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西国王小佐々純正と第三勢力-対上杉謙信 奥州東国をも巻き込む-

激突! 島津vs.上杉と七尾城の陥落

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 天正元年 四月五日 午三つ刻(1200) 越中 水戸田村 道雪本陣

「申し上げます! 敵勢六千! 島津勢に掛かりけり候(攻撃しました)!」

「何? 案に違えて(予想外に)早いの。敵将は誰じゃ?」

「は……それが、謙信自らかと思われます!」

「何じゃと! ? 馬鹿な! 謙信は目の前、陣を動かしたかた(形跡)などないぞ!」

 仮に謙信が島津隊に攻撃を加えたとして、一万二千対六千では、数の上では島津隊が有利である。

 しかしそれを踏まえた上で、伸びきったところに伏兵をもって側面から攻撃を仕掛けたのなら、島津隊を混乱させるには十分な効果がある。

「道雪様、謙信は小回りの利く数千の勢を率いて打ち合うを得手(得意)としている、と聞き及んでおります。けだしくも(もしも)謙信ならば、島津隊はいささか手こずるやもしれませぬ」

 高橋紹運が『四千対六千』のような状態となっているならば、との仮定で話をする。
 
 伸びきって島津の本隊が渡河が出来ず、渡り終わった兵が孤立して包囲されれば苦戦は避けられない。

「うむ、然れど島津殿に任せたのだ。後詰めの求めなきうちは、軽々に動いてはならぬ。然りとて……事の様(状況)が分からぬでは話にならぬ。伝令を送ってつぶさに調べてまいれ」

「はは!」

 近習が状況を探りに島津隊へと向かう。

「待て、島津の先陣は伊東隊であったな? 願海寺城へ掛かりけりや(攻撃したのか)? 何処いずこ(どこ)に上杉勢が掛かりけりか分からねど、一旦掛かるを止め、島津の助(助け)に戻るよう伝えよ!」

「はは!」




 ■能登 鹿島郡 七尾城の南西 枡形山

「なに? 続連つぐつら(長続連)は何処にもいなかったと? では綱連つなつらはいかがじゃ? 何? 連龍つらたつもか?」

 畠山義慶よしのりは異変に気づいた。

 畠山七人衆は、能登の政治を牛耳ってきた。中でも長家、遊佐家、温井家は別格である。仲が良い訳ではないが、この緊急時に城にいないのはおかしいからだ。

 続連だけなら、高齢のための病気やなんらかのアクシデントとも考えられる。
 
 しかし家督を譲られ、七人衆に新たに加わっている現当主の綱連がいないのは、明らかに不自然である。

「は、佐兵衛様(綱連)のお姿も、また九郎様(連龍)のお姿も見えませんでした」

「……」

 尋常ではない事態に、どう対処すべきか考えていた義慶に、大塚孫兵衛尉連家つらいえが続けた。

「加えてわれら畠山家中の勢も多数おり、その数は刻とともに増えてきたようにございます」

「……。連家よ、いかが思う? 上杉と打ち合う事もなく、然れどわが家中の勢は増え続けておる。よもや……」

 連家が悲痛な面持ちで答える。

「は、考えもうき(まうき・考えたくない)事なれど、権中納言様(小佐々純正)に与するとの殿のご意趣に反する……これは、御謀反かと存じます」

「謀反か……」

 自らが傀儡かいらいである事は義慶も十分承知していた。
 
 ただ、そんな中でも家中で争う事なく、上手く能登を治めて行こうという義慶の思いは、親上杉派の遊佐続光によって破られたのだ。

 温井景隆も共謀しているとなると、家中は上杉派に牛耳られ、本願寺派と共同戦線をはったことになる。しかし、上杉と本願寺は今は戦争中である。

 今まさに戦争している敵対勢力同士が手を組むだろうか?

「殿、いかがなさいますか?」

「本音を言えば今すぐにでも城へ向かい、続光(遊佐)と景隆(温井)に真意を問いたいところであるが、続連に綱連、そして連龍もおらぬのでは動けぬな。まずは三人の所在を明らかにすることとしよう」

「はは」




「申し上げます! 佐兵衛様(長綱連)、九郎様(長連龍)、穴水城にて籠城の構えにございます!」

「なにい?」




 ■越中 願海寺城

「申し上げます! 敵勢、退きましてございます! 追い打ちいたしまするか?」

「無用だ、こちらは無勢、守りに徹する」

「はは!」




 ■上杉軍別動隊

「掛かれ掛かれ掛かれい! 今この刻を逃しては勝ち筋はないぞ! 皆の者、死を恐れるな!」

 甘粕藤右衛門景継は声を張り上げ、自ら先頭に立って、縦横無尽に島津隊に斬り込み駆け回る。傍らには謙信から借りた毘と龍の旗指物が舞っている。

 末端の兵達は真相を知らないので、謙信がそこにいると勘違いして士気が高い。

「申し上げます! 願海寺城に掛かりけり(攻めた)敵勢、戻りて我らに取り掛きて(攻め寄せて)ございます!」

 伊東隊の二千(三千から減って)と合わせると、島津本隊の先陣と中陣で四千。合計六千である。上杉軍六千と島津軍六千の戦いとなったのだ。 

 伊東隊が戻った事で兵数的には同じになったのだが、前後の隊を分断された島津隊の混乱は簡単には収まらない。しばらくは上杉軍優勢のまま時が経過した。




 ■道雪本陣

「申し上げます! 七尾が、能登の七尾城が敵方に落ちましてございます!」

「なんじゃと? 馬鹿な! いかがしたのだ?」

 まさに晴天の霹靂へきれきである。

「は、さしくみに(突如)現れた上杉の船手によって所口湊は封じられ、間もなく城内にて長対馬守(続連)様、害されましてございます!」

「なんじゃと? 誠か?」

「は!」

「これは、まずい」

 能登畠山家と小佐々家は友好関係であり、通商・安保の条約を結んでいた。いた、という過去形で話さなければならなくなったのだ。

 当主である畠山義慶はここにおり、城には畠山七人衆がいたはずである。

 親織田派、つまりは小佐々派の長続連が殺されてしまったと言うことは、畠山家中は親上杉になったと考えられる。

「糧道が断たれた」

 上杉戦のために兵糧や弾薬は能登に運び込み、備蓄していたのだ。調略にて菊池武勝と神保氏張を味方につけていたので、余分な兵糧は持参していない。

 一日ないし二日で補給できる距離に兵糧が蓄えてあるからだ。

 しかし、その兵糧庫が上杉軍の手に渡ってしまった。つまり、短期戦で謙信に勝たなければならなくなったのだ。戦術の幅が狭まったのは確かである。

「道雪様、これは……」

「うむ、飢えてはいくさができぬ。三好隊を向かわせ、七尾城を取り戻すしかあるまい」

「然れどそれでは、謙信の勢が一万二千に対して、我らが八千となりまする」

「うむ、ゆえにすべては向かわせられぬ。そうであるな……七千、七千でよかろう。修理大夫殿の三千もおる。一万の勢があればなんとかなろう」

「はは」

「七尾城は堅き城故、本体(本来)なら今少し勢を送りたいが、そうもいかぬ。いずれにしても今の打ち合い(戦い・合戦)が終わってからとなろう」

うですな。島津殿が上杉を打ち破ってくれれば、以後の兵法(戦術)が変わってきますでしょう」

「うむ、今は動かず、有り様をみよう」
 
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