『転生したら弱小領主の嫡男でした!!元アラフィフの戦国サバイバル~時代・技術考証や設定などは完全無視です!~』

姜維信繁

文字の大きさ
上 下
555 / 827
西国王小佐々純正と第三勢力-対上杉謙信 奥州東国をも巻き込む-

反転攻勢の立花道雪

しおりを挟む
 天正元年(元亀三年・1572) 四月五日 岐阜城

 発 権中納言 宛 兵部卿

 秘メ 守護代ノ勢 加賀ヘ 討チ入リケリ(攻め入った)ト 聞キ及ビ候ヘドモ ソハ(そこは)貴殿ノ所領ニ非ズ かたシ事ナレド マズハ言問こととい(話し合い)ニテ 解ク(解決)ベキト存ジ候 秘メ

 秘メ 争ヒノ 加賀ヘノ 拡ガリノ種(原因) 何ゾ知リタリ候哉(知っていますか) 我 上杉ノ 離間ノ計ニアラズヤト 思ヒ集メ候間そうろうあいだ(いろいろと考えているので) 両家ノ結ビ(結束) ヨリ重シト 存ジ候 秘メ




「ふむ、上杉の調略とな……。ふふふ、純正にはそう映るか。いずれにしても、加賀に討ち入るはまだ先の話ゆえな」




 発 兵部卿 宛 権中納言

 秘メ 件ノ儀 全ク与リ知ラヌ事ゆえ 唯唯ただただ驚ク事バカリニ候 然レドモ 上杉ニハ 荷留津留ノ 知ラセヲ 送リケリ候間(送っているので) 調略ノ儀 考フかんがうベシ(考慮すべき)ト存ジ候 秘メ




 実際には信長が考えていた事と、謙信の計略が偶然重なった訳だが、純正に対しては、信長は知らぬ存ぜぬで通したのである。

 加賀や越中への侵攻策を練っていた信長にとっては、いわば棚からぼた餅的な出来事でもあったのだ。信長にとっては、加賀侵攻の大義名分ができる。

『隣国にて騒乱やまず、越前にも影響が多々あるので、やむを得ず軍を派遣する』というような具合であろうか。




 ■射水郡 火宮城 上杉本陣

 火宮城に入城し、それを囲むように防御の陣形をとった上杉謙信は、次々と報告を受けていた。

「申し上げます! 隠尾かくりょう城、鉢伏山城を落とした一揆勢、加賀に戻りましてございます!」

「うむ、然もありなん」

「申し上げます! 敵は放生津の備えを残し、川向かいの水戸田村、明徳寺に本陣をおいてございます! 数はおよそ三万三千!」

「うべなるかな(なるほど)、こちらは西に下条川に南に薬師寺池、平山城とてやりようによっては堅固な陣となる」

「申し上げます! 我らの船手衆、能登所口湊を封じましてございます」

「ふふふふふ、さてもさても(なんとまあ)弱し事よ。七万と号してもその実は三万にして、城を本陣となしたる我らに勝る道理は何処いずこにあらんや」

 増山城の備えとしている一条隊は五千二百。
 
 城に詰めている神保と椎名の四千と千二百しか変わらない。隠尾かくりょう城他に備えている龍造寺隊も、上杉軍(城兵残党、地侍他)の城の奪還に備えなければならない。

 そのため、純粋に謙信の軍勢と対峙できるのは三万三千なのである。




 ■射水郡 水戸田村 小佐々軍(道雪)本陣

「道雪殿、このままでは埒があきませぬ。われら一隊、奇襲をもって敵を乱し、謙信を城より誘いて打ち合いたく存ずる」

 意見具申してきたのは、島津隊大将の島津義弘である。伊東隊と上杉軍の対決で勝負を決められなかった事で、挽回したいと考えているのだ。

「兵庫助殿、お気持ちはよく分きて(分かって)おります。然りながら奇襲とは、奇をもって襲う故、奇襲となる。いま謙信は守りを固め、いつ如何なる時にわれらが掛かりても、処する事能うよう、備えておろう」

 防御の陣形を組んでいるのだ。攻められることを前提にしている事は当然である。
 
 何かの拍子に緊張の糸が切れ、それを襲う、またはそうなるよう仕向けるのが奇襲であろうが、謙信もその事は十分にわかっている。

 そのため奇襲が奇襲にならない、と道雪は言っているのだ。

 いかにして火宮城、上杉軍を攻めるか? という軍議を続けていると、報告が立て続けに入った。

「申し上げます! 龍造寺肥前守様(純家)が郎党、成松遠江守様、長沢城を抜きましてございます!」

「何! ? 龍造寺勢じゃと?」

「同じく、百武志摩守様、富崎城ならびに銀納砦、抜きましてございます!」

「またも龍造寺か? ほほう……若いと聞いておったが、なかなかにやるではないか」

「申し上げます! 一条様が郎党 入江左近様、白鳥城を抜きましてございます!」

 龍造寺純家の指揮は予想外であったが、隠尾城や他の城の防衛に負担のない形で軍を動かし、上杉方の城を攻略したのだ。
 
 さらに道雪が指示していた一条軍別働隊の戦果である。

 夜陰に乗じて移動していたのは、謙信だけではなかったのだ。
 
 道雪は謙信が目の前からいなくなった事に驚いてはいたが、それとは関係なく、上杉軍の糧道を断つ戦術をとっていた。

「ふふふ、予想通り百も詰めておらなんだか。密かに命じておったが、かくも上手く成せりとは。兵法に曰く、動かざる事山の如し、動く事雷霆らいてい(激しい雷)の如し。声東撃西とはちと違うが、謙信よ、われらも案山子かかしではないのだ」

 龍造寺別働隊が落とした長沢城も富崎城も、隠尾城の裏手の山田川を川沿いに下ったところにある城である。
 
 山田川は神通川と合流している。

 神通川東にある富山城は上杉軍の前線基地であるが、神通川西にある白鳥城を道雪が奪った事により、完全ではないものの、上杉軍の糧道を断った形になったのだ。 

 越中の婦負郡(神通川沿い)、射水郡(海沿いを能登国境まで)の国人衆は、神保長住に従わず日和見を決め込むか、上杉方として参陣している。

 特に射水郡は神保長住が謙信に言ったように動員が出来ていない。道雪は謙信が噂をばら撒くと同時に、噂を流した。

 越中において謙信の知名度は高く、また影響力も大きかったため、小佐々海軍敗戦の噂の広がりは早かった。
 
 しかし、あくまで噂である。対して道雪が流布したのは事実なのだ。

 小佐々の海軍など聞いた事も見たこともないし、それにはるか遠い海の上の出来事である。

 だが、白鳥城や長沢城は実在し、城主や城兵も実在するのだ。
 
 知り合いもいれば見たこともある城なのだ。近隣の土豪や地侍が、どちらを信じるかは誰が見ても明らかである。

 そして道雪の次の一手は早かった。

「ははははは、良きかな良きかな。では島津殿、お聞きの通り富山城の西、川を挟んだ白鳥城が落ちたようにござる。上杉の糧道をことごと(完全に)塞ぐため、ここより東の願海寺城を落としてくだされ。おそらく謙信は後詰めに行くであろうから、当時(その時)は思う存分打ち合うてくだされて構わぬ」

「承知した!」

「三好殿、聞いての通り島津勢を除けば、わが勢は二万足らずとなり謙信と同じほどとなる。いかほど謙信が後詰めに向かうかわからぬが、当時(その時)に掛かる(攻める)べく、備えをお願いいたす」

「委細承知した!」




 ■上杉本陣

「申し上げます! 白鳥城、落ちましてございます!」

「なんと! ……いかん!」




※出典 国土地理院標準地図をもとに作成
https://maps.gsi.go.jp/#12/36.667180/137.046890/&base=std&ls=std&disp=1&vs=c1g1j0h0k0l0u0t0z0r0s0m0f2&d=m
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

ハズレ召喚として追放されたボクは、拡大縮小カメラアプリで異世界無双

さこゼロ
ファンタジー
突然、異世界に転生召喚された4人の少年少女たち。儀式を行った者たちに言われるがまま、手に持っていたスマホのアプリを起動させる。 ある者は聖騎士の剣と盾、 ある者は聖女のローブ、 それぞれのスマホからアイテムが出現する。 そんな中、ひとりの少年のスマホには、画面にカメラアプリが起動しただけ。 ハズレ者として追放されたこの少年は、これからどうなるのでしょうか… if分岐の続編として、 「帰還した勇者を護るため、今度は私が転移します!」を公開しています(^^)

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

あなたがそう望んだから

まる
ファンタジー
「ちょっとアンタ!アンタよ!!アデライス・オールテア!」 思わず不快さに顔が歪みそうになり、慌てて扇で顔を隠す。 確か彼女は…最近編入してきたという男爵家の庶子の娘だったかしら。 喚き散らす娘が望んだのでその通りにしてあげましたわ。 ○○○○○○○○○○ 誤字脱字ご容赦下さい。もし電波な転生者に貴族の令嬢が絡まれたら。攻略対象と思われてる男性もガッチリ貴族思考だったらと考えて書いてみました。ゆっくりペースになりそうですがよろしければ是非。 閲覧、しおり、お気に入りの登録ありがとうございました(*´ω`*) 何となくねっとりじわじわな感じになっていたらいいのにと思ったのですがどうなんでしょうね?

処理中です...