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西国王小佐々純正と第三勢力-対上杉謙信 奥州東国をも巻き込む-
両軍激突直前! 両越騒乱、庄川の戦い、始まる。
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天正元年 四月二日 寅三つ刻(0400) 越中 庄川周辺 曇り
庄川を渡河するにあたって、四つの地点があったが、道雪は一番近い中田村の瀬からの渡河は選択肢から外した。
一度に大量の兵が渡河することは可能だが、深いために身動きがとれない。
弓や鉄砲の的になってしまうからだ。
しかしあえて全軍を三つに分けるのではなく、元のまま行動させる。
まず一番北の最左翼に島津勢の一万五千、次いで左翼に三好勢の一万二千とした。
ついで右翼に高橋勢三千を置き、右翼に一条勢の五千二百としてその二隊の後方に本隊の戸次勢五千、最右翼に龍造寺勢の五千としたのだ。
畠山義慶の軍勢三千と、菊池の八百、神保氏張の千二百は遊軍として本陣の近くに控えさせた。
菊池と氏張の軍に関しては、謙信と同じとでも言おうか、どうとでもできる場所に置いたのだ。
右翼が弱い様に感じるが、それは何もない平野で考えればの事である。庄村の瀬は狭いので小勢の方が小回りが利く。
それに杉浦玄任の軍勢も加われば三万になるのだ。
少なくはない。
「申し上げます!」
日の出になり、辺りが徐々に明るさを増している時、伝令の声が響いた。
「入れ!」
「申し上げます! 上杉軍着到! その数二万にございます!」
「なに?」
道雪は報告で聞いていた上杉軍二万八千の報告が、八千人少ないことに驚いた。
(確かな数ではなかったのか? いや、それとも途上で兵を分け、信濃? 飛騨に遣わしたのだろうか?)
道雪はそう予測したが、確かめる術がない。
「弥七郎(高橋紹運)よ、如何に思う?」
「は、恐らくは道雪様も思い分きたる(考えている)と存じますが、飛騨と信濃に兵を割いたものと思われます。然らば、いずれかの機をみて第二師団と第三師団に掛かる(攻撃する)でしょう」
「うむ」
「遠き道程ゆえ、これより忍びの韋駄天を遣わしても間に合わぬかもしれませぬ。されどわれらが此(ここ)で勝ちても、彼の地で破るる(負ける)事となれば、御屋形様の武略に乱れが生じます」
「うむ」
「一万八千の兵に敵が八千ならば、地の利を活かした軍をされれば勝ち味が薄くなり申す。一万二千の第三師団ならばおさらにござる。敵が二手に分かれたとて、大いに苦しからん(苦戦するだろう)と存じます」
「あいわかった。では弥七郎(紹運)よ、手の者にこちらの事の様(状況を)をつぶさに(詳しく)伝え、彼の地に走らせては、同じく彼の地の報せも持って帰るよう申し伝えよ」
「は、では旗下の伊藤八郎と伊藤外記に命じまする」
「うむ」
■上杉陣
上杉陣中では陣立てが発表されている。
「では越中守殿(神保長住)、貴殿は手勢二千をもってこの城、増山城を守ってくだされ。右衛門督殿(椎名康胤)殿は二千の兵を二手に分け、孫次山砦と亀山城に詰めて互に助けて守るように」
二人は犬猿の仲であるが、謙信は呉越同舟と考えてあえてこのような布陣にしたのだ。
増山城は城の西に和田川があって天然の堀となっており、南と東は急峻な斜面となっている。北東に連なる孫次山砦と亀山城を落として、尾根伝いに進むしか道がないのだ。
増山城を本拠とする神保長住は言われなくても死守するだろうが、そこに椎名康胤を置くことで、互いの功名心を刺激した。
椎名康胤が奮戦することで増山城は安泰である。
その事で康胤は長住に恩を売る事ができるし、その康胤を助けなければ、長住の評判は落ちるからだ。
「「ははっ」」(チッ)
「時に御二方、ここ一月、二月の間に怪しげな文などは届いておらぬでしょうな?」
「「え?」」
怪しげな文とは、要するに寝返りを要請する手紙の事を謙信は言っている。
「いえ、そのような物はいっさい届いておりませぬ」
「それがしも同じにござる。例え来ていたとしても、応じる訳がございませぬ」
神保長住が言うと、椎名康胤が間髪入れずに続いた。
「……良いのです。御二方に二心のなき事は、この謙信十分に心得ております」
半分、嘘である。
神保長住は居城であるから仕方ない。
康胤を支城である二城に入らせ守らせるのは、本隊の周りにおいて万が一が起きないようにという事と、守りであればいちいち指示を出さなくて済むからだ。
「南の庄村の瀬からの敵については、壇城に石黒成綱、千代ヶ様城には弟の与三右衛門がおる。その奥の山には鉢伏山城に南部源右衛門、隠尾城にはその父源左衛門がおる。まず案ずる事はなかろう」
庄村の瀬の伏兵とは、ここからの軍勢の事である。
仮に渡河が成功したとしても、この四城を攻略しない限り、小佐々軍は後背をつかれて壊滅の恐れがある。
それならば、どこかに集中して渡河すれば良いのではないか? 特に下流域は浅瀬で渡河域も広い。
誰もがそう考えるかもしれないが、そう簡単ではない。
広いといっても軍を自由自在に展開し、敵を包囲したり、突撃撤収や右翼左翼を動かして、などの機動戦術が渡河時にはできないのだ。
渡る事に専念させられるので、上杉軍が鶴翼の陣のような陣形で攻めてくれば、いたずらに体力を削られ、いずれは潰走という危険性をはらんでいる。
つまり、この庄川の戦いにおいて、兵力は勝敗を決する重要な要件ではあったが、必要な条件にはなり得なかったのだ。
守勢において、上杉軍が兵力において劣っていても、五分の戦いとなった。
「皆の者、よいか! 敵は七万といえど、我に策あり! 恐るるに足らず! 毘沙門天の加護のもと、粉砕してくれようぞ! 死中生あり、生中生なしと心得よ!」
おおお! というかけ声のもと、全員が立ち上がって腕を上げる。
今ここに、後に両越騒乱と呼ばれる戦いの幕が、庄川において始まろうとしていた。
※出典 国土地理院標準地図をもとに作成
https://maps.gsi.go.jp/#12/36.667180/137.046890/&base=std&ls=std&disp=1&vs=c1g1j0h0k0l0u0t0z0r0s0m0f2&d=m
■第三師団、陸路にて北信濃の平倉城へ 4/5着予定。
■第二師団、吉城郡塩屋城下。
■杉浦玄任、井波城。
■大名軍、軍議陣立て終了にて進軍開始。
■城生城別働隊、喜右衛門。行軍中。
■謙信、増山城で待機中。
■第四艦隊、出羽田川郡鼠ヶ関湊。
■大名衆発の伝令、飛騨・信濃へ移動中。
■(秘)○上中
■(秘)停○補○中
庄川を渡河するにあたって、四つの地点があったが、道雪は一番近い中田村の瀬からの渡河は選択肢から外した。
一度に大量の兵が渡河することは可能だが、深いために身動きがとれない。
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まず一番北の最左翼に島津勢の一万五千、次いで左翼に三好勢の一万二千とした。
ついで右翼に高橋勢三千を置き、右翼に一条勢の五千二百としてその二隊の後方に本隊の戸次勢五千、最右翼に龍造寺勢の五千としたのだ。
畠山義慶の軍勢三千と、菊池の八百、神保氏張の千二百は遊軍として本陣の近くに控えさせた。
菊池と氏張の軍に関しては、謙信と同じとでも言おうか、どうとでもできる場所に置いたのだ。
右翼が弱い様に感じるが、それは何もない平野で考えればの事である。庄村の瀬は狭いので小勢の方が小回りが利く。
それに杉浦玄任の軍勢も加われば三万になるのだ。
少なくはない。
「申し上げます!」
日の出になり、辺りが徐々に明るさを増している時、伝令の声が響いた。
「入れ!」
「申し上げます! 上杉軍着到! その数二万にございます!」
「なに?」
道雪は報告で聞いていた上杉軍二万八千の報告が、八千人少ないことに驚いた。
(確かな数ではなかったのか? いや、それとも途上で兵を分け、信濃? 飛騨に遣わしたのだろうか?)
道雪はそう予測したが、確かめる術がない。
「弥七郎(高橋紹運)よ、如何に思う?」
「は、恐らくは道雪様も思い分きたる(考えている)と存じますが、飛騨と信濃に兵を割いたものと思われます。然らば、いずれかの機をみて第二師団と第三師団に掛かる(攻撃する)でしょう」
「うむ」
「遠き道程ゆえ、これより忍びの韋駄天を遣わしても間に合わぬかもしれませぬ。されどわれらが此(ここ)で勝ちても、彼の地で破るる(負ける)事となれば、御屋形様の武略に乱れが生じます」
「うむ」
「一万八千の兵に敵が八千ならば、地の利を活かした軍をされれば勝ち味が薄くなり申す。一万二千の第三師団ならばおさらにござる。敵が二手に分かれたとて、大いに苦しからん(苦戦するだろう)と存じます」
「あいわかった。では弥七郎(紹運)よ、手の者にこちらの事の様(状況を)をつぶさに(詳しく)伝え、彼の地に走らせては、同じく彼の地の報せも持って帰るよう申し伝えよ」
「は、では旗下の伊藤八郎と伊藤外記に命じまする」
「うむ」
■上杉陣
上杉陣中では陣立てが発表されている。
「では越中守殿(神保長住)、貴殿は手勢二千をもってこの城、増山城を守ってくだされ。右衛門督殿(椎名康胤)殿は二千の兵を二手に分け、孫次山砦と亀山城に詰めて互に助けて守るように」
二人は犬猿の仲であるが、謙信は呉越同舟と考えてあえてこのような布陣にしたのだ。
増山城は城の西に和田川があって天然の堀となっており、南と東は急峻な斜面となっている。北東に連なる孫次山砦と亀山城を落として、尾根伝いに進むしか道がないのだ。
増山城を本拠とする神保長住は言われなくても死守するだろうが、そこに椎名康胤を置くことで、互いの功名心を刺激した。
椎名康胤が奮戦することで増山城は安泰である。
その事で康胤は長住に恩を売る事ができるし、その康胤を助けなければ、長住の評判は落ちるからだ。
「「ははっ」」(チッ)
「時に御二方、ここ一月、二月の間に怪しげな文などは届いておらぬでしょうな?」
「「え?」」
怪しげな文とは、要するに寝返りを要請する手紙の事を謙信は言っている。
「いえ、そのような物はいっさい届いておりませぬ」
「それがしも同じにござる。例え来ていたとしても、応じる訳がございませぬ」
神保長住が言うと、椎名康胤が間髪入れずに続いた。
「……良いのです。御二方に二心のなき事は、この謙信十分に心得ております」
半分、嘘である。
神保長住は居城であるから仕方ない。
康胤を支城である二城に入らせ守らせるのは、本隊の周りにおいて万が一が起きないようにという事と、守りであればいちいち指示を出さなくて済むからだ。
「南の庄村の瀬からの敵については、壇城に石黒成綱、千代ヶ様城には弟の与三右衛門がおる。その奥の山には鉢伏山城に南部源右衛門、隠尾城にはその父源左衛門がおる。まず案ずる事はなかろう」
庄村の瀬の伏兵とは、ここからの軍勢の事である。
仮に渡河が成功したとしても、この四城を攻略しない限り、小佐々軍は後背をつかれて壊滅の恐れがある。
それならば、どこかに集中して渡河すれば良いのではないか? 特に下流域は浅瀬で渡河域も広い。
誰もがそう考えるかもしれないが、そう簡単ではない。
広いといっても軍を自由自在に展開し、敵を包囲したり、突撃撤収や右翼左翼を動かして、などの機動戦術が渡河時にはできないのだ。
渡る事に専念させられるので、上杉軍が鶴翼の陣のような陣形で攻めてくれば、いたずらに体力を削られ、いずれは潰走という危険性をはらんでいる。
つまり、この庄川の戦いにおいて、兵力は勝敗を決する重要な要件ではあったが、必要な条件にはなり得なかったのだ。
守勢において、上杉軍が兵力において劣っていても、五分の戦いとなった。
「皆の者、よいか! 敵は七万といえど、我に策あり! 恐るるに足らず! 毘沙門天の加護のもと、粉砕してくれようぞ! 死中生あり、生中生なしと心得よ!」
おおお! というかけ声のもと、全員が立ち上がって腕を上げる。
今ここに、後に両越騒乱と呼ばれる戦いの幕が、庄川において始まろうとしていた。
※出典 国土地理院標準地図をもとに作成
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■第三師団、陸路にて北信濃の平倉城へ 4/5着予定。
■第二師団、吉城郡塩屋城下。
■杉浦玄任、井波城。
■大名軍、軍議陣立て終了にて進軍開始。
■城生城別働隊、喜右衛門。行軍中。
■謙信、増山城で待機中。
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