田の盟友である小佐々が上杉と戦った。上杉と本願寺もまた敵であったので、上杉と戦う良い味方ができたと本願寺は考えていたのだ。
しかし調略によって加賀と越前で一揆が起きた。織田の軍勢が加賀まで入ってきたのだから、顕如が和睦を破ったのは織田だと喧伝してもおかしくはない。
そして裏では一揆を煽った謙信からの、和睦と共闘の願いである。顕如は謙信強し、上杉は負けるはずがないと踏んでいた。
しかし、ここにきての和睦である。
顕如にしてみれば、表だっての謙信との共闘ではないが、はしごを登って外されたようなものだ。
「ふむ、気が気ではないだろうな。今ごろは火消しに躍起になっておるであろう。こちらとしては掛かられた(攻められた)ゆえ返したのみ。なに、門徒同士でもいざこざが起きるのだ。再び起こすのはたやすい」
「では?」
「うむ、時をおいて二度三度と起こせるようにしておくがよい。ああ、それからこの件は長俊(前波吉継改め桂田九郎兵衛尉長俊・越前守護代)には伝えぬでよいぞ。一揆も抑えられぬとは。しかも悪名など……」
「「「ははっ」」」
■中国 ヘトゥアラ(ヌルハチの部族の本拠地・後金の初期の首都)
「我第一次得到你的同意。 我叫松浦源三郎,是西日本国国王小筱权春刚的臣子。 我是带着主公的意向书来的。 主公希望与贵国建立友好关系,繁荣贸易。 首先,我想请您读一读这封信」
(はじめて御意を得まする。それがしは日本国西国王、小佐々権中納言様の郎党、松浦源三郎と申します。このたびは、わが主の親書をもってまいりました。わが主におかれては、貴国と親交を結び、盛んに交易を行いたいとお考えです。まずはご一読のほど、お願い申し上げます)
昨年末、明国使者への対処が終わってすぐに、代わりの人員と共に九州へ戻り、その足で対馬へ渡った松浦鎮信である。
朝鮮を経由して各地で通詞を雇い、北上したのだ。
当初は朝鮮半島西岸を北上しようと考えていたのだが、ヘトゥアラへ向かう途中に明に入らなければならないと知り、急遽東岸を北上する事となった。
距離は遠いが、明とは国交がない上に緊張状態である。何が起こるかわからない。
そして、金に糸目はつけずに護衛を雇った。これは全員日本人の武士であり、九州の大名の家中の者である。
もちろん大砲はかさばるので携行などできない。
しかし、正直なところ身の危険がある、と言った方がいい。そのため、分散しつつもすぐに駆けつけられるような距離で、歩兵(鉄砲兵)が護衛しつつ同行したのだ。
しかし、ライフリングを施した銃(雷管式ではない前装式ミニエー銃のようなもの)は射程が500mあり、当時としては最新鋭で精度も高いが、近距離での戦闘はできない。
ないものねだりかもしれないが、事実、純正の今後の重要な課題であった。
正面の上座には恰幅がよく、しかしそれでいて精悍さも兼ね備えていそうな、眼光鋭い50代~60代の初老の男が座っている。
「族長のギオチャンガである」
鎮信は不敵に笑うその顔に威圧されそうになる。右手にはその族長の風貌によく似た三十代の男がいて、手前には十代前半の子供がいる。
「これはわしの息子のタクシに、孫のヌルハチじゃ。海を隔てた東方に、日ノ本という国があるのは知っておった。お主の主がその国の王なのか?」
「いえ、それがしの主は西国王であり、日ノ本の主から西国の治めを任されております」
「ふむ、王の使いではないか……わしのような、族長のような者か?」
「は、例えるは難しゅうございますが、女直は三つに分かれ、建州女直も五部あると聞き及んでおります。そう考えれば、わが主も同じと言えましょう」
国土の広さや部族数(勢力数)、人口などを加味して厳密に言えば違うのだが、鎮信は純正が西日本の諸部族(諸大名)を支配下に置いていることは伏せた。
部族をまとめる長の中の長、などと誤解を生みたくなかったからだ。
「父上はやがて五部を束ね、この女真を束ね、三女真全てを統べるお方だ」
タクシが自慢げに自らの父親を褒め称える。いや、本当にそう信じているのかもしれない。
「して、その西国王とやらがなぜ、日ノ本王ではなく、来ておるのだ?」
「は、他国との商いは各部族に委ねられております故、それがしが主の名代として参ったのでございます」
「ふむ、ではその西国王と、わしらが交易をすることで、わしらにどんな益があるというのだ?」
鎮信は小佐々の交易品の目録を見せ、一部は実際に説明しながらその利を説いていった。
■イスパニア マドリード王宮
「陛下、ヌエバ・エスパーニャ(メキシコ周辺・中南米)のマルティン・エンリケス・デ・アルマンサ副王より、使者が参っております」
「何? 副王より? なんであろうか。よし、通すが良い」
「はは」
イスパニア王国において副王とは、その名の通り、任じられた領土において王に準ずる権限を有している。
「使者よ、いかがした」
「は、誠に恐れ多き事なれど、陛下の艦隊、フィリピーナ諸島の艦隊が、敗れましてございます」
「ははははは、何を申すかと思えば。副王はおかしくなったのではないか? あり得ぬ。わが艦隊を、いったい誰が、どの国の艦隊が破ったと言うのだ?」
「……」
「良い、遠慮なく申すが良い」
「それが……明のさらに東、ジパングの艦隊にございます」
次回 第568話 フェリペ二世の世界戦略と庄川の戦いの結末へ
「ははっ」
長秀が苦笑いし、光秀や秀吉はわからないようにため息をしている。
「さて、加賀の、本願寺の動きはどうか?」
「は、謙信からの計略によって引き起こされた一揆にございましたが、それにより本願寺の我らに対する不信は増しております。然りながら、この和睦が成れば、上杉の後ろ盾がなくなりまする」
光秀が答えた。
……織田と本願寺は和睦していた。
内心は敵対していても、表向きは和睦していたのだ。
その織田の盟友である小佐々が上杉と戦った。上杉と本願寺もまた敵であったので、上杉と戦う良い味方ができたと本願寺は考えていたのだ。
しかし調略によって加賀と越前で一揆が起きた。織田の軍勢が加賀まで入ってきたのだから、顕如が和睦を破ったのは織田だと喧伝してもおかしくはない。
そして裏では一揆を煽った謙信からの、和睦と共闘の願いである。顕如は謙信強し、上杉は負けるはずがないと踏んでいた。
しかし、ここにきての和睦である。
顕如にしてみれば、表だっての謙信との共闘ではないが、はしごを登って外されたようなものだ。
「ふむ、気が気ではないだろうな。今ごろは火消しに躍起になっておるであろう。こちらとしては掛かられた(攻められた)ゆえ返したのみ。なに、門徒同士でもいざこざが起きるのだ。再び起こすのはたやすい」
「では?」
「うむ、時をおいて二度三度と起こせるようにしておくがよい。ああ、それからこの件は長俊(前波吉継改め桂田九郎兵衛尉長俊・越前守護代)には伝えぬでよいぞ。一揆も抑えられぬとは。しかも悪名など……」
「「「ははっ」」」
■中国 ヘトゥアラ(ヌルハチの部族の本拠地・後金の初期の首都)
「我第一次得到你的同意。 我叫松浦源三郎,是西日本国国王小筱权春刚的臣子。 我是带着主公的意向书来的。 主公希望与贵国建立友好关系,繁荣贸易。 首先,我想请您读一读这封信」
(はじめて御意を得まする。それがしは日本国西国王、小佐々権中納言様の郎党、松浦源三郎と申します。このたびは、わが主の親書をもってまいりました。わが主におかれては、貴国と親交を結び、盛んに交易を行いたいとお考えです。まずはご一読のほど、お願い申し上げます)
昨年末、明国使者への対処が終わってすぐに、代わりの人員と共に九州へ戻り、その足で対馬へ渡った松浦鎮信である。
朝鮮を経由して各地で通詞を雇い、北上したのだ。
当初は朝鮮半島西岸を北上しようと考えていたのだが、ヘトゥアラへ向かう途中に明に入らなければならないと知り、急遽東岸を北上する事となった。
距離は遠いが、明とは国交がない上に緊張状態である。何が起こるかわからない。
そして、金に糸目はつけずに護衛を雇った。これは全員日本人の武士であり、九州の大名の家中の者である。
もちろん大砲はかさばるので携行などできない。
しかし、正直なところ身の危険がある、と言った方がいい。そのため、分散しつつもすぐに駆けつけられるような距離で、歩兵(鉄砲兵)が護衛しつつ同行したのだ。
しかし、ライフリングを施した銃(雷管式ではない前装式ミニエー銃のようなもの)は射程が500mあり、当時としては最新鋭で精度も高いが、近距離での戦闘はできない。
ないものねだりかもしれないが、事実、純正の今後の重要な課題であった。
正面の上座には恰幅がよく、しかしそれでいて精悍さも兼ね備えていそうな、眼光鋭い50代~60代の初老の男が座っている。
「族長のギオチャンガである」
鎮信は不敵に笑うその顔に威圧されそうになる。右手にはその族長の風貌によく似た三十代の男がいて、手前には十代前半の子供がいる。
「これはわしの息子のタクシに、孫のヌルハチじゃ。海を隔てた東方に、日ノ本という国があるのは知っておった。お主の主がその国の王なのか?」
「いえ、それがしの主は西国王であり、日ノ本の主から西国の治めを任されております」
「ふむ、王の使いではないか……わしのような、族長のような者か?」
「は、例えるは難しゅうございますが、女直は三つに分かれ、建州女直も五部あると聞き及んでおります。そう考えれば、わが主も同じと言えましょう」
国土の広さや部族数(勢力数)、人口などを加味して厳密に言えば違うのだが、鎮信は純正が西日本の諸部族(諸大名)を支配下に置いていることは伏せた。
部族をまとめる長の中の長、などと誤解を生みたくなかったからだ。
「父上はやがて五部を束ね、この女真を束ね、三女真全てを統べるお方だ」
タクシが自慢げに自らの父親を褒め称える。いや、本当にそう信じているのかもしれない。
「して、その西国王とやらがなぜ、日ノ本王ではなく、来ておるのだ?」
「は、他国との商いは各部族に委ねられております故、それがしが主の名代として参ったのでございます」
「ふむ、ではその西国王と、わしらが交易をすることで、わしらにどんな益があるというのだ?」
鎮信は小佐々の交易品の目録を見せ、一部は実際に説明しながらその利を説いていった。
■イスパニア マドリード王宮
「陛下、ヌエバ・エスパーニャ(メキシコ周辺・中南米)のマルティン・エンリケス・デ・アルマンサ副王より、使者が参っております」
「何? 副王より? なんであろうか。よし、通すが良い」
「はは」
イスパニア王国において副王とは、その名の通り、任じられた領土において王に準ずる権限を有している。
「使者よ、いかがした」
「は、誠に恐れ多き事なれど、陛下の艦隊、フィリピーナ諸島の艦隊が、敗れましてございます」
「ははははは、何を申すかと思えば。副王はおかしくなったのではないか? あり得ぬ。わが艦隊を、いったい誰が、どの国の艦隊が破ったと言うのだ?」
「……」
「良い、遠慮なく申すが良い」
「それが……明のさらに東、ジパングの艦隊にございます」
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